オーウェルが『1984』を書いたのは、彼が亡くなる1年前の1949年のことだ。ソ連の全体主義を揶揄するために語られることが多かった小説だった。ソ連・東欧の全体主義は、80年代後半に連鎖的に崩壊することになったが、この波は中国にも波及した。中国では「六四」として知られる、1989年6月4日の天安門事件だ。
この事件は私にも忘れることができない。事件直後、東京・渋谷では反体制派中国人のデモが行われ、そのリーダーの1人が『民主中国』という反体制派の日本語月刊誌を創刊した。私は記事広告の仕事でこの『民主中国』を取り上げ、反体制派のリーダーたちと夜の晩酌のお供をし、家族ぐるみで交流した。
東京でこのような反体制派運動を始めると、気になるのは中国公安当局の監視の目だ。リーダーたちによると、すでにデモに参加した人のリストは当局に流れている、という話だった。そういえば、最近、オーストラリアでも興味深い事件が起きている。
CNN:亡命求める中国外交官、「豪州にスパイ1000人」(2005/6/6)
【シドニー(CNN)】オーストラリア・シドニーの中国総領事館の外交官チェン・ヨンリン氏(37)がオーストラリアに政治亡命を求めている問題で、チェン氏は4日、反体制派の監視などのために中国のスパイは豪国内だけで1000人以上が活動していると話した。シドニーで同日開かれた、天安門事件16周年の追悼集会で明らかにした。
「1000人以上」というのは誇張だろうか、それとも真実に近い「経験値」であろうか。かりに10分の1の「100人」であるにせよ、オーストラリアに100人なら、日本にどれだけのスパイがいるのか、深刻に考えてみた方がよい。
最近、日本でも注目されている反体制派メディア『大紀元』は、フランス在住の元新華社記者(呉葆璋氏)にインタビューし、衝撃的な証言を掲載している。
大紀元:特別インタビュー
記者:中国共産党が海外のメディアに対して行う統一戦線とは、具体的にどういうことでしょうか?
呉氏:海外での統一戦線は、既に様々な形式で行われています。私が最も驚いたのは、一昨年、中国宣伝部のリーダーが、海外の各大手テレビ局、放送局、新聞社を対象に、宣伝業務を行う委員会を成立したことです。この委員会は、メディア企業で働く人々に対してあらゆる手段を使い、彼らの報道方針に口を出します。中国共産党が必要とするものを報道させ、必要でないものは報道させない、もしくは少なく報道するように要求してきます。<中略>
記者:具体的な例をお願いします。
呉氏:2000年、私は駐パリ中国大使館の参事官から喫茶店に呼び出されました。彼は冒頭からいきなり、法輪功問題を話したいと切り出しました。彼の要求は、フランス国際放送局において、法輪功についての報道は今後一切しないように、というものでした。
呉氏:海外での統一戦線は、既に様々な形式で行われています。私が最も驚いたのは、一昨年、中国宣伝部のリーダーが、海外の各大手テレビ局、放送局、新聞社を対象に、宣伝業務を行う委員会を成立したことです。この委員会は、メディア企業で働く人々に対してあらゆる手段を使い、彼らの報道方針に口を出します。中国共産党が必要とするものを報道させ、必要でないものは報道させない、もしくは少なく報道するように要求してきます。<中略>
記者:具体的な例をお願いします。
呉氏:2000年、私は駐パリ中国大使館の参事官から喫茶店に呼び出されました。彼は冒頭からいきなり、法輪功問題を話したいと切り出しました。彼の要求は、フランス国際放送局において、法輪功についての報道は今後一切しないように、というものでした。
彼は「ここは中国ではない、フランスだ」と要求を一蹴したが、このような「工作活動」が2年前から強化されているという。ではいったいどのような形で「工作」を行うのか。
◆ソース(同上)
記者:中国共産党は海外において、自分達にとって不利な放送メディア、例えば大紀元新聞、新唐人テレビ放送局に対して制約をかけていますが、中国共産党はどんな手段を使っているのでしょうか?
