アメリカの中央銀行FRBのイエレン議長。
間もなく発表する方針に世界が注目しています。
リーマンショック後大胆な金融緩和を行い景気が回復してきたアメリカ。
異例のゼロ金利政策を解除し利上げに踏み切るのではという見方も出ています。
しかし、中国経済の減速に加え新興国では通貨がドルに対して大幅に下落。
不安が広がっています。
世界経済の行方を大きく左右するアメリカの利上げ。
その影響を探ります。
「クローズアップ現代」です。
きょうは国谷キャスターが取材のため西東がお伝えします。
アメリカの利上げが迫る中FRBのイエレン議長は日本時間のあす未明に声明を発表します。
2008年のリーマンショックに端を発した世界金融危機。
景気を回復させるためアメリカ、日本、ヨーロッパが金利を事実上ゼロにして市場に大量のお金を投入する異例の金融緩和を続けてきました。
こうした中、いち早く立ち直ったアメリカ経済は利上げを決断する局面を迎えようとしています。
ドルは世界の通貨取り引きの4割以上を占める基軸通貨。
世界経済の血液であるためアメリカが利上げするかどうかに注目が集まっているんです。
なぜなら利上げによって金利が高くなればアメリカにお金が逆戻りし新興国を中心に景気の悪化が懸念されているからです。
アメリカの利上げは世界経済の大きな転換点になると見られています。
その利上げの重要な判断基準の一つが雇用です。
先月のアメリカの失業率は利上げの目安とされてきた水準にまで改善しました。
その実態がどうなっているのか取材しました。
自動車の街デトロイト近郊にあるトリード市です。
この街から全米各地に向けて連日、新車が出荷されています。
利上げの判断基準となる雇用も回復しています。
この街の失業率はかつての13.8%から5%に改善しました。
7年前に起きたリーマンショック。
最大手のGM・ゼネラルモーターズやクライスラーが経営破綻。
アメリカの自動車産業は大きな打撃を受けました。
オバマ政権は総額10兆円近い公的資金を投入します。
さらに金融緩和によって市場に投入された資金も自動車の販売を後押しします。
景気が上向き経済の好循環が生まれたことで消費者が車を購入するようになったのです。
かつて閉鎖されたこの自動車部品の工場も再開しています。
解雇された従業員も次々と再雇用され今では135人が働いています。
今、自動車関連を含めた製造業の雇用は全米で1200万人を超えるまでになりました。
リーマンショックの翌年年間4万社以上が消えたシリコンバレーでも若者を中心に雇用が生まれています。
先週末に開かれた就職イベント。
マイクロソフトにフェイスブック。
ITのトップ企業が競い合って若者をリクルートしていました。
ここでは次々に新しいビジネスが生まれこの1年だけでもおよそ9万人の雇用が新たに生まれました。
こうした中、現地ではプログラマーを短期間で養成する専門学校が次々と誕生しています。
ここでは1か月半住み込みで技術を学ぶだけでほとんどの人が卒業後はすぐに就職することができます。
利上げの判断を左右する雇用が着実に改善してきたアメリカ経済。
一方で今バブルが懸念されています。
都市部で投資目的の不動産売買が過熱しているのです。
地元の不動産会社が行っているバスツアー。
この日も10組の参加者が高層マンションなどを見学。
早速、契約が成立しました。
長引くゼロ金利で巨額の投資マネーが市場に流れ込み、不動産価格が急激に上昇している現状を危惧する声も上がっています。
バブルの芽を摘むためにも利上げを検討しているアメリカ。
ただ利上げに踏み切れば景気を冷やしかねないという指摘もあります。
好調な自動車販売。
その一端を支えているのは低所得者向けの自動車ローンです。
金利が引き上げられれば返済が滞ったり新たな購入を控えたりする動きが出てくることが懸念されているのです。
リーマンショックから7年。
アメリカは利上げに踏み切るのかジレンマを抱えながらそのタイミングを見極めようとしています。
スタジオには、世界の金融市場にお詳しい、第一生命経済研究所の熊野英生さんにお越しいただきました。
よろしくお願いします。
よろしくお願いいたします。
このアメリカの利上げですけれども、今ですね、なぜ注目されるかについては、熊野さん、どう見てるんでしょうか。
これは経緯はですね、8月の上旬に、世界の株が連鎖的に下がるというショックがありました。
そのショックは、中国発のリスクだというふうにいわれているんですが、背後にあるのは、アメリカの利上げ問題なんですね。
世界経済の今の状況というのは、アメリカがロケットのエンジンのような形で、世界経済を引っ張っているんです。
実は、リーマンショック後、中国もこれを引っ張ってきているような図式。
これがロケットの?
そうですね、世界経済がどんどん成長していくと。
今。
2つがエンジンだと。
アメリカが利上げをするカウントダウンに入ったときに、中国の減速が意識されて、本当にアメリカが利上げをして、中国の成長力のアシストなしに、全体を浮揚していけるかと、ここが不安視されたので、世界中の株価が一斉に落ちた。
連鎖株安になったということなので、今回の利上げは、本当にアメリカ経済が世界を引っ張っていけるかどうかについて、非常に重要なイベントになっているというのが実情です。
しかしですね、このVTRでご覧いただきましたけれども、アメリカの国内事情、雇用など、いいように見えるんですけれども、FRBは、なぜなかなか決めないというか、慎重になっていると見ますか?
