(田代野絵)お嬢様!
(杉下右京)その息絶えた少女の手には1輪のアザミの花が握られていました。
それを知っていたのは同じ顔をしたもう1人の少女だけでした。
(すすり泣く声)
(泣き声)
(新宮孝子)うう…うっ!ううっ…!
(発信音)
(操作音)
(不通話音)
(孝子)ああ…ああっ!ああーっ!
(孝子)ああー!ああ…ああっ!
(悲鳴)おはようございます。
(角田六郎)おい。
あんたクラシック好きだったよな?ええ。
じゃあ新宮ヴァイオリン工房って知ってるか?ええ。
世界的な演奏家の弾く名器のメンテナンスも行っている老舗のバイオリン工房ですねぇ。
ああ確か先月バイオリン教室を全国展開する大手の楽器店と提携を発表して話題になりました。
教室に通う全ての生徒に新宮工房のバイオリンを使ってもらうという一種の芸術振興プロジェクトだそうですよ。
はあ〜…。
なんでもよく知ってるね。
でもこれは知らないだろ。
その新宮工房の社長夫人が夜中過ぎに別荘で殺されてるのが発見されたんだってよ。
おかげで一課も鑑識も徹夜だったみたいでさ。
(角田)おい…ちょっと!
(米沢守)新宮孝子さんの遺体は昨夜遅く都心から車で2時間ほどの新宮家の別荘で発見されました。
(米沢)死因は絞殺。
死亡推定時刻は一昨日の土曜日の午後1時から5時の間。
被害者は犯人の隙を見て電話をかけたらしく固定電話のダイヤルに指紋が残っていました。
かけた先は?
(米沢)夫の新宮蔵人さんの携帯です。
通話記録によると電話をかけたのは午後4時2分。
つまり死亡推定時刻はその4時2分から5時までのおよそ1時間に絞られる…という事ですか?左様。
発見時玄関の扉は施錠されておらず犯人はそこから出入りしたものかと思われます。
また被害者の財布の現金10万円と腕時計と指輪合わせて200万円相当が奪われており一課は物取りの線で捜査をする方針のようです。
(甲斐享)杉下さん。
どうも。
一課が新宮孝子さんの遺体を発見した遺族から事情聴取を始めるみたいですよ。
カイトくん君どうしてその件を?うーん…俺は角田課長を事情聴取したんで。
(芹沢慶二)そろそろ…始めて大丈夫ですか?
(新宮蔵人)ええ。
ショックで少し気分が悪くなっただけですから。
(新宮響)あの…叔父さま何かお薬でも買ってきましょうか?大丈夫だと言っているだろう!
(芹沢)「新宮響さん」「あなたと亡くなられた孝子さんとのご関係は?」あ…はい。
私は姪であの…。
これの父親が私の兄に当たります。
その兄夫婦がこれが10歳の時に視察先のドイツで事故死してそれ以来響は私たちと一緒に暮らしています。
(芹沢)お仕事は?うちの工房で見習いと事務の手伝いを。
(伊丹憲一)それでは一昨日の土曜日孝子さんはなぜ別荘に行ったのか話してもらえますか?孝子は月に1度まとめて経理の仕事をするために1人で別荘に行く習慣があったんです。
その際はいつも響が車で送り迎えをしていました。
(伊丹)今回もですか?
