浦沢直樹の漫勉「浅野いにお」 2015.09.20


(ペン先の音)
(ペン先の音)ハッハッハッハッ!よかった。

(テーマ音楽)数多くのヒット作を生み出す漫画家浦沢直樹さん。
その新たなプロジェクトがこの「漫勉」です。
漫画家は小さなペン先から壮大なドラマを生み出します。
ふだんは立ち入る事ができないその仕事場を密着撮影させてもらおうというのです。
この日浦沢さんはパソコンを使って作業をする予定でした。
しかし…なんとそのパソコンが故障しちゃいました。
なんか気まぐれなパソコンですね。
でもよかった!浦沢さんはおよそ10年前から色塗りの作業をパソコンで行っています。
パソコンで水彩絵の具のようなタッチを出す事にこだわります。
更にパソコンだからできる手法でインパクトのある絵を生み出します。
今回はパソコンを利用して斬新な表現を生み出す漫画家の姿を記録する事ができました。
「ソラニン」「おやすみプンプン」など話題作を次々と発表してきました。
特徴は緻密な絵です。
身近な日常の風景を細かく表現。
その中で登場人物のリアルな感情を描きます。
若い世代を中心に共感を呼び圧倒的な支持を得ています。
今回は最新作の現場に2日間密着する事ができました。
そこで発見したのは読者を驚かせる表現への挑戦。
そして細部への強烈なこだわりでした。
(ドアチャイム)
(浦沢)どうもこんにちは。
(浅野)どうもご無沙汰してます。
すいませんお騒がせしちゃって。
わざわざすいません。
撮影された映像を見ながら2人が対談します。
まず訪れたのは浅野さんの仕事場です。
これが例の七つ道具っちゅうか。
そうですね。
新世代の漫画家として注目を集める浅野いにおさん。
その創作の秘密が明らかになります。
あちこちに仕掛けた定点カメラで作業をなるべく妨げないよう撮影します。
まずは人物の下描きです。
人物の輪郭を描いたアタリをトレース台ですかして位置の参考にします。
これ青のシャープペンなの?そうですよ。
続いてインクで本番の線を入れるペン入れ作業です。
(ペン先の音)そうですね。
はい。
ほんとだ。
漫画家さんによってペンの持ち方もさまざまなんですね。
筆ペンに持ち替えました。
やや太めの線を加えます。
今度はミリペンに持ち替えました。
かなり細い線を加えていきます。
太さの違う線を重ねていく事でみるみる緻密な絵になっていきます。
そうですね。
浅野さんは物の質感を表現する事に強いこだわりを持っています。
細かい描き込みを重ねていきます。
とことん細部にこだわるのが浅野流なんですね。
人物のパーツも細いペンの描き込みによって質感を加えていきます。
ひたすら線を重ね30分がたちました。
ようやくひとコマが完成です。
口や目髪の毛や洋服。
一つ一つのパーツが緻密に描き込まれた人物が誕生しました。
今浅野さんが取り組んでいるのは初めて挑むSF作品「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」。
宇宙からの侵略者と戦争をしている日本が舞台。
非常事態の傍らで女子高校生たちが送るありふれた日常を描きます。
浅野さんは人物だけでなく背景についても細かさと質感を大切に描きます。
そのために取り入れたのが写真を使った背景作りの手法です。
続いては日常のワンシーンを描くこのページの背景を作っていきます。
まずは自ら撮影してきた大量の写真から情景やアングルに合ったものを選択。
画像編集ソフトで中間色をなくしていきます。
そして漫画の絵にしやすい絶妙の濃さに調整します。
この写真も同じように処理しました。
これで背景のベースが出来上がりました。
ここからペンで描き込みを始めます。
輪郭が白く飛んでしまった所を直し更に質感も描き込みます。
写真から作ったベースに細かく描き込む事で手描き感のある漫画の絵を生み出します。
浅野さんは10年以上作品ごとに手描きの比率を変えてこの手法を発展させてきました。
もうちょっとこの…はいはいはいはい。
ようやく描き込みが終わりました。
写真を白黒にしたものに物の輪郭や質感を丹念に描き足し更に粗いタッチを時間をかけて加えました。
こうして写真が手描き感のある漫画の背景に生まれ変わりました。
続いて2コマ目。
先ほどの河原の景色に人物を描いていきます。
緻密な背景にこだわってきた浅野さん。
作品を描く時土地やその風景を創作の出発点としています。
浅野いにおさんは…体が弱く暗く落ち込む事も多かった少年時代ある漫画家の作品と出会います。
桜玉吉さん。
日常の中で抱くリアルな感情を描いてきた漫画家です。
自分の気持ちを代弁してくれる桜さんの漫画が心の支えとなりました。
17歳で漫画家としてデビュー。
自らも日常のドラマをつづる漫画を描くようになります。
生活の中にある怒りや絶望そして希望を描き読者が共感できるドラマを届けようとしたのです。
