• トップ
  • >
  • 社説のバックナンバー
  • 2015年9月20日(日)

政府に白紙委任はできず/今後の安保政策

 集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法が参院本会議で可決、成立した。戦後70年、専守防衛に徹してきた日本の安保政策は大きく転換する。

 新たな法制で自衛隊が担う活動は多岐にわたる。集団的自衛権に基づく他国への派遣、弾薬提供も可能となる外国軍への後方支援、武装集団に襲撃された非政府組織(NGO)を救出する国連平和維持活動(PKO)部隊による「駆け付け警護」-。これまでにない危険を伴う活動だ。

 集団的自衛権行使の事例について政府の説明は説得力を欠いた。安倍晋三首相は「政府が総合的に判断する」と答弁したが、白紙委任はできない。自衛隊の活動をむやみに広げないよう政府の対応をしっかりと監視する必要がある。世論の高まりがあれば国会で派遣に歯止めをかける道もある。一度決まった法律でも廃止や改正が可能なことも忘れてはいけない。

 政府、与党は法整備によって日米同盟が強化され、抑止力が高まると説明。首相は法成立後「国民の命と平和な暮らしを守るために必要な法制だ」と強調した。だが「仮想敵」を設定した抑止力構想は、逆に軍拡競争につながる「安全保障のジレンマ」が指摘される。今回の法制が本当に日本の安全に資するのか。よく考えたい。

 安全保障環境の変化として指摘されるのは中国の軍拡と北朝鮮の核開発だろう。しかし日中両国は経済的に深い関係にある。10月末に日中韓首脳会談が予定されるなど関係改善の流れもある。緊張を高めないよう双方が対話継続の努力を尽くすべきだ。北朝鮮には関係国が緊密に連携して対応する必要がある。

 米国との関係は今後の安保政策の焦点となる。米国の軍事行動への支援を求められた場合にどう対応するのか。首相は「政府が主体的に判断するので、米国の戦争に巻き込まれることは決してない」と答弁した。だが過去の例を見ても、米国の要求を拒否できるのか疑問だ。イラク戦争では人道復興支援に限定されたが、今後は戦闘現場にもっと近い地域での活動を迫られかねない。

 自衛隊はこれまで一人の人も殺さず、隊員が殺されたこともない。自衛隊の活動が拡大しても、その歴史は引き継ぎたい。紛争を未然に防ぎ、国際的な課題解決の先頭に立つ平和外交に徹したい。

モバイルサイトのご案内

広告掲載のご案内

ご案内