ドキュメント 生命大躍進「第3集 ついに“知性”が生まれた」 2015.09.20


今からおよそ7,000万年前の恐竜時代。
ついに生命は知性を芽生えさせようとしていました。
人間のように考えワナを仕掛ける事ができるほど脳を高度に進化させた恐竜が見つかったのです。
一方私たちの祖先はこの恐竜時代に突如新しい脳を手に入れた事が分かってきました。
思いがけない偶然によりやがて私たち人間の知性へとつながる脳の大躍進を成し遂げたのです。
私たちはどのようにして新しい脳を手にしたのか。
その秘密をDNA研究が解き明かしつつあります。
長い進化の歴史の中で人が人となるための鍵となった出来事を3回のシリーズで描きます。
最終回は…なぜ私たち人間だけがこれほど高い知性を持っているのでしょうか。
その謎を解く鍵は私たちより巨大な脳を持ちながら絶滅した別種の人類…最新テクノロジーはなんとネアンデルタール人の化石からDNAを完全解読する事に成功しました。
そして見つかった僅か1文字のDNAの書き換え。
これがもたらしたという驚きのドラマとは。
さあ私たち人間に至る命の物語を始めましょう。
人類誕生よりはるか前に巨大な脳を獲得し考えるようになった恐竜がいた。
今そんな驚くべき学説が唱えられ始めています。
その考える恐竜の化石が見つかったのはカナダ西部のアルバータ州立恐竜公園。
3万個を超える貴重な恐竜の化石が見つかっている事から世界遺産に登録されています。
ドナルド・ヘンダーソンさんはこの恐竜公園で20年近くも恐竜の化石を発掘してきました。
腹をすかせたこんなやつには出会いたくないよねえ。
ワオ!
(鳴き声)ワオ!
(鳴き声)
(鳴き声)こうした巨大恐竜たちに囲まれながら小さな体でしれつな生存競争を生き抜いた恐竜がいたといいます。
これが考える恐竜の化石その名はトロオドンです。
この化石を分析し一体どんな恐竜なのか突き止めたのが…ラッセルさんは10年近くも発掘を続け化石を集めてトロオドンの全身を復元する事に成功しました。
それがこちら。
背丈は1.2メートルほどの小さな肉食恐竜です。
狩りをするため大きな目が正面を向いてついています。
ものが立体的に見えるよう視覚が発達していました。
更に恐竜としては極めて珍しく指が互いに向かい合っていたといいます。
器用にものがつかめた可能性があります。
そして目や手を巧みに操る発達した脳。
これこそトロオドンの最大の武器でした。
この化石は頭蓋骨のてっぺんの部分。
ラッセルさんは裏側のくぼみに注目しました。
どれほど大きな脳だったのか。
最新テクノロジーで更に詳しく調べてみましょう。
私の研究室にようこそ。
ここは恐竜たちの化石を特別な方法で分析するために作ったラボなんです。
ここではさまざまな恐竜の頭の化石から恐竜の知性について調べています。
これは恐竜トリケラトプスの頭の化石。
これを医療用のCTスキャナーで分析する事で頭蓋骨の中に埋もれている脳の大きさと形が分かります。
画面に頭蓋骨の化石の立体画像が現れました。
骨の中に埋もれていた脳が青く示されています。
大きさや形がはっきりと分かります。
トリケラトプスなど植物だけを食べる恐竜なら脳は小さくても十分でした。
では肉食恐竜ではどうでしょうか。
王者ティラノサウルスの化石をスキャンして…。
現れたのがティラノサウルスの脳です。
トリケラトプスに比べて脳が格段に大きくなっています。
肉食恐竜はハンティングのために脳を発達させていったのです。
ではあのトロオドンの脳はどうなのか。
ウィットマーさんはその復元にも挑みました。
いくつもの頭蓋骨の化石を分析して明らかになったのがこちら。
トロオドンの脳はほかの恐竜とは大きく違っていました。
頭蓋骨の中に占める脳の割合を比べてみると…このとおり。
トロオドンの脳はティラノサウルスよりはるかに大きい事が分かります。
知能の高さは体重に対する脳の重さから推定する事ができます。
これで比べるとトロオドンの脳はトリケラトプスのおよそ10倍。
