(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(月亭八方)ありがとうございます超満員でございまして。
ちょっと声が傷んでおりますが別に悪さした訳ではございませんでまぁまぁ季節の風邪でございますがね。
大変ですな風邪ひくとねもうしんどうてね。
ええ。
もう今日もほんまは出たないんですけれども。
(笑い)そういう訳にいかず。
抽選で当たりましたので私。
(笑い)落語家も250人おるとなかなかNHKの落語会には出れませんからね毎年三が日に抽選するんでございます。
(笑い)で私はこの7月に当たったんでございますけれども。
まぁまぁなんでございますけど。
先々週ブラジルへ行って参りまして。
なかなかこれは行けませんからちょうどええ機会があって。
まぁなんでございますね遠いですよ。
(笑い)遠いとは聞いておりましたがもう本当に遠いですね。
地球の真裏と言うんですか?日本のね。
まぁ裏と言うのか向こうから言うたら向こうが表でこっちが裏やねん。
(笑い)あのサバンナの八木というのがギャグで「ブラジルの皆さん聞こえますか〜っ?」言うてるんです。
「聞こえてない」言うてましたね。
(笑い)それはそうでしょう聞こえてないでしょう。
「もう少し大きい声出してほしい」言うてましたけれども。
あれ乗り継ぎで行きます。
関空から私ね…いろんな行き方あるんですねロスへ。
とにかく10時間ぐらいロスへ行ってそこで7時間待ってでそこからサンパウロというこの裏へ回る。
これが13時間かかる。
ええ?33時間かかんですよ。
その前に関空へ2時間前に行きますからね。
(笑い)「すごいな」思てね。
で聞いたらヨーロッパパリのほうから回る人もおるらしいですね。
どっちからでも行けるんやて。
つまりこう丸い地球でこうこう。
私はまぁこうロスという事はこっちからこう回ったという事はまぁ環状線で言うと…。
(笑い)大阪から天王寺行くのに京橋まわりで行ってるようなもんで。
で他の人はなんかヨーロッパはまぁ弁天町まわりというか西九条まわりというかで行けるんやそうでございますけれども。
まぁしかし旅行気分で行きましたけどよろしいな〜何か海外へ行くというのはちょっと気分まぁ気が晴れると言いますか結構なもんでやはり旅行というのは人気あるの分からん事ございませんがね。
そうしてみますと人間というのはいろんな楽しみがあるようでございますが。
中には楽しみのない方もおられるというね。
「そんな人はおらんよ」と思ても現実にはまぁ昔はおったんやそうでございまして。
「おい。
何してんねん?」。
「ああ?いや立ってんねん」。
(笑い)「立ってんのは分かったるがお前立って何してんねんっちゅうねん」。
「立って立ってんねん」。
(笑い)「だいぶ阿呆やなお前は。
何を訳の分からん事言うてんねんがな。
ええ?そんなしょうもない事言うてんねんやあれへんがな一杯飲ましたろか?」。
「銭あんのんか?」。
「何を言うとんねんお前。
銭が無かっても酒は飲めるわい。
私の指先ズ〜ッと先見てみいズ〜ッと先見てみいほら向こうからお前酒樽が転込んで来んねやがな」。
「うん?指の先酒樽が…ええ?あれ割木屋の親父っさんやがな」。
「さぁそうや割木屋の親父っさんや。
あれが酒樽や」。
「あれ何で酒樽や?」。
「知らんか?お前あの割木屋の親父っさんあれいつも腰に胴乱ぶら下げとるやろ?あれ『胴乱の幸助』っちゅうねや。
ええ?『胴乱の幸助』っちゅう異名を取っとんねやがな。
あの親父っさん偉い親父っさんやで。
言うたってなまだ頭に髷があった時代にな〜もう丹波の篠山から朸の先に天保銭3枚ぶら下げて大坂出てきてからに一生懸命働いて働いて働いてええ?とうとう今ではもうこの表通りに店構えてしもたがな。
奉公人を3人も使てんねやで大したもんや出世物語やがな。