そのためにはリアルな情景描写が必要だと考えた浅野さん。
挑んだのが写真を使った背景づくりの手法でした。
人物が描き上がりました。
このコマの背景にも細かい描き込みを加えます。
そうですね。
あの背景。
浅野さんがこだわる日常の風景が描かれました。
今度はその風景の中にたたずむ女の子を描きます。
浅野さんが描く人物はどこにでもいそうなでもどこかに影を抱えている人々です。
親近感を持てる普通の人物。
その悲しみや喜びが描かれる事で読者は自らの思いを重ねる事ができます。
嫌ですよねぇ。
駅の。
なんかあの…。
…っていう問題になってくるじゃないですかそういうのって。
再び細かい描き込みです。
そうですね。
無理な人は無理なんです。
(笑い声)ようやく女の子の描き込みが終了しました。
原稿をスキャンしパソコンでの仕上げ作業に入ります。
絵に影などの効果を入れていきます。
これでページが完成です。
写真をもとにペン先の描き込みで描き出した日常の風景。
そこにいる素朴で親近感を持てる人物。
浅野さんこだわりの身近なドラマを描いた一枚です。
次のページに取りかかります。
その前に浅野さんがベランダに出ていきました。
変わった物を取り出しましたよ。
木魚が宇宙船になるんですか?浅野さん実は背景だけでなく作中のさまざまな物体を描くのにいろいろな写真を活用しているんです。
(スタッフ)全然いいですよ。
ちょっと今ね…そうなんですよ。
ハッハッハッハッ!そうですよね。
そうですね。
浅野さんにとって初めて挑むSF漫画。
これまで描いた事のない巨大なメカが多く登場します。
浅野さんは既成のSF感にとらわれず自由に発想。
そこから生まれた形の新しさで読者を楽しませようとします。
早速撮影した写真を取り込んで漫画の絵にしていきます。
今作っているのは巨大な兵器です。
見た事のない不思議な形ですね。
「PLUTO」のロボット。
背景と同じように細かい描き込みを加える事で漫画の絵を作り出していきます。
そうですねぇ。
ようやく描き込みが終了しました。
「読者を楽しませる新しい形や表現を生み出したい」。
浅野さんの思いが籠もったページが完成しました。
最後にクライマックスのページに取りかかります。
今回浅野さんはこのページで新たな挑戦をする事にしました。
宇宙からの侵略者が空から大量に落ちてくるシーン。
それを見開きを縦に使って表現しようと考えたのです。
まずは背景づくりです。
空撮写真を使って他のページと同じ手順で背景をつくります。
ここも手描きで丁寧に描き込みます。
2時間かけて背景が出来上がりました。
次に侵略者をさまざまなポーズでどんどん描いていきます。
それを素材として。
描いた侵略者をパソコンに取り込み配置していきます。
浅野さんはこれまで読者の予想を超えるような驚きの表現を模索してきました。
子供の頃読者として漫画に共感する事で救われた浅野さん。
読者の心に残る新鮮な表現の詰まった作品を描きたい。
その思いが浅野さんを新しい挑戦へと突き動かしてきました。
(笑い声)すごい数になってきましたね。
どれだけの密度で侵略者を置くべきか。
バランスに悩み答えを探ります。
そうですね。
そうなんですよ。
仕上がりの密度が不自然さを感じさせないギリギリのバランスを探します。
遠近感を生かすための最後の調整を行います。
この画面に取り組んで5時間がたちました。
そうなんですよ。
ようやく満足のいく絵が出来上がったようです。
そうですね。
培ってきたアナログとデジタルを融合させる手法。
自由な発想。
読者を驚かせたいという思い。
浅野さんの新たな挑戦が形になりました。
そういう感じだよね。
だからそれだったら…分かる分かる。
Dialogue:0,0:2015/09/20(日) 01:28〜02:13
NHKEテレ1大阪
浦沢直樹の漫勉「浅野いにお」[字][再]

白い紙に小さなペン先で壮大なドラマを生む漫画家たち。その創作の秘密に「浦沢直樹」が迫る。3回目は、若者にカリスマ的人気を誇る漫画家「浅野いにお」を特集する。

詳細情報
番組内容
白い紙に小さなペン先で壮大なドラマを生む漫画家たち。その創作の秘密に「浦沢直樹」が迫る。3回目は、若者にカリスマ的人気を誇る漫画家「浅野いにお」を特集する。写真をパソコンで処理するデジタル手法と、アナログのペン先を融合させる、革新的な浅野いにおの描き方は、浦沢直樹の目にどう映るのか?
出演者
【出演】漫画家…浦沢直樹,漫画家…浅野いにお

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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サンプリングレート : 48kHz

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