(響の声)あ…はい。
(響の声)土曜日の12時半頃に着いて私はそのまま帰りました。
(伊丹)これは形式的な質問です。
土曜日の午後4時から5時の間どちらにいましたか?フフ…私はその…。
ドライブに出ていました。
湘南方面に。
あいにく1人だったので証明出来る人はいませんが。
奥様から電話がかかった時何を?携帯は忘れて出ていたんです。
だから妻からの電話も取れなかった。
助けを求めていたのに。
(伊丹)響さんは?「港区の工房で他の見習いさんたちと一緒にマイスターの仕事の見学してました」新宮蔵人さんにはアリバイがありません。
たまたま携帯を忘れて出かけていたっていうのも気になるし。
僕が気になるのはむしろ被害者の孝子さんのほうです。
孝子さんは身柄を拘束され命の危険を感じていたはずです。
一刻も早く助けが必要な時にどうして110番ではなく蔵人さんの携帯に電話をしたのでしょうねぇ?それもそうですね。
余程愛し合っていたのか…。
(板倉達夫)いいか?この駒の調整というのは音色を決める要の1つでこの…。
(板倉)あんた誰だ?警視庁特命係の杉下と申します。
マイスターの板倉さんですね?ここは工房だ。
事件の事なら事務所のほうへ。
実に素晴らしい!これはあの名演奏家クラウス・ローゼの愛用するガルネリ・デル・ジェスですね?18世紀にクレモナで作られた名器で世界に200本ほどしか存在しないというまさに値段のつけられない芸術品ですねぇ。
いやあ素晴らしいですねぇ…。
休憩だ。
土曜の午後響さんが見学していたというのもこれですね?ああ。
3時頃来て私が帰る7時近くまで見てたよ。
彼女はもう長くこちらに?子供の頃からね。
響はとにかく耳がいい。
弦楽器職人というのは音色を聞き分ける耳が必要不可欠でね。
音色というのは音の質の事ですね。
音の深さやつや硬さ等の。
そう。
これは木材やニスの質経年職人の腕なんかでかなり変わってくる。
響はちゃんと修業すれば一流になる。
まったく社長も横手なんかをドイツにやるぐらいなら響をやりゃあよかったんだ。
その横手さんとおっしゃる方は?あんたうちの提携話は知ってるかい?大手楽器店が経営するバイオリン教室に新宮工房の楽器を使ってもらうというあれですね?はた目には芸術振興に見えるだろうがまっとうな手工芸楽器は材料も高価で製作にも時間がかかる。
実際のところは安い材料で見習いに量産させて新宮の名前で高く売りつけるのが目的なんだ。
(板倉)この楽器店との提携話を仲介したのが昔ここで見習いをしていた横手護だ。
横手は14年前に社長夫婦の援助でドイツに留学してね。
マイスターの称号を取って一昨年帰国。
私に言わせりゃあ職人の風上にも置けない男だね。
あんな話に乗っちゃあ新宮が守ってきた音色もおしまいだ。
(板倉)先代も悲しむよ。
先代というのは響さんの亡くなったお父様ですね?ああ。
新宮行人。
いいマイスターだったよ。
そうですか。
お忙しいところ長居をしてしまいました。
ありがとうございました。
申し訳ない。
もう1つだけよろしいですか?ああ…。
今の社長の蔵人さんですがこの工房を引き継ぐ前は何をなさっていたのでしょう?若い頃に先々代に勘当されて確か…大型スーパーの台湾支店にいたそうだが。
台湾のスーパーですか…そうですか。
どうも失礼します。
じゃあその先代の行人さんが生きていれば工房は本来響さんが継ぐはずだったわけですか。
ええ。
でも叔父夫婦が何をしようが響さんじゃ反対出来ないでしょうねえ。
事務所の人の話では響さんは叔父夫婦に何を言われても文句一つ言い返せない性格らしくて。
お手伝い同然こき使われてるみたいです。
そうですか。
でその新宮夫妻のほうは?経営の実権は孝子さんが握っていたようです。
夫婦仲はかなり前から冷め切っていて蔵人さんに愛人がいるのは公然の秘密。
孝子さんもそれを知っていて無視していたようです。
死の危機に瀕した時に電話をするほど夫婦愛があったとは思えませんがね。
僕は思うのですが2人は愛情というよりも別の何かで結びついていたのではありませんかねぇ?別の何か…?カイトくん。
はい。
君横手護さんの事を少し調べてみてくれませんか?了解です。
で杉下さんは?僕はその別の何かのほうを。
ちょっとよろしいですか?僕は警視庁特命係の杉下といいます。
あの…事件の事ならさっき警察で…。
実はあなたに1つお願いがありまして。
(店員)ごゆっくりどうぞ。
あの…お願いって…?響さん。
僕は以前あなたにお会いした事があります。
え?15年前の夏クラウス・ローゼが来日した時リサイタルのあとに新宮家の別荘で開かれたパーティーでローゼが演奏した事がありましたね?はい。
来日直前に事故で亡くなられたあなたのご両親マイスター行人夫妻のために。
(バイオリン)
(杉下の声)僕はドイツ大使館にいた友人の誘いであの場にいたのです。
(バイオリン)
(拍手)素晴らしい演奏でしたわ。
リサイタルの音色と寸分違わぬ見事な音。
まるでもう一度リサイタルを聴いているようでしたわ。
ね?あなたもそうお思いでしょ?