肉食恐竜の王者ティラノサウルスと比べても3倍以上もあります。
トロオドンは恐竜の中で飛び抜けて高い知能を持っていたと考えられます。
巨大な脳を持ち霊長類並みの知能さえ芽生え始めていたという驚きの恐竜とは。
よみがえれ!トロオドン!さあはるかな時間を遡りウィットマーさんが思い描く考える恐竜トロオドンを目撃しにタイムトラベルしてみましょう。
時は今からおよそ…地球史上最大級の空飛ぶ生き物…大きさは10メートルもあります。
地上にも10メートルを超える大型恐竜たちが。
そこへ現れたのが…体は小さいですが脳は並外れて大きく高い知能を誇っています。
そんな賢い恐竜の狩りの様子をのぞいてみましょう。
あっ獲物を発見。
しかし穴に逃げ込んでしまいました。
こんな時トロオドンは巨大な脳で考えたに違いないとウィットマーさんは言います。
なんと昆虫をおとりにしてワナを仕掛けました。
幹をつかんで器用に登り息を潜めます。
餌に釣られて出てきたら優れたその目で狙って…。
捕まえました。
トロオドンは巨大な脳を持つ事で知性とも呼べるものを既に示し始めていたというのです。
ところがある日そんな恐竜たちの運命を一変させる大事件が起こります。
はるか宇宙のかなたから地球目がけて直径10キロメートルもの巨大な岩の塊が飛来しました。
そして激突。
衝突のエネルギーはすさまじいものでした。
あのトロオドンをはじめあらゆる恐竜たちは絶滅。
恐竜たちの間で芽生え始めていた知性もこの事件によって完全に消滅してしまいました。
しかしもし巨大隕石が衝突しなかったら。
生命の歴史はどうなったのでしょうか。
そんな仮定のもとトロオドンの研究者ラッセルさんは恐竜がどんなふうに進化するのか科学的推論を重ね論文にまとめました。
その中でトロオドンは更に脳を巨大化させより知性を発達させたと唱えました。
博士がたどりついたのが…大きくなった脳を支えるため直立し人間のように2足歩行したに違いないと考えました。
時間があれば知性は生まれうる。
知性は私たち人間だけの特別なものではないとラッセルさんは言います。
しかし現実には恐竜は絶滅。
その後私たちほ乳類が繁栄していく事になりました。
私たちの現在の繁栄を支えている高い知性。
それを生み出しているのは脳のある部分です。
最新装置を使って脳の中のどこで知的活動が行われているのか調べてみましょう。
本を読んでいる時はこの辺り。
主に脳の表面です。
計算している時はこの辺り。
やはり脳の表面です。
会話をしている時も表面。
知的な活動は常に脳の表面部分で行われています。
これこそ知性を生み出す新しい脳。
皮のように薄いため大脳新皮質と呼ばれています。
私たち人間に至る進化の中でこの大脳新皮質はいつどのようにして生まれたのでしょうか。
最近その謎に迫る大発見がありました。
最も古いほ乳類の化石の一つから大脳新皮質が見つかったのです。
僅か1センチほどの小さな化石。
これが頭蓋骨の全体です。
化石を基に復元されたその姿は体長僅か3センチ。
小指に乗るほど小さなほ乳類です。
この化石をCTスキャナーで詳しく分析すると…頭蓋骨の内部から不思議な形をしたものが現れてきました。
これが脳です。
ハドロコディウムの脳をそれ以前の祖先と比べると大きく張り出した部分があります。
これこそ大脳新皮質。
後に私たちの知性を飛躍的に高める事になる新しい脳。
その原始の姿です。
この新しい脳大脳新皮質は私たちの祖先に一体何をもたらしたのでしょうか。
さあはるかな時間を遡り大脳新皮質が誕生した時代へタイムトラベルしてみましょう。
およそ2億年前。
恐竜が絶滅するより前の事。
私たちの祖先は新しい脳大脳新皮質を持つ事で新たな能力を授かっていました。
それはさまざまな感覚をまとめる能力です。
例えば恐ろしい恐竜が近づいてきた時ちらりと姿が見えると…それが視覚として脳に伝えられます。
更に地面が振動してヒゲや毛が揺れると触覚として脳に伝えられだんだん大きくなる足音は聴覚として伝えられます。
