実りの秋
そして食欲の秋
食べ物のおいしい季節がやって来ました。
食べたいものは何でも手に入る時代。
私たちの周りはたくさんの食べ物であふれています
(取材者)現代の日本の食っていうのは豊かだと思われますか?思います。
すごい思います。
何でも手に入りますよねうん。
やっぱり都会だと24時間どこでも開いてて何か食べたいなと思ったらすぐコンビニに歩いていけるとか。
捨ててるぐらいあるからまあ大丈夫なんじゃないかなって感じで…。
輸入すればなんぼでも買える時代ですからね。
そういう意味では飽食というのは続いていくでしょう。
しかし日本の食に今さまざまな課題が浮かび上がっています
日本の食生活に切っても切れない存在魚。
日本は年間1人当たり27キロの魚を食べる世界有数の消費大国です。
しかしその一方で国内の漁業は危機にひんしています。
漁業を担う人の数は30年前の4割に激減。
半数近くが60歳以上と高齢化も進んでいます
原因の一つは魚が取れない事。
乱獲でウナギやマグロなど多くの魚の数が減り続けこのままでは日本の魚が食べられなくなるともいわれています。
魚の減少によって苦境に立たされた漁師たち。
その姿を追った番組があります
水産王国日本。
その礎を築いた船が今消え去ろうとしている。
結果はさんざんだった。
資源を保って漁業をどう維持していくのか。
そのヒントとなる日本の伝統的漁法定置網を取り上げた番組があります
たくさんの魚がいます。
漁師の人たちはここの網を引き上げて魚を取るのです。
最近の研究では定置網から出ていく魚も多く僅か2割しか網に掛かっていないという意外な事実も分かってきました。
定置網は魚を一網打尽にする訳ではないのです。
食を考えるシリーズ第2回。
日本の魚をどう守るのか考えます
こんにちは。
食欲の秋収穫の秋。
「NHKアーカイブス」では今月シリーズで食をテーマにしたさまざまな番組を見ています。
2回目の今日は私たち日本人にとって欠かせない魚について考えてまいります。
早速ゲストの方ご紹介致しましょう。
魚といえばこの方さかなクンです。
どうもこんにちは。
よろしくお願い致しま〜す。
今農林水産省のお魚大使など本当にいろいろな場面で魚を広めようとご活躍という事で今日は楽しいお話を期待しております。
はいよろしくお願い致します。
そしてもう一方魚の資源管理がご専門でいらっしゃいます…よろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
秋。
サンマをはじめおいしい魚がいっぱいあるんですよね。
お〜!目の前にもたくさんですね先生皆様。
旬の魚を中心にそろえましたが早速さかなクンご紹介頂けますか?はい。
まずやっぱり秋といいますとサンマちゃんですね。
はい。
そしてこれ。
サケ。
サケもやっぱりもう秋の味覚の代表ですね。
そしてこちら私の初恋のお魚でもあります。
ウマヅラハギ。
このウマヅラハギのお馬さんのような顔いいですね!初恋ですか。
はい。
いや〜もう頬ずりしたくなっちゃいますね。
はい。
ウマヅラハギも秋から冬においしくなります。
そして…。
このウツボちゃんなんかもおいしいんですよ。
かば焼きとかですねたたきにするとおいしいですよ。
ウツボちゃんの思うつぼ。
あっこんな事言ってる場合じゃないですね。
これ本当に今日さかなクンがね持ってきて下さった…。
今朝千葉県の館山で取れました。
皆様ありがとうございました。
私たち日本人は秋になってサンマを焼く香りがしただけで幸せになるくらいお魚好きですよね。
人口100万人以上の国だけ見てみますと日本はかつてはずっとね一番多く魚を食べてる国だったんですけれども最近はいろんな国が魚を食べる量増えてきて今は第6位まで落ちています。
ただそれでもですねやはり世界有数の魚食国と言っていいと思いますね。
そしてまた量だけではなく食べ方とかね食べる魚種の種類とか考えるともう魚を食べる技術に関しては世界一と言っていいと思いますね。
豊かなんですねそういう意味では。
うれしいですね。
しかし日本の漁業はどんどん厳しい状況になってきてるというんですね。
その厳しい状況を示す一つの数字がこちらなんです。
さかなクン何でしょう。
この43から17。
あっ分かりました。
ひょっとしたらこの数字は取れてるお魚が比較的小さくなってるっていわれてますので平均43センチぐらいだったのが17センチにちっちゃくなっちゃった〜!って事でしょうか先生。
いやこれはちょっと違うんです。
ギョめんなさい。
違いましたか。
実はですね単位がありましてどちらにも万がつくんですね。
答えはこちらなんです。
1985年には43万人漁業に従事する人がいたんです。
それが去年には17万人ですね。
ですから30年で4割ぐらいに減っているんですね。
更にこの中の半数ぐらいが60歳以上の方という事で高齢化も進んでいるという事なんです。
