(携帯電話)
(男)北野さん。
予定が変わりました。
(北野友哉)え…?7時じゃなく9時にしてくれって。
(北野)9時…。
あの…予定どおり7時に運び込んでおくわけにはいきませんか?
(男)あ…無理ですねそれは。
やはり直接手渡さないと…。
あとで何か起きても困りますから。
そうですね…。
(山路刑事)場所なんですが西新宿9丁目中野区との境目あたりです。
ええ…そうです。
(山路)じゃあ新宿西署のほうへ。
(大上刑事)北野友哉54歳。
職業は六条建設の総務部庶務課長です。
(牛尾正直)外傷はないようだしそれに死後だいぶ経ってるみたいだなこのホトケさん。
死後4日ほど経過してるそうですから死亡したのは11月14日金曜日の午後19時前って事になりますかね。
19時前?ホトケさんの財布の中にこれが。
4日前11月14日の新宿駅19時発のあずさの特急券と新宿から小海線松原湖までの乗車券です。
小海線の松原湖…。
駅へ向かう途中にこういう事になってしまい結局その列車には乗れなかったって事じゃないですかね。
(西谷刑事)牛尾さん。
(西谷)あのフェンスはここんとこ壊れたままになってて誰でも中へ入れたそうです。
家族なんだが奥さんは半年前に病死子供もいなかったため独り暮らしだそうだ。
北海道に弟夫婦がいるそうなんだがとりあえず会社の上司が確認に来る。
(杉村雄司)心筋梗塞…。
詳しい死因は解剖結果待たなければわかりませんが今のところその可能性が高いそうです。
(杉村)そうですか…。
北野さんは亡くなられた日に小海線の松原湖へ行こうとしていたようですがその事について杉村さんは何か心当たりおありになりますか?松原湖?そこへ行く列車の切符を所持してらしたんですが…。
さあ私は…。
もしかしたら下見かも。
下見?定年になったら田舎暮らしをしたいってそんな事言ってましたから北野さん。
本物の水と本物の土がある所でのんびり暮らしたいって。
そうですか。
田舎暮らしですか…。
あの…北野さんの所持品はこれだけですか?そうですけど何か?いえ…!
(坂本課長)死因はやはり心筋梗塞。
病死だ。
でもどうしてあんな空き地に入り込んだりしたのか…。
北野さんは携帯を持っていなかった。
道を歩いてて突然発作に襲われたんだとしたら当然誰かに助けを求めるはずだ。
だとすると…人気のない空き地に入り込むより人気のある道にいるほうが…。
(指令アナウンス)「警視庁本部から各局各移動」「新宿西PS管内傷害事件発生」
東京新宿
この街にはJR線私鉄各線が集中しその乗降客数は約370万人といわれています
日本最大の歓楽街を抱えたこの街では毎日のように事件が起きます
強盗傷害そして殺人
その日々の中で私はこの街のビルの谷間でひっそりと人生を終えていった1人の男の事をすぐに忘れ始めていました
(柴崎エリ)ありがとうございました!
(柳川直美)エリちゃんがケーキ詰め始めた〜。
今日も来るんだケーキ王子。
(二木聖子)やだケーキ王子だなんて。
(直美)でもあの人さホントに王子様みたいよね!お金持ちだしイケメンで。
う〜ん…。
(車のクラクション)あ!来た来た。
白馬じゃなくって外車に乗った王子様。
じゃあ迎えに行くわお姫様は。
20個以上必要な時はもう少し早く連絡してくれない?じゃなきゃお店の分がなくなっちゃう。
(中条等)なくなっちゃったほうがいいじゃないか。
なくなったら早く店を閉めなきゃならなくなる。
早く店を閉めたら早く会える。
だろ?それはそうだけど…。
はい!どうぞ王子様。
すいません。
(聖子)ありがとう。
じゃあ今度は白いタイツでもはいてきますか。
王子様っぽく。
ハハ。
7時に迎えに来る。
(聖子)わかった。
じゃ。
(直美)あ〜あ…世の中ってホント不公平。
え?歳も同じ。
出身地もあんたが長野で私は山梨の田舎町。
顔だってスタイルだってそんな違わないっていうのにあんたはあんな美味しいケーキを作れる才能がある。
こんなしゃれたお店を持つお金もある。
おまけに億万長者であんなイケメンな恋人までいる。
なのに私ときたらいまだ場末で浮草稼業…。
ハハッな〜んてね。
愚痴言ってもしょうがないわね。
じゃあしっかり今日も場末で働いてきます。
じゃあね。
はいありがとうございました。
エリちゃん今日はもういいわ。
早閉まいしましょ。
(エリ)は〜いわかりました。
(ドアの開く音)いらっしゃいませ!いらっしゃいま…。
(パトカーのサイレン)
(大上)小橋久仁男37歳。
免許証と財布それに携帯電話しか所持していなかったので職業はまだ…。
死因は腹部を刺されたための失血死。
死亡推定時刻は昨日5月10日の午後10時頃から12時くらいの間。
凶器は?まだ見つかってません。
物取りの犯行じゃなさそうだな。
だいぶ派手な暮らししてたみたいだなこのガイシャ。
これガイシャの携帯なんだがお友達だそうだ。
(山路)最後のルナちゃんまで全部で46人。
キャバクラのお姉ちゃんたちって感じですね。
名前からすると。
じゃあ独身ですか?小橋さんは。
(管理人)ええ。
なんか独身を大いに楽しんでいたみたいですよ。
ここへ引っ越してきたのは半年ほど前なんですがその時から水商売風の若い女の子が次から次へとやってきて夜な夜な宴会騒ぎ。
そういう関係の仕事をしてたんですか?小橋さん。
(管理人)いや…仕事はしてないみたいでした。
牛尾さん…ちょっと。
このダンボールそのクローゼットの中にあったんですけど中に…。
それからこれも。
「最初はお前だ」…。
この封筒に入ってました。
消印は銀座第一日付は去年の12月7日になってます。
裏見てください。
差出人の名前。
「東京タワー」…。
(大上)東京タワーっていう人物に「最初はお前だ」と脅されてそれで金を用意したって事ですかね?それとも「最初はお前だ」と宣告されて殺された…。
(携帯電話)
(大上)はい大上です。
牛尾さん。
ガイシャの以前の仕事がわかりました。
(野々山清)とにかくギャンブルが好きでねぇしょっちゅう金貸してくれ金貸してくれよ〜って言うてました。
金には困っていた…そういう事ですか?