視覚触覚聴覚などいくつもの感覚を大脳新皮質でまとめる事により何がどこからどんな速さでやって来るのかを総合的に判断できるようになりました。
こうして感覚が研ぎ澄まされた事で私たちの祖先は夜の世界へと進出していきます。
夜は恐竜たちの活動が減る時間です。
大脳新皮質を駆使する事でハドロコディウムは夜という安全な新世界へ進出。
生き残る事ができたのです。
祖先の生き方を大きく変えた大脳新皮質。
それはこの時代にどのようにして獲得されたのでしょうか。
その謎をDNAから解き明かそうとしている研究者がいます。
ほ乳類の脳が出来る仕組みを調べています。
そもそも脳の細胞が作られる時には2つの遺伝子が関わっています。
その2つとはいわばアクセルとブレーキの遺伝子です。
アクセル遺伝子は脳の細胞に「増殖せよ」と促す指令物質を出します。
一方ブレーキ遺伝子は「増殖するな」という指令物質を出します。
例えば恐竜などのは虫類では脳が出来る時にアクセルとブレーキの両方が同時に働き打ち消し合います。
このため細胞の増殖が穏やかに保たれ脳はそれほど大きくなりません。
ところが私たちほ乳類では脳が出来る時になぜか一時的にブレーキ遺伝子が故障し働かなくなります。
するとアクセルだけが踏み続けられ脳の細胞は暴走的に増殖し続けます。
こうして出来たのが…40億年に及ぶ進化の道のりを振り返ってみても…ブレーキ遺伝子が故障するのは私たちほ乳類だけ。
は虫類や両生類などほかの動物では故障は起きません。
進化の過程でなぜほ乳類だけに故障が起きたのか。
花嶋さんはそのメカニズムを次のように考えました。
最初にブレーキ遺伝子のすぐ脇のDNAで僅かな変化が起きます。
分子レベルでDNAの形が微妙に変わり…細胞内を漂うあるタンパク質がくっつくようになります。
するとこのタンパク質がフタとなってブレーキ遺伝子は指令物質を出せなくなりブレーキの故障が起きます。
DNAの僅かな変化が細胞の増殖を暴走させ大脳新皮質を生み出したに違いない。
そう花嶋さんは考えました。
そこでマウスを使って大脳新皮質の出来る様子を実験で調べました。
まずは普通のマウス。
特別な薬を使うと脳が緑色に染まります。
大脳新皮質が出来ているからです。
続いて人工的にフタとなるタンパク質をなくしくっつかないようにすると緑の部分が突如減ります。
大脳新皮質が出来なくなったのです。
フタとなるタンパク質がブレーキを故障させ大脳新皮質を作り出した事が確かめられました。
これこそ小さな祖先が成し遂げた大脳新皮質の獲得という大躍進でした。
その後ほ乳類は大脳新皮質のおかげでさまざまな環境により素早く適応できるようになりました。
中でも木の枝や獲物をつかむため空間認識を高め脳を特に発達させていったのが霊長類でした。
そこから更に進化しより高い知性を持つようになった人類が現れる事になるのです。
私たちは人間ならではの高い知性を一体どうやって獲得したのでしょうか。
その謎を解くヒントがここ氷河期にあります。
4メートルもの巨体に深々と毛を生やした不思議なサイ。
雪と氷の世界には巨大な生き物たちがあふれていました。
こちらは雪原で生きるライオン。
今のものよりはるかに大型です。
食べ物が乏しい過酷な氷河期。
全ての生き物たちは必死に命をつないでいました。
そんな中に私たちホモ・サピエンスもいました。
姿形は今の私たちと同じです。
突然現れたのはマンモス。
体重は実に6トン。
当時最大の生き物の一つです。
この様子を陰から見ていたのは眉の部分が張り出し鼻が大きなホモ・サピエンスとは別種の人類。
その名は…実はこの時代地球上には私たちホモ・サピエンスとは異なる別種の人類が存在していたのです。
ネアンデルタール人は際立って巨大な脳を持っていました。
なんと私たちホモ・サピエンスよりも1割以上も脳が大きいのです。
その上ネアンデルタール人は並外れた力を持っていました。
腕力はホモ・サピエンスの倍もあったと推定されています。
ネアンデルタール人は当時最強のハンターでした。
しかし4万年前ネアンデルタール人は絶滅してしまいます。
