昭和30年代当時の雰囲気を知るには、昭和30年代に作られた映画を観るのがいちばん
映画『三丁目の夕日』で昭和30年代の風景が、当時を知らない世代にも“まだ見ぬ懐かしい情景”として注目を集めたことは記憶に新しく、“あの頃”の写真集なども書店に並んでいますが、当時の雰囲気を知るには、昭和30年代に作られた映画を観るのがいちばんです。そこに走っているクルマや、街角を歩いている人々、主人公が何気なく入るラーメン屋や喫茶店の物価、それに登場人物たちの行動原理も当時のモラルなのです。
例えば、石原慎太郎の芥川賞受賞作の映画化『太陽の季節』(1956年)で描かれたアンモラルな若者たちのセンセーショナルな生態は、現在の眼でみれば、さほど無軌道には見えないかもしれません。しかしその温度差を感じることで、昭和31年の大人がどんなことに眉をひそめたか、を知ることが出来るのです。同時に、いつの世にも若者たちは“大人は何もわかっちゃいない”と反抗していたこともわかります。それもまた映画の味わいの一つだと思います。
その『太陽の季節』では、ほんのわずかの出演で、強烈な印象をもたらした石原裕次郎の映画デビューの姿を楽しむことができます。“映画スター裕次郎誕生の瞬間”を、遅れて来た世代でも体感できるのです。続く『狂った果実』(1956年)では、その裕次郎が堂々の主演デビューを果たし、後に結婚することになる北原三枝とラブシーンを演じています。そのキスシーンで、ウクレレ片手に裕次郎が歌う「想い出」は、歌手・石原裕次郎のデビュー曲です。
また60年安保後の若者たちの理想的なライフスタイルを提示した、東宝の加山雄三の「若大将シリーズ」を観ると、かつて反抗する若者として描かれていた青年が、“期待すべき青年像”へとシフトしていることがわかります。同時に、東京麻布の老舗のすき焼き屋・田能久の跡取り息子・田沼雄一(加山雄三)は、実に魅力的です。スポーツ万能、女の子にはモテモテ、頼まれたらイヤとはいえない坊ちゃん気質、オリジナルの歌を歌う姿は、同時代のエルビス・プレスリー映画が、もたらした影響も感じさせてくれるのです。
一方、歌謡界の伝説となっている、美空ひばりの少女時代の松竹作品から、黄金時代の東映時代劇まで味わうことが出来るのもDVDのお陰です。昭和20年代、まだ焼け跡が残っていた戦後日本に夢と勇気を与えた、美空ひばりの姿は、アーティストのアーリー・デイズを知るということでも、“映画は待ってくれている”のです。