(蔵人)もちろんだ。
(孝子)ええ。
そのバイオリンはリサイタルで演奏したものとは別の楽器です。
音色が違います。
(クラウズ・ローゼ)お嬢さんあなたの言うとおりです。
実は助手が誤ってスペアのバイオリンを持ってきてしまったのです。
(拍手)
(杉下の声)あの少女はあなたの双子のお姉さん奏さんだったのですね?奏は勇敢でどんな時も毅然としてて工房の職人さんや演奏家の方とも立派に話が出来ました。
奏さんはパーティーの半月後に亡くなったそうですね。
あの夏はずっと別荘で過ごしていたんですが事故があった時奏はたまたま1人だったんです。
叔父と叔母は散歩に出かけてて…。
(響の声)私は小児ぜんそくの検診で家政婦さんと一緒に都心の主治医の先生のところへ…。
翌日刑事さんから奏は窓から入ったスズメバチに刺されて死んだんだって聞きました。
僕はちょうど休暇でロンドンにいて奏さんの事件を知ったのは随分あとになってからでした。
(ため息)本当は私じゃなくて奏のほうが生きてればよかったんですけど…。
私がいてもあまり意味がないから…。
そんなふうに考えてはいけません。
第一僕には響さんの助けが必要なんです。
僕のお願いというのは…。
15年前の奏さんの死に関して何か思い出した事があればどんな些細な事でもいいから知らせてほしいという事です。
杉下さんは奏の死が事故ではないと…?それはまだわかりません。
でもスズメバチを操る事なんて誰にも出来ないんじゃ…。
ええ。
しかし僕は今回の事件は15年前の事件と関係があるのではないかと考えています。
お願い出来ますか?はい。
(曲)新宮奏ちゃんの事件ねえ…。
最初は不審死で捜査を始めたんだが検視ですぐにスズメバチに刺されたのが死因だとわかってね。
状態から見て刺されたのは午後3時頃って事だった。
近くにスズメバチの巣があったのですか?ああでっかいのがね。
(曲)前の週に庭の奧の物置で見つかってね。
前日に業者に駆除してもらったばかりだったんだ。
しばらくはハチが残ってるかもしれないから窓を開けないように言われてたそうなんだが子供だからそいつを忘れてつい開けちまったんだな。
ご家族もそれで納得されたわけですね?双子の妹以外はね。
スズメバチの事を知っていたのに窓なんて開けるはずない!あの子はとても慎重で怖がりなのに。
いいかい?ハチに刺される前に窓が開いていたのを工房の横手さんが見てるんだよ。
ね?えっ?その日あの横手護さんが別荘に来ていたのですか?ああ。
彼は当時新宮工房で見習いをしててね。
(曲)午後2時頃工房からの使いで別荘を訪ねてたんだ。
その時に2階の子供部屋の窓が開いているのを見てるんだよ。
そうですか。
お忙しいところありがとうございました。
じゃ。
(携帯電話の振動音)杉下です。
僕です。
横手護さんですが孝子さんが殺害された日彼は現場から歩いて15分ほどの貸別荘にいたそうです。
なるほど。
(横手護)ええ。
あの日は貸別荘にいましたよ。
前の晩に秘書に車で送ってもらい土曜の夜に迎えに来てもらいました。
別荘にいらした目的はなんですか?フフ…気分転換です。
星を見たり風の音を聞いたり。
新宮孝子さんと会ったり…。
ハハハハ…刑事さん1つ教えてあげます。
私が孝子さんの事件に関わっていると思っているのならそれは間違いです。
ニュースでは孝子さんは絞殺されたと言ってましたよね?骨折した手首で絞殺出来ますか?その手首はいつ?1週間前夜中にこの家の階段をうっかり踏み外しましてね。
ハハ…もう…。
横手さんには犯行は不可能ですね。
15年前の新宮奏さんそして今回の孝子さん。
新宮家の2人の人間の死亡時いずれも近くに横手さんの姿があります。
僕には偶然とは思えません。
カイトくん。
はい。
1人重要な人物を探してください。
奏さんが亡くなった夏新宮家にいた家政婦ですね?君最近わかりがいいですねぇ。
フフッ…。
彼女は必死にハチを振り払おうとしたのですねぇ。
スズメバチに特定の人間を襲わせるなんて不可能だろ。
防護服でもないと自分がやられちまうよ。
