きのう成立した新たな安全保障法制に、周辺各国が警戒を強めている。

 中国外務省は「日本は軍事力を強化し、国際社会の疑念を引き起こしている」と批判する談話を発表した。

 安倍晋三首相は国会審議で、中国の脅威をことさらに強調してきた。国内からも批判がある。当の中国が反発するのは当然だろう。

 中国だけではない。韓国の東亜日報は「日本が『戦争ができる国』になる」と論評した。歴史認識の問題でぎくしゃくする日韓関係が、さらに冷え込みかねない。

 日中韓3カ国は本来、北朝鮮への対応をめぐって安全保障面の連携を深めねばならないはずだ。

 政府は、新たな安保法制が北東アジアに緊張を招きかねないことを認識すべきだ。

 中国の習近平政権は「海洋強国」建設を掲げ、安全保障と資源開発の両面で海洋進出を狙う。

 このため、自衛隊の海外での活動範囲が広がり、自らの活動に制約が生じることを警戒している。

 日本との合意を無視したガス田開発など、時として利己的なその行動には、毅然(きぜん)とした姿勢を示さねばならない場面もあるだろう。

 しかし過度に緊張が高まれば、偶発的な衝突の懸念も強まる。新安保法制が、日中間の軍拡競争を招く事態は防がねばならない。

 首相は法案審議で、日米同盟を強化して中国の脅威に対抗するという単純な図式を描いてきた。

 しかし米国は中国との間に「競合の管理、協力の深化」という重層的な関係を想定している。

 今年6月の米中戦略・経済対話では、南シナ海問題で対立する一方、安全保障や環境、投資の分野で約200項目の合意に達した。

 日本にとっても中国は最大の輸入相手国で第2の輸出相手国だ。道内企業の大事な市場でもある。中国への軍事的けん制ばかりに焦点が当たることは避けるべきだ。

 韓国との関係はさらに複雑だ。

 いわゆる「朝鮮半島有事」が万が一、現実のものとなれば、日本は新安保法制の下で、韓国との共同作戦に加わる可能性がある。

 韓国政府は米国との関係から、日本との安全保障面での協力は容認する姿勢だ。だが韓国国内には日本が朝鮮半島情勢に軍事的に関与することへの不安が強い。

 秋に見込まれる日中韓首脳会談では新安保法制も議題となるだろう。政府はその場で、緊張のさらなる増大を抑えねばならない。慎重な外交姿勢が求められよう。