同日、ヴィンターコーン社長はビデオ声明で「わずかな人数によるミス」と断定し、組織的関与を否定。だが、その翌日には引責辞任に追い込まれた格好だ。
しかし問題は、その制裁金の大きさやトップ更迭よりも根深い所にある。欧州自動車産業全体で築き上げてきた、環境に優しい「クリーンディーゼル」ブランドに対する信頼失墜だ。
ディーゼル神話に疑惑の目
そもそものきっかけは14年、米ウェストバージニア大学と第三者機関が公道での実質的な排ガス実験をしたところ、著しく基準値を超える“怪しい車”が見つかったこと。報告を受けたEPAやカリフォルニア州当局は当該車の製造元であるVWに説明を求め、14年9月にはVWは不正ソフトウエアの存在を認めていた。
不正の背景の一つには、排ガスに敏感で、窒素酸化物の基準値が日本の約2倍も厳しい米国の排ガス規制がある。
ディーゼル技術では日本で独走するマツダですら現時点では燃費と排ガスのトレードオフという技術的課題をクリアしておらず、最難関の米国ではまだディーゼル車を投入できていない。それをVWは、“カンニング”して不正回避していた可能性があるわけだ。
08年といえば、今や環境に優しい「Think Blue」をうたうVWがクリーンディーゼルの先駆けとして搭載した直噴ターボディーゼル技術「TDI」を刷新した時期と重なる。VWは欧州発のクリーンディーゼルを引っ提げて、09年には「ジェッタ」がディーゼル車として初の米グリーンカーオブザイヤーを受賞していた。
今回の対象車は全て、そんなエポックメーキングなテクノロジーが搭載された車種。それだけに、同社の革新的なイメージが地に落ちることは避けられない。同様にクリーンディーゼルを次世代環境車の主力に据える欧州自動車産業全体に影響を及ぼし始めている。既に騒動は、独BMWや独ダイムラーなどに飛び火している。
国を代表する企業の一大スキャンダルを受けて、メルケル独首相は22日、「透明性を示し、全ての行為を明らかにすることが重要だ」とコメントを発した。
米国では数週間以内に公聴会が開かれる予定で、集団訴訟や司法省による刑事訴追も取り沙汰される。トヨタ超えを果たし、つかの間の“天下”を味わったVWの悪夢は始まったばかりだ。