勝川さんここからどういう事が読み取れますか?こういうふうに減ってる原因が若い人たちが漁業に参入できなくなってしまったんですね。
やはり魚の量は減るしまた魚の値段が上がらないという事でなかなか漁業に参入できない状況になってしまって漁師の子どもさんもね漁業継ぎたくても親からやめろと言われてしかたがなくほかの職を探さなければいけないとかそういう話もよく聞きますね。
ああ〜。
それではまずそんな厳しい漁業の現場で働く人たちを描いた番組をご覧頂きます。
水産王国日本。
その礎を築いた船が今消え去ろうとしている。
沖合底引き網漁船通称トロール船。
2隻が1組の船団となって漁を行う。
一網で大量に取れる魚は日本人の食卓を潤してきた。
しかし今トロール船は全国で減り続けている。
愛媛県八幡浜市でも1組の船団を残すのみ。
かつて全国屈指のトロール漁の基地として栄えた愛媛県八幡浜市最後の船団。
伝統のトロール漁を守る男たちの一年を追った。
愛媛県西部にある八幡浜市。
瀬戸内海と太平洋の境目に位置する漁業の町だ。
人口4万。
住民の多くが漁業に携わっている。
市場には瀬戸内の魚と太平洋の魚が一挙に集まる。
水揚げ高は西日本有数。
全国に向け出荷している。
しかしトロール船は平成4年以後次々と姿を消した。
原因は漁獲量の減少。
そして日本人の魚離れだ。
今や八幡浜で操業するのは2隻1船団のみとなった。
全長40メートル。
全国におよそ35あるトロール船団の中でも最大級だ。
9月1日から翌年の5月中旬まで行われるトロール漁。
2006年のシーズンに向けた準備が始まった。
2隻の船の全権を預かる…最後の船団となった今シーズン存続を懸け意気込みは強い。
漁労長になって9年目。
仲間の漁師たちが次々と船を降りる中伝統のトロール漁を守り続けてきた。
2隻のトロール船は常に行動を共にする。
漁を行うのは高知から鹿児島にかけての太平洋だ。
9月1日午前5時。
シーズン最初の網を入れた。
狙うのはタイ。
タイはこの時期最も高値で売れる魚だ。
2隻で1つの網を引くトロール漁。
まず網の端をもう片方の船に渡し網の入り口を広げる。
そのあと長さ1,500メートルのロープを伸ばし網を海底にはわせる。
およそ2時間船を走らせ魚の群れを捕らえていく。
2隻の船の動きは全て浜田漁労長がコントロールする。
魚の集まるポイントは潮の流れや時間帯で微妙に変わる。
漁労長のかじさばきが漁獲を決める。
2時間後今シーズン最初の網を上げる。
浜田さんはシーズン最初の網でこの一年の漁が占えるという。
上がった魚はおよそ1トン。
その7割が狙いどおりのタイだった。
乗組員に休む暇はない。
すぐに魚の選別作業をする。
高く売るには魚の鮮度を落とせない。
網を入れては引き上げ引き上げては選別。
この作業を24時間繰り返す。
船は3日に一度水揚げのため母港八幡浜に帰る。
滞在時間は僅か2時間。
すぐに漁に戻る。
一回でも多く網を入れ魚を取るためだ。
(競りの声)八幡浜で魚を買う仲買人にとってトロール漁は欠かせない。
船が大きいトロール船はしけの日にも漁ができる。
更にもたらす魚の種類や数が多いからだ。
トロール船がある限りどんな魚も手に入る。
仲買人にはそんな安心感がある。
もうね無くなったら魅力ないですよ八幡浜は。
正直トロール船の町やからトロール船が無くなったら本当魅力ないですよ。
たくさんある時はね正直1杯2杯無くなってもどうって事ないなとかって若い頃考えたりもしよったけど今になったらやっぱり残っとってほしかったなあいうのはありますよね。
トロール船を残すため浜田漁労長に休みはない。
この日は所属する水産会社の社員と地元の水産高校に来た。
船に乗る若い人材を求めて就職担当の先生を訪ねた。
昭和水産の浜田です。
乗組員の平均年齢は53歳。
トロール漁を守るには若手が必要だ。
やっぱり仕事としてはかなりきついんでしょうか?オラはもう楽しいちならんけん。
好きやったら楽しい。
そうでしょうね。
就職の方もですね具体的に生徒の方こういった分野だとかこういった職業…まだはっきりしていない生徒もいるんですけれども残念ながら漁船漁業の方を希望してる生徒は今の時点ではおりません。
なかなかおらんのやなトロール船の…。
なかなかなぁ。
若い人材が欲しいけどなぁ。
う〜ん…。
90年続く八幡浜のトロール漁。
次の世代への引き継ぎは容易ではない。
出港前浜田漁労長は会社からこれまでにない高いノルマを課せられた。
今期の水揚げ目標。
水揚げ目標は3億円という事で目標設定しましたのでこれにひとつ…目指して頑張ってほしいと思います。
水揚げ目標3億円。
昨シーズンの実績の3割増しだ。
過去の実績をもとに毎月の目標金額が決められた。
例年並みの水揚げでは生き残れない理由がある。
近年の原油高だ。
船の燃料代は3年前の倍になっている。
最後の船団を守るには今シーズン3億円を達成するしかない。
大漁を祈って乾杯!
