膝枕の話でめんどうみきれていなかった。アイドルの話の追記。
わたしは昭和のアイドル業界が健全だったと思っていないし、ファンがそろって行儀がよかったとも思っていない。松田聖子がステージで襲われたことは強烈に印象に残ったし、怪我をした直後の彼女にマイクを向けて迫るマスコミは異常だった。*1*2平成に入っても森高千里のファン同士がコンサートで島を奪い合う暴走族のように陣取りをしあっていると聞いたこともあった。*3
わたしが言いたいのは、当時の「アイドル」は正式には「歌手」「女優」あるいは「俳優」ということになっていて、売るのは芸で私生活ではないという建前が機能していたということ。だから(感情的にはともかく)頭では仕事とは別に私生活では恋人もいるだろうし結婚もするだろうと茶の間が了解していた。*4
21世紀アイドルの人権にブクマ集まってきた。わたしは昭和のアイドルは恵まれていたと書いているんじゃない。芸を売る人とそれを楽しむ人という建前が機能していたと書いてるの。公然と疑似恋愛を売るんじゃなくてね。
— くたびれはてこ (@kutabirehateko) 2015, 9月 21
女子の貞操にいまよりずっと厳しい目が向けられていた時代に際どい衣装で思わせ振りな歌を歌わされていた女性アイドルの人権が尊重されていたとは書いてない。それを公然と楽しむ人たちが、これは芸なんだといいわけしなければならない空気が茶の間にあったということ。
— くたびれはてこ (@kutabirehateko) 2015, 9月 21
ミニスカートできわどい性体験を仄めかす歌を歌わせたり、執拗にそのことをインタビューし続けたり、*5ビキニの水着で運動会をさせたりね。でもそういうときに「健康美」とか「問題提起」とか「芸術」という建前が必要だった。「グラビアアイドルは勃起させてなんぼ」みたいなことを大っぴらに言ってはいけない空気があったし、そういう発言に対して「○○ちゃんを穢すな!」と怒る人はめずらしくなかった。
それは所詮建前で、芸を売るといっても私生活はマネージャーに監視され、「事務所から別れさせられた」というタレントだっている。でも「アイドル稼業で恋人がいるのは営業妨害だから金払え」と芸能事務所じゃなく裁判所がいい出すのは常軌を逸している。
芸能界とファンの間ではそれが常識でも、そういうローカルルールから一歩引いて判断するのが司法でしょう。その司法がこんなこと言い出すというのはアイドル稼業がもはや建前として機能していないんじゃないかと思ったよ。
もしアイドルの本業は歌だったころにこうした裁判がおきた場合、建前としては「十代のお手本になるべき立場にいるものが不純異性交遊をするのは不適切であり、グループ全体のイメージを悪くした」といった理由になったと思う。*6
昭和のアイドルファンや海外のアイドルファンの逸脱行為を持ち出すことは、いまの日本の「アイドルは疑似恋愛を売るもの」を大っぴらに主張して私生活を監視する風潮への反論にはならない。冒頭にあげた判例を正当化するものでもない。
— くたびれはてこ (@kutabirehateko) 2015, 9月 21
「同性ファンを無視している」については、スキャンダルが異性ファンを遠ざける原因になるから違約金を払えと判決を出した裁判官にいってほしい。茶の間でみんなが愛でるものという建前ではそういう判決は出ない。
— くたびれはてこ (@kutabirehateko) 2015, 9月 21
建前をまもること
当時は「大人は本音と建前があって汚い!」くらいに思っていたけれど、いまはそうした建前を踏まえておくことは大事だと思う。水商売に擬似恋愛は付き物だけど、建前としてはお酒を飲みながら会話を楽しむ場なわけで、「金払ってるんだから客が気分いいようにセクハラに耐えるのが仕事だろう」という客は嫌われる。行き過ぎれば出入り禁止になることだってある。
アイドルなんて好かれてなんぼ、惚れられて入れあげられてなんぼの商売だ。でも建前は歌なり演技なりで芸を売っている人と、芸を評価して応援している人というのがアイドルとファンだと思う。「歌なんか録音でいいから手を握れ」みたいな態度はひどい。
「国民的アイドル」とは老若男女みなに好かれる歌手のことだった。投影されるイメージも妹だったり上級生だったり娘だったりで、必ずしも恋人ではなかった。
ジャニーさんが「適齢期になったら遠慮なく結婚するべき」と言う「適齢期」っていうはきっと年齢の問題じゃなくて、「擬似恋愛を売り物にするアイドルじゃなくなって、老若男女に支持されるタレントとして食っていけるようになった時」という意味なんだろうと思うよ。
— coscos-ent (@coscos_ent) 2015, 9月 15
アイドル稼業に精を出す子たちが心を病んだり身体を壊したりしないような環境が、芸能界だけでなくファンの間にもあればいいなと思う。
そして芸能活動を続けるにしても、引退して別の仕事、別の暮らしを選ぶにしても、かつてのアイドルたちが当時のことをあたたかく思えるようだったらいいなと思うよ。
そしてこれからアイドルを目指す子たちやその親がぞっとするようなことは、早くなくなってほしいよ。
*1:新婚旅行のクルーザーをボートで追いかけるとか今では考えられない。
*2:でも少なくともファンに関して松田聖子は当時をふりかえって「どこにいっても親衛隊がついてきてくれたから守られているという安心感があり、心強かった」と答えている。
*3:森高千里は「当時のことは忙しすぎてほとんど覚えていない、点滴を打ちながらツアーをこなしていた」と語っている。労働環境は劣悪といえる。
*4:いま家族でそろってテレビを見るような茶の間のある家って少ないよね。
*5:山口百恵「ひと夏の経験」問題とか。
*6:和田アキコが辻希美の妊娠と結婚に際して「十代の手本となるべきアイドルが」といったときにはいいとか悪いとかじゃなく昭和の残り香を感じた。