ここ…。
ティーカップは床に転がっているのにお茶はこぼれていません。
だから?彼女は3時のお茶を飲まなかったようですねぇ。
うん…。
えっそこ気にする?あの人たちはアザミのような人たちよ。
杉下さん新宮響です。
あの夏近くの別荘にスイス人の写真家の方が滞在してらしてたくさん写真を撮って頂いたのを思い出したんです。
あっパーティーにもいらしていた方ですね?はい。
それで写真が何かお役に立てればと思って…。
あっどうぞこちらにおかけになってください。
(響)これです。
拝見します。
横手さんですね。
よくこちらにいらしていたのですか?ええ。
工房のお使いで時々…。
横手さんが帰国されてからお会いになりましたか?いえ。
元々横手さんと親しかったのは奏でしたし…。
そうですか。
響さん。
はい。
15年前のパーティーの時音色の違いに最初に気づいたのは響さんですね?え…。
あなたはそれを奏さんにそっと教えてあげた。
見ていらしたんですか?あのあと僕はあなたに話しかけたんですよ。
「音色の違いに最初に気づいたのはあなたですね?」と。
するとあなたは「内緒よ」と笑って階段を駆け上っていった。
覚えていませんか?杉下さん…。
あの時の方だったんですね。
はい。
(電話の呼び出し音)米沢さんですか?1つ調べて頂きたい事があるのですが。
(野絵)すみませんお待たせしてしまって。
昨晩は電話で失礼しました。
いいえ。
新宮家で家政婦をしていた田代さんです。
特命係の杉下です。
お仕事中すみませんね。
いいえ。
響さんの事はずっと気になっていたんです。
私は奏さんが亡くなってすぐに辞めさせられましたから1人でひどい目に遭っていないかと。
ひどい目というのは?最初からでした。
あの方たちはお嬢様たちをご両親のお葬式にも出席させなかったんです。
工房の跡継ぎは自分たち弟夫婦だと周りに印象づけたかったんでしょう。
孝子様は別荘の子供部屋に鍵をかけてお二人を閉じ込めてしまったんです。
奏さんが亡くなった日の事を話して頂けますか?はい。
確か都心の病院へ着いたのが1時頃でした。
私少し心配だったので響様に言ったんです。
(野絵)響様からも奏様におっしゃってくださいね。
あんまり孝子様たちを怒らせないようにって。
一緒に暮らしていくんですから。
(響)あの人たちはアザミのような人たちよ。
たくさんの棘で触れる人を傷つけるアザミ。
そう奏が言ってたわ。
またそんな事を…。
孝子様にもいいところはありますよ。
昨日は香水をくださったでしょ?あなた方のお母様の形見。
あれは…嬉しかったけど…。
ね?だから奏様におっしゃってくださいね。
この間のパーティーのような事をしてはいけないと。
大勢の前で大人に恥をかかすような事をしては。
そのバイオリンはリサイタルで演奏したものとは別の楽器です。
(野絵)あの場では何もおっしゃらなかったけれど孝子様はなんだか怖いぐらい怒ってらしたんですよ。
(野絵)どうなさったんです?帰らなきゃ。
(野絵)診察はこれからですよ。
帰る!今すぐ帰らなきゃ!お嬢様!双子というのは何か感じ合うものがあるのかもしれませんね。
ところで田代さん。
見て頂きたいものがあるのですが…。
この写真なんですがね木のここにペットボトルのようなものがあるのですがこれがなんだか覚えていませんか?これは蔵人様が作ったスズメバチの捕獲器です。
この中に甘い液体を入れておくとスズメバチが入って溺れて死ぬんです。
(女性)田代さんちょっと来てくださる?はーい!あっすみません。
ちょっと失礼します。
はーい!捕獲器ですか…。
杉下さん。
ここ見てください。
1度はがした跡があります。
ええ。
写真を取り出したのでしょうかね?ええ。
(携帯電話の振動音)失礼。
はい。
(携帯電話の振動音)杉下です。
米沢です。
捜査一課が新宮孝子さん殺害容疑で夫の新宮蔵人を逮捕しました。
いつですか?新宮蔵人の車が犯行時刻に別荘付近に止められていた事がわかり家宅捜索したところ…。
(捜査員)あったぞ!