(谷口一郎)大穴を当てるまではね。
(大上)大穴?
(野々山)それがねなんや知らんけどけったいな大穴でしてね。
前の日の朝まではいつもみたいに金貸してくれ今度は3倍にして返すからって言うてたんですよ。
それがいきなり明くる朝になったら…。
(小橋久仁男)お野々さん!はい!野々さんには約束どおり3倍返しで6万だよ。
お〜。
あんがとな!お谷さん!谷さんいくらだっけ?15000円。
おぅじゃあえ〜…はい45000円!
(野々山の声)あんまり不思議やったんで私訊いたんです。
小橋さんあんた一体どんな大穴当てたんや?東京タワー特別。
東京タワー特別?
(野々山)そんなレースあるんですか?って私訊いたんですよ。
そしたら東京タワーは東京タワーだ。
朝晩感謝の思いで手合わせてるって言うんですよ。
それからすぐやったですねぇ小橋さんが仕事辞めたんは。
その日…小橋さんが大穴を当てたって言ってた日いつだったかわかりますか?え〜あれはいつやったかなぁ…?覚えてるよ。
娘の誕生日だったから。
去年の11月14日。
11月14日?去年の11月14日…。
(杉村)あの…北野さんの所持品はこれだけですか?
(海野鑑識官)牛尾さん大当たりです。
おっしゃるとおり出ました。
北野友哉の指紋。
北野友哉?牛尾さんに言われて調べたんですがガイシャの自宅にあった札束の2つからバッチリ出たんです。
北野友哉の指紋が。
指紋が出たのはこっちです。
どうも。
モーさん北野友哉って…。
去年の11月14日に西新宿の空き地で病死した男です。
ああ…。
けど半年も前に死んだ男の指紋がなんで今頃になって…。
「所持品はこれだけですか?」あの時遺体の確認に来た北野友哉の上司がそう言ったんです。
何かちょっと引っかかったんですがまあ病死という事であんまり深く考えずに…。
ガイシャの自宅にあった札束は北野友哉の所持品だったと考えて間違いないと思います。
ガイシャの小橋は去年の11月14日北野友哉が死亡した日に東京タワー特別という大穴を当てたってそう言ったそうなんです。
ですが東京タワー特別というレースはどこにも存在しません。
つまり小橋の言ってた大穴というのは…。
北野友哉が所持していた金…?あの日北野友哉は現金を所持してたという事です。
おそらく公に出来ない会社の多額の金を。
北野友哉の上司を訪ねました
最初はかたくなに否定していた上司もようやく…
あの…お名前は勘弁していただきたいんですがある議員に対するなんていいますか…。
政治献金…ですね?はい…。
(大上)で…いくら入っていたんですか?金は。
1億です。
1億!?北野さん1人で1億の現金を運んでたんですか?運ぶのはいつも北野さん1人でした。
北野さんは真面目で口も堅いという事もあって…上からも信用されててずっとそういった仕事を任されていたんです。
その日の事を出来るだけ詳しく話してください。
あの日は午後7時に先方の事務所に金を運び込む予定でした。
それが…。
(杉村の声)北野さん。
予定が変わりました。
え…?7時じゃなく9時にしてくれって。
(北野)9時…。
(杉村の声)それで8時5分頃に1人で会社を出たんです。
代議士事務所にその金を届ける途中でなんらかの接触があり1億の金は北野友哉から小橋の手に渡った。
そういう事だなぁ…。
いいえ北野友哉は代議士事務所に金を届けるつもりなどなかったんじゃないでしょうか。
どういう事だ?それは。
死亡してた時北野友哉は列車の切符を所持していました。
当日の新宿駅午後7時発の特急あずさの切符です。
なるほど。
午後7時に金を持っていく予定だった人間が同じ19時…7時発の列車の切符など所持しているはずはない。
そういう事か。
北野友哉はあの日1億の金を拐帯して逃亡するつもりだったんだと思います。
その逃亡先が小海線の松原湖…。
翌朝私はその駅に向かいました
定年を目前にし犯罪とは無縁の人生を生きてきた1人の男がおそらく決死の覚悟で企てた犯罪
その男が目指した終着駅
そこに必ず何かがある…そう思いました
(杉村の声)定年になったら田舎暮らしをしたいってそんな事言ってましたから北野さん。
本物の水と本物の土がある所でのんびり暮らしたいって。
(女将)あお待たせいたしました。
去年の11月14日は北野友哉様とおっしゃるお客様のご予約はいただいておりませんが北野直美様とおっしゃるお客様でしたらご予約いただいておりますが。
北野直美?
(女将)はい。
女性の方でしたけど。
来たんですか?その客。
いいえ〜。
夜遅くなってキャンセルの連絡をいただいて結局。
この女が事件の鍵を握っている…そんな予感がありました
北野友哉の愛人?間違いないと思います。
北野と名乗っていますが本名は柳川直美33歳。
新宿のクラブで働いてたそうです。
1億の金を拐帯して愛人と一緒に人生をリセットしようとした…。
そういう事か。
柳川直美は今年の2月に引っ越してしまってるんですが引っ越し先がわかりましたので追ってみます。
1億の金の事を知ってる可能性が強いですから。
(チャイム)
(チャイム)
(大上)牛尾さん!大上…。
どうしたんですかこんなとこで。
信州じゃなかったんですか?帰りだよ。
お前こそなんでこんな所に?聖子ちゃんのウラ取りに。
聖子ちゃん?ガイシャの例のお友達です。
携帯にあったキャバクラの女の子。
住所からするとこの辺りなんですけど…。
ここですね…。
(エリ)いらっしゃいませ!あ…いや客じゃないんです。
こちらに聖子さんとおっしゃる方はいらっしゃいますか?聖子は私ですけど。
え…あなた…!?はい。
(大上)そうですか…二木さんとおっしゃるんですか。
二木聖子さん。
二木さんは小橋久仁男という人をご存じですか?小橋さん?半年ほど前までタクシーの運転手をしていた人なんですが。
(聖子)ああこの方でしたらお客様です。
お店の。
(大上)先日西新宿の公園で他殺体で発見されたんです。
え…!?