(一同)乾杯!浜田さんが船に乗り始めたのは18歳の時。
トロール漁の全盛期だった。
やるからには一番上の立場漁労長になりたい。
がむしゃらな働きぶりが認められ37歳という異例の若さで漁労長に上り詰めた。
しかし念願の漁労長になった時にはトロール漁を取り巻く状況は厳しいものとなっていた。
3億円のノルマを背負った浜田漁労長に試練が訪れた。
(無線)「ちょっと待ってよ。
戻さないけん」。
兄弟船の第16海幸丸の様子がおかしい。
入れた網を巻き上げられないでいる。
船尾に2つある網の巻き取りローラーの1つが動かなくなっている事が分かった。
故障したのは左後方のローラー。
2隻が一体となって行うトロール漁では一つでもローラーが壊れると致命傷になる。
よう直さんやろ。
片船やけん。
原因が分からんのやけん直るかい。
なかなかよ。
修理しに帰れば丸1日漁ができない。
燃料代もかさむ。
ノルマ達成にはまとまった魚を取るまで帰れない。
2隻を使ってなんとか網を巻き上げる事はできた。
しかしタイがほとんど入っていない。
その後も故障したローラーを抱えたまま漁を続けた。
結果はさんざんだった。
(ベル)不眠不休での作業。
魚を処理する能率が落ちた。
3億円を目指し9月から順調に月目標を達成してきたが12月初めて目標を下回った。
このままでは目標達成は難しい。
浜田さんは効率よく漁をするためこれまでの経験をフルに生かす作戦に出た。
その武器となるのが過去の漁の記録だ。
浜田さんは漁労長の見習い時代から20年間つけてきた。
網を引いた位置や時期取れた魚などを細かく書き込んでいる。
この記録を徹底的に分析し3億円達成を目指す。
はいストップしたで。
ワイヤー5つな5つ。
…ちょっと止めちょこうか。
(無線)「了解」。
この時期最も高く売れる魚イボダイのポイントを狙う。
シーズンは残り1か月余り。
(掛け声)狙いどおりイボダイが大漁。
この一網で70万円分にもなった。
8か月半に及ぶ漁を終えトロール船団はふるさと八幡浜に帰ってきた。
トロもんトロもんトロもん通りますよ〜。
今シーズントロール船の魚には昨シーズンよりおよそ1割高い値がついた。
最後の船団を支える仲買人の思いだ。
今シーズンの水揚げは総額3億3,500万円余り。
目標の3億円を大きく上回った。
はいお手を拝借よ〜う!目標を達成した男たち。
来シーズンも漁を続ける事が決まった。
毎年思うの。
引き上がったら「あ〜やっと終わったぜ」思う。
でもオラは漁師辞めんで絶対。
好きやもん…好きやもん。
八幡浜トロール漁のともし火は守られた。
男たちは来るべき闘いに静かな闘志を燃やす。
2007年放送の番組をご覧頂きましたけれどもこの八幡浜の最後のトロール船団今も操業を続けていて当時の水揚げといいますか売り上げの水準を保っているという事なんですね。
すギョいですね。
そして今年も9月の1日に浜田漁労長率いる船が新たな漁に出ているという事なんですよね。
そうなんですね。
勝川さんいかがでしたか?いや〜本当に大変な中よく頑張ってるなと思いました。
トロール漁ならではの魅力そしてまた難しい状況両方が伝わってくるような番組でしたね。
そうですね。
トロールというのは海の底にいる魚を取る漁法としては最も効率がいい最も生産性が高い漁法なんですね。
それは世界の中でも漁業の主流の漁法になってます。
ただこの日本の場合はそのトロールですらなかなか経営が厳しい状況にあるという事で最後残った船をどうやって残すか。
続けてもらうかという事を考えないといけないですね。
そうですね。
さかなクンはいかがでしたか?いや〜やっぱり海のお仕事っていうのは大自然の中でのお仕事ですんで本当に大変なんだなという…。
だけどそこで誇りを持ってしかも海をお魚を愛してらっしゃるっていうのが非常に伝わってきていや〜かっこいいなと思います。
そうですね。
しかしそのトロール漁も大変厳しい状況にある。
漁業全体が厳しい状況にあるという事なんですが一つこのグラフをご覧頂きたいと思います。
これ1956年から去年までのですね日本の国内の漁獲量を表したグラフなんですけれども徐々に上がっていって80年代にここにピークがあってそれから下降をたどっていきまして去年は56年よりも少ないという状況なんですね。
勝川さんこれはどのように見るといいですか?船が減ってなおかつ魚が少ない。
