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歴ログ -世界史専門ブログ-

世界史専門ブログ。おもしろい歴史のネタをまとめています。

【平和】スイスが永世中立国家になるまで(後編)

西ヨーロッパ諸国

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武装中立を掲げ近代に突入するスイス

健強な山岳兵を有し、無類の強さを誇ったスイス盟約者団。

ハプスブルグ家やブルゴーニュ公を打ち破り、三十年戦争の前にはすでに、都市同盟ながらヨーロッパの強国にまで成り上がっていました。

すでに自治地域でしたが、実は建前上は神聖ローマ帝国の傘下にあり、完全な独立を果たしているわけではありませんでした。

さて後編の今回が本編です。スイスはいかにして武装中立国として成立をしていくかを見ていきましょう。

前編から見た方が分かりやすいので、まだの方はこちらを先にご覧ください。

 

 

4. 武装中立宣言

盟約者団カトリック三邦「ドイツのほうでは新教徒とカトリックでドンパチやっとるな。各都市それぞれ宗派の違いはあるけど、介入は無用だぜ」

キリスト教都市同盟(新教徒)「ほうじゃ。いま戦いに入ったらわしら分裂じゃけえ」

→ スイス盟約者団傘下の諸都市は三十年戦争に静観の立場を貫く

 

 スウェーデン王グスタフ・アドルフ登場

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グスタフ・アドルフ「ドイツの新教徒ぉ助けるっぺ。わがぁスウェーデン兵は強いべ」

スウェーデン軍「いぐっべぇぇぇ!おらぁぁぁ!」

→ スウェーデン、フランスと同盟し三十年戦争に介入。瞬く間に南ドイツにまで侵攻

グスタフ・アドルフ「盟約者団のおめさんたち、協力せんがね。おらとおめらは元々同じ祖先だべ」

スイス盟約者団「いや、ムリっす」

グスタフ・アドルフ「わがっだ。じゃあせめて中立守ってぇ、あと傭兵よごせぇ」

→ グスタフ・アドルフはスイス盟約者団の中立を認める代わりに傭兵を要求

※スウェーデンに5000〜6000、フランスに5万4000ものスイス傭兵が勤務していた

スイス盟約者団「中立を宣言したけど、何コレ、結構他国の軍隊攻めてくるじゃん。ちょっとみんな、集まって!対策考えるぞ」

→ 13邦国防協定「ヴィール防衛軍事協定」締結

※初めて盟約者団の連邦軍を組織し、参謀会議を創設

 

三十年戦争終了。ウェストファリア条約締結

会議出席者A「スイスが中立を貫いたのは誠に結構であった。よってスイスの独立を正式に認めようではないか」

会議出席者B「異議なし!」

→ スイスの正式な独立がヨーロッパ諸国に承認される

 

内戦の勃発

スイス農民A「戦争中は穀物が高く売れてウハウハだったのに、終わったらちっとも売れなくなっちまったよ」

スイス農民B「戦争中の亡命者が帰っちまったから、不動産価格も急落してるぞ」

スイス農民C「しかも平和になっちまったから、傭兵で稼げねえ!こうなったら実力で奪い取るしかねえ」

→ スイス農民、宗派の相違を超えた「農民盟約者団」結成。スイス農民戦争勃発。

盟約者団会議「ぶっつぶせ!」

→ 各邦の軍隊を動員して農民軍を鎮圧

 

傭兵業のピーク

フランス「スイスはん、傭兵じゃんじゃん送ってくれへんか?戦争やるさかい」

スペイン「私たちにも送りなさい。カネならいくらでも出しますよ」

盟約者団「OK!仕事のない者はどんどん傭兵に行って、ガンガン稼いでこいよ」

スイス傭兵「嫁とガキを食わせるために一稼ぎしてくっぞ」

→ スイスは諸国に傭兵を提供することで中立を認められる。また傭兵を送る見返りに諸邦は諸国から年金を受け取り支配層の懐が潤う

 

