【萬物相】フォルクスワーゲンとドイツ人

【萬物相】フォルクスワーゲンとドイツ人

 2011年、世界はギリシャにおける財政危機がイタリアなど南欧全体に波及することを恐れた。この年、フランスのカンヌで開催されたG20(主要20カ国・地域)首脳会議において、米国のオバマ大統領はドイツのメルケル首相に「ドイツが資金を拠出して危機を防いでほしい」と要請したが、これに対して「鉄の女」とも呼ばれるメルケル首相は涙を流しながら「それはできない」と述べた。メルケル首相は「もちろん支援はしたいが、ドイツでは憲法で『中央銀行であるブンデスバンクの資金をドイツ政府は思い通り使うことができない』と定められていることから、好き勝手に支援はできない」と説明したという。これを聞いたオバマ大統領はそれ以上説得するのをやめた。

 「ドイツの歴史に政治革命がないのは、革命の手続きを定めた法律がないため」という笑い話がある。われわれにとってドイツ人は、悪く言えば「非常にくそ真面目」と感じるほど法律と原則を重視し、身だしなみを整えて質素に過ごしているようなイメージがある。幼いころ「ライン川の奇跡」について学んだ際、先生から聞いた話は今も印象に残っている。それは「ドイツ人たちはマッチ1本を節約するため、4人集まらないとたばこを吸わない」というものだった。韓国人がドイツに対して抱く好感度も特別なものだ。英国BBC放送の調査によると、韓国人の84%はドイツに対して友好的な感情を抱いているという。ちなみに世界平均は60%であることから、韓国人のドイツに対する好感度は突出して高いことが分かる。

 数年前にドイツ系の銀行の韓国支店長が突然の人事を行い、自らの横領を隠そうとしたことが驚きをもって報じられた。よく調べると、この支店長は東ドイツ出身ということが分かり、多くの人が納得したという。しかし東西ドイツとは関係なく、ドイツのイメージに反する事件は実は決して少なくない。例えばドイツの大手電機メーカー、シーメンス社は10年ほど前、開発途上国の政治家などに4億6000万ユーロ(約620億円)もの賄賂を送っていたことが発覚している。

 先週、米国の環境庁が世界トップの自動車メーカーであるドイツのフォルクスワーゲン社に対し、48万台以上のディーゼル車についてリコールを行うよう命令した。米国の排ガス基準に合わせるため、検査のときのみ排出ガス低減装置が作動するエンジンを搭載していたことが発覚したのだ。低減装置が作動すればエンジン効率が低下するというのがその理由だが、これはまさに顧客と政府をだます詐欺に他ならない。一昨日フォルクスワーゲン社はこれと同じ型のエンジンを搭載した車をすでに1100万台販売したことを明らかにした。

 韓国人はドイツ車を非常に好み、フォルクスワーゲンも韓国の輸入自動車市場でトップを走っている。フォルクスワーゲンはベンツやBMWといった高級車ではなく、より大衆的な車を製造販売していることから、業界ではこのことが韓国でもフォルクスワーゲンの販売が非常に好調な理由と考えられている。有害物質の排出を減らし、そこからさらに燃費を良くしようとすれば、どうしても自動車の価格は高くなる。韓国人がドイツ車を好むのは、技術に対する信頼とともに、ドイツという国の良いイメージも間違いなく作用している。しかし逆に言えばそれだけ今回ドイツ人が行った不正に対する失望も大きいはずだ。その結果、今回の問題によってフォルクスワーゲンという一企業はもちろん、ドイツという国とドイツ人も多くのものを失ってしまった。

方顕哲(パン・ヒョンチョル)論説委員
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