(大上)小橋さんの携帯の中に二木さんの名前があったものでそれでお話を伺いたいと思って。
1つだけ訊かせてください。
5月10日の夜午後10時頃から12時頃までの間その時間二木さんはどちらにいらっしゃいましたか?5月10日の夜でしたらここにいましたけど。
(大上)それを証明出来る方はいらっしゃいますか?ちょっとお待ちいただけますか?今お店に来てらっしゃいますので呼んできます。
(ドアの開閉音)
(ため息)あれ…?中条等じゃないですか。
うん…?ほらベンチャー企業の雄とかでここんとこマスコミによく取り上げられてる…。
ほう…。
(大上)億万長者って言われてますけど恋人なんですかね?聖子ちゃんの…。
(聖子)申し訳ありませんお待たせして…。
この方です。
何か?
(大上)5月10日の午後10時頃から12時頃までの間なんですが二木さんはこちらであなたと一緒にいたというふうにおっしゃってるんですが間違いありませんか?ええ間違いありませんけど。
あの新しいケーキの考案中だから付き合ってくれって言われて1時頃まで一緒にいたかしら。
(大上)そうですか。
わかりました。
失礼ですがお名前を教えていただけますか?柳川です。
柳川直美。
(大上)お忙しいところを申し訳ありませんでした。
あれでよかった?ごめんなさいね。
おかしな事頼んで。
ううん別に構わないけど私は…。
でも…なんだか怖いわね。
店のお客さんが殺されるなんて…。
そうね…。
大上。
はい。
ちょっと俺寄るとこがあるから。
はい。
じゃあ僕は早苗ちゃんのとこ行ってきます。
まだ何か?柳川さんは北野さんご存じですよね?六条建設の庶務課長をしてた北野友哉さん。
知ってるけど。
去年の11月14日の夜柳川さんは北野さんと一緒に松原湖にあるつたや旅館に行く予定だった。
そうですよね?刑事さん…なんでそんな事を?あの日北野さんは1億の現金を所持してたんですがあなたはその事をご存じでしたか?1億の現金?知らないわ私そんな事…。
そうですか…。
ご存じありませんでしたか。
でしたら結構です。
どうも。
ミモザ?
(牛尾澄枝)何か用があったの?あのお店に。
お前あの店知ってるのか?
(澄枝)やだ〜前に話したじゃない!ちっとも聞いてないんだから…。
ボランティアで行ってる施設があのお店の先にあってだから時々ね。
あなたもあのお店のケーキ食べた事あるはずよ。
私が時々買ってくるから。
ホントか?うん。
何度か通ってるうちにねオーナーの聖子さんやパートのエリちゃんとも親しくなっちゃって。
みんないい人たちよ。
常連の直美さんも。
直美って…柳川直美とも親しいのか?あ…別に親しいっていうわけじゃないんだけど前にね雨の日に一度相席になった事があってそれからは顔を合わせると一緒にケーキ食べたり話をするようになって。
…はい。
澄枝…。
うん?しばらくあの店には行かないでほしい。
え…!?二木聖子とも柳川直美ともしばらくの間は連絡取らないでほしい。
どういう事?何か事件に関係してるの?聖子さんと直美さん。
とにかくしばらくの間は。
…わかった。
あなたがそう言うんだったらそうします。
でもあなた間違ってる。
え?
(澄枝)聖子さんも直美さんもそんな犯罪にかかわりあうような人たちじゃないわ。
聖子さんには結婚間近の恋人がいるみたいだし。
(澄枝)そんな幸せいっぱいの人がなんで犯罪なんかにかかわるのよ。
直美さんだってそう。
10年以上水商売で働いてきてためたお金でペンションをやりたいっていう夢を持ってるのよ直美さん。
そんな人たちがどうして犯罪なんかに…。
(電話)二木聖子なんですが13年勤めた会社を去年10月いっぱいで辞めてそれまで住んでいたアパートも引き払ってます。
ですが11月末に今度は違うアパートを借りてるんです。
なんていう会社だ?その会社。
見合い?
(及川陽子)ええ。
お兄さんたちに勧められて田舎に帰ってお見合いする事になったからってそれでうち辞めたんですけどね。
あの…聖子ちゃんどうかしました?いえいえ…。
奥さんは二木さんから東京タワーという言葉お聞きになった事ありませんか?東京タワーってあの東京タワーですか?ええ。
おそらくそうだと思います。
何かそういったような事をお聞きになった事は?あ!そういえば田舎に帰る前の2日間だったと思うけどアパートをもう引き払っちゃったからって聖子ちゃん新宿のサンルートホテルに泊まったんです。
でその部屋から東京タワーがよく見えるって電話してきて…。
で…東京で過ごす最後の夜は東京タワーにのぼってそこからみんなにも東京にもさよならするんだって。
その日…二木さんが東京タワーでさよならするって言ってたその日去年の11月14日じゃありませんか?悪いね。
いえいえ。
それでなんです?頼みって。
ここで乗せた客が東京タワーへ行ってくれって言ったらタクシーならどんなコースで行くかちょっと走ってみてくれないか。
東京タワーねぇ…。
少し回り道しても渋滞を避けて行きますね。
うん…じゃあそれで。
点が線になりだし始めた…そう感じていました
11月14日の夜1億の現金を手にして会社を出た北野友哉
同じ11月14日の夜東京に別れを告げるために東京タワーへ行こうとしていた二木聖子
そしてその日の夜もいつものように街を流していた小橋久仁男
3つの点が1つに重なる場所がありすべてはそこから始まった
そう思っていました
ちょっとすいません。
止めて!ここだ…。
ここだったんだ接点は…。
この交差点を曲がると柳川直美が今年の2月まで住んでたマンションです。
予定が変わり当日のあずさに乗れなかった北野は愛人である柳川直美のマンションに向かった。
ところがここで…この交差点で二木聖子を乗せて東京タワーへ向かっていた小橋のタクシーとなんらかの形で接触したんだと思います。
小橋の携帯にああいう形で二木聖子の名前があったのは彼女が単なる乗客ではなく小橋の共犯者だったからなんじゃないでしょうか。
北野が所持していた1億の現金を2人で分けた…。
そういう事か…。
二木聖子は郷里へ帰る予定を急遽変えて東京に残り店を出しています。
その資金は北野が所持してた金から出た…そう考えていいと思います。
小橋と二木聖子が共犯だとしたら「最初はお前だ」が小橋なんだから小橋の次に狙われるターゲットは二木聖子っていう事になるよな。
そうなるとやっぱり気になりますよね。
北野の愛人だった柳川直美が二木聖子の店の常連だって事。
東京タワーと名乗る脅迫者は柳川直美だと考えるのが妥当なんじゃないですかね。
そこまではまだ…。
ですが柳川直美は1億の事はおそらく知ってたと思いますしなんらかの意図を持って二木聖子に近づいてる事は間違いないと思います。
いずれにしても二木聖子が去年の11月14日の夜小橋のタクシーの乗客だったという事は今のところは単なる憶測に過ぎん。
明日からはあの交差点付近の徹底的な聞き込み目撃者探しだ。
いいな?
