(ペン先の音)
(音楽)ああ〜そうですか。
(テーマ音楽)数多くのヒット作を生み出す漫画家浦沢直樹さん。
そんな浦沢さんが立ち上げた新たなプロジェクトがこの「漫勉」です。
漫画家は小さなペン先から壮大なドラマを生み出します。
ふだんは立ち入る事ができないその仕事場を密着撮影させてもらおうというのです。
浦沢さんがペン先一つで人物のリアルな表情を描き出します。
息が詰まるような作業ですね。
そして今回は理想の表情を求めて格闘する漫画家の姿を記録する事ができました。
代表作は「うしおととら」。
普通の中学生「うしお」が凶悪な妖怪「とら」と出会い妖怪の大戦争に巻き込まれる壮大な冒険漫画です。
笑いと涙。
ドキドキするストーリー。
そして満載のアクション。
30年近くにわたって第一線で少年たちの心を躍らせる漫画を描いてきました。
今回は最新作の執筆現場に4日間密着する事ができました。
そこで発見したのは浦沢さんをも驚かせる手法。
そしてアクション漫画を生むために必死に格闘する姿でした。
1か月後。
撮影された映像を見ながら二人が対談します。
いや〜…「漫画界騒然」一体何が起こるんでしょうか?
(藤田)どうもこんにちは。
どうも。
いやいやいや…。
まあまあまあね。
今日はありがとうございます。
藤田さんが対談場所に選んだのは自身の仕事場です。
そうですねそうですね。
そのとおりです。
これだよ。
ハハッ俺にとってはですね。
魔法の道具?気になる!全身全霊で漫画と向き合う藤田和日郎さん。
その創作の秘密がいよいよ明らかになります!まずはコマ割りからですね。
あれ?定規とか使わないんですか?全部ちゃんとそういうふうに…一方浦沢さんは…。
・お疲れさまです。
あお疲れ。
おはよう。
こんな感じなんですね。
そうですよ。
ありとあらゆる所から見られてるから。
部屋のあちこちに仕掛けた定点カメラで執筆をなるべく妨げないように作業を撮影します。
インクで描くペン入れの前に鉛筆で下描きです。
何やらおもちゃの人形が出てきましたね。
藤田さんが今取り組んでいるのは…主人公は歴史上の人物看護師ナイチンゲールと彼女に取りついた幽霊グレイ。
ナイチンゲールの奮闘と幽霊たちの戦いを描いた伝奇アクションです。
物語はいよいよクライマックス。
幽霊たちの緊張感あふれる決闘シーンの執筆です。
(笑い声)崖の端に行けば行くだけはしゃぐバカっているじゃない。
でも藤田さん描きながらもずっと話し続けています。
ハハハハハッ!実は藤田さん人としゃべっていないと作業がはかどらないんだそう。
部屋に貼ってあるポスターも「無口禁止」。
あっそうですか。
(笑い声)大事なとこなんてありませんよ。
浦沢さんどうしました?浦沢さんの描き方は人物の位置や大まかな形を入れる「アタリ」を描きそこに「下描き」を入れます。
この時点でかなり最終形が分かります。
その上でようやくインクで本番の線をペン入れします。
一方藤田さんは大ざっぱなアタリを描いたら…いきなりペンで描き始めました。
はいはいはい。
スピード感あるようにしたみたいな。
確かに藤田さん下描きのないところにどんどん描いていきます。
そして手に取ったのはさっきの修正液。
えぇ〜…?