まぁそのかわりな〜?とにかく真っ黒なるまで働いたというさかいな何の道楽もないっちゅうねやがな」。
「ええ?道楽ないの?」。
「せや。
道楽ないねやが。
とにかく芝居見た事がないっちゅうねん浄瑠璃聞いた事がないっちゅうねん。
お茶屋ってな所は上がった事がないねんで。
芸者という紗は夏着るのんか冬着るのんか知らんっちゅうねん。
ええ?幇間という餅は焼いて食うのか煮て食うのか何にも知らんというそういう道楽がないねやがな」。
「ヘエ〜ッ何の楽しみもないていうたら人間生きてても何の楽しみもないな〜」。
(笑い)「何や訳の分かったような分からん事言うとんな。
ええ?まぁしかしなあの親父っさんは大したもんじゃい。
ああ。
そういうところであれは酒樽や」。
「どういう事?」。
「ちょっと金が残ったもんやさかいなこのごろようやく道楽見つけたんやがな」。
「ハア〜ハア〜ば博打か?」。
「何を言うてん博打やないねやがな喧嘩や」。
「け喧嘩?」。
「おう。
喧嘩いうても喧嘩すんのやないで。
ああそんな手荒い事せえへんねや。
喧嘩の仲裁やええこの仲裁を楽しみにしてんねん」。
「喧嘩の仲裁?それが何で道楽になんねや?」。
「そりゃそうやないかいなええ?もう喧嘩とあったら飛んで行くねんやが『待った〜お前ら待て〜。
私を誰か知ってるか?』って必ず入んねんやがな。
『割木屋の親父っさんでんな』とこう言うとウッとうれしいんやな自分の名前が有名になってからに。
『おっ私のこと知ってるか。
よしじゃあこの件私に預けるか?』『預けます』言うたら『おい。
ついてこい』言うて小料理屋行ってからにバ〜ッと飲ましてもうて『お前らもう喧嘩せんと仲ようせえよ〜』幡随院長兵衛は俺でございっちゅうな顔して帰ってくる。
こういう道楽があんねん」。
「けったいな道楽やな。
ええ?」。
「せやから今からお前と喧嘩してやな一杯飲もうっちゅうねん」。
「どどんな喧嘩を?」。
「相対喧嘩出来レースいうやっちゃな。
これ今からしてぇさかいなとりあえずお前な私になせやなバ〜ンとぶつかれボ〜ンとぶつかれええか?もうボ〜ンとぶつかる。
ほんで私がな『どこ見て歩いとんじゃい』バ〜ンと頭頭この拳骨でガ〜ンといくさかいに」。
「エエ〜ッ?われがボ〜ンとぶつかったら拳骨で頭…。
チョッチョッ…ちょっと待ってえなええ?まぁまぁそら飲ましてもらうねんやさかいええってなもんやけれどもどどっち殴る?」。
「どっちや分からへん」。
「いやここはあかんでここはあかんでここ腫物できてる。
よう見てここ腫物な?もううんでんねんうんでんねんここだけやめといてや。
できたらこっちにしてや」。
「ああ〜分かった分かった分かった分かった。
とにかく俺がボ〜ンといったらなそうやなお前なちょっと弱いほうがええな弱々しい声で『あっ何しなはんねん?』とこう言え。
ほな私はもう下駄で下駄履いたままお前の向こう脛バ〜ンと蹴るわ」。
「ちょっと待ってえな弁慶の泣きどころやないかいな」。
「何やボ〜ンと蹴るっつうねやないかい。
ほたらお前が『あ〜あんたそんな手出さいでもよろしいやないかい。
話したら分かりますやないかいな〜』てこう弱々しく言え。
ほたら私が『じゃかわしいわ〜い』言うなりお前のこのな脇腹の辺りをこの拳でバ〜ンとこう」。
「死ぬわそんなもの」。
(笑い)「いや形や。
ボ〜ンといったらもう脇腹をこうボ〜ンといったらお前いく前にボテンと倒れたらええねや。
ボテンと倒れたら私がその両足をグッと持って飛行機投げやブ〜ワ〜ン回してほんなら小便担桶へボ〜ン放り投げて上から石でバンバンバンバン」。
「帰らしてもらいます」。
(笑い)「チョッチョッ…ちょい。
帰ったらあかんがな帰ったらあかんがなもう飲まないかんのに」。
「阿呆らしいもうそんなまでして飲みとうないわい」。
