不明瞭な役割分担、責任のあいまいさ、国民にきちんと向き合おうとしない説明不足。

 新国立競技場の建て替え計画が、いかにずさんな組織運営のもとに進められ、白紙撤回に至ったかが浮き彫りになった。

 問題を検証した文部科学省の第三者委員会による報告書が公表された。約1カ月半という短期間での検証だったが、その内容はもっともな指摘である。

 東京五輪・パラリンピックは5年後に迫る。検証結果を生かし、早急に計画を練り直すには、強い責任と覚悟をもったリーダーシップが必要だ。

 その筆頭は安倍首相である。「五輪を成功させる責任は、最終的には私にある」との国会答弁を忘れてはならない。

 五輪担当相や五輪組織委、日本スポーツ振興センター(JSC)などの役割を明確に定義し、失敗を繰り返さない体制づくりが火急の任務である。

 報告書は、旧計画の責任の所在として、下村文科相と山中・前文科事務次官、JSCの河野理事長を列挙。検証委の委員長は「巨大事業に対して組織体制が伴わず、ミスマッチを放置した結果責任」と述べた。

 工費の高騰、専門家の不足など問題は多々あったが、報告書がすべてに通じて指摘しているのは、どの組織にどんな権限と責任があるのかがあいまいだった点である。

 その結果、意思決定をめぐり「機動性がなくなり、硬直性を招いた」と分析。だれもが当事者意識が薄いなかで、計画見直しの決定が遅れた。

 さらに報告書が指摘しているのが、透明性の欠如である。

 工費の試算が激しく変化しても説明がされず、国民の理解は乏しいままだった。そもそも競技場の必要性や意義についての情報発信を怠った点なども厳しく報告している。

 こうした検証結果は、以前からある程度、見通されたものでもある。ところが今に至るも、計画づくりの手続きや組織運営がどこまで改善されたか心もとないのは、どうしたことか。

 新たに建て替えを担う事業者の公募はすでに締め切られた。しかし、どんな競技場を造るのか、工費の上限を1550億円とした妥当性は何か、いずれも十分な国民の理解を得ているとは言えない。財源の確保や大会後の活用方法などの旧来の課題もそのままだ。

 出発点として、東京五輪の理念と、後世に残す競技場の未来図をしっかり描く必要がある。組織論にとどまらない、骨太な構想力こそ求められている。