不可解な自殺が増えているが……

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 5月中旬、セレブの街として有名な東京・港区白金台のビルの間に人が倒れているとの通報があり、駆けつけた警察官によって女性が死亡しているのが発見された。遺体は都内に住む30代の女性とみられるが、その姿は口に粘着テープを貼ってアイマスクをしているという異様なものだった。

 前日の夜、女性が10階建てビルの外階段を上っていく様子が防犯カメラに映っていた。このことから翌日までに警察は「飛び降り自殺」との見方を発表。だが、これが報じられるとネット上では「本当に自殺なのか」「粘着テープは必要ないだろ」などといった疑問が上がり、さらには「エクストリーム自殺」との声が噴出している。

身近にある? 不可解な「エクストリーム自殺」

「エクストリーム自殺」とは、自ら命を絶つには難しいと思われる状況で「自殺」と判断された事件のこと。アクロバティックな要素を持った「エクストリームスポーツ」の名前から転じて名づけられたネットスラングの一種だ。

 そんな言葉が生まれるほど不可解な「自殺」は数多く起きている。

 近年では、2011年に境港市の廃業したガソリンスタンドの事務所の屋根で20〜30代の女性の遺体が見つかった事件が有名だ。首にはナイロン製のロープが5重に巻かれ、死因は窒息死。屋根の約1メートル上にあったクイのようなものにロープを引っかけて自殺した可能性はあるが、遺体は靴を履いていないにもかかわらず、屋根には1種類の靴跡が残されていた。現場は目立たない場所で人の出入りはなく、周囲で靴は見つかっていない。だが、結局は「争った形跡がない」「他殺なら遺体を3メートル上に運ぶのは困難」として自殺と判断されている。

 同年には、大阪府羽曳野市野で漬物石を詰め込んだリュックを背負い、両手と両足がヒモで縛られた状態の71歳の女性がため池に浮いて死亡しているのが発見された。老女が自分一人でやるのは難しいようにも思えるが、こちらも「ヒモは自分で結べる縛り方だった」「自殺をほのめかす遺書があった」として、警察は自殺と判断している。

 2006年には、宇和島市沖で当時64歳の漁師が両足に約10キロのいかりを結んだ状態で遺体となって発見された。死因は溺死ではなくショック死。後頭部を強く打った形跡もあったが、警察は自殺と判断した。納得できない妻が「自殺ではない」とし、農協を相手取って生命保険の災害特約給付金などを求める裁判を起こし、「自殺と推認すべき事情は見当たらない」との判決を受けている。だが、自殺だとする警察の姿勢は変わっていない。

 何とも不思議な自殺ばかりだが、実際に警察の判断が間違いだったと分かったケースもある。

 2010年に横浜市の簡易宿泊所で男性が首から血を流して死亡していた事件で警察は自殺と判断。だが、半年後に「自分が殺した」と無職の男が神奈川県警に出頭し、県警は一転して殺人容疑で男を逮捕した。また、男性連続不審死事件で逮捕された木嶋佳苗被告や上田美由紀被告の一連の事件でも、当初は「自殺」と判断されていた被害者がいたことは記憶に新しい。

 実は我々の身近でも、こんな「エクストリーム自殺」が起きているのかもしれない。

"闇の勢力”の圧力を感じさせるケースも……

 2006年のライブドア事件のまっただ中、同社元取締役で事件のキーマンだった野口英昭氏が沖縄のカプセルホテルで死亡。左手首と頸部に5センチの傷があり、腹部に内臓が露出するほどの深い刺し傷があった。ベッドの上には包丁が置かれていた。警察は司法解剖することもなく自殺と判断。包丁の入手先の特定もせず、指紋も採取しなかった。

 ほとんど割腹自殺のような状況で腹部からの出血が死因になったとされるが、それほど壮絶な状況だったにもかかわらず野口氏本人が非常ベルを押したという。また、現場には血まみれの派手なシャツがあったが、遺族は「本人のものではない」としている。他にも不可解な点が多いため現在も他殺説がささやかれているが、すでに新たな証拠が見込めないことから「自殺」は覆らない。

 また、現職警察官や宗教団体関係者が「他殺」と内部告発した1995年の東村山市議(当時)の朝木明代さんの転落死や、民事訴訟で他殺が認められた2002年のAV女優・桃井望さんの謎の死など、世の中の闇を感じさせながら同じく警察が頑なに「自殺」と断定した事件もある。

「当然、単純におかしな状況で自殺してしまったケースなどはある。人間は極限状態になると何をするか分かりませんからね。陰謀論が独り歩きしていることも多々あります。しかし、明らかに警察の職務怠慢や何らかの圧力により、自殺として闇に葬られている事件があるのは明白です」(週刊誌記者)

 他殺が自殺と誤認されることがあるとすれば被害者の無念は想像を絶するものであろうし、殺人者がのうのうと逃げ延びていることも恐ろしい。警察や検察には厳正な捜査によって間違いのない判断を下してほしいものだ。

(取材・文/夢野京太郎 Photo by Wesche)