VWの排ガス基準違反におけるBoschの責任

コモンレールシステムをVW(フォルクスワーゲン)に提供しているBoschが、VWの責任であると主張している。この点について考えてみる。
 <2015年9月22日Automotive News Europe

記事の概要

VWのディーゼル車両において、排ガス浄化装置にdefeat device(無効化機能)を搭載して違法にEPAの認証を取得した問題で、同車両にコモンレールインジェクションシステムを納入しているBoschは以下のようなコメントを発表した。

「VWの仕様書に従って作成した。コンポーネントラインのアプリケーションとシステム統合の責任はVWにある。」

考察

このBoschの回答はよく聞く言葉であるが、Boschの責任について法的な問題と倫理的な問題について考えてみる。

法的な問題

Boschは、請負元の仕様書をもとに、それに忠実に作成しただけのこととなる。つまり、主犯はVWであるということになる。

Boschの主張は、VWの指示の通りにインジェクションや制御ソフトウェアを納入したので、それをエンジンに組み付けて車両の搭載するのはVWの仕事であるので、Boschは組み付けの結果に対して責任は取らないとしているのである。

では、Boschがその結果として、排ガス認証試験以外の時に排気ガス浄化装置の一部が無効になることを知っていたかが問題となる。

知ったうえで積極的に協力をしていたとなると法的に責任を負うことになるが、それを示す証拠が無い限りではBoschが責任を問われることはないと思われる。

倫理的な問題

これ以降に関しては、通常の自動車メーカーとモジュールサプライヤーの仕事分担に基づいて記載する。VWとBoschの仕事分担が異なる場合には当てはまらない可能性がある。特にBoschが声明で言っているシステム統合(integration)がどの部分でのことを指しているかがわからないので、あくまで推定で記載していることをご承知いただきたい。

まず、前提として、Boschはクリーンディーゼルの専門家であり、コモンレールインジェクションシステムの開発会社である。つまり、ディーゼルエンジンの排気ガス浄化システムに関して十分な知識を持っている会社であるといえる。ソフトウェアベンダーが「言われたとおりにソフトウェアを作りました。」というのとは異なる状況であるといえる。

VWは、システム仕様書やソフトウェア仕様書及びハードウェア仕様書(電気的及び機械的)を作成しているのではなく、要求仕様書を作成してBoschに製造を依頼していることになる。

Boschはそれをもとにシステム仕様書を作成しているはずである。つまり、要求を理解していると考えられるので、defeat device(無効化機能)の搭載を行うことは理解していたと思われる。defeat device(無効化機能)がどのような機能を有するかを理解した上で、システム仕様書に入れていたはずである。

また、ソフトウェア仕様書に落とす段階でdefeat device(無効化機能)を詳細に定義しているので、BoschはVWが違法な行為を行う可能性があることを知りえていたはずである。

Boschの発言をそのまま信じると、defeat device(無効化機能)が搭載されていることを知ったうえで、VWに対して違法であると知らせることもなく、指示通りに作ったということになる。もし、違法であると知らせたうえで作ったとなると共犯とされる可能性があるので、知らせていないと考えられる。

このように仮定すると、Boschは専門家として「公益保護」を考えて行動していないことになる。

排ガス浄化装置の一部を無効にすることは、環境を悪化させることになるので、公益に反する行為である。

Boschがとらなければいけなかった行動は、以下のとおりである。

  1. VWに対して法律違反(または、公益に反する行為)であることを知らせて、改善を要求する。
  2. VWが改善要求を受け付けない場合には、その仕事を受けない。

当然、これらのやり取りは文書で行われるものである。

不幸にして商品化されてから判明した場合には、会社としては早期に公表して公益が損なわれるのを防がなければならない。

このような行動をとっていないようであるので、仮定の上での話であるが、Boschには倫理的な責任はあるということができる。

この点を米国で追及される可能性はあると思われる。

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