これはアメリカ経済に2つの対立する問題点、ジレンマがあるからですね。
こちらもパターンを用意しました。
少し詳しく解説しますと、リーマンショックから7年もたってくると、アメリカ経済の調子がだいぶよくなってきて、それが一部では行き過ぎるような形でバブルの兆候、例えば住宅価格が上がるような、そういう兆候が見て取れます。
今回、利上げをするということになると、借り入れ金利を上げることになるので、住宅価格が上がっていくことに対してはブレーキを踏むようなことになると。
これ、アメリカ経済が非常に強いという見方があるので、バブルを警戒するという、そういう見方が一つ、成り立つんですが、もう一方で、アメリカに対する慎重な見方もあります。
それは何かというと、ここで金融緩和をやめてしまうと。
実はもう2年前のおととし、金融緩和をやめるかもしれないということを、イエレンさんの前のバーナンキさんという議長が示唆しただけで、そこで世界の株価が下がり、通貨も不安定化すると、そういうことが起こったので、実は世界経済は、アメリカ経済もぜい弱じゃないかと。
8月の中国発の同時株安でも、これはアメリカの利上げを脅かし、アメリカ経済に対してはマイナスじゃないかと。
つまり、強気と弱気が交錯するというジレンマがあって、まだそれが見極められてない、そういう中で、この利上げをするかどうかということが、焦点になっているということですね。
本来なら、ブレーキをかけたいところが、いろんな不安要素もあるということで、決めきれない、そういう状況にあるということなんですね。
ただ、この利上げ、早かれ遅かれやって来るものだと思うんですけれども、その利上げが行われたあとの世界経済というのは、リーマンショック以降の、経済構造を大きく変えてしまうような事態になるんではないかと思うんですが、これ、どうご覧になってますか?
これは重大な局面の転換、パラダイムシフトというふうにいえると思います。
それは何かというと、リーマンショック後、金利は0%、つまり金融緩和が当たり前だったんですけれども、アメリカが利上げを始めると、金利が必ずしもゼロではない、そういう意味で、金融緩和が終わるという意味で、大きな転換点になると、世界経済は利上げに耐えられるかどうかという意味で、これからはパラダイムシフト、新しい局面に入ると思われますね。
この局面というのは、これまで、私たちの経済というのは、体験したことがあるものなんでしょうか?
日本はバブル崩壊を経験して、そこから20年以上たっていると、アメリカ経済はここでリーマンショックを越えられるかどうか、これ、新しい挑戦だと思いますね。
新しい世界への挑戦という段階なんですね。
さて、利上げが行われました中でも大きな影響が及ぶと予想されるのが新興国です。
アメリカが利上げすると、アメリカで運用したほうが利益が出るとして、投資されていた資金がアメリカに逆流。
その結果、新興国の通貨が売られ、ドルに対して価値が下がり、経済の低迷が懸念されるんです。
すでに南アフリカ、ブラジル、インドネシア、トルコなどで通貨安が起き、不安が広がっています。
今月5日。
トルコで開かれたG20・主要20か国財務相・中央銀行総裁会議。
トルコをはじめ多くの新興国で通貨が下落する中アメリカの利上げに対して慎重に判断するよう求める声明が発表されました。
IMF・国際通貨基金のラガルド専務理事も世界経済の動向に配慮するようアメリカに求めました。
アメリカの利上げは過去にも世界経済に大きな混乱をもたらしてきました。
1997年には強いドルを掲げたアメリカが金利を引き上げたことに端を発し東南アジア各国の通貨が軒並み下落韓国やロシアにまで波及する通貨危機を引き起こしました。
今回の利上げを前に不安が広がる新興国。
その国の一つ、トルコです。
トルコリラのドルに対する価値はことしに入って30%近く下落過去最安値を記録しました。
その影響で今物価が急激に上昇し市民の生活を直撃しています。
レモンの価格は去年の2倍トマトは去年の2.5倍になったといいます。
外国から輸入されている肥料などの価格が上昇したことで野菜や果物が軒並み値上がりしているのです。
影響は企業にも及んでいます。
トルコ北西部にあるゴムメーカーです。
外国からドルで原材料を仕入れています。
リラの下落によって原材料費がことしに入っておよそ35%上昇収益を圧迫しているといいます。
アメリカが利上げに踏み切れば、さらにリラの価値が下がるのではないか。
市民の間では手持ちのお金をリラからドルに換える動きが強まっています。
経済団体の幹部はアメリカの利上げがトルコ経済に深刻な影響を及ぼしかねないと懸念しています。
利上げによる影響はトルコだけでなく、ブラジルインドネシア、南アフリカなど多くの新興国に及ぶと見られています。
もし、こうした国の景気が落ち込めば、日本経済にも影響が及びかねません。
経済界からはアメリカの利上げを懸念する声も上がっています。
利上げになる前から、新興国では、すでに通貨安など影響が出ているわけで、このインパクトっていうのは大きいんですね。
そうですね、問題になるのは、やはり日本への影響だと思うんですが、日本は輸出主導で回復してきてますから、ここで新興国の景気が悪くなり、さらにアメリカも利上げによって、景気が減速してしまうと、輸出主導の回復というのが描けなくなってくると。
あとは新興国通貨が売られて、今はドルにお金が行ってるんですが、ドルからもしかすると、アメリカ経済に不安があると円にお金が行くと。
円安でなくなっていくような可能性もあるので、それも注意しないといけないと思いますね。
新興国だけじゃないということですね?それは。
そうですね、先進国も、つまりアメリカ経済が利上げでうまく成長できるかどうかというときに、新興国の悪化が、アメリカ経済の減速を引き起こしてしまうんじゃないかというリスクもはらんでますね。
ちょっと、日本への影響というところ、詳しく伺いたいんですけれども、利上げ、日本への影響という視点で見ると、どの程度のものになると思いますか?
