【動画+写真解説】自衛隊は戦えるのか~イスラム国(IS)の戦術分析(2) 市街地の自爆突撃と自爆車両製造工場

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◆日本が向き合う「戦争」
前回記事に続けてだが、こうした自爆攻撃を自衛隊が避けるにはどうするか。結論から言うと、「そういう地域に行かない」というのがベストである。しかし、国会は安保法案を可決したのだから、「積極的に平和を作る」ために今後何が起きうるかも想定しておくことは重要だろう。自衛隊がイスラム国(IS)と交戦することはすぐにはないとしても、ISの活動する周辺地域や近海に出動することは十分ありうる。

自衛隊の基地防御だが、サマワ宿営地のような周囲に何もない場所に設営する基地と、市街地に作られた施設を防御するのは方法も異なる。野営基地の防御は土掘や盛り土で囲んで防護壁を立て、入り口には車止めの段差とS字障壁をいくつも設けるのが通例である。自衛隊員を守るにはひたすら基地を強固にすればいいわけだが、自衛隊が送られる目的は外国に難攻不落の軍事要塞を作ることではないし、そうするほど地元住民との距離は遠くなり、反発も広がることになる。地元の理解と住民感情がじつは大きな防御手段でもあるのだ。

難しいのは市街地だ。これは在外公館などの施設も含むのだが、市街地では自爆攻撃から守る手立ては防護壁しかない。不審車両と判断しても、近辺に住宅地があれば対戦車砲も容易には使えない。そしてもし誤射で近隣住民を殺してしまったら、住民は「日本が殺した」となる。安保法制反対派は「徴兵制がくる」などと「自国民視点」で反論を展開したが、相手国の市民を殺したらどう責任をとるのか、ということがどれだけ語られただろう。

自衛隊を海外に送ると決めたのは国民の負託を受けた国会なのに、住民を誤射や誤爆で殺せばその責任を自衛隊員に押し付けるのではあまりに勝手すぎる。将来、海外で自衛隊が撃つ銃弾は、安倍首相が放つ銃弾ではない。日本国民が放つ銃弾である。安保法制で日本が向き合うべきは、いつかやってくるこうした事態ではないか。【坂本卓】

【動画】(3分16秒) これは今年3月、イラク・アンバル県ラマディの市街地での自爆攻撃の映像。イラク軍拠点に3回連続自爆攻撃が加えられている。いわゆる「ISジェットストリーム・アタック」である。

(1) 小型トラックが外側の防護壁で自爆
(2) 装甲ブルドーザーが大型防護壁を突破してビルで自爆
(3) 装甲消防車がブルドーザーの開けた道に突入、ビルで自爆。ビルは崩壊

イラク軍兵士は左からロケット砲で応戦するものの阻止できないのがわかる。ラマディでは自爆があいつぎ、この映像の2か月後、町は陥落しISに制圧された。この動画の説明は以下の写真参照。