呉氏:中国共産党は海外の各社メディアのプログラム内容を左・中・右に分類し、左派の場合は新華社の新聞をメインに掲載させています。新華社に対する独占インタビューを載せたり、技術提携もフルに行ったりしています。中間派の新聞社に対しては、接待をしたり、相手の要求に合わせたりして、自分の味方にします。自分の立場を固持し、コントロールを受けない独立メディアに対しては、幾つかのやり方があります。一つは、自分達がコントロールしているメディアを使って、自分達の要求に従わない独立メディアが売国奴で、民族の裏切り者だ、などというでっち上げを宣伝させ、攻撃します。また、中国大使館はあらゆる手段を使い、地元の広告主たちに圧力をかけて、独立メディアが広告収入を得られないようにします。その他、各メディアの編集記者を接待したり、恐喝したりして、彼等が要求する内容の記事を書かせます。また、地元の政府側の力を借りて、そのメディアを孤立させたりもします。
呉氏:中国共産党は海外の各社メディアのプログラム内容を左・中・右に分類し、左派の場合は新華社の新聞をメインに掲載させています。新華社に対する独占インタビューを載せたり、技術提携もフルに行ったりしています。中間派の新聞社に対しては、接待をしたり、相手の要求に合わせたりして、自分の味方にします。自分の立場を固持し、コントロールを受けない独立メディアに対しては、幾つかのやり方があります。一つは、自分達がコントロールしているメディアを使って、自分達の要求に従わない独立メディアが売国奴で、民族の裏切り者だ、などというでっち上げを宣伝させ、攻撃します。また、中国大使館はあらゆる手段を使い、地元の広告主たちに圧力をかけて、独立メディアが広告収入を得られないようにします。その他、各メディアの編集記者を接待したり、恐喝したりして、彼等が要求する内容の記事を書かせます。また、地元の政府側の力を借りて、そのメディアを孤立させたりもします。
こんな証言を聞いてしまうと、中国の「工作員」が、わが日本の読売新聞や元首相たちにどんな働きかけをしているのか、気になるところだ。いったい日本には何人の工作員がいるのだろうか? このような情報工作に対しては、欧米メディアであれ、中国反体制派であれ、「使える」味方は全部取り込みながら、反撃していく必要がある。
4月の中国反日デモに関して、アメリカ在住の中国出身弁護士(浦志強氏)は「中国政府」を痛烈に批判している。日本に対する歴史認識が少々ずれていようとも、「打倒中国共産党」では、連帯するべきお仲間である。
New York Times:China's Selective Memory (By PU ZHIQIANG, 2005/4/28)(この記事は中国語から英語に訳されたもの)
【中国の選択的な記憶:抜粋要約】
戦中の日本の残虐行為、すなわち「慰安婦」の性奴隷、1937年の南京虐殺、生物兵器の人体実験には憤りを覚える。日本が博物館や教科書で過去を歪曲するのは許しがたい。しかし中国の歴史を振り返れば、日本も中国も大差はない。
戦中の日本軍による強制労働を思うとき、現在の中国の炭鉱労働者が奴隷のように働かされている現状を思う。南京虐殺を語りたいなら、16年前の天安門事件は虐殺ではなかったのか? 日本の教科書を言うなら、中国の教科書はどうなのだ?
50年代の毛沢東の愚かな「大躍進」の結果、2千万〜5千万人が餓死したが、正確な数字は誰も知らない。50年代の「反革命勢力の粛清」、60年代の「文化大革命」でどれだけ殺されたのか、その数も不明だ。つい最近の天安門の死者数ですらわからない。にもかかわらず、南京虐殺の30万だけは、やけに確かではないか。
慰安婦であれ、強制労働であれ、日本の悪行は裁判に訴える自由がある。東京では「日本の軍国主義に反対」とデモをする自由がある。一方の中国はどうか。いまだに、天安門事件の遺族たちは、警察の監視下に置かれているではないか!