(一同)はい!
(ジョージ)モーさんじゃない?ジョージ!あらやっぱり!久しぶり!お前なんでこんなとこにいるんだ?なんでってあそこ私んちだもの。
我が家。
また引っ越したのか?そうなのよ去年の夏。
いろいろあってさぁ…。
ちょうどよかった。
そこの交差点でこういう人見かけなかったか?やだ…!あの時の人じゃないかしらこの人。
見かけた事あるのか?もうだいぶ前になるんだけどこの人いきなり走ってきたタクシーの前に倒れこんじゃって!そのタクシーの運転手この人じゃありませんでしたか?そうそうこの人この人。
苦み走ったちょっといい男だったわよ。
その時の事を詳しく話してくれないか。
出来るだけ詳しく。
(車のクラクション)
(急ブレーキの音)何やってんだよ!死ぬつもりかよ!あら…!ちょっとちょっと!大丈夫?大丈夫?ねえ…ねえ!おい…どうしたんだよ?ぶつかってなんかないはずだ。
しっかりしろよ!おい!
(ジョージ)ダメ!揺さぶっちゃダメ!この人心臓発作かなんか起こしたのよ。
とにかく救急車!救急車呼んだほうがいいわよ!わかった!
(北野)ダメだ…。
救急車はダメだ。
少し休めば大丈夫だから…。
え!?何言ってんだよ。
救急車呼ばなきゃ…!ダメだ…!家は…近くなんだ…。
だから…近所の…病院…。
(ジョージ)で運転手さんがその人タクシーに乗せて病院へ連れていったってわけよ。
で男の人が倒れていたのはあそこよ。
その時なんだけどタクシーに客が乗ってたと思うんだけど覚えてないか?そういえば乗ってたみたいだったわねぇ。
確か女の人だったと思うけど。
どんな女性だったか覚えてます?そうねぇ…。
私は車のこっち側女の人は車の向こう側に立ってたからどういう人だったかはまったく。
その時そこに居合わせたのはお前だけだったのか?他に誰か…。
いたわよもう1人。
(ジョージの声)バイクに乗った子。
あ…!そういえば女の人にも教えてあげたわねこの事を。
女の人?うん。
去年の11月の終わり頃だったかしら?保険会社の調査員って女の人が倒れた男の人の写真持ってモーさんと同じ事を訊きに来て…。
その女性…この人じゃなかったか?
(ジョージ)そう…この人よ!失礼ですが川原さんですか?
(川原潔)そうですけど…。
お忙しいところ申し訳ありません。
新宿西署の牛尾といいます。
大上です。
(川原)何か…?だいぶ前の事なんですけども去年の11月14日の夜川原さんは狸穴町の交差点で心臓発作を起こして倒れた人がタクシーで運ばれたのを目撃なさってますよね?
(川原)そういえばそんな事もありましたね。
その事でちょっとお訊きしたい事がありまして。
申し訳ないんですけど5時以降か明日にしてもらえませんか?僕今就活中で今から面接に行かなきゃいけないんですよ。
遅刻するわけにはいきませんから。
でしたら歩きながらでも結構ですので。
(川原)保険会社の調査員…。
30ぐらいの女性なんですが。
そういえば来ましたねそんな人。
この女性ですか?ええそうです。
この人です。
タクシー会社を教えてほしいと言われたんですけど僕は覚えてませんでしたので。
お訊きになりたい事ってそのタクシー会社の事ですか?いえ私たちが知りたいのは乗客の事なんです。
あの時タクシーには女性の客が乗ってたはずなんですがその女性覚えてらっしゃいませんか?覚えてますけど。
どんな女性でした?夜だったし少し距離もあったからそんなにはっきりとは…。
年配の女の人でした。
年配の女性…?50ぐらいかな?小太りでメガネかけてました。
(ため息)
(ため息)課長二木聖子はシロですね。
二木聖子の店の開店資金なんですが銀行からの借り入れと2人の兄それから親戚からの借金で賄ってます。
全額で合わせて約2500万円。
借金返すために結構苦労してるみたいです。
小橋と組んで何千万もの金を手にしたんだとしたらそんな高額の借金背負うようなバカな事は…。
違うんだ山さん。
あの時の乗客は二木聖子じゃなかったんだ。
え…?乗客は小太りのメガネをかけた50くらいの女!じゃあこの中年の女が小橋の共犯で次のターゲットって事ですか?わからんそれは。
そうかもしれんしそうじゃないかも…。
いずれにしても一から出直しだ。
2人の女の事が脳裏を離れませんでした
私たちがすぐに忘れてしまった北野友哉の死をたった1人で調べていた柳川直美
直美の愛人が死亡したその日に東京に別れを告げようとしたものの結局は東京に残って店を開いた二木聖子
2人の女の運命は11月14日の夜に明暗を分けたように思いました
店を開いた二木聖子は明に
愛する男を失った柳川直美は暗に…
捜査は振り出しに戻ってました
それでも私の中で生まれていた1つの言葉はまだ私の中でざわついていました
復讐という言葉でした
ハハハ…。
ホントにあの時は恥ずかしかった。
穴があったら入りたいっていうのはああいう時に言うんだってつくづく思った。
でもああいうのを運命的な出会いって言うんじゃないのかな。
きゃあー!痛い…!
