思いだすままに……（20）
静か過ぎる程の日が続いた。
逸る気持ちに反して、テレビ局からの連絡が途絶える……。
何とか大阪高裁での審議までに放送されて欲しい。そうすれば、世間も注目してくれる。
放送予定日が決定すれば、直ぐに連絡をもらう手筈になっていたが……。
この一見、平穏とも思えるような静けさは何だ ？
千○科○大学、嶋○教授に鑑定依頼をして一週間ほどが過ぎた。
弁護士から連絡が入る。
声に冷静さが感じられない。
「嶋○教授から、当初、事故写真を見た感想として、この状態で、対向正面衝突は有り得ませんね……、と言っていましたが、先ほど、連絡がありまして……、
いろいろと検証した結果、もぐり込み正面衝突が考えられますと言う連絡が来ました」
「えっ ！ もぐり込み正面衝突 ？」
私は絶句した。
中○氏の鑑定、デクラ社の鑑定、全てに、後方からの大型貨物車による追突事故しか有り得ない事故痕跡であるとなっているではないか！
何故、一番安心していた嶋○教授の鑑定が正面衝突なのだ！
弁護士の声が続く。
「大阪高裁には、国内においても再度鑑定し、千○科○大学、嶋○教授の鑑定資料を追加添付する事を言っていますので、教授から対向正面衝突も考えられるとの書類が提出されれば、地裁判決が敗訴である以上、大変不利なものになります。
裁判官も前任者の判決に対し、人間関係や自身の仲間内での評価を考えて、前判決を追認する事が多いですから……。一件でも、前判決容認の考えが示されれば、裁判官は、それに飛び付きますからねえ。まあ、それが一番穏便にすみますから……
私は、早々に千○科○大学まで行って教授に会い、何故このような検証結果になるのか、確認したいと思っています。お父さんにも同行して頂いて、経験からの不審点を質問していただく事も可能ですが……」
裁判官には、真実と正義の追求よりも仲間内での穏便が大切なのか ！
それにしても、この一週間の中で何があったのだ ！
嶋○教授は、自信を持って正面衝突は有り得ないと言っていたではないか ！
一週間の間に何が……？！
私は、家内を連れて東名高速を銚○市へ向かって走っている。
早朝割引を利用して、少しでも費用の掛からないように……。
事故の真相究明に掛かる費用も大変な出費になっていた。
息子がいなくなってから、もう4年の年月が流れ去ろうとしている。
一緒に仕事をしていた息子が突然いなくなった事での営業力の低下や精神的ダメージで会社の業績も悪化し、経済的にも困窮していた。
しかし、真実を知ろうと躍起になる遺族を誰も助けてくれない ！
日本と言う国の弱者に対する仕打ちが、これほどに冷酷なものとは……。