(米沢)蔵人の車の中から被害者の腕時計と指輪それから犯行に使われたとおぼしきマスクが発見されたそうです。
そうですか。
ところで今日お願いした件は…。
ずばり出ました。
そうですか。
どうもありがとう。
カイトくん。
はい。
全て繋がりました。
え?どうもお呼び立てして。
今朝工房の皆さんに新宮工房はあなたが引き継ぐと発表されたそうですねぇ。
楽器店との提携も解消すると。
ええ。
みんな喜んでましたよ。
これで新宮の音色も守れるってね。
(扉の開く音)
(板倉)蔵人さんあんたなんでここに?孝子さん殺害の容疑が晴れて釈放されたんです。
今度の事件で僕が最初に疑問に思ったのは孝子さんがなぜ110番ではなく蔵人さんに電話をしたのかという事でした。
蔵人さん孝子さんとあなたは15年前に犯した1つの犯罪で結ばれていました。
10歳の姪を殺すという…。
そしてその殺人が今回の事件を引き起こしたのです。
フフ…何を言ってるんだ。
なぜ私たちが姪を…。
動機は…。
奏さんに満座の中で恥をかかされた上に彼女が世界的権威から工房の後継者だと名指しされた事。
奏さんが成長すれば間違いなく自分たちの立場を脅かす敵になる。
あなた方は今のうちに奏さんを亡き者にしようと行動を起こした。
しかしあの日奏さんと響さんは入れ替わっていたのです。
入れ替わっていた?ええ。
あなたは…響さんではなく奏さんですね?あんた…本当に奏なのか?ええ。
15年前に死んだのは妹の響です。
お前…!一体なんのためにずっと響のふりをしてたんだ!?10歳の子供が無慈悲な殺人者の元で殺されずに生き延びるためですよ。
奏さんあの日入れ替わりを提案したのは響さんですね?朝急に病院に行きたくないと言い出して…。
そんな事それまで1度もなかったのに。
でも入れ替わってもお医者様にはバレちゃうわよ。
診察前に逃げ出せばいいの。
ね?わかった。
響は私が1人になれば何かパーティーの時の仕返しをされると予期していたんです。
田代さんの話を聞いたあなたは初めて危険を察知した。
響さんが何かされるかもしれないと。
ええ。
(奏の声)響が握っていたアザミを見た瞬間響が伝えようとしていた事がわかったんです。
響はあの2人に殺されたんだって。
私たちが殺したというならどうやったか教えてもらいたいもんだな。
蔵人さん。
あなたが昔いた台湾では生きたスズメバチを焼酎に漬けるために生け捕りの方法がよく知られていますね。
あの夏あなたが作っていた捕獲器の中にハチが登れるよう細い棒を入れその上に容器をつければ生け捕り用の捕獲器が出来ます。
その容器を冷凍庫に入れるとハチは15分で仮死状態になる。
スズメバチは黒い色と甘い香りを攻撃します。
そこでずっと黒い服を着ていた奏さんたちに母親の形見だと言って孝子さんが香水を渡した。
仮死状態から蘇生したハチが確実に狙うように。
あの日田代さんと奏さんが病院に着いたのが1時頃。
つまり子供部屋に3時のお茶セットを運んだのは孝子さんです。
部屋に残されていたティーカップ…。
クリノリン・スタイルのカップは運ぶ時に倒れないようソーサーに伏せて運ぶものです。
響さんはお茶を飲もうとした。
しかし飲めなかったのです。
なぜなら…。
ああ…!