(中条)大丈夫?…じゃないだろうけど。
大丈夫?
(中条)あ〜あ。
(聖子)あっすいません。
ホントごめんなさい。
(中条の声)まさに運命的な出会いだよ。
よくぞ折れてくれましたって褒めてやるあのヒール。
私今でもあのヒール大事にしてるのよ。
はいお姫様着きました。
どこ行くの?うん?あそこ。
ダメ…。
(中条)え…?私高いとこ苦手なの。
怖いの。
だから…。
何言ってんだよ。
俺のところだって高いじゃない。
とにかくイヤよ。
イヤって言ってるじゃない!
(中条)聖子待てよ!なんで?どうして?ごめんなさい。
私怖いの。
本当にダメなの!ねぇ…。
(中条)うん?どうして東京タワーへ行こうなんて思ったの?直美さんがそうしてみろって。
直美さんが…?この前店で会った時ちょっと愚痴ったんだ。
結婚って言葉を切り出すと君はなんだか話をそらすって。
そしたら彼女が…。
だったら東京タワー連れてっちゃいなさいよ。
東京タワー?そう。
東京タワーの展望台で夜景を見ながらプロポーズすると100パーセント成功間違いないんだって。
(直美の声)あそこだったら彼女の本音聞けるんじゃないかな。
連れてっちゃいなさいよ東京タワーへ。
(直美の声)連れてっちゃいなさいよ東京タワーへ…。
(車のクラクション)
(急ブレーキの音)うああー!
(テレビ)「本日未明東京都奥多摩にある奥多摩大橋下の河原で新進のベンチャー起業家でワイズリード代表の中条等さんが死体で発見されました」「中条さんは鋭利な刃物で胸や腹部を数か所刺された上橋から突き落とされて殺害されており奥多摩警察署では恨みを持った人物の犯行とみて…」ここですか…。
(向井雄一)そこで刺してそこから下へ…。
凶器は見つかったんですか?いえそれはまだ…。
牛尾さんのヤマと何か関係ありそうですかね?わかりません。
中条さんの交際相手の女性はこの事件とは無関係という結論が出てますので…。
でも牛尾さんは今でもまだその女性にこだわってらっしゃる。
牛尾さんその二木聖子なんですがうちの容疑者リストに入ってます。
揉めてたらしいんですガイシャと。
(向井)じゃ結婚という話なんかは出てなかった…そうおっしゃるわけですね二木さんは。
(聖子)はい。
(向井)ですが中条さんのご家族はその事でお二人は揉めてたってそう…。
あちらのご家族がどういう事をおっしゃったのかは知りません。
ですが私たちは結婚なんていう話をした事はありません。
じゃ最後にもう1つ。
昨日の夜午後10時頃から12時頃までの間ですがあなたどちらにいらっしゃいましたか?ここにいました。
(向井)どなたかそれを証明してくださる方は?柳川さんが証明してくれると思います。
直美さんとずっと一緒にいましたから昨日の夜は。
確かにその時間なら彼女と一緒にいたわよ。
間違いないわ。
そうですか。
(携帯電話)いやありがとうございました。
柳川さん。
あなたこの前北野さんが亡くなったあの日北野さんが1億の現金を所持してたなんて事はまったく知らなかった…そうおっしゃった。
でも私はあなたは1億の金の事を知っていた…。
そう思ってます。
知ってたからこそここへ二木聖子さんの店のそばへ引っ越してきた…。
そう考えてます。
昨日の夜はあなたと一緒にいたって警察の人にはそう言っておいたわ。
よかったんでしょ?それで。
でも知らなかったわ。
あなたが柳川じゃなくて北野直美っていう人だったなんて事…。
北野直美っていう名前になる予定だったの。
去年の11月14日に。
でもなれなかった…永遠に。
その事一番よく知ってるのはあなただわ。
(直美)そうでしょ?始まりは半年前の北野友哉の病死。
その時北野友哉が所持してた1億の現金は小橋久仁男の手に渡り今度はその小橋が殺された…。
そして更には二木聖子の恋人中条等が殺された。
二木聖子が事件にかかわってないとすると中条の死はこの事件とは無関係という事になる。
(向井の声)でも牛尾さんは今でもまだその女性にこだわってらっしゃる。
だが目撃者が嘘をつくはずはないし…。
そう。
目撃者が嘘をつく必要も嘘をつく必然も…。
嘘をつく必然…?嘘をつく必然…。
じゃあ派遣で働いてたんですか川原さん。
この前も今度こそは正社員になるって張り切って面接に行ったみたいだけど結局世の中は不公平だってふてくされてました。
正社員になるチャンスさえあれば俺だってあの社長くらいの億万長者にすぐにだってなれるのにって。
億万長者…?