イラク軍拠点への第1波攻撃の小型トラック。荷台に爆弾が積んであるのがわかる。名前から判断するとサウジアラビア出身の戦闘員。防護壁の上の布の幕は、狙撃で狙われるのを防ぐためイラク軍が張ったもの。(イラク・アンバル 2015年・IS映像)
第2波のブルドーザーの自爆戦闘員はシリア人とある。「じゃあ行ってきます」とばかりに手を振っているのがもの悲しい。(同 IS映像)
装甲ブルドーザーは防護壁を倒し、対戦車ロケット砲攻撃を受けても走り続け、後続の装甲消防車のために侵入路をつくり、ビルに到達して自爆。(同 IS映像)
ブルドーザーに続いて第3波の消防車が突撃。自爆したのはヨルダン人戦闘員。(同 IS映像)
ビルは完全に崩壊した。消防車の爆発がもっとも大きく、相当の爆薬を積んでいたと見られる。この作戦敢行日は今年の3月14日とある。米英豪の空軍が地上のイラク軍を支援してIS拠点に空爆をおこなったが、激戦の末、今年5月、ラマディはISに制圧された。(同 IS映像)
これはISが6月に公開したイラク・ファルージャの自爆車両製造工場。イラク・シリアの各地にこうした秘密工場がある。(イラク・ファルージャ 2015年・IS映像)
作業するのは町工場の民間人ではなく、たいてい戦闘員。こうした工場はまっさきに空爆の標的になるので、情報漏れを避けるためだ。(同 IS映像) 
鋼板で車体を覆ったのちに、鉄枠のフェンスを取り付ける。対戦車ロケット砲の直撃を減衰させるためにつけられている。米軍の装輪装甲車ストライカーと同じ仕組みだ。タイヤは撃ち抜かれないようにとくに念入りに囲む。(同 IS映像)
完成した自爆車両。突入時に狙われるフロント部分の装甲がすさまじい。尖塔形にしたフェンスは対戦車砲の直撃を少しでもかわす狙いがあると思われる。正面の鋼板は15センチほどの隙間をつけて2重になっているのがわかる。これも対戦車砲対策だろう。ハンビーなどの戦闘車からとりはずした防弾ガラスがつけられているようだ。(同 IS映像)
背後に完成した車両数台が確認できる。自爆車両の量産化がはかられていることがわかる。(同 IS映像)
有志連合に参加するオーストラリア空軍が公開した映像。「今年7月、イラク・モスルのIS爆弾車両製造工場を戦闘機F/A-18Aホーネットで空爆」との説明がつけられている。工場を特定したということは、地上に地元情報要員がいるということである。ISはスパイ狩りを徹底させていて、摘発すると「十字軍のスパイ」として斬首、檻に入れて溺死、車内に閉じ込めてRPGロケット砲で撃ち殺すなど、残酷な手法で処刑している。(オーストラリア国防省公表映像)
もうここまでくると、どうしようもない自爆ダンプ。前に立つ戦闘員が自爆搭乗員。シリア政府軍への攻撃とある。鉱山や採石場で使われる大型ダンプを改造したようだ。(シリア 2015年・IS映像)
爆弾8トン搭載とある。マッドマックスや北斗の拳のような世界が、いま現実にイラク・シリアに存在し、それがエジプト、リビア、イエメン、アフガン、ナイジェリアと広がろうとしている。いちばん苦しんでいるのは住民である。イスラム教徒の住民はだれもこんな過激主義を支持していないし、自分たちが生まれ育った土地や隣人関係が引き裂かれていくことに胸を痛めている。(同 IS映像)
自爆用の小型トラックの荷台に積まれている青いポリタンクが爆弾。(イラク・アンバル 2015年・IS映像)
イラク軍基地に自爆を仕掛けるシリア人戦闘員。腰から延びる青いケーブルは、自決用に体に巻いた自爆ベルトの起爆スイッチと思われる。下の写真が、乗り込んだ自爆車両。(イラク・サラハディン 2015年・IS映像)
装甲を黒塗りにし、ISの旗のロゴまでペイントしている。(同 IS映像)
イラク軍基地に突入し、自爆。ISはイラク軍とは呼ばず、「ラフィディ軍」や、「サファウィ軍」と呼ぶ。ラフィディはスンニ過激派がシーア派を侮蔑的に呼ぶ呼称。サファウィとはサファビー朝ペルシアのことで、イランを指す。イランのシーア派がイラク・シーア政権を操っているとし、「イラク・シリアでの戦闘はスンニによるシーア派絶滅戦争であると同時に、キリスト教十字軍同盟諸国に対する聖戦」などと位置づけている。(同 IS映像)
IS映像ばかり使いたくないのですこし古いですが取材写真も入れておきます。これはバグダッドの住宅地にあるイラク軍基地。このときはスンニ派、シーア派双方の武装組織が住宅地のなかから狙撃やロケット砲で攻撃を加えてきた。PK機関銃を向ける先には子どもと女性がいる。「武装組織のやつらは、こちらが住民に向けて容易に発砲できないのをわかってて住宅地のあいだから狙ってくる」とイラク兵は話した。海外の戦闘地域に派遣される自衛隊は、こうした難しい選択も迫られることになる。(2007年・バグダッド 撮影:坂本卓)

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【写真解説】自衛隊は戦えるのか~イスラム国(IS)の戦術分析(1) 自爆車両突撃
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(つづけて、自爆戦闘員、爆破技術、武器、戦闘員養成、戦闘形態などに分けて掲載予定)

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執筆者
【坂本卓】

クルド、レバノン、コソボ、アフガニスタン、イラク、シリアなどの紛争地取材。戦場ルポなどが多い。
専門テーマは、おもにクルド問題。 詳細 >>>

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