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 集団的自衛権の行使を認める法律が19日未明に成立した。怒号と拍手に包まれた議場を、傍聴した人たちはそれぞれの思いで見つめた。空が白んでも国会前での抗議行動は続き、手拍子やコールが鳴り響いた。

■国会前「声上げ続ける意味ある」

 「強行やめろ!」「野党がんばれ」「憲法守れ」。19日午前2時すぎ、安全保障関連法案に反対する人たちで埋め尽くされた国会前の歩道。

 抗議のコールが、ふいにやんだ。ステージに立つ学生団体「SEALDs(シールズ)」のメンバーが、参院本会議で始まった採決の様子を映すタブレット端末の画面をのぞき込んだ。目の前の国会議事堂内で、一人で「牛歩戦術」をとっていた山本太郎議員が投票を促されていた。投票の最後の1枚が手渡され、投票箱が開いた。

 団体の中心メンバー、奥田愛基さん(23)は一瞬、唇をかみしめた。安保関連法が可決、成立。奥田さんは表情を変えず、声を張り上げた。「採決撤回!」

 身動きができないほど混み合う歩道で、「採決撤回!」のコールがしばらく続いた。涙ぐむ人もいた。

 奥田さんは「通った後でも使われない法律はたくさんある。(安保関連法が)使えないようにするためにも声をあげる意味はある」。歩道を埋めた人数は少しずつ減ったものの、国会前で声を上げた。「デモに行こうよ」。今後も月1回のペースで抗議行動を続けていくつもりだという。

 都内の自営業男性(43)は少し離れた路上に座り、スマートフォンで国会中継を見ていた。「可決しました」。拡声機のアナウンスが聞こえ、スマホから目を上げた。「ズバッと終わったような気にならない」。自転車で帰途につく前、こう話した。「参加者たちはそれぞれの生活に戻って自分の言葉で話し始める。そこに希望がある」

 抗議行動は明け方まで続いた。学生たちがスピーチをしたり、来年の参院選に向けて「選挙に行こうよ!」と訴えたり。行動を終えると、「SEALDs」のメンバーを中心に路上のゴミなどを拾い、それぞれの帰途に就いた。

 東京都渋谷区の会社員河西佑子さん(22)は午前4時半ごろ、コールが続く国会を後にした。「法案が通ったのに、なぜか、すがすがしい。若い学生にしりをたたかれ、やっと友達にデモに行っていることを打ち明けられるようになった」。連休明けに会社に行ったら、まず国会前の写真を見せようと思っている。

 午前9時。国会前には再び抗議する人たちの姿があった。集会の主催者によると参加者は約300人。マイクを握った内田雅敏弁護士は「10万人規模の原告による裁判を年内にも全国で起こす。運動が続く確信を持っている」と話し、安保関連法の差し止めを求める訴訟を起こす考えを示した。

■傍聴席「どう使うか次第だ」

 安全保障関連法案を採決する参院本会議が始まったのは19日午前0時過ぎ。発言を1人15分に制限する与党の動議が可決されると、野党議員から「言論の封殺だ」とヤジが飛んだ。岡田克也・民主党代表や志位和夫・共産党委員長が傍聴。怒号と拍手に包まれる中、各党の討論が進んだ。

 午前2時過ぎに記名投票が始まった。投票のため壇上に並んだ野党議員は口々に「戦争法案反対」「戦いはこれからだ」と叫び、法案反対の青票を掲げた。与党議員は賛成の白票を淡々と積み上げた。

 午前2時18分。野党議員が「憲法違反」と叫ぶ中、賛成多数で同法は可決、成立した。中谷元・防衛相は議長と議場に向かって頭を深く3回下げ、与党議員が拍手で見送った。

 最後まで傍聴していたのは約30人。国会傍聴を続けるタレントの春香クリスティーンさん(23)は「200時間も審議したのに、与野党とも最後は混乱の中で終わってしまった。いま一つ消化しきれない」。

 東京都足立区の主婦武笠由美さん(47)は高校1年の長男(16)がいる。「親として政治の実態を教えたかった。力でねじ伏せる政権のやり口はひどい。法案成立までの過程で候補者がどんな姿勢だったか、まずは次の参院選で考えたい」と話した。

 横浜市泉区の大学2年の男性(20)は「大きな歴史の転換点になる。その空気を感じた」。日本が国際社会にいる以上、集団的自衛権行使の議論は必要だと思う。「今日の結果が日本に何をもたらすか。権力を持つ人がこれからどう使うか次第だ」