その中で以前とは漁船の性能は格段に上がってますからね。
高性能の船を使って一生懸命取ってきてでも50年前よりも取れない。
という事は海の中の魚っていうのが非常に減っているんだなという事が分かるかと思います。
最近のニュースでこれからウナギやマグロが食べられなくなってしまうんじゃないかっていうニュースもよく耳にしますよね。
店に行くと今も魚が並んでますからあんまり消費者レベルだと意識されないかもしれないんですけれども実際漁獲量ね例えば三十何年前と比べてマイワシはスケトウダラはだしサバやカレイも半分以下に減ってるんですよね。
どうして日本はお魚が減っているんですか?これは戦後の漁業の歴史を振り返ってみると分かるんですけれども今の漁業っていうのが戦後の食糧難をどう解決するかという事で日本の場合は出来てるんですね。
魚が主食だなんていわれた事もあるほどですよね。
当時は穀物すらね十分になかったので畜産業とかってすごく難しかったんですね。
ですから国民に動物性たんぱく質を供給する手段は海から魚を取ってくるしかなかったんです。
そこで日本は国を挙げてね漁業をどんどん活性化していった。
その当時は公海自由の原則っていうのがあってよその国の沿岸まで行って自由に好きなだけ魚が取れたんですね。
それが変わってしまったのが1970年代に世界各国が200海里の排他的経済水域を設定しましてよその国の沿岸で取れなくなっちゃったんですね。
そうなると世界中の船が戻ってきてまた日本の沿岸で操業する。
そうなってくると今度は日本の海の中でたくさん取らなきゃいけないという事になってくる訳ですね。
そうですね。
やはり日本の魚を取る技術というのは僕は今でも世界一だと思うんですけれども魚を取るのが非常にうまい。
で一方で魚を残すための社会制度っていうのが江戸時代から進化してないんですね。
という事で漁獲能力の進化に対してきちんと魚を残す。
取り過ぎないための社会制度っていうのが追いついてない。
その結果として魚が減る。
そして魚の漁獲の量が減るだけではなくて例えば取れるサイズがどんどんちっちゃくなるとかね。
また魚のサイズが小さくなればそれだけ値段も下がりますし昔は食べてた魚もねサイズが小さいともう養殖の餌にしかなりません。
値段が安くなるとますますいっぱい取らなきゃいけない…っていうそういう悪循環になってしまっていまして多くの漁業が非常に厳しい状況にあります。
その減っている魚をどう守っていけばいいのかという事なんですけれども今度はそのヒントの一つともなる番組をご覧頂きたいと思います。
およそ3万キロにわたって日本列島をぐるりと取り囲む海岸線。
その沖合僅か数百メートルの海面に全国至る所で奇妙な幾何学模様を見る事ができます。
魚の通り道で待ち構えて捕らえる日本独特の漁法定置網漁の仕掛けです。
狙う魚の種類や地形によってそれぞれ形が異なります。
これは北海道のサケを取る定置網です。
こちらはブリを取る定置網。
ブリの群れがやって来る通り道に仕掛けられた巧みな構造になっています。
定置網には魚が好んで通る場所海のけもの道を知り尽くした漁師たちの長い間の知恵が凝縮されています。
しかも最近では定置網は魚を多く取り過ぎる事のない優れた漁法である事も分かってきました。
400年以上の歴史を持つといわれる定置網。
そこに秘められた海に生きる日本人の知恵を探ります。
富山湾に面した氷見は定置網発祥の地といわれ昔から定置網漁が最も盛んな場所の一つです。
その歴史はなんと戦国時代にまで遡るといわれています。
毎年12月。
市場はブリの水揚げで活気にあふれます。
氷見はブリの一大産地なのです。
冬場富山湾で取れるブリは脂が乗っているため高値で取り引きされます。
市場に運ばれてきたブリは2時間ほど前に取れたばかりの新鮮なものです。
この生きのいいブリを取るのが氷見に伝わる伝統の定置網です。
4時半。
船が一斉に出港します。
定置網は港から僅か20分ほどの沖合にあります。
定置網は名前のとおり魚がやって来そうな場所に巨大な網を仕掛けておく待ち伏せ型の漁法です。
魚が入っているかどうか網を上げるまで分かりません。
魚が見えてきました。
ブリです。
大漁です。
大きなブリが全部で300匹近くいます。
定置網では魚を生きたまま船に積み込む事ができます。
魚市場まで僅か20分。
取れたばかりの新鮮なブリを市場に持ち込む事ができるのです。