今、企業収益が非常に盤石なので、輸出が多少、減ったとしても、日本への影響というのは限定的だと思うんですが、世界経済がおかしくなると、どうなるか、よく分からないというのは不確実だと思いますね。
先ほど、日本も円安の傾向になるかもしれないという、いろんなことが考えられるという中で、日本の産業分野の人たち、どういうふうに考えていけばいいんでしょうか。
これ、日本の経済成長を考えるうえでは、アベノミクスと。
経済政策は今まで、非常に注目されてきたんですけれども、やはりアベノミクスのウエートを変えていかないといけない。
つまり、今までは1本目の矢、金融緩和をやって円安が進んでたんですが、世界経済、不安定になると、円安が変わってしまうかもしれないので、1本目の矢だけではなくて、3本目の矢、つまり成長戦略、大胆な規制緩和を行い、いろいろな成長促進策を行うと、それによって円高や輸出が落ち込む。
そういうマイナス面に対して、より健全な形で日本経済、日本企業は成長していけるようにしないといけない。
アベノミクスはやはり成長戦略を重視しなきゃいけないと、改めてそういう認識が強まっていると思うんですね。
その前になんですけれども、影響というもの、利上げを行うと、いずれにしろ、される中で、影響というものを、もっと具体的に、どのようなことが考えられるか、聞きたいんですが。
これは日本の輸出は、新興国、アメリカ、グローバルに展開してるんですが、新興国の景気が、通貨の変動によって落ちると、日本から新興国への輸出が減ってしまう。
アメリカは利上げによって、金利が上がってそれが過度な利上げということで、アメリカ経済が少し減速してしまうと、日本からアメリカに対する輸出も減ると、そういう意味では、輸出主導の回復の図式が崩れていくかもしれないというのが、今、警戒される具体的なイメージとして考えられます。
そこで、日本はどうしていくべきかなんですけれども、先ほどその成長戦略のお話もいただきましたが、具体的にはどのようにこれに対抗していくというか、備えていくというか、必要なんでしょうか?
これは過度な円高リスクに対しては日本銀行が、それを食い止めると。
追加緩和も視野に入れながら、政策運営をやると。
一方で、中長期的な経済成長に関しては、経済財政諮問会議などで、必要とされる大胆な規制緩和を、スケジュールを決めて推進していくと、そういうことが必要になると思いますね。
今後、利上げが行われていく中で、世界の経済が大きな転換点を迎えるといわれていますが、どのような形になっていくと考えますか?
これ、よいシナリオと悪いシナリオがあると思うんですが、悪いシナリオは、アメリカの利上げによって、アメリカ経済が悪化し、さらに新興国経済が悪化するので、アメリカ経済も、それも下のほうに引っ張られてしまうと。
逆によいシナリオというのは、アメリカが今回の利上げはあるんだけれども、そのあとでもう一回、成長を加速するので、冒頭でロケットの話をしましたが、アメリカが利上げをこなしていきながら、世界経済を浮揚させていくと。
そうすると、アメリカが成長して、日本もそれに追随するような形で、成長のエンジンのサブエンジンの役割を果たしていくので、世界経済全体としては、新興国や中国は景気悪化したとしても、アメリカや日本が、大きな役割を果たす形で世界経済をけん引していくと。
それがどちらかというと、明るいシナリオになると。
いいシナリオで言うと、日本もそのサブエンジンになりうるかもしれないと。
日本の役割が大きくなるということだと認識します。
第一生命経済研究所の熊野英生さんと共にお伝えしました。
ありがとうございました。
2015/09/18(金) 01:20〜01:46
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「アメリカ利上げ〜そのとき世界、日本は…〜」[字][再]
リーマンショックから7年。いち早く立ち直ったアメリカは、ことし中にも利上げに踏み切ると見られている。好調なアメリカ経済の実態と世界、そして日本経済への影響を探る
詳細情報
番組内容
【ゲスト】第一生命経済研究所首席エコノミスト…熊野英生,【キャスター】西東大
出演者
【ゲスト】第一生命経済研究所首席エコノミスト…熊野英生,【キャスター】西東大
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