戦場にて

フランス軍所属スイス傭兵「相手はスペイン軍だ!おらあああ!いくぞ!」

スペイン軍所属スイス傭兵「来い!返り討ちにしてくれる

フランス軍所属スイス傭兵「…っておい、隣村のフィリップじゃねえか」

スペイン軍所属スイス傭兵「マルクス!何やってんだよこんなとこで」

フランス軍所属スイス傭兵「兄貴が畑仕事継いだからオレは傭兵家業だよ。お前は鍛冶職人継いだんじゃねのか」

スペイン軍所属スイス傭兵「フランスから新教徒の亡命者が大量に来やがって、ウチの工房潰れちまったんだよ。しゃあなしで傭兵家業さ」

フランス軍所属スイス傭兵「そうか。じゃあそろそろ戦うか」

スペイン軍所属スイス傭兵「おい、ちょっと待てよ、何で戦うんだよ」

フランス軍所属スイス傭兵「カネのためだ!躊躇してたら命がないぜ」(グサッ

スペイン軍所属スイス傭兵「…うぐっ…マルクス…お前…」

→ 戦場ではスイス傭兵同士が鉢合わせして戦いになる事態が相次ぐ。特に、スペイン継承戦争はスイス人同士の戦いとなった。

 

5. フランスの衛星国化

ナポレオン登場

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 ナポレオン「革命をじゃんじゃん広げるばい。シンパを各地に派遣して革命政府を樹立させるけんね」

→ ナポレオンシンパの革命勢力が各地で共和国を樹立。スイスでもベルンの革命シンパ、ペーター・オクスがヘルヴェティア共和国の設立を宣言。

スイス盟約者団「革命を食い止めろ!絶対防衛だ!」

ナポレオン「無駄無駄無駄ァ」

→ フランス軍スイス侵攻。スイス軍を打ち負かしベルン占拠。革命フランス傀儡政府のヘルヴェティア共和国が発足。

※ヘルヴェティア共和国憲法はフランスの1795年憲法を手本にし、スイス盟約者団の諸邦同盟体制を否定。中央集権体制を進める。

ナポレオン「お前らスイスは我がフランスの同盟国ばい。ゆえに東のオーストリアからフランスを守る義務があるし、兵力も提供せんといかんばい」

→ スイス、ナポレオンの衛星国となる。中立と独立は認めるがスイス兵の提供が義務づけられた

ナポレオン「ロシアに遠征するばい。スイス兵、オメエらも来い」

→ 1812年 ナポレオンのロシア遠征にスイス兵9000も同行するも、大敗して撤退。パリに帰還できたのはわずか300。

 

スイス盟約者団の復活

ライプツィヒ会戦でフランス軍大敗。ライン川撤退。

スイス盟約者団「ヤバい!同盟軍がスイスに来るかもしれん」

→ スイス、武装中立を宣言。各地で革命以前への復帰運動が起こる

1815年 22のカントン郡の連合として同盟規約の下、スイスが正式発足

 

スイス、ウィーン会議に代表者を派遣する

スイス代表「スイスは今後、永世中立国になるよ。だってほら、オレたちが中立だったら、フランスさん、ドイツさん、イタリアさん、横から殴られる心配ないっしょ。スイスは危険な攻撃地帯だから、オレたちが中立でいることがヨーロッパの平和に必要なんだよ

フランス「確かに」

ドイツ「確かに」

イタリア「確かに」

→ 列強によって「スイスの新しい領土における永世中立の承認と保証」が国際法で決められるも、相変わらず引き換えに列強に傭兵を派遣することを求められる

 