一見単純な漁に見えますがそこには実はさまざまな知恵と工夫が隠されています。
巨大な定置網は複数の大きな囲いで仕切られています。
この一番大きな囲いは魚が最初に入る場所運動場といわれています。
その先に落し網と呼ばれる囲いが続きます。
魚はここを通って更に奥へと誘い込まれるのです。
そして一番奥が漁をする落し網です。
定置網と陸地とを結ぶ一本の長い線。
これは垣網と呼ばれています。
回遊してくる魚の群れを定置網の中に誘い込む重要な役割を果たします。
定置網の中はどうなっているのでしょうか。
地元のダイバーの案内でめったに潜る事が許されないブリの定置網の中を見る事ができました。
ダイバーの後ろに見える巨大な壁のような網。
先ほどの垣網の水中の姿です。
網は海底まで続き深い所では水深80メートルに達します。
空から見たあの一本の線の下はこのような大きな網の壁になっていたのです。
この巨大な垣網は長さが3キロにわたって続きます。
垣網に沿って泳いでいくと網のスロープが現れその先に最初の仕切りが見えてきました。
この中が運動場と呼ばれるあの巨大な囲いです。
運動場の中は広大で30階建ての高層ビル6個分がすっぽり入るほどの大きさです。
奥へ進んでいくと再び網のスロープが現れました。
落し網への入り口です。
落し網の奥はトンネルになっていました。
トンネルは50メートルも続いています。
そのスロープを抜けると網で囲まれた大きな部屋になっていました。
ここが一番奥の落し網です。
下を見るとたくさんの魚がいます。
漁師の人たちはここの網を引き上げて魚を取るのです。
あっブリです。
網は幅50メートル深さ30メートルもの広さがあります。
大きなブリの群れがゆったりと泳げる大きさです。
網の中はさまざまな種類の魚たちであふれています。
これは…イカの群れもいました。
神経質な性格のタイも落ち着いて泳いでいます。
このように魚たちが悠然と泳いでいるのは定置網の中を魚礁と錯覚し捕らえられたという感覚がないからだと考えられています。
更に最近の研究では定置網から出ていく魚も多く僅か2割しか網に掛かっていないという意外な事実も分かってきました。
定置網は魚を一網打尽にする訳ではないのです。
この定置網は長さが600メートルにもなる日本でも最大級のものです。
定置網は一旦設置すると数年間はそのままです。
しかもこれほど大規模な網をつくるには大がかりな作業と膨大な資金が必要です。
定置網漁は日本海という豊かな海を抱え食文化が発達した北陸で大きく発展しました。
金沢市にある…ここに最も古い定置網に関する古文書が残されています。
江戸時代中頃の漁具を描いたものです。
これが当時のブリを取る定置網です。
垣網と魚を取る網だけの簡単な仕掛けです。
この網が考案されたのは今から400年ほど前。
関ヶ原の合戦の頃だといわれています。
言い伝えによりますと戦国時代の武将がですね敵を囲い込んで追い込むと。
そしてそれをおとしいれると。
そういうような技術が魚を取る部分に反映されまして定置網という発想それからこういう漁具の形ですねそれが出来上がってきたと聞いております。
定置網の発達の様子をコンピューターグラフィックで再現しました。
陸地から沖合に長く延びた垣網。
魚が嫌いな色とされる黄色いワラ縄でつくられていました。
沖側の魚を誘い込む網は岩礁地帯の海草の色に近い赤黒く染めた麻で出来ています。
沿岸を回遊してきた魚が最初に目にするのは黄色い垣網。
魚は嫌いな障害物にぶつかると沖へ逃げる習性があります。
網に入った魚は網の中を岩礁地帯と勘違いしそこにとどまります。
それを船の上で見ていた漁師がすぐに網を引き上げ入り口を閉じます。
漁師たちが長年の経験から知っていた魚の通り道に魚の嫌いな色の垣網を張り誘い込むというアイデアは定置網の発達にとって画期的なものでした。
しかしこの網の欠点は沿岸と平行に流れる海流に押されて網が変形するため大きくできない事です。
そこで魚を取る網を90度回転させたものが考案されました。
こうすれば網を大きくしても形が崩れる事はなくより多くの魚を網に誘導する事ができます。
大正時代になると魚を取る網は円形になりました。
魚を効率よく網に誘い込む事ができますが入り口が大きく開いているので魚たちは簡単に出ていってしまいます。
そこで入り口に袖と呼ばれる網が付けられました。