(笑い声)ホワイト修正で線を削って描くのが藤田流。
漫画家さんによって全然違うんですね!あ〜そうですね。
はいはい覚悟の線。
ああそうですね。
下描きはあくまでリハーサル。
本番はペン入れの時なんですね。
(音楽)腕の残像が入り乱れる激しい決闘シーンが徐々に出来上がってきました。
続いて主人公の幽霊グレイに取りかかります。
藤田さんはこれまでも読者の心を躍らせるアクション漫画を描き続けてきました。
幼い頃から漫画を読むのが大好きだった藤田さん。
特にヒーローが冒険を繰り広げる少年漫画に夢中でした。
自分のような漫画好きの少年たちをワクワクさせたい。
その思いで30年近くひたむきにアクション漫画を生み出してきました。
そんな藤田さんはどうやって物語を生み出しているのでしょうか。
「ネーム」と呼ばれるストーリー作りの現場をのぞいてみると…。
(音楽)かかっていたのはバリバリのヘビメタ!連載前には登場人物のスケッチを数多く描く事で物語の世界に深く入り込んでいきます。
更にはこんなものまで!テンション上げるのは…うん。
なるほど。
へぇ〜!は〜なるほど。
漫画家にとってテンションって大切なんですね。
はあはあ。
スポーツ漫画描いてた時期ありますからその…渾身のアクションシーンがついに完成しました。
描いては消し消しては描く。
ひたすらペンを重ねて生まれた一枚。
藤田さんがこだわり続けてきた読者の心を躍らせる戦いのシーンが完成です。
続いてこの回の扉絵に取りかかります。
最初に読者の興味をひきつける大切なページです。
主人公グレイに宿命のライバルデオンが襲いかかってくるシーン。
向かってくるデオンの表情と迎え撃つグレイの目が一コマで対峙します。
ああそうだね〜。
・「きた!」っていう。
表情の演技で緊迫感を生み出す演出です。
これから理想の表情を求める藤田さんの格闘が始まります。
(音楽)デオンの顔ができました。
かっこいいですね!えっ消しちゃうんですか!?・え?や独り言。
また修正ですか!?そうなんですよね。
主人公の宿敵デオン。
幽霊であり女性か男性かも分からない複雑なキャラクターです。
藤田さんひたすら表情に悩みます。
ああうん…こいつってね…はい。
藤田さんの代表作「うしおととら」。
主人公うしおは伝説の武器「獣の槍」によって妖怪さえも超える強さを手にします。
しかし獣の槍を使う代償に自らも化け物に変わっていくのです。
ああそうですよね。
だけど…藤田さんのデビュー作は化け物と人間が戦う短編…その後も一貫して化け物や妖怪という題材にこだわって描き続けます。
そして初めてのヒット作となった「うしおととら」。
藤田さんが描いた主人公うしおは単なる正義の味方ではなく自らも化け物の一面を持ちます。
善と悪が入り混じるヒーロー像を選んだ理由。
そこには漫画界を自分の力で変えたいという当時の強い気持ちが込められていました。
えっまた描き直しですか!?まだまだ…・アハハハッやっぱ気になりますか?ね?この…あ〜そうですね。
う〜ん…。
ああそうですか。
ハハハハハッ。
いやでもね…あ〜そうですか。
そうですよね。
そうですね〜。
結局この目だけで1時間半悩みました。
自分でダメ出しをして自分でOKを出す。
漫画家って大変な仕事ですね。
撮影4日目。
いよいよ締め切りの日です。
(音楽)今回の最後のコマに取りかかります。
刻々と締め切りの時間が迫ります。
・は〜い。
藤田さん変わった棒を手に取りましたが…。
おっ!これだ。
えっ!?割りばし!?すごいなあ…。
いやいやいや…そうですねきっとね。
今度はカブラペンを取り出しました。
線に細かなニュアンスを足していきます。
藤田さんついに指で描いちゃいました!さまざまな手法で最後のコマを作り上げていきます。
ありがとうございます。
これをちょっとあの…そうですよね。
そりゃそうですね。
作品に熱量を圧縮しようとする思いが最後のコマにも込められているんですね。
さあいよいよ仕上げです。
藤田さん筆ペンを手に取りました。
そうなんですよね。
だから何かきっと…最後のコマがついに完成しました。
主人公グレイの感情が強烈に伝わってきます。
読者を最後まで飽きさせない藤田さんのこだわりです。
ようやく全ての原稿が完成ですね。
えっ?まさかあのページ?気が付いたんですよねなんかね。
うわ〜!
(ドアチャイム)ほらほら!お疲れさまで〜す。
お疲れさまです。
せ〜の!ヨイショヨイショヨイショヨイショ!お疲れさまでした!お疲れさまでした!結局7回もの描き直しを経て完成したページです。
藤田漫画の真骨頂「この世のものならざる目」が見事に描かれました。
最後の最後まで妥協しない藤田さん渾身の一枚です。
そうですそうです。
あっそうですね。
それはいいな。
はいはい。
ああいい事言う。
(ペン先の音)
(ペン先の音)2015/09/20(日) 00:44〜01:28
NHKEテレ1大阪
浦沢直樹の漫勉「藤田和日郎」[字][再]
白い紙に小さなペン先で壮大なドラマを生む漫画家たち。その創作の秘密に「浦沢直樹」が迫る。2回目は「うしおととら」少年漫画の第一人者「藤田和日郎」を特集する。
詳細情報
番組内容
白い紙に小さなペン先で壮大なドラマを生む漫画家たち。その創作の秘密に「浦沢直樹」が迫る。2回目は、少年漫画の第一人者「藤田和日郎」を特集する。代表作である「うしおととら」が今年アニメ化され、話題となっている。今回、新作の現場に密着。浦沢直樹が驚がくしたのは、下書きをほとんどしないままにペンを入れ、そこに何度も何度もホワイト(修正液)を入れることで線を彫りだすように描いていく藤田流スタイル!
出演者
【出演】漫画家…浦沢直樹,漫画家…藤田和日郎
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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