「邪馬台国」の謎。魏志倭人伝に記述された古代日本の姿の手がかりとなる国だが、その場所が平成の今もわからない。その国がどこにあったのかという「邪馬台国論争」は近世以前からあったが、近年になって再燃する。昭和40年代に日本全国を古代史ブームに巻き込んだのは『まぼろしの邪馬台国』という1冊の本であった。著書は宮崎康平。長崎県島原市の島原鉄道の常務で、「島原の子守唄」の作者でも知られる多才な人物であった。 この本では、邪馬台国は「畿内説」に対し、「九州説」を唱えたものだった。たちまちベストセラーとなる。推理小説のように、あるいはノンフィクション作品のように読む人を古代史の魅力に引き込んだ。また、著者が盲目(当時)であったことも世間を驚かせた。 著者は記紀を音表により解釈をした。すなわち史書に記されている漢字を単なる当て字として、古代の日本人が話していた言葉に従い、音で読み解くという方法である。例えば邪馬台国は「ヤ」と「バ」と「タイ」の三音を表記したものであり、邪はヤとエの中間音で現在、入り江といっているエの部分の原音としてそこから場所を比定していくものである。新解釈だ。本人は「失明は天与の命」と述べている。 光を失った著者を支えたのは妻の宮崎和子さんである。九州全域から朝鮮半島にまでいたる調査に同行し、本人の目となり手となり支え続けた。無論本は口述筆記である。 古代史のロマンを絡めながら、二人三脚で歩いた二人の人生は夫婦愛そのもの。その二人の姿と、邪馬台国の推定地が2008年映画となりスクリーンに登場する。妻・和子さんは吉永小百合が演じる。「まぼろしの邪馬台国」に登場する「国々」を歩きながら、二人の愛の軌跡を九州北部に重ねてみよう。