そんなネアンデルタール人とホモ・サピエンスとでは知性にどんな違いがあったのでしょうか。
彼らが暮らしていた遺跡からある興味深い事実が浮かび上がってきました。
この洞窟はかつてネアンデルタール人が暮らしていました。
そして彼らが去ったあとホモ・サピエンスが暮らしていた事が分かっています。
そのため両者の暮らしぶりを直接比較できる世界的にも貴重な遺跡です。
ニコラス・コナードさんはこの洞窟を10年にわたって調査してきました。
注目したのは発掘された石器です。
よくできたものなのですが…ネアンデルタール人は数万年もの間同じタイプの石器を作り続けました。
この大ぶりな石器を狩りから調理まであらゆる用途に使いました。
ところが私たちホモ・サピエンスの石器を見ると…。
これは肉などを切り取るための石器。
これは骨や角を削ってやりの先などを作るための石器。
このようにホモ・サピエンスは目的に応じて大きさや形の違う石器を次々と発明していたのです。
ホモ・サピエンスは道具を発明しただけではありません。
この洞窟からは更に知性の高さをうかがわせるものが見つかっています。
これはホモ・サピエンスが作った彫刻です。
マンモスやライオンなど獲物たちの特徴を記憶し頭の中で単純化して抽象的なシンボルを作り出していたのです。
両者の間に知性に関わる差をもたらしたものは一体何なのか。
今研究者たちはその答えにDNAから迫ろうとしています。
ネアンデルタール人の化石からDNAを抽出しそれを読み解こうという研究が進んでいます。
挑戦しているのは研究プロジェクトのリーダースバンテ・ペーボさんです。
1980年代からこのプロジェクトを率いてきたペーボさん。
絶滅した人類の化石からDNAを分析しようと挑み続けています。
普通DNAはとても壊れやすいのでその分析は今生きているものでしかできません。
しかし彼らは何万年も前の化石からDNAを採取し分析しようというのです。
化石の中にDNAなど残っているのでしょうか。
まずペーボさんたちは世界中からネアンデルタール人の化石を集めました。
こちらはその発掘現場の一つ。
およそ4万9,000年前にネアンデルタール人が住んでいたこの洞窟からはこれまで13体もの化石が発掘されてきました。
発掘現場に着くと手袋に帽子マスクに加えて防護服をつけ始めました。
一体なぜこんな格好をするのでしょうか。
ここでは…出てきたのはネアンデルタール人の大たい骨の一部。
集められた化石は厳重に封がされ分析へと回されます。
こうして世界中からネアンデルタール人の化石がペーボさんのもとへ届けられました。
分析の結果化石の中にネアンデルタール人のDNAが残っている事が突き止められます。
しかしその復元には更なるハードルが待ち構えていました。
ネアンデルタール人のDNAは何万年もたつ間に短くちぎれ無数の断片になってしまっていたのです。
DNA断片の総数はなんと4億個。
その分析のためペーボさんたちは独自のコンピュータープログラムの開発に取り組みます。
各断片から互いに重なり合う部分を見つけ出しこれを手がかりにして元の並びを復元するプログラムです。
そして2010年。
絶滅したネアンデルタール人のDNAを復元する事に成功しました。
興奮しましたよ。
いよいよネアンデルタール人と私たちホモ・サピエンスのDNAの比較が始まりました。
分析に取り組み始めてから25年目。
ペーボさん自身想像すらしていなかった事実を見いだします。
なんと…驚きました。
私たちホモ・サピエンスのDNAの中に僅かながらネアンデルタール人のDNAが混じっていたのです。
この発見をきっかけに今人間ならではの高い知性の秘密を解き明かそうという研究が始まっています。
ワシントン大学のジョシュア・エイケイさんはネアンデルタール人のDNAがホモ・サピエンスのDNAのどの場所に入り込んでいるのか分析を続けています。
これは私たちのDNAの全体図です。
赤い色で示されているのは入り込んできたネアンデルタール人のDNAです。
