子どもの「食育」は、誰のために行われているのか

以上のように米飯給食の推進の目的の一つは、米の消費量アップだと考えられるので、米飯給食回数と米消費量の推移を比較してみたい。

 

 

米飯給食とお米消費量

 

米飯給食の割合を増やしてから30年以上が経つが、国民の米消費量は減少の一途をたどっている。つまり、米飯給食を導入したことで米の消費量を少しは上乗せできているとしても、給食で使用する量は米の目標生産量の1~2%程度であり、さほどの効果はないと言える。となると、子どもの食の選択の幅を狭くしてまで、完全米飯給食を行う必要はないのではないか。

 

しかし、現在も食育界隈では米飯給食の推進が続いている。

 

 

親への重圧

 

このような伝統や文化の継承や食料政策などの思惑が絡む現在の食育は、子育て世代に不要な心配や負担をかける要因になっている点も問題だ。

 

「朝ごはんを食べよう」という、一見よさそうな食育テーマを例に考えて見よう。

 

成長期の子どもは体の大きさの割に必要な栄養量は多いのだが、一度に食べられる食事量は大人に比べ少ないため、栄養学的に考えると毎食しっかり食べることが望ましい。朝食はしっかりと食べるにこしたことはない。

 

しかし、「朝食をとりましょう」ではなく、「食事は母親が手作りするべき」、「伝統的な和食がよい」というような規範を押しつけてくるようなものも存在する。

 

子どもが朝食を食べないと一口に言っても、その理由は様々だ。塾や部活動などで就寝が遅いために朝寝坊しがちで食事時間が確保できない、体質的に朝はたくさん食べられない、親が朝食を用意できないなど。つまり、それぞれ異なる対策が必要である。近年は共働きの親が多く、残業などで生活時間が夜型にシフトする子育て世帯が多くなっており、それが朝食欠食や朝食の用意を難しくしている大きな要因だろう。

 

こうした社会的な要因を放置したままで、子どもの欠食は家庭に問題があるとばかりに責任を押しつけても根本的な改善には繋がらない。近年、朝食欠食率は改善傾向が見られるが、多くの親たちが子どものために努力しており、無理にでも朝食を用意し、学校に送り出していることの現れだろう。多くの親(主に現状では母親)は真面目に子どもの健康を考えているが、食育で謳われているような「子どもにとってよいこと」に敏感な親は、真面目に考えすぎて無理をしてしまう傾向があるのに、重圧をかける必要があるだろうか?

 

国民運動としての食育を謳うのであれば、親個人に不要な重圧をかけるのではなく、子育て世代が残業せずにすむような環境の整備など、社会の側から問題を解決するということにも取り組んでほしいものだ。

 

 

根拠なき情報の氾濫

 

そして、現在の食育の最大の問題点は、根拠のない情報が多く含まれていることだろう。

 

食育を謳う書籍だけでなく、本来なら正しい知識を啓蒙すべき幼稚園や保育園などで行われる食育講義にも、少なくない割合でデマが紛れ込んでいる。

 

たとえば「玄米菜食がよい」「肉や砂糖、牛乳は毒」「加工食品を食べると病気になる」「親の不摂生によってアレルギーになる」、「発達障害は親の不規則な生活や、食の欧米化が原因である」などは、すべて科学的・栄養学的な根拠がない。

 

このような不安を煽る根拠のない情報は、真面目なご両親の子どもを思う気持ちや、言われのない罪悪感につけこんで広まってしまう。特に子どもにアレルギーや発達障害などがあると、つい信じてしまうということがある。

 

しかし、根拠の無い食事法や健康法をうっかり信じて実行すると、貴重な労力やお金が無駄になるばかりでなく、栄養が偏ることによって子どもの成長が阻害されたり、病気になったりしてしまう危険性さえあるのだ。

 

子どもにとって本当に必要な栄養と食事については、厚生労働省によって『食事摂取基準』や『食事バランスガイド』(農林水産省と共同)などが作成されており、ここから大きく外れていなければ大抵は問題ないと考えられる。子どもは精密機械ではないので、食欲がない日もあれば、たくさん食べる日もあるだろう。そうした子どもの状態にあわせ、偏った食事が続かないように配慮をしてあげるのが大人の役割だ。

 

しかし、残念ながら、この当たり前のことを伝える食育関連の書籍や食育教材は少なく、子育て中の親が妥当な情報にたどりつけるかどうかは運任せという状況である。だからこそ、拙著『管理栄養士パパの親子の食育BOOK』には、本当に当たり前のことを書いた。

 

繰り返しになるが、食育において、「栄養学」よりも「伝統」や「食料政策」を優先したり、必要以上に親に重圧をかけたり、根拠のない(はっきりしない)情報を広めてはいけない。

 

食育は、子どもの発育と健康を守るためのものであるべきで、それを実現するために必要なのは正しい知識の啓蒙と社会環境の整備だ。偏った思想、栄養学的に間違った主義主張、商売が持ち込まれている現状は、改善していかなければならないだろう。

 

 

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