外国人観光客はなぜ「澤の屋」を目指すのか
Posted by COURRiER on 9月 25, 2015交通の便が特別いいわけでもない。豪華な食事や広い部屋を楽しめるわけでもない。それなのに下町の旅館は今日も外国人で大賑わいだ。
Text and photographs by courtesy of CNN Saturday Night
東京の下町風情が色濃く残る台東区谷中。根津神社の参道からほど近い住宅街に、外国人観光客に大人気の「澤の屋旅館」がある。
1949年の創業から60年以上が経ち、全12室で定員は20名という小さな宿であるにも関わらず、これまで89ヵ国、のべ17万人以上の外国人観光客が宿泊したという。海外の旅行レビューサイトでも、東京の旅館の中で出色の高評価を得ている。
取材時に会ったカナダ人の男性は、この日の宿泊が13回目。「ここは日本で泊まるには最高の旅館。到着してすぐに快適な気持ちになるんだ」と語る。同日に宿泊していたオーストラリア人の女性もこの宿がお気に入り。
「京都の旅館は“すべてを完璧”にしようとしていましたが、ここは“完璧さの度合い”がちょうどいいんです」。
彼らのようなリピーターが多いのも、この宿の特徴だ。
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澤の屋のご主人、澤さん
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宿を切り盛りするのはご主人の澤功(さわ・いさお)さんとそのご家族。人気の秘密は、澤さん一家の細やかな「心遣い」にある。
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風呂場の入り口にある注意書き
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たとえば、お風呂。入り口には「正しいお風呂の入り方」が英語、中国語、韓国語の3ヵ国語で書いてある。
独特な日本のマナーに戸惑う外国人観光客にとっては、ありがたい気配りだろう。さらに浴室の窓からは、庭が見える仕掛けも。家族風呂の浴槽は檜のものと陶器製のものがあり、お風呂で「和の風情」が味わえる。
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その一方で、朝食は普通の旅館と違って宿泊料金に含まれていない。素泊まり同然で、旅館側は客が求めてきた時だけ対応するという。
「こちらから、あれをやってあげようこれもやってあげようって、最初はすごくお世話していたんです。でも『ノーサンキュー』って言われて。だから、何か困った事が起きたりした時には一生懸命やってあげる。後はご自由にどうぞと」
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食堂の風景
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古くからのスタイルで営業している旅館よりもホテルを選ぶ客が増える時代の流れの中で、かつては宿泊客が3日間ゼロになるほど経営が苦しい時もあった。そのため、澤さんは思い切って外国人客を受け入れることを決意したそうだ。
最初は戸惑うことも多かったが、試行錯誤しながら外国人客が自由に過ごせる今のスタイルを築いていった。今では宿泊客の9割が外国人客だ。 出かけていた宿泊客が宿へ帰ってくると、布団が敷いてあり、その枕元にはなんと「折り鶴」が……。
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それは、日本の文化に触れてほしいという、ご主人の気持ちの表れだ。感動して持ち帰る人や、折り紙の折り方を教えてほしいと言って来るお客さんも多いという。
「澤の屋」の人気の理由は、温かな心遣いと、「絶妙な距離感」にあるのだろう。澤さんはこう語る。
「何かを飾るんじゃなくて、ありのままを見てもらう。それで日本を好きになってくれたら、また日本に帰ってきてくれるんじゃないでしょうか」
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「CNNサタデーナイト」
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