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これが謎に思えるのは、蛹の時期が奇妙だからだ。蛹の時期には、組織はドロドロに溶けてしまっている。その後、組織が再構成されて、成虫になる。
しかし、成虫になるにしても、どうしていったん組織をドロドロにするのか? そんなことをする理由がわからない。謎に思える。
……という話が、2ちゃんねるに上げられ、話題になった。
《 昆虫の変態って今の進化論でどういう説明してるの? 》
バッタやカマキリはわかる
だけど蝶やカブトムシみたいに蛹になってから全く違う形態に変わるってのがどうしてああなって行ったのか全く想像つかない
進化論ではどう説明してるの?
 ̄ ̄
サナギって一回全部中身ドロドロに溶かしたあとそのまま中で成虫の体つくられるんだろ?
どんなメカニズムでそんなことできるんだよ
ドロドロにしたらもう終わりじゃん
 ̄ ̄
蛹が不思議に思えるのはいったん形を獲得したのに
わざわざそれを溶かして再構成するからだな
 ̄ ̄
蛹になると、幼虫の体は液状になり、
その液を吸収しながら成虫原基が成長して成虫が生まれる
幼虫の立場で見た変態とは、自分が成長して変化することではなく、
自分に寄生して生まれた双子に食いつくされることなのかもしれない
 ̄ ̄
蛹の時って無防備だよな
羽化する時も時間がかかるし
こんな危険な状態を経過しなきゃ成虫になれない昆虫は不完全な生き物だ
( → 哲学ニュースnwk )
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以上のように問題提起された。そこで、困ったときの Openブログ。謎の解明を試みる。
まず、ドロドロになるということの事実は、下記で確認できる。
→ 【閲覧注意】えっ、本当?サナギの中身はドロドロ - NAVER まとめ
Wikipedia でも確認できる。
蛹は成虫の大まかな外部形態だけが形成された鋳型である。その内部では一部の神経、呼吸器系以外の組織はドロドロに溶解している。蛹が震動などのショックで容易に死亡するのは、このためである。幼虫から成虫に劇的に姿を変えるメカニズムは、未だに完全には解明されていない。
( → 蛹 - Wikipedia )
完全変態を行う種の幼虫は、成体と全く異なった形態である場合が多い。いわゆるイモムシ型やジムシ型などの幼虫である。これらの形は、複雑な形態である昆虫本来の姿とはかけ離れ、節足動物の原初的な形態に近い、単純な外見を示す。生殖のため配偶者を求めて広範囲を移動するのは成虫に任され、幼虫期はあまり動かず摂食と成長に専念するという特化した生活様式に適応しているとされる。
蛹は、カブトムシ類のように比較的成虫に似た形のものから、ハエ類のように成虫とは似ても似つかないものもあり、様々な形態を取る。蛹は短い糸を出して体を固定したり、長大な糸によって繭(まゆ)を作ってその中に入るものが多い。ほとんどあるいは全く動かず、休眠しているように見えるが、その体内では、幼虫の体を構成していた諸器官が食細胞の働きにより一旦分解され、幼虫期に摂取し備蓄した栄養分を用いて、成虫の体を形作る部位「成虫原基」を中心に新しく形態形成が行なわれる。
( → 変態 - Wikipedia )
さらに、成虫原基についての解説もある。
成虫原基とは、完全変態を行う昆虫の幼虫に存在する器官。成虫盤、成虫芽ともいう[1]。蛹の期間に成虫の体表部分に変化する。幼虫の体内には、成虫原基の左右対が複数存在し、成虫になるとそれぞれ羽、足、触角やその他の形態を形作る。蛹の段階では、多くの幼虫の構造が分解され、そして成虫原基を含めた成虫の構造が急速に発達する。それぞれの原基は、その中央部分が(付属肢、羽、足などの)末端になるという形で、反転し、伸張する。幼虫の段階では、成長中の原基の細胞は未分化のように見えるが、成虫においての発生運命(どの器官に分化するか)はすでに決定されている。
……ホメオティック変異が発見された。実際に起きる発生変更の種類が、たとえば足から触角への変異など、きわめて限られていることは非常に重要である。この現象の研究によってホメオボックス遺伝子が発見され、多細胞動物の発生理論に大転換が起きつつある。
( → 成虫原基 - Wikipedia )
すぐ上の記述からは、重要な知見を得られた。
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以上から推理すれば、次のような解釈が成立する。
昆虫の変態とは、事実上の「個体発生のやり直し」である。「再発生」とも言える。
つまり、いったん個体発生が成立したあとで、その組織をドロドロにして、ふたたび個体発生と同様のことが行なわれる。(二度目の個体発生)
ここでは、遺伝子(ホメオ遺伝子)が働く。その際、組織そのものはまったく生まれ変わるが、遺伝子そのものは大幅に変わるのではない! たとえば、足を作る遺伝子のうち、ほんの一部が変更されることで、触覚を作る遺伝子となる。