そのおかげで魚は網の中を8の字を描くように泳ぎ続け滞在時間が長くなります。
昭和の初めごろ現在の定置網の原型が出来上がりました。
登りと落し網が考案されたのです。
登りは名前のとおり網の中につくられた坂道で入ってきた魚はここを通って自然と落し網に導かれます。
落し網は入った魚をなるべく長い間引き止めておく役割をします。
魚が上下に泳げないという習性を巧みに利用した知恵です。
さまざまな改良の結果魚を網に誘い込む効率は飛躍的に高まりました。
それでも取れる魚は2割にすぎないのです。
富山県では定置網に込められた先人たちの知恵が今なお引き継がれています。
ここは富山県新湊市にある漁網を作る工場。
全国でただ一軒だけ昔ながらのワラの網を作っています。
網を編むのは全て昔と同じ手作業です。
最近ではワラ縄を編める人は数人になりました。
一見簡単そうに見えますがきちんと編めるようになるには1年かかるといいます。
今もワラ網を使って定置網漁を続けているのはやはり富山湾に面した水橋漁民合同組合の漁師たちです。
組合員は20人。
ほとんどが70歳近い元気なおじいちゃんたちです。
工場から送られてきたたくさんのワラ網。
これをワラ縄でつなぎ長い垣網に仕立てていくのです。
ワラ網は腐りやすいため毎年交換する手間と費用がかかります。
それでも垣網にはワラ網が一番だと伝統を守り続けているのです。
毎年3月から5月にかけて富山湾ではホタルイカが産卵のために浅瀬にやって来ます。
水橋の定置網はそのホタルイカを取るための仕掛けです。
ホタルイカの大群です。
体長は僅か5センチ。
こんな小さなホタルイカでもワラで出来た垣網の効果は絶大だといいます。
網を上げるとたくさんのホタルイカが青白く光っています。
昔ながらの伝統を守り続ける水橋の定置網。
一方最新のノウハウを取り入れた氷見の大規模な定置網。
富山湾ではさまざまな形で定置網の伝統が受け継がれているのです。
定置網は日本各地に広がり現在全国でなんと1万5,000もの網があるといわれています。
最近定置網は魚を一網打尽にしないという点が資源保護の面から注目されています。
北海道東部標津町の沖合にあるサケの定置網です。
産卵のために川を目指してきたサケを取るために定置網が使われています。
サケを取る定置網には沖側と陸側両方に入り口が開いているのが特徴です。
サケが目指すのはふるさとの川です。
通ってくる道はほぼ決まっています。
そこに定置網を仕掛ければ間違いなくサケを取る事ができます。
最も効率のよい定置網漁です。
午前4時。
網を上げる作業が始まります。
サケの水揚げにはクレーンが使われます。
あまりにも量が多くたも網ですくっていたのではとても間に合いません。
一回の漁で取れるサケは1万匹近くにもなります。
果たしてこれでサケを取り尽くしてしまう事はないのでしょうか。
定置網の近くに注ぎ込んでいる川の上流部です。
サケが次々と川を上っていきます。
定置網で取られるサケは膨大な数に上ります。
しかしそれでもかなりの数が定置網から逃げているといいます。
最も効率がよいといわれるサケの定置網でさえ自然のサイクルを妨げる事はないのです。
更に最近の研究で定置網は資源を育てる一面も持っている事が分かってきました。
ここは相模湾のアジやサバを取る定置網です。
海に潜って定置網の中や周辺をじっくり観察すると意外な事に気が付きます。
何やら白いものが見えてきました。
アオリイカの卵です。
垣網にしっかりと産み付けられています。
これなら潮に流される事はありません。
また網が絶えず揺れているので卵には大敵のゴミが付く事がありません。
小魚が網の中で身を潜めています。
こちらではタコの子どもが網の下に隠れています。
網は小魚にとって格好の隠れがになっているのです。
最近陸地から流れ込む土砂などの影響で小魚たちのよりどころである藻場が少なくなっています。
そのかわり定置網が藻場の役割の一端を担っていると言う研究者もいます。
小魚が垣網の目をくぐり抜けて行ったり来たりしています。
大きな魚が襲ってきても網の反対側に抜ければ安全です。
定置網は魚礁の役割を果たしているとさえ言えるのです。
海と共に生きてきた日本人が編み出した独特の漁法定置網。
そこには自然と共存して暮らしてきた日本の知恵が隠されていたのです。