よく見るとたくさん入り込んでいる所と入り込んでいない所があります。
ネアンデルタール人からホモ・サピエンスに入り込んでいるのはどんな遺伝子なのでしょうか。
分析の結果体毛を濃くする事や肌の色を薄くする事などに関わる遺伝子すなわち氷河期の寒い環境で得をする遺伝子が入り込んでいました。
私たちの祖先は生き残る上で有利な遺伝子をネアンデルタール人から引き継ぎました。
実はエイケイさんが注目したのは逆にDNAが入り込まなかった部分です。
この部分にネアンデルタール人のDNAが入り込むと損をするのです。
つまりホモ・サピエンスのDNAを持ち続ける事が生き残りに有利という訳です。
この部分にこそホモ・サピエンスならではの知性の高さを支える遺伝子があるとエイケイさんは考えました。
知性に関わっていると期待されるFOXP2とは一体どんな遺伝子なのでしょうか。
それを調べるためマウスを使った実験が日本で行われています。
実はマウスの赤ちゃんは超音波の鳴き声を使って母親とコミュニケーションをとっています。
その鳴き声を超音波マイクで収録し分析しました。
画面の短い横線が鳴いている部分。
いわばマウスの赤ちゃんの発する言葉です。
続いて人間の持つFOXP2遺伝子を組み込んだマウスの赤ちゃんで実験を行いました。
すると…。
(桃井)長めの波形が少し出てきてますね。
人間のFOXP2遺伝子を組み込むとマウスの赤ちゃんはより長く鳴くようになりました。
いわばよりおしゃべりになったのだと桃井さんは考えています。
なぜFOXP2遺伝子はマウスのコミュニケーションに影響を与えるのか。
桃井さんは更に研究を進めます。
人間のFOXP2をマウスの脳で人工的に働かせるようにしてみました。
すると小脳の神経の枝がより密集する事が分かりました。
FOXP2遺伝子は脳の神経回路にまで直接影響を及ぼしていたのです。
更にFOXP2遺伝子が学習能力を高めるという事が分かってきました。
マサチューセッツ工科大学のアン・グレイビルさんたちは人間のFOXP2遺伝子を組み込んだマウスで学習能力の違いを実験しました。
こちらがヒトのFOXP2遺伝子を持ったマウスです。
T型をした迷路で実験です。
床を2種類。
トゲトゲありとトゲトゲなしを準備します。
床がトゲトゲの場合は左からご褒美のミルクが出てきます。
逆にトゲトゲなしの場合は右からです。
では実験開始。
床がトゲトゲだとご褒美は左からです。
しかし右に行ってしまいました。
ご褒美はありません。
今度は…おっ左に行った!ご褒美をもらえました。
ではトゲトゲなしの床に変えてみます。
ご褒美は右からです。
それを見事にゲット。
この実験をヒト型FOXP2を持つマウスと持たないマウスとを使って繰り返し行いました。
床とご褒美の関係を学習するにはどれくらいの時間がかかったのでしょうか。
結果です。
正解率が7割に達するまでの時間を比べてみました。
ヒト型FOXP2を持つマウスでは7.5日。
一方持たないマウスでは11日。
ヒト型FOXP2を持つマウスの方が学習するのにかかった時間が4割近くも短かったのです。
本当に驚いた事に…コミュニケーション能力を高め更に学習の能力まで高めるという人間のFOXP2遺伝子。
この遺伝子こそ人間ならではの高い知性に関わっているのだと科学者たちは考え始めています。
今ネアンデルタール人とホモ・サピエンスとでFOXP2遺伝子にどんな差があるのか詳細な分析が行われています。
ペーボさんたちの研究チームはFOXP2遺伝子とその周辺の40万文字にもあたるDNAを徹底的に調べています。
すると40万文字の中からほんの1文字重要な違いを発見します。
ネアンデルタール人ではAで表されているこの部分。
そこが私たちホモ・サピエンスではなぜかTに変化していました。
これを発見したマリチッチさんは更にほかの動物のDNAも調べてみました。
その分析結果です。
両生類は虫類鳥類からほ乳類までこの部分はずっとAでした。
カエルやネズミネアンデルタール人までその全てでAが保たれてきたものが突如ホモ・サピエンスでTへと変化していたのです。