「そんな事あれへん。
そのぐらいせないかんがな親父っさんに嘘やというのが分かったらいかんさかい言うてんねやで。
アア〜ッほら来た来た来た…。
ほらぶつかれほらぶつかれ早うぶつかれ早うぶつかれっちゅうねん」。
「ウウウ〜ッええ?ぶつかったらええの?」。
「早うぶつかれ。
アア〜ッ。
どこ見て歩いてるんじゃこのガキは」。
バ〜ン。
「ここはあか〜ん」。
(笑い)「ここはあかん言うたのに。
こっちやで」。
「こっちもこっちもあるかい」。
タッタッタッタッタッ。
「痛い痛い痛い。
あかんあかんあかん。
痛い痛い。
どうしてもやんのか。
よ〜しもう殺さば殺せ〜」。
「いてもうたるわい〜」。
その「いてもうたるわい」「殺さば殺せ」この声が割木屋の親父っさんの耳に入ったもんですさかい親父っさん「うん?待った〜っ待った〜っ。
お前ら私を誰か知ってるか?」。
「あっ割木屋の親父っさんでんな」。
「おおっ?」。
(笑い)「おい。
お前はどやねん?」。
「はい。
割木屋の親父っさんでんな」。
「知ってんのかい。
この町内の者か?ああ?お前ら知ってんだ。
この喧嘩私に預けるか?」。
「ええええ。
あの〜預けさしてもらいます」。
「そうか。
お前はどやねん?」。
「エヘヘあの〜預ける事になってまんねん」。
(笑い)「なってまんねん?何じゃその頼りない言葉。
そうか。
よし分かった。
よしついてこい」。
「ムハハハハな?な?もうなそのとおりやろ?」。
「ハハハ。
でも痛い。
ちょっとお前殴り過ぎやでお前どうでもええけどこんなの一杯では話にならんちょっと少々余分に飲ましてもらわな」。
「何を喋っとんねお前ら後ろで。
私が喧嘩の仲裁に入ってからそれから仲ようなって喋んねやないかい。
喧嘩の仲裁に入る前にお前ら喋るな。
頼りのうてしょうがないほんまにもう。
黙ってついてこい。
ごめん」。
「はい〜。
お越しやすええ〜お越しやす」。
「おう。
いつもの二階借りるで。
オウッ。
あ〜それからなあの〜酒は銚子1本と盃それだけでええ先持って上がって。
うん。
さぁ上がれおい上がれそっち座れ。
そっち座れ。
あ〜酒そこ置いといてうんうん。
盃と。
うん。
それだけでそれだけで。
またあとであとで言うさかいとりあえず1本とうん盃1つそれでいい。
ウ〜ン。
まぁ今日はこうしてこんな私に喧嘩の仲裁を任してくれた。
礼を言います。
うん。
ところで喧嘩の事の成りゆきはどういう事で喧嘩になったんかそれちょっと聞かしてもらおうか」。
「もう親父っさん。
そんなんどうでもよろしいやんかとりあえず飲みまひょうな」。
「何を言うとんねん。
事の成りゆきも聞かんとお前ええ?飲むっちゅう訳にいくかい。
ハハ〜ンお前のほうが悪いな。
分が悪いからそんな事言うとんねんな。
よし分かった。
お前立ってえ。
おい。
お前言うてみい事の次第を最初から。
何で喧嘩になったか言うてみい」。
「最初からですか?」。
(笑い)「私立ってたん」。
(笑い)「うん」。
「ほんならこいつがね『何してんねん?』って言うから『立ってんねん』て。
で『立って何してんねん?』言うから『立って立ってんねん』て」。
「お前だいぶ阿呆やな」。
(笑い)「何を訳の分からん事を言うてんねん」。
「いえそない言うて『一杯飲ましたろか?』言うて『酒か?』て。
『当たり前やがな』。
『銭あんのんか?』っていうたら『銭要らんねん。
向こうから酒樽が転がってくんねん』」。
(笑い)「親父っさん。
こいつもう阿呆だんねん。
こんな奴の言う事を聞かいでも」。
「黙ってぃっちゅうねん。
分かった。
要するになにやな?お前ら酒飲む飲まんで喧嘩したんやな?」。
「エエ〜ヘ。
そういう事でんねん」。
「したらなにか?酒さえ飲めたら喧嘩はなせんっちゅう事じゃな?」。
「ええ〜そういう事でんね」。