2002年に放送した「NHKスペシャル」でしたがさかなクンは13年前リアルタイムでご覧になったそうで…。
そうなんです。
もう本当に私にとってはもう生き方を変えてくれたそんな番組です。
この番組を見せて頂いて私どうしてもこの漁法をこの目で見て漁師さんと一緒に網を引かせて頂いたりまた海の中に潜ってこの目で見てみたいと思ったんですね。
実際にあちこち定置網ご覧になったんですか?そうなんです。
今もうおかげさまで北海道から沖縄県もう日本の各地の漁師さんの定置網漁にお船に乗せて頂いて一緒によいしょ!ギョギョ〜っとですね網を引かせて頂いて「うお〜!シイラだ。
サバだ。
トギョット
(トゴット)メバルだ」というですね。
もう本当に感動致しまして…。
また潜らせて頂くとですね本当にすばらしいんです。
ちょっと絵で描いてみたのですが…。
さかなクンの絵ですね。
はい。
あのですね入ってきますとですねサバやアジがどんどん網の中に導かれるように入ってく。
その光景も見れるんですがなんとですね出てくお魚も実に多い事が分かります。
またここにマンボウがいるんですけどマンボウやジンベエザメなどの大きなお魚も時として入ってきます。
マンボウやジンベエザメはゆっくり上げると元気に入ってますのでそのまま水族館に運ばれます。
そうしますと今まで飼育が非常に困難だったっていわれてるそういったマンボウやジンベエザメも飼育に成功できたというですねそういった食用だけでなく水族館のお魚の飼育にも結び付くという…。
はあ〜。
いろんなとこで役に立つんですね。
そうなんですね。
本当に日本の宝といっていいと思います。
ありがとうございます。
勝川さんはこれどのようにご覧になりましたか?そうですね。
魚を取り過ぎないという意味では非常にいい漁法だと思いますね。
あともう一つは燃油の使用量が少ないんですね。
行って帰ってくるその距離もそれほど長くありませんのでそういう意味で非常にエコな漁法といってもいいかと思います。
ただ一方でやはりほかの漁法…効率的なものもたくさんありますので定置網だけで取ってる訳ではないですからね。
定置網だと恐らく魚が減ってきた時に入りづらくなる事によって自然とある程度以下に減らさないような効果があると思うんですけれども日本全国そういう漁法ばかりではありませんのでやはりきちんと魚を残す。
卵を産ませる。
そして次世代につなげていくっていうかなそういう事ができるような仕組みが必要だと思います。
その仕組みというのはどういうものですか?具体的には魚種ごとにですねこれだけ取っていいですよって漁獲上限を設定しておくと。
そうすると減らし過ぎないですよね。
という事が一般的に行われています。
日本でも1996年からサンマスケトウダラマアジなど主要な7魚種に対して漁獲枠が設定されています。
ただですねこの7魚種というのが非常に少ないですね。
日本よりも漁獲量が少ないアメリカ合衆国は500魚種。
そしてもう一つの問題が漁獲枠の配分方法ですね。
日本の場合漁獲枠を設定してる。
これがみんなの漁獲枠なんですね。
誰の漁獲枠でもなくみんなの漁獲枠なので取った人が使う権利がある訳です。
ですからライバルよりも早く取らないと漁獲枠がいっぱいになってしまう。
という事で競争して取らなければいけない。
でこういうものをオリンピック方式というふうに呼んでいます。
少しでも早く少しでも多くというのがそれぞれの漁船の競争になってるという事ですね。
そうです。
それでただ競争がある事によってじゃあ漁業がよくなるかというとあまりそうではなくてねじゃあライバルよりも早く取るためにまだ旬ではないとかねまだ小さい魚もとりあえず取っておこうっていうふうになってしまいがち…。
これからおいしくなるとかね卵産むとか分かっててもとりあえず持って帰っちゃおうかっていうふうになってしまいがちなんですね。
一方で海外の主要漁業国はこの個別漁獲枠方式というものに移ってましてまず漁獲枠がちゃんと設定する。
その上でそれをあらかじめそれぞれの漁船に割りふっちゃうんですね。
そうすると自分が取れる量ってあらかじめ決められちゃってるんでライバルよりも先に取っても意味がない。
だからそうするとどうなるかっていうとできるだけ高く売りたい訳ですよね。
取っていい量が決まってる。
そうなると魚の価値が一番高い旬な時期に取りに行く。
そういうふうになるんですね。