マリチッチさんはこの僅か1文字の違いがFOXP2の働きに大きな影響を与えた可能性があると言います。
この変化は…僅か1文字のDNAの変化が言語能力を高め今日の私たちの知性につながっているというのです。
さあマリチッチさんが考える知性の大躍進の瞬間へタイムトラベルしてみましょう!私たちの祖先の細胞の奥深く見えてきたのは言葉や学習の能力に関わる遺伝子FOXP2です。
DNAに時折起こる突然変異がここで発生。
40万文字の中の僅か1文字のDNAがAからTに変化しました。
するとそこにあるタンパク質がくっつくようになりました。
その結果FOXP2の一部にフタがされ作られる物質の量が減ったのです。
今明らかになっているのはここまで。
この事で何かが変わりFOXP2の働きに影響を与え言語能力が高まったとマリチッチさんは言います。
厳しい氷河期私たちの祖先は言葉をより高度に発達させる事で生き残りを図りました。
言葉を巧みに使う事でたくさんの人が協力し合いより大がかりな狩りができるようになったといいます。
更に言葉はある特別な事を可能にしました。
知識を世代を超えて引き継ぎ発展させる事です。
人間以外の生き物ではどんなにすばらしい技能を身につけても一代限りで子どもには伝わりません。
ところが人間は言葉を使って知識を子どもに伝え更に子どもがそれを発展させ孫へと引き継ぐ事ができるようになりました。
こうして言葉は人間の知性を飛躍的に高めたのです。
人間を人間にしついには文明を生み出したもの。
それはたった1文字のDNAの書き換えだったのかもしれません。
この地球に最初の命が生まれてからはるか40億年。
長い長い時間の中で生命は幾度も大躍進を果たしてきました。
5億年前偶然にも植物から遺伝子をもらった事でこの目は生まれました。
たまたま感染したウイルスから新たな遺伝子がもたらされ胎盤が出来子育てが一変。
親子の深い愛情が育まれました。
そして偶然の遺伝子の故障により生まれた新しい脳が知性を生み人は人となりました。
私たち人間に至る命の物語。
そこには信じられないような偶然と幸運の連続が書き記されていました。
私たちが今この瞬間に生きている事。
それこそが40億年紡がれてきた命の奇跡そのものなのです。
2015/09/20(日) 00:50〜01:42
NHK総合1・神戸
ドキュメント 生命大躍進「第3集 ついに“知性”が生まれた」[二][字]

なぜ私たちは今ここに生きているのか?人間に至る壮大な進化の物語を、最先端科学ドキュメントと、太古へのタイムトラベルCGで描く。その第3集は“知性の誕生”の秘密

詳細情報
番組内容
なぜ人は今ここにいるのか?21世紀この進化の謎に迫る画期的な手段を手にいれた。40億年前の地球最初の生命から人間までつながっている命の記録DNAだ。そこには驚きのドラマが記されていた。人間に至る壮大な進化の物語を、最先端科学ドキュメントと、太古へのタイムトラベルCGで描く。第3集は「知性誕生」の物語。恐竜たちが大繁栄する中、祖先の哺乳類は不思議な偶然から、突如脳の巨大化を始めた。そのきっかけとは?
出演者
【声】ジェフ・マニング,マリカ・ダンドイ,江原正士,河本邦弘,樫井笙人,前田敏子,【語り】伊藤雄彦,久保田祐佳,マイケル・リース

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学

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日本語
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2/0モード(ステレオ)
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サンプリングレート : 48kHz

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