法と正義を教える立場の人間が社会のルールを踏みにじる。司法試験の公正さを揺るがしかねない事態である。

 明治大法科大学院の教授による不正事件が今月、明るみに出た。自らが作成にかかわった試験の問題などを、教え子に漏らしたとして告発された。

 大学は本人を懲戒免職とし、法務省は再発防止策づくりなどのための部会を発足させた。不正の動機は何か。大学はなぜ見過ごしたのか。他の大学も含め、同様の行為はないのか。

 司法試験制度全体の信頼を取りもどすため、徹底解明を進めなくてはならない。

 これまでに指摘される問題点は、同じ人物が長期間、試験の問題づくりに携わるケースがあったことだ。期間の制限を設けるよう検討すべきである。

 問題をつくる考査委員は今年132人。裁判官や弁護士、法務省、法科大学院などの中から毎年任命する。法務省は再任の上限は10年が目安というが、明確な規定はない。元教授は02年から委員となり、憲法分野ではまとめ役だった。

 07年にあった別の大学院での漏洩(ろうえい)疑惑を機に、法務省は委員に対し、受験を控えた学生らへの指導を禁じた。だが、委員の氏名は公表されている。長く務めれば当然、学生が集まる。本人の緊張感も緩みかねない。

 日弁連はかつて、委員の再任を最長3年にする案をまとめていた。特定の大学院に委員が偏ることも減らせる。関係者の多くが合意できるのではないか。

 教える者が問題づくりに加わる仕組み自体に「危うさ」があるのは確かだ。だが、大学院教員をすっかり外すことには慎重であるべきだ。

 そもそも、いまの司法試験制度は、法科大学院との連携を前提に始まった。暗記中心の試験をやめ、大学院での教育を踏まえ、まじめに取り組んだ学生なら合格できる。そうしたプロセス重視に改めるのが司法制度改革のねらいだった。

 しかし最近は、法科大学院を経ない予備試験からの合格者が増え、今年は1割を占めた。大学院教員のように教育過程を知る人がいなくなれば、理念はさらに形骸化する。

 社会の新たな諸問題に、柔軟な発想で対処する。求められるのは、そんな法律家だ。過去の判例に詳しい実務家と、新しい学説に通じた研究者が補いあい、多様な視点から問題をつくる。その意義は薄れていない。

 法務省は、できるだけ幅広い知見を集め、有効な改善策を練ってほしい。