例えばノルウェーのサバってスーパーマーケットでよく見かけますけど常に脂が乗ってますよね。
はい。
日本でサバの価格が一番高くなるようなそういう脂の乗り具合になるのを待ってみんなで取りに行ってるんです。
日本のマサバも脂が乗ってる時期はものすごくおいしいんですけど残念ながらそうじゃないサバっていうのは非常に多く見かけますよね。
ノルウェーですとかそういう個別の割り当てを取り入れている国もかつてはやはり資源が減って取れなくなったような時期があった訳ですね。
はい。
大体1970年代までは大体日本と同じように漁業っていうのはもうからない斜陽産業だったんですね。
それが資源管理を始める事で成長産業に変わったんですけどただ最初に規制をする時にはどの国の漁業者も反対してるんですね。
ただそれでも各国の政府はやっぱり仕組みを変えるために必要だっていうんで規制を入れる。
そうするとね5年もしないうちに漁業がもうかるようになって今ニュージーランド行ってもノルウェー行ってもねほぼ100%の漁業者が資源管理に賛成なんですよね。
やはり日本でも早くやってほしいなと思います。
ただ問題になるのは規制を導入して最初何年かね資源が魚が増える何年かは我慢しなきゃいけない。
秋田県の漁師さんがハタハタがですね産卵時期になると嵐がもう海が荒れ狂って嵐もすごいそんな荒れた海に卵を産みにやって来るんですね。
しかし産卵のために大挙として押し寄せるハタハタを取ってしまいますとやはり資源枯渇につながりやすいんですね。
そこで秋田県の漁師さんが3年間ハタハタを取るのをやめようと守る期間を設けられたところしっかりと資源量回復したというすばらしいお話もあります。
そういう意味では漁師さんたちもそうやって待てばっていう…。
もっとよくなるし魚も増えるだろうし売れるだろうしっていう事はある程度お分かりになっていても今はなかなかそれができない状況である。
そこを引っ張ってくのはやっぱり国であり政府でありという形になりますか?そうなりますね。
皆さんもねじゃあ来年は今年の給料半分にするよって言われたらやっぱり困りますよね。
それと同じ事なんですよね。
やはりですねこう社会としてねきちんと支えていく。
つまり水産資源と漁業と魚食がねこの先の未来に続いていくような形にしていかないと結局我々が本当に大きなものを失ってしまう。
その前にね漁業資源魚食が未来に続いていくような仕組みを作っていく必要があると思います。
食べる側の方もちょっとその意識をね…。
そうですね。
近海にももっとおいしい旬のお魚が目を向けるといっぱいあるんですけど年間を通して魚屋さんで出回る…並ぶお魚っていうのも数十種類だと思うんですね。
しかし日本には4,000種をはるかに超えるお魚がいますのでもっともっと目を向けてですねその時期においしいお魚その土地ならではのお魚にもっとこう目を向けたいなと思いますね。
食卓の魚もその一回一回の出会いといいますかそれがまた大事なんですね。
一ギョ一会ですね。
はい。
一ギョ一会でこれからもよろしくお願い致します。
どうも今日はありがとうございました。
ありがとうございます。
2015/09/20(日) 13:50〜15:00
NHK総合1・神戸
NHKアーカイブス「シリーズ日本の食(2)食卓から魚を守れ」[字]
食卓に欠かせない魚。しかし日本の漁業は経営不振で衰退の一途。原因の一つが漁業資源の枯渇。資源に優しい定置網漁法の番組などをヒントに食卓から魚をどう守るか考える。
詳細情報
番組内容
日本の“食”について考えるシリーズ、2回目は「魚」。いま日本の漁業は衰退の一途。経営不振で従事者の数は30年前の4割と激減、半数近くが60歳以上で後継者も不足している。最大の問題は乱獲で漁業資源が枯渇、魚が獲れなくなったこと。食卓から魚を守る持続可能な漁業とはどんなものなのか?苦悩する漁師たちの姿や、資源に優しいと言われる「定置網漁法」にスポットを当てた番組をヒントに、日本人と魚について考える。
出演者
【出演】東京海洋大学准教授…勝川俊雄,農林水産省お魚大使…さかなクン,【キャスター】森田美由紀
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – インタビュー・討論
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