(島岡修)お待たせしました。
川原でしたよね?ええ。
こちらの面接を受けてるんじゃないかと思うんですが。
川原…川原潔…。
ああ…彼か。
受けてるんですか?その人だったら覚えてます。
彼なんだか妙な事言ったんですよ。
面接の時。
え…?えーと僕が一番やりたいのは…。
あ…えー…。
英語は苦手みたいだね。
(川原)あの…英語が出来ないとダメなんですか?うちは多国籍軍なんて言われていてね社内ではいろんな言葉が飛び交ってる。
中国語ドイツ語ロシア語スペイン語…。
共通語が英語だから最低条件なんだ英語は。
(川原)でも募集要項には英語が必要なんてどこにも…。
そんな事はわざわざ書く必要はないと思ってた。
そうですか…わかりました。
あきらめます。
(川原)でも…僕にだってわかる英語あるんですよ。
秘密…シークレット。
ハーシークレット…?あなたが一番大切にしてる人の事ですよ。
「彼女の秘密はタワーにある」…。
単なる目撃者じゃなかったって事だ川原は。
彼は嘘の証言をする必要があったんです。
我々の目を二木聖子に向けさせないために。
川原は去年の暮れあたりからひどく金回りがよくなってます。
家賃7万のアパートから15万のマンションに移りバイクを2台それも現金で購入してます。
小橋あるいは二木聖子からも金をゆすりとっていた。
そういう事か…。
(山路)でもそれはちょっときついんじゃないですかね。
川原は確かに小橋と乗客の女が北野友哉をタクシーで運び去った事は目撃している。
でもあの時点で北野友哉のカバンの中に現金が入ってたなんて事は知りようがないんじゃ…。
柳川直美。
柳川直美…?じゃモーさんは柳川直美と川原はグルだって…そう?わかりません。
ですが柳川直美が保険会社の調査員と名乗って川原のところに現れたのは事実です。
もしかしたらその時に1億の現金の事を知り得た可能性も考えられます。
いずれにしても東京タワーと名乗っている脅迫者は川原潔。
そう考えて間違いないだろう。
どうする?モーさん。
引っ張るか?そうですね。
決定的な証拠ももう押さえてありますし。
決定的な証拠って…。
そんな証拠あるんですか?東京タワー。
(パトカーのサイレン)東京タワー?あんたなんだろ?東京タワーと名乗って小橋から金をゆすっていたのは。
(川原)知りませんよそんな事は。
だとすると…これはどういう事になるのかな?これは東京タワー名義で青葉銀行に開設された口座の書類だ。
君は去年の8月に物損事故を起こしてるね。
その時に採取された君の指紋がこの書類から検出された。
この口座に去年の12月から今年の4月まで毎月100万の金が振り込まれている。
総額500万。
振込人は小橋久仁男。
東京タワーは君だ。
そうだね?事の発端は保険会社の調査員だと名乗って1人の女が現れた事から始まった。
それはこの女性だ。
(ため息)名刺も持ってなかったしなんかおかしいなと思って追及したんだよ。
そしたら…。
(直美)あ…わかった。
本当の事話す。
(直美)あなたが見た人はこの人なんです。
私その人と結婚する予定だったの。
えっ?だからどうしても知りたくて。
(直美)なぜそんな事になってしまったのか。
マジかよ…。
あの運転手と客の女病院へ運ぶって…。
(川原の声)その時気がついたんだ。
あのおっさんが持ってたビジネスバッグの事がどこにも書かれてないって。
(川原の声)なんかある…そう思った。
わかりました。
そういう事なら協力しますよ。
あの時のタクシー会社も車両番号も覚えてますから。
じゃ辞めちゃったんだ前にこの車使ってた運転手さん。
そうなんですよ。
なんでも東京タワーっていう大穴を当てたとかで運転手なんかやってられるかって。
東京タワー?そういうレースがあるんじゃないですか?私は知らんけど。
東京タワーか…。
あの運転手さん名前なんていいましたっけ?確か…。
小橋です。
小橋久仁男。
そうそう…小橋久仁男。
ありがとう。
(川原の声)その女とはそれっきり会ってない。
けど賭けて損はない…そう思った。
それこそ大穴。
大当たり。
もう一度確認する。
保険会社の調査員と名乗って現れた女はこの女性。
11月14日の夜小橋のタクシーに乗って小橋と一緒に北野友哉を運んでいったのはこの女性。
間違いないね?間違いないです。
こいつ。
(パトカーのサイレン)二木さんいらっしゃいますか?それがどこへ行ったかわかんないんです。
自宅にもいないし何度も携帯入れてるんだけど電源切ってるみたいで全然連絡がつかないんです。
えっ…?
柳川直美も姿を消してしまっている…そんな予感がありました
いません!2人が行きそうな所…。
ためたお金でペンションをやりたいっていう夢を持っているのよ直美さん。
水と土…?本物の水と土…。
(発車メロディー)
(アナウンス)「ドア閉まりますからご注意ください」
(直美)ここの事は前にも話した事あったわよね。
話し合うんだったら絶対にここって前から決めてたの私。
17の時家出同然に家飛び出してきて16年。
東京に来ればいい事がある。
テレビや雑誌で見たリッチで華やかな生活が出来る。
そう思ってた。
でも新宿の街を這いずるように回ってあっちの店こっちの店…。
店の数と同じくらい男の数も変わったけど信じられる男なんて1人もいなかった。
そんな時ようやく出会ったのがお金持ちでもイケメンでも若くもない20も歳の離れたパッとしないおじさん。
北さんはいい人だった。
(直美の声)一緒にいて安心してられた。
東京に出てきて初めて信じられる人に出会ったの。
ごめんね。
いいんだよ。
うーんごめん北さん。
わぁ〜すごーい!直美。
うん?東京を離れて本物の水と本物の土のある所で暮らしてみたいと思わないか?ああいいねそういうの。
北さんと2人で本物の土いじって本物の水いじって野菜なんかも作っちゃったりして。
ああ〜!ああでもさ…無理よそういうとこで暮らすのは。
だって第一働く場所だってないし。
働かなきゃ生活だって…。
金ならある。
えっ…?ただし俺の金じゃない。
会社の金だ。
会社の金って北さん…。
この頃つくづく思うんだ。
俺の一生はつまらない一生だったって。
(北野)波風立てるのが怖くて人の顔色ばっかりうかがって。