(響)助けて!お願い開けて!叔母様!うう…っ!あなた方は声が聞こえなくなるまでじーっと待った。
ひどい…。
ひどい!ひどいーっ!ただの推測だ。
証拠がない。
いいえ。
そのあとハチを外に出すために子供部屋の窓を開けた人物を横手が見ています。
横手は今警察で供述書を取られています。
窓を開けた人物は犯した犯行同様グロテスクな姿をしていました。
(横手)赤い手袋で孝子さんだとわかりました。
でも何か尋常じゃない感じがして黙って帰ったんです。
あとで奏さんがスズメバチに刺されて死んだと聞いてすぐに防護服の代わりだったんだと気がつきました。
それで嘘をつく代わりに新宮夫妻にドイツ留学を資金援助させたのか?そうです。
10歳のあなたにも横手が嘘をついている事だけはわかった。
ハチに刺される前に窓が開いていたのを工房の横手さんが見てるんだよ。
(奏の声)横手の話を聞いた時周りは全員敵なんだと思いました。
あなたは生きるために響さんでいる他はないと思った。
唯一の支えは生きて新宮の音色を守る事。
それは響さんの望みでもあったでしょうからねぇ。
その望みをあなたと孝子さんは断ち切った。
あなたが提携話を知らされた時の事を昨晩板倉さんから聞きました。
そんな事したら新宮の音色はおしまいだぞ!
(孝子)ご意見は結構よ。
これはビジネスなの。
私たちから何もかも奪うつもりなの?私たちだと?私と奏。
あの子はここに生きてる!フフフ…だったらよーく言い聞かせておくのね。
出しゃばったまねをしたらまた神様の罰が下るわよって。
ハハハハハ…。
その一言で15年間耐えに耐えた思いが殺意に変わった。
罰を受けるに値するのは彼らのほうだ。
あなたは大胆にかつ周到に行動を起こした。
1週間前の夜あなたは横手の家を訪ねた。
用があるなら早く言って。
このペーパーウエートドイツ製ですね。
高いよ。
イッテー!左手で感謝するのね!響が味わった苦しみに比べたら蚊に刺されたようなもんでしょ!響…?ええ!?あの夏別荘の近くにいた外国人の写真家を覚えてるでしょ?私彼に会ったの。
懐かしくて話してるうちにこんなものがあるってわかったの。
(奏)このネガには撮影日時が記録されててねそれが響が死んだ日の午後2時。
(奏)子供部屋の窓は閉まってる。
つまり私はあなたが叔父夫婦の殺人を隠蔽するために警察に嘘をついたって証明出来るのよ。
うう…。
言え。
何が望みなんだ?今新宮工房で調整してるローゼのガルネリ。
あれ盗むの手伝ってほしいの。
どうせあなたも新宮が潰れればいいって思ってんでしょ?一石二鳥じゃない。
あなたは巧妙に横手を計画に引き込みました。
でも実際そんな写真は存在しなかった。
アルバムにあった写真をそれらしくパソコンで加工しただけです。
あなたがアルバムのシートをはがした跡が残っていました。
犯行当日あなたは孝子さんを別荘に送ってすぐに拘束したんですね?なんのつもりなの!?早くこれを外しなさい響!私は奏。
叔母様あんたたちが15年前に殺したのは響。
警察呼んだからもう逃れられないわよ。
(響の声)口裏合わせのために必ず叔父に電話すると思いました。
そして孝子さんは実際にそうした。
しかし孝子が私に電話したのは午後4時だぞ。
この電話はパソコンと通信を分配するために…。
ルーターに繋いであります。
そしてルーターからの電話コードを奏さんはあらかじめ抜いておいたのです。
当然電話は繋がらず通信記録も残らない。
しかし電話機がルーターに繋がり電源がコンセントに入っていれば…。
ううっ…!ディスプレーが点灯し発信音も鳴る。
奏さんは彼女が電話機に指紋を残したのを見てサロンに戻った。
その姿を見て彼女は初めて奏さんの殺意を知った。
ああ…ああっ!ああーっ!ああー!ああ…ああっ!
