2015年5月の英国総選挙
2015年5月にイギリスで総選挙が行われる予定です。イギリスも日本と同様に両院制で、一般的に総選挙といえば、下院（庶民院ともいい、日本の衆議院に相当する）の選挙のことを指します。なお、イギリスの場合、なにかあればすぐ解散となる日本とは違い、総選挙はよほどの大義名分がないかぎり慣例的に4年か5年に一度の開催となります（ちなみに議員の任期は5年）。前回は2010年に行われたのですが、このときイギリス政治史に残るすったもんだがあり、この出来事は次回の総選挙にも大きく影をおとすことになるので、まずは整理しておきたいと思います。
もはや2大政党制の崩壊
イギリスの政治といえば「2大政党制」というのが教科書でもならった決まり文句ですが、実は今は「2.5大政党制」とも「3大政党制」とも言われています。2大政党とはご存知の通り保守党(Conservative)と労働党(Labour)で、これに自民党(Lib-Dem)を加えてそう呼ぶわけです。その名の通り保守党は保守の右派政党、一方の労働党は左派政党ということで長年2大政党のバランスを取ってきました。また、自由党は、現実的にはこの2党以外の中間派層の受け皿となり人気を獲得していきます。2010年の選挙ではこの3党に見事に議席が分散し、その数字はまさに「2.5大政党制」といえるものでした。内訳でいうと保守党306議席、労働党258議席、自民党57議席です。イギリスの下院の総議席数は650なのですが、数字を見てわかるように、どの政党も過半数の議席を獲得することができなかったというわけです。
ハング・パーラメントからの政治妥協
さて、これがすったもんだの始まりです。どこが政権を担うか、過半数の議席がなければ首相の任命もできないので、議会はハング・パーラメント（宙ぶらりん）状態に陥ります。そこで連立を組むという話が出てくる。労働党と自由党は、思想的には比較的近しい部分もあるため、まずはこの二つが政権樹立へと動きます。しかし、残念ながらこの二党の議席数を足しても過半数に届かない。そのほかの小さな政党との協力も必要になってくるため、結局はうまく前に進みませんでした。そして最終的には数の論理により、保守党と自民党の連立政権が誕生するわけです。この連立には多くの国民が驚き、とりわけ自民党支持者たちからは激しくひんしゅくを買うことになります。政治に妥協はつきものですが、考え方が大きく異なるこの二つの政党が組むのはかなりアクロバティックな政治的決定だったというわけです。
ちなみにイギリスでの連立政権の誕生は、第二次世界大戦での戦時内閣以来の出来事でした。
この先いったいどうなるのか
2015年の選挙がどのような結果に終わるか、まだまだ専門家の間でも意見が分かれているようです。保守党と労働党の数が今回も拮抗することは間違いないでしょう。問題は自民党です。自民党については先の連立によって有権者の信頼を大きく失い、かなりの議席を減らすことが予想されています。これにかわり、現在、勢力をのばしてきているのがUKIP (UK Independence Party) という政党です。これは保守党よりもかなり右派の政党で、とくに移民政策などについて過激な発言をして一部から熱狂的な支持を集めています。2015年の選挙ではこのUKIPがどのような結果を残し、その後、どのような動きを見せるか注目が集まります。
【おまけ】それぞれの政党まとめ
■保守党(The Conservative) 慣習的にTory党ともいう。党首は首相のデーヴィッド・キャメロン(David Cameron)。伝統的な二大政党の右派。
■労働党(The Labour Party) 党首はエド・ミリバンド(Ed Miliband)。二大政党の左派。
■自由党(Liberal Democrats) 党首は現在の副首相ニック・クレッグ(NIck Clegg)。中間派。保守党とともに連立政権を担う。
■UKIP (UK Independence Party) 党首はナイジェル・ファラージ(Nigel Farage)。
■緑の党(Green Party) 党首はNatalie Bennett
■SNP (Scotish National Party) スコットランドの地域政党。党首はNicola Sturgeon。
■Plaid Cymru アイルランドの地域政党。党首はLeanne Wood。
■BNP (British National Party) 極右政党。党首はAdam Walker。