言いたい事も言えずやりたい事もやらずいっつもオドオドして…。
死ぬ間際になって俺の一生はつまらない一生だった…悔いの残る人生だと思うのは耐えられない。
いい人生だった…楽しい人生だったってそう満足して死にたいんだ。
(直美の声)この人の夢をかなえてあげたい…そう思ったあの時。
(直美の声)私自身東京での暮らしはもう疲れてた。
(直美)北さんと私は同じ夢を見てたのよ。
東京じゃないどこかで幸せだったって思って人生を終える夢。
あのお金でここを買って私たち幸せになるはずだった。
幸せな人生を生き幸せな人生を終えるはずだった。
その幸せは去年の11月14日の夜プツッと…。
断ち切ったのは小橋とあなた。
そうよね?調べたわ私小橋の事。
(直美たち)いらっしゃいませ。
(ママ)小橋ちゃん!ほら持ってきてやったぞ東京タワーケーキ。
ああうれしい。
覚えててくれたんだ。
じゃ早速。
ホント美味しいのよね〜。
いただきます。
東京タワーケーキ。
ね〜。
よっと…。
開いた〜!あ〜美味しそう!私これね。
私これ。
(笑い声)いただきまーす。
え…でも東京タワーケーキってどうして言うんです?東京タワーの形してないじゃない。
あそうか。
直美さん入ったばかりだから知らないんだ。
この店やってる女の人と東京タワーで運命的な出会いしたんだって小橋ちゃん。
えーっ運命的な出会いって一体どんな出会いしたの?見知らぬ他人同士がある一瞬で生きるも死ぬも一緒の運命共同体になるって事があるんだ。
そういうのを運命的な出会いと言う。
ふーんいいなぁそういう出会いって。
ねぇいつ出会ったの?その人と。
去年の11月月のきれいな夜でした。
(小橋の笑い声)
(ママ)この話いい話だから聞いてあげて。
(直美の声)その時はっきりわかった。
その女があの時のタクシーに乗ってた客だったって事。
確かに運命共同体よね小橋とあなた。
共犯者なんだから。
あの人を殺したのは小橋とあなた。
そうよね?違う!私は誰も殺したりなんかしてない!私たちは北野さんを助けようとしたのよ。
必死になって助けようとした。
でも…。
やってない!?やってないってどういう事だ!10月いっぱいで廃業したって。
緊急の人は救急車を呼ぶか順徳医大へ行ってくれって張り紙がそこに。
ったくもうこんな時によ…。
順徳医大順徳医大…。
大丈夫ですか?もう少し我慢してくださいね。
(聖子)すぐ病院に…。
運転手さん!運転手さんこの人…!なんてこったいまったく…!一体どこの誰なんだよあんた。
名刺ないか名刺…。
ちっきしょう住所のわかるもんなんにもないぜ。
(聖子)この中には?救急車を呼びたくなかったわけがこれだったってわけだ。
おそらくこれはヤバイ金だ。
人に知られたくない金…。
(聖子)え…?これだけの金があればいい夢見れるよな。
楽しい楽しい夢…。
(直美)それで共犯者になったってわけだあんたたち。
お金を分けてあの人の死体はあんなゴミだめみたいな空き地に捨てて。
知らなかったのよ私は。
小橋さんは死体は家族のところへちゃんと送り届けるって。
そのかわり1000万多くもらうって。
だから私あの人があんな所へ北野さんを放置するなんて事本当に…。
本当よ!嘘じゃない!私…待ってたあの日。
(携帯電話)…はい。
(北野)「直美か?」どうしたの?北さん。
ねなんで?
(北野)「予定が狂った。
今からマンションのほうに行くから」わかった。
私もすぐに戻るから。
じゃ。
でも北さんとは会えなかった。
満足でしょ。
私もあなたと同じになったんだから。
夢も幸せも何もかも全部断ち切られて一番大事な人を失って…。
もう永遠に中条聖子という女にはなれなくなったんだから。
こうする事があなたの目的だったのよね。
私の前に現れた時から…。
ううん。
現れる前から計画してた復讐。
中条さんを殺したのあなたよね?あの人は私の事は何も知らないままで死んだ。
私が泥棒したっていう事も愛される資格なんてない女だっていう事も何もかも知らないまま…。
私はあの人に謝る事すらもう出来ない。
嘘をついてたってごめんなさいって…。
でも中条さんの事は本当に好きだったって…。
中条さんのそばで生きたかったって…。
あなたはその時間さえ私にくれなかった。
返して!あの人を返して!
(聖子)こんなものいらない!返すわよ!返して!あの人を返してよ!あなたは私に復讐した。
だったら私もあなたに復讐してもいいはずだわ!あなたを殺して私も死ぬ。
いいんですか?本当の事を知らないままでいいんですか?誰が小橋久仁男を殺し誰が中条さんを殺したのか…。
この事件が一体どういうものだったのかを知らないままでいいんですか?
(聖子)子供の頃からケーキを作るのが大好きでした。
いつか東京で素敵なお店を持って有名なパティシエになる。
それが子供の頃からの私の夢だったんです。
そのために東京へ出てきて一生懸命働いて一生懸命貯金して…。
でも歳はとっていくのにお金なんか全然…。
兄たちにもう夢なんか見てる歳じゃない現実を見なさいってそう言われて一度は田舎へ帰る決心をしたんです。
そんな時にあのお金を見て私夢がかなうってお店を持てるって…。
でもあなたは結局あのお金は使わなかった。
それはどうしてですか?怖かったんです。
使ってしまえば本当の犯罪者になってしまうと思って…。
それで兄たちに何度も何度も頼んで必死に説得してお金貸してもらって…。
あのお金を持ってる事が怖くて怖くてたまらなかった。
小橋さんにもう全部渡してしまいたい…そう思ったんです。
その時…。
(小橋)あんたのとこにもいずれ届くはずだ。
だってそうだろう?最初が俺なら次はあんたしかいないんだから。
問題はどうやってこいつを見つけ出すかだ。
小橋さんは当分の間餌をまくってそう言ってました。
とりあえずは相手の言いなりになって油断させておくって。
それが殺される10日ほど前小橋さんがお店に来て…。
やっぱり餌はまいといてやるもんだ。
しっぽ出しやがったあいつ。
そいつとは近いうちにきっちりとケリをつけてやる。
(小橋)あんたの取り分も全部引き取ってやるけど本当にいいんだな?それで。
(聖子)これで何もかも全部終わる…そう思ってました。
なのに…。
小橋を殺したのはその脅迫者川原という男です。
