思いだすままに……(24)
私は、早速FAXで嶋○教授の意見書を送信してもらい、何度も何度も読み返した。
意見書には気になる文言が並んでいた。
1. 通常の事故では乗用車がトラックに跳ね返されるが、今回の事故については潜り込み正 面衝突も考えられる……、
2. 乗用車がトラックの下部に潜り込む状況が発生したとすれば、写真によって判別できる乗 用車の痕跡と不完全ながら潜り込み衝突を模擬するPCクラッシュ解析の結 果からし
て、 乗用車の進行速度は比較的低速、時速約10km前後だったのではな いかと推測
さ れる。
3 特に、正面衝突とした場合に乗用車の運転者の頭部に目立った傷害がないのは、かな
り奇異に感じることである。
嶋○教授の意見書は、潜り込み正面衝突を容認しながらも、実況見分調書の信憑性に再考の必要性を感じさせるような書面だった。
乗用車の運転者に目立った外傷が無かったという文言を、裁判官が見てくれれば、当然、実況見分調書に疑問を持つだろう。
西○運○、大型貨物車が時速55kmで走行していたという記録は残っている。
息子の車が嶋○教授の言うように、時速10km程度と推測されるなら、衝突時の相対速度は時速60kmを越える。
この速度の衝突で、顔面、頭部に外傷が無いと言う事は有り得ないし、時速10km程度と言う、人間が早足で歩く程度の速度で対向車線から乗用車が現れたのであるなら、西○運○、高○英○の運転する大型貨物車は十分に回避措置が取れていなければならない。
……と言う事は、この○○教授の意見書、デクラ社鑑定書、中○氏鑑定書を見れば、大阪高裁では実況見分調書の再調査の必要を分かってくれるだろう。
裁判官なら疑義を感じて審議やり直しを命じてくれるだろう。
私は弁護士に、大阪高裁宛、○○教授の書類を提出して欲しいと連絡し、再度デクラ社宛、嶋○教授の所見をドイツ語に翻訳して信憑性を確認してもらう事にした。
大阪高裁の審議までに、嶋○教授の所見に対するデクラ社の意見書を証拠書類として提出したい。
大阪高裁での結審予定日は近い。
弁護士と相談のうえ、審議日程の延期を申請する。
デクラ社からの書類の返送を待つ……。
嶋○教授の意見書が届くと同時に、テレビ局の動きが潮の引くように静まりかえって行った。
テレビ局スタッフの一人が言った言葉が思い出される。
「……どちらにしても取材した案件は、持ち帰って編成局会議にかけます。それでゴーサインが出ればしめたものですが、たまに上からストツプが掛かる事があるんですよ。 案件の内容に裏付けが取れるか、とか……、視聴率以外にもテレビ局として影響を受けるものがありますからね……」
笑いながら話してくれた。
多分、正直な人だったのだろう。遺族感情に気遣いするだけの繊細な心遣いは出来ないが、その言葉には真実味があった。