安倍晋三首相と中国の習近平国家主席は9月上旬、北京での首脳会談を探ったが、実現しなかった。今、重要なのは対話の扉を閉ざさず、新たな日中関係の構築を引き続き模索することだ。
安倍首相は戦後70年談話に侵略、植民地支配、反省、おわびという文言を盛り込んだ。中国側からは批判的な論評も出たが、一定の範囲で評価したのも確かだ。それでも会談にこぎ着けられなかった。国内事情を踏まえ双方とも無理はできなかった、というのが実情だろう。
安保法などの説明必要
中国は9月3日の大規模軍事パレードを抗日戦争勝利、反ファシズム戦争勝利70年を記念する主要行事と位置付けた。習主席が軍を含め権力を掌握した事実を示す内政上の意味が大きかった。安倍首相は、仮に訪中するなら、日中の和解を演出する融和的な行事にしてほしいと注文を付けていた。
中国では、軍などを中心に日本に強く出るべきだと主張する勢力が一定の力を持つ。この勢力の抵抗もあり、記念行事を融和的にするのは困難だった。3日夕、訪中した各国首脳らが鑑賞した行事も抗日色が強く、安倍首相が参観するにはハードルが高すぎた。
問題は今後である。日中首脳は昨年11月、北京で3年ぶりに正式に会談し、4月にはインドネシアでも会った。双方は仕切り直しのうえ、まず国際会議の場を利用して3回目のトップ会談を実現すべきだ。安倍首相は次回会談で長く焦点だった「歴史認識問題」を丁寧に説明し、将来に禍根を残さないよう布石を打つ必要がある。
次回会談ではもう一つ、大きな課題がある。国会で安全保障関連法が成立した。政府の説明は、日本を取り巻く環境が激変し、米国などとの連携強化で抑止力を高めるには、集団的自衛権を限定的に容認する法整備が必要というものである。
中国は反発し、日本への警戒感を強めている。安保関連法の成立を踏まえ、安倍首相は習主席に法律について直接、説明し、合わせて今後も対中関係を重視する姿勢を伝えるべきだ。法律の趣旨は中国を敵視することではなく、あくくまで平和と安定の確保である。
安全保障を巡っては、中国による南シナ海での岩礁埋め立て問題がある。間もなくワシントンで開く米中首脳会談でも南シナ海は最大の焦点だ。
米国は、中国が人工島に軍事拠点を築き南シナ海を勢力圏にするつもりではないかと見て、警戒を続けている。南シナ海の安全が損なわれるならアジア、世界の経済に打撃となる。日本は米国と協調しながら中国に自制を促す必要がある。中国は海洋の安全保障で責任ある態度を示すべきだ。
東シナ海では中国がガス田開発を継続し、日本が中止を求めている。2008年、日中は共同開発で合意したが、沖縄県の尖閣諸島沖での漁船衝突事件などから、中国側が条約締結交渉を中断した。
中国は合意へ立ち返り、話し合いに応じるべきだ。中国の海洋進出が目立つなか、偶発衝突を回避する日中防衛当局間の海上連絡メカニズムの運用開始も急がれる。
経済を巡っては、中国が主導して年内に発足するアジアインフラ投資銀行の透明性の確保や、減速する中国経済に関して率直に意見交換する必要がある。
日中韓会談にも期待
日中間の経済的な相互依存関係は深まっている。2国間の貿易や投資、人の往来などを増やして互いの利益につなげていくことは、全体的な関係の改善にも役立つだろう。
韓国を入れた日中韓3カ国での対話も重要だ。3カ国首脳会談は12年5月以来、3年以上開かれていない。経済的に中国に傾斜する韓国は、対中関係を最大限に重視している。朴槿恵(パク・クネ)大統領は先に訪中し、軍事パレードまで参観した。
日本と韓国の立場は違うものの、中国だけではなく韓国も入れたマルチの対話実現は、アジア諸国に安心感を与える。日中韓首脳会談は来月以降、ソウルで開く方向で調整が進む。久々の3カ国会談に期待したい。
12年秋、尖閣諸島の国有化問題を引き金に、中国各地で激しい反日デモの嵐が吹き荒れた。日本企業が被った被害や打撃も大きかった。
それから3年。世界第2位の経済規模を持つ中国と、第3位の日本の真摯な首脳対話はアジアばかりでなく世界の安定にとって重要だ。ようやく見え始めた関係改善への道を歩んでいくべきだ。