「チャ〜ッしょうもないほんまに酒の事ぐらいでもう大人が喧嘩しやがって。
分かった。
うん酒さえ飲んだらええねやろ。
その銚子こっち貸せ。
言うとくぞお前らな?そんなな生きるか死ぬかの喧嘩はな一生に1回いや〜もう1回もあったらあかんのじゃい。
ほんまにもうええ?私が通ったからええで私が通らなんでみい今頃どっちかが大けがをしてどっちかが死んでんのじゃい。
ええ?せやろ?」。
「いや。
親父っさん通らなんだら喧嘩になってえしまへん」。
(笑い)「こいついよいよ阿呆やな。
何言ってるか分からへん。
おう。
盃持て。
おう分かった。
おうはいはいグッといけグッといけまぁとりあえず。
うん。
うん。
こっち回せ。
うん。
グッといけよ。
おう飲んだらこっち貸せ。
いいから注げ。
うん」。
「ア〜ッ」。
「よし。
もうこれでお前ら仲直りせないかんぞ。
分かってるな?ええ?よしまぁまぁとにかく喧嘩は収まったという事で。
私もなお前らとつきおうてやりたいけど忙しわい。
ほんなら私これで帰るさかい」。
「いやちょっと親父っさんそれそらぁおかしいわ。
こんな喧嘩になってんのにお銚子1本ってそれでは話が違う」。
(笑い)「誰がいつそんな話したんや?」。
「いいえそんな…。
こらぁ1本でそんな大の大人が」。
「分かった。
おう下に言うといたる適当に飲んだらええやないかいな〜適当に飲んで。
お前ら言うとくぞな〜また酔うて喧嘩したらあかんぞ〜喧嘩すなよ〜。
分かってるな?」。
「エヘヘヘヘ親父っさんえらいすんまへん。
ほな言うてもらえますか?」。
「ああ言うたる。
銭のほうはこっちのほうにつけるように言うといたるさかいに」。
「あ〜ハハハ左様か。
ほんですんまへんけど親父っさんちょっとあの〜小鉢物も2つ3つ」。
(笑い)「何でもええがな」。
「み土産に鰻巻かなんか」。
「あつかましい奴っちゃなこいつはほんまに。
ええ。
言うたるうん分かった。
喧嘩すなよ。
上の奴二人にななんか足らんて言うてるさかいもうちょっと飲ましたってくれるか。
でちょっと小鉢物と。
帰りに土産持たしてくれさかいに。
うん。
銭はこっちのほうへうん回してくれたらええいつものようになああ頼むで。
また喧嘩したらすぐに言うようにとんでもないもんさかいな。
頼りないなほんまにもう頼りない喧嘩や酒を飲む飲まんぐらいで。
ア〜ッもっと大きな喧嘩はないのんかいなもう」。
(笑い)「な〜ドスがグワ〜ッと飛び交ってるとこへ私がピャ〜ッ。
『待った〜ほら待たんかい〜』。
ズバ〜ッとこの額切られてからに『三日月の親父っさん』とかそういうような異名を取ってみたいわい。
ア〜ッ喧嘩はないかいな」。
喧嘩を探しながら町内をウロウロウロウロウロウロウロウロ回っておりますとちょうど一軒の稽古屋さんでございまして浄瑠璃の稽古屋さん。
もう昔はのんびり致しておりました。
ええ。
格子造りでもう皆さんがこう並ぶ方はもちろんですがご近所の方がその浄瑠璃の稽古をもう見てる聞いてるというか「それが楽しみや」という人がおったんやそうでございましてね。
その浄瑠璃の稽古屋のほう中では一生懸命お稽古の最中でございまして。
「さぁ由丸さんよろしいか?あんたやで今日は言うとくであんた言うとくでな?今日はあんたの注文やでな?『桂川連理柵』『お半長』よろしいな?あんたな〜大概なもうなんかさわりしただけで『いやもうこれあきまへん』『これ嫌いやんね』とか『もうこれは…。
他のものを』とか言うやっしゃろ。
あんたちょっとやって…。
この間もそうやがな『堀川』やったらもうすぐに『それあきまへんね』。
ええ?『壺坂』やったら『いやそれもあきまへんね』とか言うといてからにすぐに…。
今日はあんたのご指名だっせよろしいな?分かってるね?」。
「エヘヘヘヘヘええ分かってます。
分かってます。
