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安保法が成立 国民の監視を強めねば


 「憲法が深く傷つけられた日」として記憶されることになるだろう。安全保障関連法が違憲の疑いを晴らせないまま、19日未明の参院本会議で可決、成立した。

 歴代内閣が長く違憲としてきた集団的自衛権を一内閣の解釈で合憲とできる論理は、衆参両院を通じた審議でもついに明確にされなかった。

 集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」などの要件と判断もあいまい。後方支援の自衛隊員のリスクも答弁が二転三転した。「説明責任を果たしていない」。多くの国民がそう感じている。

 それなのに、なぜこれほど強引に進めたのか。安倍晋三首相は米議会の演説で「この夏までに成就させる」と対米公約した。そのためなら、これほど日本の国会と国民をないがしろにした話はない。

 政権は明らかに国民を恐れていた。反対の声はかつてないほど広がった。集会やデモに出なくても、この背後に無数の「NO」があることは世論調査が示す通りだ。

 自民党の参院幹部は、大型連休でデモが勢いを増すことを危惧し「国会が取り巻かれる中での採決はやりにくい」と漏らした。これも急いだ理由だろう。

 政府は近隣諸国の脅威を強調し、安全保障環境の変化を理由に挙げる。誰しも否定しにくい論理で法制整備の必要性を主張してきた。

 だからといって、憲法を無視していいわけはない。16日の地方公聴会で広渡清吾専修大教授が公述したように「日本の国のかたちが根本的に覆されてしまう」という危うさを国民は考え始めた。

 広範な反対の声は、既成の組織やイデオロギーを超えた一人一人の思いの集積だ。国会前だけではない。県内でも数多く開かれた反対集会などをのぞくと、個人として参加した姿も目立った。

 政権はこうした声を侮るべきではない。安倍首相は参院特別委員会で「成立した暁には間違いなく理解が広がっていく」と語ったが、主権者である国民をあまりに軽く見ている。

 成立した後の焦点は、政府がどのような形で自衛隊の海外派遣を判断し、実行に移すかだ。それが国民から見えなくなる恐れがある。

 5党合意で国会関与の強化が決まったが、際限なく広がる恐れがある派遣の歯止めとなるかは不透明。政府の裁量で、国会の事後承認となる余地が残されているからだ。

 ましてや、昨年施行された特定秘密保護法もある。これから、国民の監視がさらに重要になる。

 「すべての戦争は自衛という大義名分ではじまる」。作家の半藤一利さんの指摘を胸に刻んでおきたい。

(2015.9.20)

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