天安門事件の犠牲者の数ですら、いまだにわからない。500人とも5000人とも言われる。日本では藤井昇(厳喜)氏のように「天安門広場では実は1人も死んでいない」(が、別の場所では衝突があった)という分析をする人もいる。16年前のことも不確かな中国共産党が、68年前の南京事件の記憶だけは、選別的に鮮明なのが不思議である。
日中戦争での中国側が発表する「犠牲者数」の増加については、「ぼやきくっくり」さん(2005/5/25)がを次のように整理してくれている。
【抗日戦争における中国側被害者数の変遷】
1945年 死者130万人(国民党発表)
1945年 死者130万人(GHQ発表)
1950年代 死者1000万人(共産党が政権を奪取した年代)
1960年 死者1000万人(中国政府発表)
1970年 死者1800万人(中国政府発表)
1985年 死者2100万人(中国政府発表)
1995年 死者3500万人(抗日戦争記念館による)
1998年 死傷者3500万人(江沢民来日時のコメントによる)
1945年 死者130万人(国民党発表)
1945年 死者130万人(GHQ発表)
1950年代 死者1000万人(共産党が政権を奪取した年代)
1960年 死者1000万人(中国政府発表)
1970年 死者1800万人(中国政府発表)
1985年 死者2100万人(中国政府発表)
1995年 死者3500万人(抗日戦争記念館による)
1998年 死傷者3500万人(江沢民来日時のコメントによる)
まさに幾何級数的なり。「白髪三千丈」のお国柄なのだろうか。中国の文学的表現にならって、今日から私も天安門事件を「北京大虐殺」と呼ぶことにしたい。たとえ犠牲者が50人であっても虐殺は虐殺である。
1989年に東京で『民主中国』(日本語)を出版した反体制派のリーダーたちは、もちろん故郷に帰ることなど許されない。とても優秀な人たちだったので、日本のどこかで研究生活を続けているのだろうか。再び中国に訪れる激動の予兆をどのように見つめているのだろうか。
■追加1:『民主中国』の編集長の家に遊びに行ったときに、驚くことに中国大使館の人も遊びにきていた。中国では同じ大学で親友であるという。たぶん大使館の中にも反体制派に共鳴する人がいたものだと思うが、この大使館員の彼が帰国後どうなったのか、ちょっぴり心配である。
■追加2:先日TBをもらったので紹介します。イギリスのアバディーン大学で「ダライラマの肖像を撤去する」という過激な工作活動が暴露され、議論を呼んでいる。
News.Scotsman:University removes Dalai Lama's image to placate Chinese students(2005/5/30)
【抜粋・要約】
中国人学生から抗議を受けて、ダライラマの肖像を壁から撤去したアバディーン大学が非難を浴びている。親チベットの活動家(リンゼイ氏)は「これは中国の圧力に大学が屈したものだ。元の場所に設置するよう要求する」と語っている。
ダライラマは1989年にノーベル平和賞を受賞し、1993年にアバディーン大学の名誉教授となっている。肖像はこのときから飾られているが、中国人学生が「不快な想いをしている」として、撤去を要請したものだ。
リンゼイ氏によると、撤去の背景には、350人に膨らんでいる中国人学生からの「授業料」は無視できず、大学側の経済的事情につけ込まれたのではないか、としている。
中国人学生から抗議を受けて、ダライラマの肖像を壁から撤去したアバディーン大学が非難を浴びている。親チベットの活動家(リンゼイ氏)は「これは中国の圧力に大学が屈したものだ。元の場所に設置するよう要求する」と語っている。
ダライラマは1989年にノーベル平和賞を受賞し、1993年にアバディーン大学の名誉教授となっている。肖像はこのときから飾られているが、中国人学生が「不快な想いをしている」として、撤去を要請したものだ。
リンゼイ氏によると、撤去の背景には、350人に膨らんでいる中国人学生からの「授業料」は無視できず、大学側の経済的事情につけ込まれたのではないか、としている。
Phayul.comの掲示板によると、大学側は再設置に同意はしたものの、2005/6/9時点でまったく人目につかない別の場所に掛けられているという。撤去事件の発端は、中国人学生の「代表(1人)」とされる人物の嘆願書がきっかけだが、撤去にあたって、教授陣・学生部は、誰1人として相談を受けていなかった、としている。
■参考サイト:
ヒロさんは英国在住とのことですが,米国に先行して英国で出版されたMao: The Unknown Story by Jung Chang, Jon Halliday[Jung Changはベスト・セラーWild Swans: Three Daughters of Chinaの著者]を読まれましたか?