今日は私ねあの『桂川連理柵』『お半長』エヘッこれ好きなんで。
ええ」。
「ほんならよろしいな?じゃあまぁちょっと…。
本を出して本を出して本をあんたも出しなはれ本をな。
よろしいな?いきまっせ?ウフン。
最初は三重だっせ。
ええ」。
・「シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン」・「上がりゆくウ〜ウ〜ウ〜」・「シャンシャ〜ン」・「ウ〜ウ〜ウッ」・「柳の馬場押小路」・「軒を並べし呉服店現金商い掛硯」・「ペン」・「虎石町の西側に」・「主は帯屋長右衛門井筒に帯の暖簾の」・「かけね如才も内儀のお絹」・「気の取り苦しい姑に」・「目をもらわじと襷掛け」「とさぁそれやってみなはれ」。
「お師匠はん。
私ここ好きやおまへんね」。
「また始まった」。
「いや違いまんこれ好きでっせ『お半長』。
ここと違いまんねん。
このこのさわりじゃないこの最初やなしにもうちょっと中のもうちょっと中のあの姑が嫁をいじめるところねあそこが好きですねん」。
「姑が嫁をいじめるとこ」?「そうそう。
チョッチョッチョッここここここあっここここあ〜そうそうそうそう。
『親じゃやわ親じゃやわい』。
『腹が立つ腹が立つ』。
『あ〜腹が立つとは何とした?』。
『胴欲な胴欲な胴欲じゃわいな〜あ〜』」。
(笑い)「どうです?」。
「まぁ浄瑠璃みたいになってますけどな〜確かにそこは」。
「そうでっしゃろ?ヘヘヘ。
もう『好きこそものの上手なれ』と言うてからに」。
「もし。
おいなはれあんたええ?えらい事やってまっせ『桂川連理柵』『お半長』。
私好きやねん。
こんなんめったに聞けまへんで早う来なはれ来なはれ。
『お半長』もう私好きやがな。
特にあんたなもう芝居や浄瑠璃分かってます分かってますけど私あんたあのお登勢が嫁をいじめるところあそこへきたらもう浄瑠璃と分かっとってもむかつくんや。
舞台へ上がっていってからあの人形どついたろかしら思いまんね。
もうあの嫁いびりは…」。
この「嫁いびりは」というのが割木屋の親父っさんの耳に入ったもんですさかいえらい事でございます。
「ちょっとごめんなはれちょっとごめんなはれ。
どこぞで嫁いびりがおまんのか?」。
「ええ〜ええ。
やってまんねん」。
「どこで?」。
「いえいえこここで」。
「ここで?」。
「いえいえちょっと聞いてみなはれな」。
「『腹が立つ腹が立つ』。
『腹が立つとは何とした?』。
『胴欲な胴欲な胴欲じゃわいな〜あ』」。
「えらい派手にやっとんな。
であんたらなにか?ここでこんだけ喧嘩してるっちゅうのに誰も中に入らんと皆何や笑たりええ?なんか外で聞いてあんたらそんな薄情な人間ばっかりかいな。
誰も止めに入らんのか?」。
「えっ?いいえいえいや違いまんがなこれあの〜浄瑠璃だんねん」。
「浄瑠璃って何じゃい?」。
「いえ『お半長』でんがな」。
「『お半長』って何じゃい?」。
「知らんのかいなこの人」。
「もうええ。
お前らほんまにどいつもこいつもあ〜腰のない奴っちゃ。
私が中へ入ってちゃんと話を聞いてやる。
ごめんなはれ」。
「お師匠はん。
誰か来てまっせ」。
「へ〜へ。
どちらはんでございますかいな?」。
「あんたがここの主さんでっか?みっともないと思わんか?」。
(笑い)「何がございます?」。
「まぁどうでもよろし。
近所の人は皆笑てます。
あのなあのその『親じゃやわい親じゃやわい』って言うた人間ちょっとここへ呼んでもらえますか?」。
「由丸さん。
おいなはれ。
あんたおかしな声出すから見てみいな何や…」。
(笑い)「こっち来なはれ。
この人でんねん」。
「うん?えらい若いな。
うん。
なら『胴欲じゃ胴欲じゃ胴欲じゃわい』と言うた人間ちょっとここへ呼んでもらえますか?」。
「ええそれもこの人ではんねん」。
(笑い)「ウ〜ンほななにか?一人で喋って一人で返事した」。
