ディズニー、ハリー・ポッター、そしてハリウッド映画など、世界中の人々を感動させるストーリーは欧米から生まれ、それは長ければ50年以上、人々の心に残り続けるとも言われていますが、現在多くの日本人は、そのストーリーをスクリーンの前で消費するだけになってしまっており、利益優先、効率優先の考え方が、「面白いものを作る」という価値観すら忘れさせているように思います。
20世紀の大量生産時代、日本は真面目と勤勉さを武器に戦後の焼け野原から立ち直り、世界のモノづくりの基礎を作ってきましたが、21世紀に入り、日本と同じような先進国が、「生産性重視」の価値観から、「創造性重視」にシフトしていく中で、時代に合ったシフト変換ができておらず、何とか古いやり方の中でもがきながらも、長期的な目線で21世紀の未来像が描けていません。
20世紀、物事を徹底的に効率化するという意味では、日本は世界でも稀に見る優等生でした。
すべての物を一か所に集め、不動産にしても、流通や交通にしても、古いものをどんどん壊し徹底的に効率化していくことで、東京は3300万人が暮らす世界最大の都市になりましたし、必要なものがいつでも手に入るコンビニや自販機、そして食べ物に関しても本当の栄養バランスではなく、「簡単・美味しい・安い」が中心に考えられるものがほとんどになってしまいました。
孫正義氏は、「他の国に置いていかれた後の虚しさが一番傷つく」とした上で、現在の暗記7割、思考3割の日本の教育のバランスを逆にすべきだと述べていますが、これは仕事の場でも恐らく同じことで、日本人がどれだけ終電まで量をこなして働こうが、筋肉の量でも、人口の数でも他の国には及びません。
現在の効率性重視の仕事が7割、創造性重視の仕事が3割のバランスを逆にすることで、一時的に売上が落ち、すぐに成果を出すことはできないかもしれませんが、中期、長期的に考えれば、必ず新しい市場開拓に繋がり、この創造性こそが、21世紀の日本の新しい付加価値になっていくのではないでしょうか。
リンクトインの調査によれば、2011年末までに、利用者が自分自身を表現するために、最も頻繁に使用した単語は「クリエイティブ」だったそうで、テック・クランチのレポートでも、生産性重視の仕事は、アウトソーシングやオートメーション化が可能なのに対し、創造性重視のクリエイティブな仕事は、それが難しく、クリエイティブと言えば、以前は芸術家や文筆家などの職業を連想しましたが、現在では安定した職種のひとつと見なされていると書かれています。
リーマンショックによって、今まで信じてきた価値感が壊されて、「答えがある時代」から「答えのない時代」に大きくシフトしようとしている中で、英語やプログラミング、そしてMBAなど、ある程度「答え」を明確にしてくれるものは、もちろんこれからも必要ですが、イノベーションや業界改革などが騒がれる中で、明確な「答え」がなく、すぐに結果につながらないものに投資していくことが、最終的にはイノベーションを起こす近道になるのではないでしょうか。
トロント大学の経済学者・社会科学者であるリチャード・フロリダ氏は、脱工業化した都市における経済成長の鍵となるものは、「クリエイティブ・クラス」と呼ばれる創造性を武器にする人たちで、21世紀の都市は、クリエイターが多い街ほど活性化され、クリエイターの創造性は、日用品のように大量生産され、安さ・品質によってコモディティ化されることはなく、価値が増幅され続けることで、街が活性化され、その集積が「クリエイティブ・シティ」になると述べています。
1950年代、日本は戦後の焼け野原から立ち直ろうと必死でしたが、当時、欧米社会で「日本製」と言えば、標準を下回る質の低いイメージが定着し、二流どころか、ゴミ同然と見なされており、当時の「日本製」のイメージは、現在の中国製やメキシコ製とは比べ物にならないほど悪かったと言われていますが、たった数十年間で誰もが認める「日本ブランド」を構築したことに、世界中の人々が驚きました。
しかし、21世紀に入り「生産性重視」から「創造性重視」にシフトしたことで、成功のルールが大きく変わり、多くの日本人が自信を失っていますが、米国Adobeシステムによる「クリエイティビティ」に関する調査によれば、世界で最もクリエイティブな国は日本、さらに最もクリエイティブな都市は東京という結果が出ており、欧米の国々を抑えて、日本は堂々の1位に選ばれています。
ただ同じ調査で明らかになったのは、自らを「クリエイティブだ!」と考えている日本人はたった19%にとどまり、世界ダントツの最下位で、米国の52%と比べても、大きく差がついている事実もしっかりと受け止めなければなりません。
戦後の成功が大きいだけに、過去20年の停滞は日本人の自信をどんどん失わせているのかもしれませんが、ここで「生産性重視」の考え方から「創造性重視」、つまりクリエイティビティを重視した考え方にシフトしていかなければ、日本は時代に置いていかれた後の虚しさが残るだけです。
よく、どの世紀も最初の10年は、前の世紀からの入れ替えの10年と言われますが、古い価値感に縛られて、時代の最初に舵取りを間違うと、途中で進むべき道を変えるのはそう簡単なことではなく、下手をすれば、日本は古い価値観のまま、次の50年を迷走することも考えられます。
インターネットとソーシャルメディアというインフラのおかげで、クリエイティブなコンテンツは、時間・場所に限らず、どこにいても消費・共有され、記事や動画を一つ作るにしても、女子高生であろうが、一流クリエイターであろうが、同じ土俵で勝負することになり、そこにはお金やコネでは隠せない本当の力の差が明らかになります。
かつて作家の司馬遼太郎さんは、小説「坂の上の雲」の中で、日本を欧米と肩を並べる近代国家にするために、日々奮闘する若者たちの姿を描き、敗戦と高度経済成長期を経て、日本はついに先進国の仲間入りを果たしましたが、それと同時に成熟国となり、次の日本国家のイメージ、つまり「坂の上の雲」が見えなくなってしまっています。
このような状況に対して、税金を垂れ流した見かけだけの経済や株価、そして数字と予算だけにフォーカスし、効率性だけを意識したマーケティングではなく、もっとクリエイティブなやり方で、世の中を活気づけることができるのではないかという想いで立ち上げたのが、この「リーディング&カンパニー」でもあります。
日本を代表する芸術家、岡本太郎氏はかつて、「自分は迷ったら、必ず危ないほうの道を行く。だってそのほうが面白いじゃないか。」と言いましたが、今の日本には、これくらい楽観的な考え方が必要なのかもしれません。