結局、次のようにまとめられる。
・ 組織そのものはドロドロになってから再構成される。
・ 遺伝子は、一部変更して再利用される。
これが再発生(変態)の原理だ。
このような原理をもつ突然変異が、あるとき発生した。
その突然変異の個体は、最初はたぶん、元通りになるだけだっただろう。つまり、変態後には、元の個体と同じ個体が復元されるだけだっただろう。このとき、再発生のときに働く遺伝子は、最初の遺伝子と、同じだっただろう。
しかし、このような突然変異体がたくさん生じると、そのうちの一部には、別の突然変異がたくさん発生するようになった。特に、元の個体とは別の個体になるような突然変異が発生するようになった。
しかも、ここでは、重要なことがある。
(1) 元の個体がそのまま突然変異をするのであれば、中途半端な突然変異は不利であり、絶滅する。たとえば元の個体に、中途半端な「蝶の翅(はね)」があるような個体は、「幼虫と蝶のなりそこね」みたいな形で不利なので、絶滅する。……ここでは、「小さな突然変異を蓄積して大きな突然変異にする」という形の進化は起こりにくい。
(2) 元の個体がいったんドロドロになってから突然変異をするのであれば、ドロドロのまま多様な「変化の試行錯誤」が可能となる。そのような試行錯誤は、たいていは失敗するが、あるとき突然、大幅な突然変異をなし遂げた個体が誕生できる。しかもそれは、これまでにない形質をもった個体として、独自の地位を確立できる。かくて、独自に進化を続けることができる。……ここでは、「小さな突然変異を蓄積して大きな突然変異にする」という形の進化のかわりに、「突然変異の多様な試行錯誤のあとで、一挙に大幅な突然変異が起こる」という形の進化が起こることもある。
この (2) では、蛹になることは、「大幅な進化をなすことの原理」を獲得したことになる。蛹であることそれ自体は、特に有利でも不利でもないが、蛹であることは、「大幅に進化する能力」を獲得することでもあったのだ。
それゆえ、蛹になった種だけが、以後、大幅に進化することができた。最初は、元の個体と同じであっただろうが、その後、次々と大幅な突然変異を繰り返して、大幅な形態の変化をともなう進化を続けていった。かくて、元の個体(幼虫)とは似ても似つかぬ形状の成虫となった。
ただし、成虫ではまったく形が異なったが、幼虫と蛹の段階では、古代の形態をほぼそのまま残している。そのせいで、成虫は、幼虫や蛹の時期とは大きく形が異なることとなる。
その後、錯覚が起こった。
「成虫の形態こそ、その種の本来の形である。なのに、どうして、幼虫や蛹では全然別の形を取るのか? 特に、どうしてドロドロになるのか? そんなことをする理由がわからない」
しかしこれは進化の順序を逆に考えた錯覚である。正しくはこうだ。
「幼虫の形態こそ、その種の本来の形である。他の昆虫と同様に、この種もまた、本来は幼虫のような形をしているのだ。特に、幼生期には、先祖の形態をよく残している。ただし、蛹になる能力を獲得した種は、大幅に進化する能力も獲得した。かくて、まったく形の異なる成虫になれるような、大幅な進化をなしとげた」
つまり、話は逆だったのだ。
「蝶はどうして蛹の時期を取るのか?」
というのは、蝶というものを先に考えていたから、蛹の時期があることが理解できなかった。
それは正しくない。本当はこうだ。
「蛹になる能力を獲得したものだけが、大幅に異なる形状の成虫になることができた。そのうちの一部が、蝶のような形状になった」
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一般に、進化において最も大切なのは、「大幅に進化する能力を獲得すること」だ。それを獲得した種(など)だけが、大幅に進化することができる。
たとえば、爬虫類よりあとの哺乳類を見るといい。単孔類よりは有袋類が、有袋類よりは有胎盤類が、それぞれ「進化する能力」が高かった。だからこそ、単孔類よりは有袋類が繁栄し、有袋類よりは有胎盤類が繁栄した。ここでは、「能力が高いことが生存をもたらした」のではなく、「進化する能力が高いことが、生存できる進化をもたらした」のである。
( ※ たとえば、当初、有袋類よりは、有胎盤類の方が形質的に劣っていた。だから有胎盤類の方は絶滅してもおかしくなかった。しかしながら、有胎盤類は、「進化する能力」が高かった。ゆえに、当初は有袋類よりも劣勢だったのに、大幅に進化をなし遂げて、有袋類を上回るようになった。……ここでは有利さのレベルではなくて、「進化する能力」のレベルが重要だった。)
蛹になる能力を獲得した種は、大幅に進化する能力を獲得した。それゆえ、これらの種は、(蝶のような)まったく異なる形状の成体になることができたのだ。
[ 付記 ]
ここでは「進化する能力」が問題となっている。
これは、「環境に適したものが小進化して、その小進化の蓄積で大進化となる」というダーウィン説とはまったく異なる。