「ええ。
そうでんね」。
「お前阿呆か?」。
(笑い)「いいえち違い…。
アハハいやこれはあんた浄瑠璃だんがな」。
「浄瑠璃って何じゃい?」。
「ウウ〜『お半長』だっしゃないかいな」。
「『お半長』って何じゃい?」。
「ウホッあんた知りなはんのかいないや困ったもんやな。
ええ?いやこれここの話違いまんがな京都の話でんねで」。
「何?京都の話お前らここでしてたんかい?暇なガキらやな〜。
で京都はどこじゃい?」。
「ウハ〜ッ知りまへんのかいな?あんた。
知らなんだら言いますけどなこれ『お半長』と言いましてなこれ京都の柳の馬場押小路虎石町の西側にな帯屋長右衛門という店がおましてなその長右衛門というのは主でねんけど養子だんねんこの人なああで親父っさんは半斎さんて人おりまんねやでところがこの親父っさんはええ人なんだけどこの人に後妻あとからまぁもろた嫁はんこれがまた腹黒うてからにおまけにな儀兵衛という連れ子を連れてきてまっしゃろ?この腹痛めた母親はやっぱりできたら帯屋のな全てもう帳面は自分の腹痛めた儀兵衛に任したい。
しかしそこは長右衛門さんがいてるさかいに『もうなんとかこの長右衛門を放り出したいな』。
ところがお絹さんはなんとかかばおうとする。
そこでいろいろもめますわいな。
でまたこの長右衛門さんがなまあ〜悪い事に伊勢へ参ったその下向道石部の出羽屋という宿屋でそこで近所の信濃屋のお半さんとウ〜ンなんか出会うて男と女やがなその晩一緒になってからにええ?ねんごろになってからにこないなってもうたりしますがなそれをまたお登勢が聞いてからに『これをねたに強請らないかん』という訳でなんとかこの件で放り出そうとするお絹さんはかばおうとする。
もめますわな」。
「そらぁもめる」。
(笑い)「一番もめるとこや。
なるほどそれでもめてんのんか。
うん。
それを聞いたら私も聞いたかぎりは知らん顔できんわ。
よし今から私は京都行ってきたる」。
(笑い)「どういう事ですか?」。
(笑い)「お師匠はん京都行てもろうたらどうでっか?」。
(笑い)「行てもらう?」。
(笑い)「あんたあの〜京都今から行きなはるか?」。
「おお〜。
行ってきたる。
そのかわりなちょっとややこしい。
これに全て書け。
出てくる名前それから場所全部細かく書いてくれ。
それを頼りに行くさかいに。
ほんまにもう今日日のもめ事は頼りないで。
またその男も男やないかええ?女房がおるのにもうそんなもう女子…。
いくつの女子や?おいお半て。
ええ?14?なんとまあ〜。
おっ書けたか?ちょっとこっち貸せ。
ええ?エ〜トちゃんと抜けへんように書いてくれてはんで。
柳の馬場押小路やなうんなるほどうん。
エ〜ト虎石町の西側主は帯屋長右衛門とお〜なるほど。
でこの女房がお内儀がうんお絹な。
でお登勢これが姑これが腹黒いんな?で連れ子が儀兵衛。
書いたるな書いたるな。
でこの信濃屋はあっ近所の信濃屋お半な。
これが14か。
ハア〜ッほんまに…。
この丁稚の長吉ってこれ何や?ええ?何?信濃屋の丁稚?うんあ〜そうか。
まぁまぁとにかく誰も抜けてないか?よし分かった。
今から京都へ行ってきたるさかいに」って。
さぁすぐ行きゃよかったんですがなんせ旧弊な親父っさんでございますからそのまま。
当時明治の初年でございますから既に大阪京都間は汽車が走っておったんでございますが何となく石炭をくべるあの煙と臭いが嫌やというので使い慣れました三十石船大阪の八軒家から京は伏見の浜まで出ておりましてこれが夜船でございましてこれが非常に人気があった。
夜寝てる間にまぁ着いてしまうという。
まぁ最近でも夜行列車とかね夜間飛行みたいなもんでございますけど寝てる間に着くという便利なその三十石に乗ってからに京都のほうへやって参りまして。
