思いだすままに……（23）
弁護士を送って銚○駅に向かう。
車中、重苦しい雰囲気が漂う中で弁護士がひとり言のように言った。
「……、嶋○教授の意見書は、大阪高裁には提出しない事にしましょう。
こちら側に都合の悪い意見は、敢えて提出する必要はありません。
大阪高裁の方では、事前に申し出た嶋○教授の書類提出が無い事に疑問を持つかもしれませんが、正面衝突ありきの意見書では勝てません。
どちらにしても、近日中に教授から正式書類が届けられるでしょうから、その内容を確認してから考える事にしましょう。
もしかして、今日の意見交換で、西○運○、大型貨物車の追突であると言う意見書になるかもしれません。それなら勝てます……」
弁護士の慰めるような言葉が聞こえた。
違う！私が知りたいのは、勝つとか負けるでは無い！
真実がどうであったのか知りたいのだ ！
真実が……。
「それでは気を付けてお帰りください」
薄闇が忍び寄る銚○駅で、お互いを気遣い挨拶を交わした。
私は長距離走行の疲れを感じて、銚子駅前の駐車場に車を止めたままで休憩した。
身体が重い。
ハンドルに手を掛けて俯く私を見て、家内が心配そうな顔を向けた。
「お父さん、大丈夫？」
「ああ……」
少し上気したような私の顔を見て、家内が額に手を当ててくれた。
「お父さん、少し熱がありますよ……」
夢中で京都から銚○までを走って来た。
工学博士の意見を聞くために……。只、夢中で……。
結果は……、
はっきりとした事は分からないが……、データーが不足するので断言は出来ないが……、
それでも息子の対向飛出し正面衝突だ。 と言う……。
何か大きな得体の知れない物に検証結果が捻じ曲げられた気がした。……。
私の被害妄想なのだろうか……。
京都へ車を走らせて帰るだけの気力が無くなった。
少し熱っぽく頭が痛い。
これ以上の運転は無理だ。九十九里の海岸沿いにあるホテルを調べて予約を入れた。
ホテルの窓から見おろす早朝の九十九里浜は、爽やかな朝日に包まれ、海沿いの砂浜は、散歩する人達の笑顔で溢れていた。
うららかな陽射しは、明日への希望を約束してくれるような美しさだった。
「さあ、帰ろう……」
京都に帰ったら、やらなければならない事が多くある。
息子の無念を晴らすために……！
帰り着いた私は、西○運○、大型貨物車の同型車両データーを入手すべく、方々に手配した。
仕事柄、車両展開図は簡単に手に入った。
西○運○大型貨物車の前バンパーの最低地上高42ｃｍ、軽自動車の前バンパーの最低地上高20ｃｍ、最高地上高50ｃｍだった。
どう考えても、西○運○の大型貨物車と対向正面、もしくは対向斜めに接触すれば、軽自動車前バンパーの原型が残る事は無い。
（この画像は、警察署車庫から廃棄処分をするために、レッカー車に積載する時、あまりにも軽自動車前バンパーの原型が残っていた事に疑問を持ち記録した。この時私は、警察官から軽自動車の対向正面衝突であると聞かされていた。）
イメージ 1
私は、西○運○の大型貨物車と同型車両を探し出し、前バンパー部分の最低地上高部分にスケールを当て、カメラに収めた。
その他にも車体下部の状況、前輪車軸までの前バンパーからの距離等、数十枚を記録し、大型貨物車の展開図を添付して嶋○教授宛送付した。
平成21年6月5日付けの報告書が、教授より届いたとの連絡があった。
電話の向こうで弁護士の低い声が聞こえる。
「今回の件で、嶋○教授から所見が送られてきました。
やはり潜り込み衝突であると結論付けています。
私としては、銚○でも、お話ししたように、この見解を高裁宛、証拠提出するのは止めておこうと思っています。
勿論、裁判所からは疑われますが、この際、裁判所に実況見分調書の再鑑定の必要を申し立て、ドイツ、デクラ社鑑定の正当性を証明できればと思っています」
聞く私の耳に虚しさが響いた。
嶋○教授との意見交換は何だったんだろう……。
こんなにも簡単に、実況見分調書に疑義ありと分かるのに……
こんなにも簡単に、西○運○、高○英○の嘘であると分かるのに……
しかし、それでもすでに実況見分調書は出来上がっている。
あの二名の警察官と西○運○、高○英○の証言によって……。
何かが……、影響している……、正体の見えない大きな何かが……
そうとしか思えない……。