(悲鳴)奏さんはコードを元に戻し孝子さんの装身具を奪って工房に向かった。
そして午後4時。
横手が奏さんに渡されていた鍵を使って裏口から別荘に入った。
奏さんから工房のバイオリンを盗むためのアリバイ工作だと聞かされていた横手は言われたとおり奏さんの部屋の子機から蔵人さんの携帯に電話した。
(携帯電話の振動音)携帯は前もって奏さんがあなたのポケットから抜いておいた。
留守電に繋がり別荘からの通話記録が残る。
あとは折を見て蔵人さんの車のトランクに犯行に使ったマスクと孝子さんの装身具を隠しておけばよかった。
昨日僕はあなたの部屋に行った時に子機を見ました。
そこであの部屋にバキュームをかけてもらったところ横手のギプスのグラスファイバーが出てきたというわけです。
お前という女は私を犯人にするつもりだったのか?あなたに奏さんを糾弾する資格などありません。
ち…違う。
響を殺したのは孝子だ。
私は唆されたんだ。
たとえあなたの耳に毒を注いだのが妻だとしてもあなたが抵抗する術もない幼い少女をしかも血の繋がった姪を無残に殺した事に変わりはありませんよ!
(伊丹)新宮蔵人さん。
えーっと…奏さん。
ご同行願えますか?さあ。
行きますよ。
杉下さん1つだけお願いがあります!その男と一緒に連れていかないで。
はいはい。
はい行こう。
(扉の開閉音)どうして…。
いつから私が奏だと気づいてたんですか?僕が最初に疑問を抱いたのは所轄の曲刑事の言葉です。
彼を追いかけてきた少女はこう言ったそうです。
スズメバチの事を知っていたのに窓なんて開けるはずない!あの子はとても慎重で怖がりなのに。
慎重で怖がり…それは奏さんというより響さんを指しているように思えました。
そこで僕は1つ嘘をつきました。
15年前のパーティーの夜僕は響さんに話しかけたと言いましたね?ですが内気な響さんは僕が声をかける前に…。
響はそういう子ね…。
「内緒よ」なんて言わない。
僕にアルバムを見せた時あなたはどこかでこうなる事を覚悟していたのではありませんか?杉下さんなら響の死の真相を突き止めてくれるって思ってました。
でもその時は私の犯罪の動機が杉下さんに知られる時。
あなたがこんな形でしか奏さんに戻れなかった事が僕はとても残念です。
私は杉下さんに会えてよかったと思ってます。
響もきっとそう思ってる。
ありがとう。
行きましょうか。
はい。
2015/09/20(日) 13:55〜14:55
ABCテレビ1
相棒 season13[再][字]
第14話「アザミ」
殺された老舗ヴァイオリン工房の社長夫人。犯人が用いた巧妙な殺人トリックとは…!?15年の時を超えて、衝撃の真実が解き明かされる!
詳細情報
◇番組内容
老舗ヴァイオリン工房の社長夫人が、自身の別荘で絞殺死体となって発見された。捜査に乗り出した右京(水谷豊)の脳裏には、15年前のある出来事がよみがえっていた−。工房の後継者と目されていた双子の少女との出会い。後に知ることになる痛ましい事件。当時の面影を残す双子の少女の一人・響(笹本玲奈)との再会。右京は、今回の絞殺事件と15年前に起きた出来事が、密接にかかわっている可能性を感じていた。
◇出演者
水谷豊、成宮寛貴、川原和久、山中崇史、六角精児、山西惇
【ゲスト】笹本玲奈
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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