尋ね尋ねて虎石町の西側なんと1軒帯屋はんがあったんやそうでございます。
気の毒はその帯屋はんで…。
(笑い)「ごめんなはれ」。
「へい。
お越しやす。
え〜どうぞどうぞお掛けやしておくれやす」。
「いやいやいやいや」。
「あの〜お茶を」。
「いやいやいや。
帯を買いに来たんやないんでな。
ちょっと今日は話をさしてもらいに来ました」。
「どうぞそらぁなおの事どうぞお座布団を当てておくれやす」。
「ウ〜ウ〜ウ〜まぁええわい。
とりあえずちょっと煙草を一服な吸わしてもらううん」。
「ウ〜ンなるほどねウ〜ン。
ウ〜ン」。
「ハア〜ッ」。
「何でございますかいな?」。
「聞くところによるとお宅は近頃ゴジャゴジャともめてるような」。
「家でございますか?いえいえいえ。
そんな事ございません家はもう家内ともう仲ようさせてもろうてます」。
「隠されても困ります全部調べ上げておりますので。
あんたどなた?番頭?あっなるほど。
そりゃそやわなあ〜店の恥を表に出すまいという忠義なお方やうんうん分かりますフンフンフンフン」。
(煙管をはたく音のまね)「ちょっとなあの〜ご亭主主の長右衛門さんをここへちょっと呼んでもらえますか?」。
「何でございます?主の長右衛門?いや。
家は長右衛門と申しませんで何かの間違い太兵衛と申しますが」。
「ウ〜ンまぁ長右衛門さんは確かに出にくいでっしゃろうんうんなるほどねうんうん分かります。
まぁ…」。
「いくら誤魔化そうとしてもそれは無理です。
全て調べ上げてきておりますんで」。
(笑い)「あの〜長右衛門さんはよろし。
な?お内儀のお絹さんちょっとここへ呼んでもらえますか?」。
「やっぱり間違うておられます家のお内儀はお絹じゃございませんでお花と申しますもんで」。
「ウ〜ンあんたな隠しても分かってはんねんええ?せやろ?私言うときますよ話をしたからというて帯の一本ももらおう礼金のいくらかでももらおうそんな気はさらさらおまへんね。
親切で来てまんね」。
(煙管をはたく音のまね)「あんたがどうしてもなしらばくれるのやったらしょうもおまへんな信濃屋へ先行きまひょか?信濃屋へ行ってお半さんと先会うたら困るのはお宅と違いますか?」。
「ハア〜ッ?ちょっと待っとくれっしゃさっきから長右衛門とかお絹とか。
信濃屋?お半?あっそりゃあんた『お半長』と違いますか?」。
「そうじゃ『お半長』じゃ。
やっと白状しよったな〜」。
(笑い)「アハハ阿呆な事言いなはんなあんたもうそんな阿呆な事を」。
「何がおかしいんじゃ?」。
「当たり前…ええ?『お半長』でしたらもうとっくの昔に桂川で心中しましたがな」。
「何?心中した〜?しもうた〜っ汽車で来たらよかった〜」。
(笑い)
(拍手)2015/09/20(日) 14:00〜14:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 落語「胴乱の幸助」[解][字]
第354回NHK上方落語の会(7月2日:NHK大阪ホールで収録)から、月亭八方さんの「胴乱の幸助」をお送りします。
詳細情報
番組内容
第354回NHK上方落語の会(7月2日:NHK大阪ホールで収録)から、月亭八方さんの「胴乱の幸助」をお送りします。【あらすじ】けんかの仲裁が唯一の楽しみの男。その男が稽古屋の前を通ると、聞こえて来たのは浄瑠璃の「お半長」の「帯屋」の段、嫁いびりのくだり。浄瑠璃なぞ知らないこの男、本当のけんかだと思い、このけんかは俺が止めると、急いで京都へ繰り出して行くのだが…。
出演者
【出演】月亭八方,林家和女,桂米輔,桂米左,桂團治郎,増岡恵美
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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