法成立後も国民の批判が根強い安全保障論議から心機一転、来年の参院選も意識しつつ、関心が高い子育てや介護など生活に密着した課題を前面に、ということだろうか。

 自民党総裁に再選された安倍首相が、強い経済、子育て支援、社会保障をキーワードとする「新3本の矢」政策を発表した。大胆な金融緩和、機動的な財政運営、成長戦略を柱としてきたアベノミクスが「第2ステージに入った」とし、誰もが家庭や職場、地域で輝ける「1億総活躍社会」を目指すという。

 14年度に490兆円余だった名目国内総生産(GDP)を600兆円に。足元で1・42の出生率は、欲しい子どもの数に基づく「希望出生率」として1・8に。介護離職ゼロ、待機児童ゼロ。様々な目標が並ぶ。

 しかし、言葉だけが踊る観は否めない。

 GDP目標にしても、政府は既に名目で年3%の経済成長を掲げてきた。実現すれば、目安の20年度にはほぼ600兆円になり、今回の目標は従来目標の言い換えにすぎない。しかも、国内経済が成熟し、中国など海外の変調の影響をもろにかぶる構造が強まる中で、3%成長は至難の業だ。実際、安倍政権は発足後の約3年間に1度も達成していない。

 「50年後も人口1億人を維持するという国家としての意思を明確にする」との宣言も、そのためには30年ごろに出生率を2・07まで引き上げることが必要になる。専門家の間では実現は難しいとの見方が大半だ。

 大切なのは、威勢のよい発言ではなく、地に足のついた目標と、対策の着実な実行である。そのためにも、アベノミクス「第1ステージ」の総括が欠かせないはずだ。

 日本銀行による異次元緩和や政府の補正予算編成の功罪を検証し、予想されるリスクを分析する。これまでの成果として政権は雇用や賃金の指標が好転していることを強調するが、国民に実感が乏しいのはなぜか。アベノミクスの成否を左右すると位置づけてきた成長戦略の方向性は間違っていないか。

 個別の政策についても同様だ。介護では、政府は財政難から特別養護老人ホームなど施設の建設に一定の歯止めをかけ、在宅介護を中心にすえている。介護職員の不足が深刻さを増すなかで、年10万人とされる介護離職者をどうやってゼロにしていくのか。

 国民が聞きたいのは言葉ではない。実現可能な具体策と、財源などその裏付けである。