川原…?11月14日の夜あの交差点に居合わせたバイクに乗ってた男。
あの人…。
小橋に近づきすぎたんです川原は。
恐喝者というのは恐喝するだけでは物足らなくなって直接本人に接触してしまう場合もあるんです。
表ではニコニコ笑いながら友達みたいに振る舞って裏では薄笑いを浮かべてその人物をゆする。
そういう事が楽しいらしいんです。
フルフェースのヘルメットをかぶっていたから顔は知られてないはず。
そう思って小橋に近づき小橋をからかって楽しんでいたんです川原は。
酒をおごらせ飯をおごらせ一緒にキャバクラで遊んで…。
あなたはあの時の川原の事で何か覚えてらっしゃる事はありますか?ヘルメットに絵が…。
蛇のような…。
小橋もそれを覚えていたんです。
それであの日の夜…。
表で小橋さん小橋さんと持ち上げといて裏じゃニヤニヤ東京タワーか…。
さぞや楽しかっただろうな。
500万も俺からふんだくってその上山ほどたかって。
でもお楽しみはもう終わりだ。
(刺す音)うっ…!小橋が死んで脅迫の対象は小橋からあなたに移ったわけです。
顔を確認するためにあなたの店に行ったそうです川原は。
その時ちょうど中条さんが来ててあなたと中条さんの関係を察した。
私と中条さんの関係って…。
それどういう事ですか?その人中条さんと何か…?川原は中条さんの会社の面接を受けています。
えっ…?ですがその時…。
何かあったんですか?私の事ですか?私の事で何か…?「彼女の秘密はタワーにある」って。
バカにされカッとなって思わず口走ってしまった言葉だったと本人も言っています。
だが中条さんはその言葉を無視する事は出来なかった。
どういう事なんだ?彼女の秘密って一体…。
英語で訊かないんですか?中条さん。
東京タワーに何か関係があるのか?それを英語で訊いてくださいよ。
中条さん僕にだってそれくらいの英語わかるんだから。
フッフ…ふざけるなよ。
ちゃんと答えろよ。
君は彼女とどんな…。
(刺す音)だから英語で訊けよ。
常識なんだろ?英語は!おい!英語でしゃべれよ!英語で!私のせいです…。
私のせいで中条さん…。
私が中条さんを殺したようなものです。
私のした事はみんなを不幸にした…。
あんな事しなければよかった…。
夢なんか見なければよかった…。
東京なんかへ来なければよかった…。
(聖子の嗚咽)
(聖子)東京なんか…。
東京なんか…。
「東京なんかへ来なければよかった」…そう言ったの?彼女。
私も同じ。
東京なんかへ来なければよかった。
ここ…。
ねぇ刑事さん。
私ね初めて聖子さんのお店に行った時からずっと思ってたの。
二木聖子は幸せになればいいって。
人を絶望のどん底に叩き込む時はその人が心から幸せだって思う時が一番いいんだってそう思ってたから。
(直美)だからお店も順調にいき中条さんっていう恋人もいて幸せそうになっていく彼女を見てるのは楽しかった。
早く中条さんと結婚してくれないかなぁって。
中条さんとの結婚式の日披露宴で何もかもぶちまけてやろうってそう思ってたから。
この女は泥棒で人殺しだって。
でも毎日のように顔を合わせていろんな事話していくうちに私わかったの。
(直美)あんな素敵なお店持って億万長者の恋人がいてもこの人は幸せじゃないんだって事。
この人の心の中にはいつもあの日の夜の事がすみ着いててその事で苦しんでるしおびえてるって。
(直美)この人はこの人なりの罰を受けてるんだって。
だから私もういいやって。
いつか北さんの事は話すつもりだったけど中条さんとの結婚式の日にはおめでとうってそう言ってあげようって。
彼女見ててよくわかった。
盗んだお金で幸せになんかなれないって事。
(直美)あの日の夜何事も起きず予定どおりペンション買ったとしても私と北さんは結局幸せになんかなれなかったって事よね。
幸せになれる夢を見てただけ。
17の時家出同然に家飛び出して着いた終着駅は新宿駅。
17の時の終着駅は33の時には始発駅になるはずだった。
北さんと一緒に幸せになるための始発駅。
(直美)結局この街は私にとって永遠に…死ぬまで終着駅なのかもしれない。
じゃあ…。
ここもいつか大きなビルが建つんでしょうね。
そしたらここで1人の男の人がひっそりと人生終えたなんて誰も…。
けどそれがこの街って事よね…。
新宿っていう街…。
じゃあ。
(澄枝)ごめん遅くなって。
直美さんまだ?いや…もう帰った。
帰ったってあなた…。
この街で生きていくってそう言ってたからいつかまた会えるよ。
会える日が来る。
そうね。
いつかまた会えるわね。
聖子さんと直美さんと3人で…。
私…聖子さんも直美さんも幸せになりたくて精いっぱい生きてきただけって気がする。
10代の頃田舎から出てきてこの東京で…この街で幸せになろう幸せを見つけて生きていこうって一生懸命働いて…。
それが…。
でもこれからよね。
どこであろうとあの2人が本当の幸せを見つけるのはこれから。
私そう思ってる。
妻の言葉をかみしめていました
この街にとどまる事で幸せをつかもうとした二木聖子
そしてこの街を出る事で幸せを見つけようとした柳川直美
静かな住宅地の小さな交差点で交錯した2人の女の人生
これから先あの2人はどこでどんな人生を生きていくのだろうかと…
日本できっとここだけでしか見られない珍百景。
2015/09/19(土) 12:00〜13:55
ABCテレビ1
終着駅シリーズ 死差路[再][字]
〜消えた1億円と孤独な死体!!東京タワーに交錯した女二人の復讐の結末
詳細情報
◇番組内容
新宿西署管内の空き地で建設会社社員の死体が発見され、牛尾刑事は現場に急行する!!半年後、元タクシー運転手・小橋が殺され、小橋の部屋からダンボールに入った大金が発見されて!!「終着駅シリーズ」第23弾!今回は「死叉路」の映像化!
◇出演者
片岡鶴太郎、岡江久美子、秋野太作、増沢望、徳井優、高橋かおり、中島ひろ子、大浦龍宇一、北見敏之、長谷川朝晴 ほか
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32723(0x7FD3)
TransportStreamID:32723(0x7FD3)
ServiceID:2072(0x0818)
EventID:38594(0x96C2)