6. 連邦国家成立へ

1830年、フランスで7月革命勃発。ブルボン朝崩壊。ウィーン体制一部瓦解。 

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スイス人インテリA「おい、ニュース見たか?」

スイス人インテリB「ああ、フランスで自由主義革命が起きたってよ!」

スイス人インテリA「うおおお、こうしちゃおれん、オレたちの時代が来たぜ」

スイス人インテリB「ああ、王党派のケツをなめるクソ指導者を倒そう」

→ スイス各地で自由主義者による民主化運動が盛んになる。11のカントンで自由主義憲法が制定され、新しい政府が樹立される。

 

分離同盟戦争

保守派カントン「ちょっと、どんどん自由主義者が増えていってるじゃないの。どーするの?ちょっと、みんな集まろう」

→ 1845年12月 カトリック7カントン(※)により、「保護同盟」設立 (※ウーリ、シュヴィーツ、ウンターヴァルデン、ルツェルン、ツーク、フリブール、ヴァリス)

自由主義カントン「おい何やってんだ。何が保護同盟だ。明らかに分離同盟じゃねえか」

保護同盟都市「自由主義のような恐ろしい考えから身を守る保護同盟だ!」

→ しかし、1847年大評議会選挙で自由主義者が多数派を占め、保護同盟の解散を迫る

保護同盟都市「嫌じゃ!絶対反対!自由主義なんてクソ食らえ」

スイス盟約者会議「こうなったら力づくでも解散させる」

→ アンリ・デュフール将軍指揮下の盟約者軍、保護同盟都市を各個撃破。保護同盟都市は解散させられる。

王党派諸国「スイスさんよぉ、オメエの独立と中立はオレたちが認めてやってるから成立してるのを忘れたのかよ?何勝手に自由主義なんか取り入れてんだ?ああん?」

スイス「だぁれがアンタらの保証によって成り立ってると言った。ウソつけバカ。オレたちはオレたちの意思で独立し、中立を守っているんだ」

王党派諸国「それ言う?言っちゃう?あーあ、戦争かなあ」

 

1848年2月、パリで2月革命勃発。

3月には、ドイツ3月革命勃発。ウィーン、ベルリンで革命の狼煙が上がり、メッテルニヒ失脚。ウィーン体制が瓦解する。

※もし1848年の諸国の革命がなかったら、スイスの自由主義政府は列強の介入を受けていた

 

1848年憲法において、現在に繋がるスイス連邦国家が成立。

各カントンは100人に3人の割合で兵を拠出し、連邦軍を構成する。

全てのスイス人は防衛義務を負う(国民皆兵)。傭兵契約は禁止。

 

まとめ

スイスは都市の連合体で、各都市ごとに宗派や政治制度が異なるため、1つの国家としてまとまり続けるためには、外国となるべく戦争をしてはなりませんでした。なぜならどこかの都市と有力国が結びついてしまうと、櫛の歯が抜けるように連邦が崩壊してしまう危険性が大きかったからです。だから中立という道を取らざるを得なかった

ただしその代償は大きく、中立を諸国に認めさせるには、諸国が喉から手が出るほど欲しがった、屈強なスイス兵との傭兵契約を継続する必要がありました。

スイスは多大な血を流しながら中立を得ていたのです。

「オレは永世中立だから、みんな攻めて来てくれるなよ」

と言うだけだと、とっくにスイスなんていう国はこの世から消えてなくなっていたでしょう。

スイスは理想的な平和国家なんて言われる時ありますが、過去にはそんな血なまぐさい歴史があったわけだし、現在もスイスは国全体が巨大な要塞で、アルプス山脈の各所には巨大な地下要塞があり、岸壁や草原の中にロケットの発射台が現れたりするのだそうです(元スイス兵の友人に聞いた話)。

 スイスは多大な血と犠牲を払い、防衛努力を怠らなかったことで、平和と安定を獲得してきたのです。

 

参考文献:

物語スイスの歴史 森田安一 中公新書

物語 スイスの歴史―知恵ある孤高の小国 (中公新書)

物語 スイスの歴史―知恵ある孤高の小国 (中公新書)