日本では,太田述正氏等が英国等での書評を紹介していますが.
太田述正氏のコラム・シリーズ「厳しく再評価される毛沢東」
http://www.ohtan.net/column/200506/20050605.html
http://www.ohtan.net/column/200506/20050606.html
http://www.ohtan.net/column/200506/20050607.html
しばらくです。私のトコの中国関係の記事のエントリの情報の一部は、
今かなり激論中の”桃板”というところからです。
西尾幹二氏ブログに次第が掲載されてますが、、、、、
投稿者の中国人留学生さん、マルチポストしておられた掲示板に
ホスト表示があったんで…大丈夫かと思ってるんですが。
しかし、中共の教書で『日本は潜在的領土なので解放しなくてはならない』
旨の内容がある、ということを日記で書いておられる方あるんですが、
ソースを今捜しているところです。冗談じゃないですよ。
『Mao:The Unknown Story』は取り上げようと思っていたところです。現在注文中です。中国人のすべての学生にお薦めしようかと思っております。
『Hirohito and Making of Modern Japan』と並行して読む予定です。
亡命事件がたて続けに3件。しかも3件とも情報担当者(自称)でしょう?
何やら不穏。中共がバラけてきているという印象です。
中国国内メディアはといえば、もう靖国参拝阻止で毎日必死です。日本の親中派議員まで動員して、なり振り構わずといった様相を呈しています。
これで小泉首相が参拝したら、誰が責任を負うことになるのか興味津々です。
そうならないように、必死にならざるを得ない政治状況が存在しているのでしょう。
過去の例に照らせば、党上層部で何かが起きているからだと思います。
靖国なんざ権力闘争の、いわば政争の具です。かくも必死なのは、それほど強いプレッシャーが党執行部にかかっているからでしょう。
お楽しみはこれからですよw
情報司令部の御家人さん(笑)、イギリスの僻地までようこそ。
またまたお忙しくなりそうですね。豪州の亡命事件の分析は、御家人さんの
日々是チナヲチ:「不穏といえば不穏」http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/d/20050611
を皆様も是非読んでくださいね。
桃板とは、2ちゃんねる中国関連掲示板のことでしょうか。
http://academy3.2ch.net/china/subback.html
すごい量ですね。さて、どこから手をつけたらよいものか・・・。
近いですね。
経由で行けますし、傍から見た経緯も少しわかると思います。
そこを「文句」というキーワードで検索してください。
御家人さんちのコメント欄で、まんまと工作記事に釣られているところを、
こちらに誘導していただいた海象です。
中共の工作活動ほんとに怖いですね。これに懲りて政治がらみのブログはヲチに徹しようかと反省はしているですが、ついつい嘴をつっこみたくなってしまう。
我ながら困ったものです。
知りませんでした、中国の言論統制が外国にまで及んでいるとは。
特に衝撃を受けたのがフランスの記事ですね。フランスに対してまでそこまでやっている、
と言う事は、日本では物凄い活動がなされているんでしょうね。特に朝日、産経は中国より
と聞いています。外務省でもチャイナスクールなる一団が居るようです。中国共産党に協力
的な日本人が、一体何処まで日本を貶めているのか。想像するだけで嫌になりますね・・・
最近、こんな本を読んでいます。
『オーウェル讃歌〜“1984年”への旅路』
(城島了「おえる」著、‘00年自由社)
元々大学時代に、オーウェルの『1984年』『動物農場』を
読んで、その後の思想の骨格が作られていった、と思う。
(当時は極左の側に身を置いていましたが、全体主義には
激しい嫌悪を抱いていました。
著者は一介の会社員。大学で英文学を専攻した夫人との二人三脚旅。
無邪気なまでの「オーウェル・マニア」のイギリス聖地巡礼記ですが、
全体主義を激しく批判したオーウェルの本質をしっかり踏まえています。
#このHPもおすすめ「オーウェルにおける革命権力と共産党」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~mike/orwell.htm
’84年に映画化もされました。主演:ジョン・ハート。
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=1905