満員の大観衆、ほぼ全員が席から立ち上がった。「ジャパン」「ジャパン」……。日本から駆けつけたファンの声援に、英国人も加勢する。隣の人の声も全く聞こえない異様な大音響の中、3点を追う日本の最後のプレーが始まった。
ゴールラインまで5メートルの位置でのスクラムから日本が連続攻撃を仕掛ける。ボールを奪おうと迫る相手の巨体を持ち上げ、はねのけ、我慢して密集で球を確保しているうち、左にスペースが生まれた。一気に外へ展開。直前に投入されたウイングのヘスケスがタッチライン際に飛び込む。逆転のトライ。興奮と歓喜が渦巻く中でノーサイドの笛が鳴った。
「史上最大のサプライズ」「究極の大手柄」……。瞬く間にインターネット上に並んだ海外メディアの賛辞も、決して大げさではない。
南アフリカはW杯を2度制したことのある優勝候補。日本は24年前を最後に、この大会で1勝を挙げたことすらない。番狂わせが少ないラグビーの、しかも最高峰の舞台でこんな夢物語のようなことが起こるとは、世界中のほとんど誰も想像できなかったはず。「正直言って、ここまでいくとは思わなかった」。当のジョーンズ日本代表ヘッドコーチ(HC)までが口にする。
最後のトライとそこへ至る過程に、過去の日本との違いがあった。初めの60分間の善戦と最後の20分間の大量失点のセットが、前回大会までの姿。体格の大きい相手とぶつかり合った疲労がこの時間帯になって如実に出るからで、巨人集団の南アと戦ったこの日も同じ展開になるかと思われた。
シーソーゲームのまま迎えた正念場のラスト20分間。普段なら失速する時間帯で、日本はさらに攻勢を強めた。
後半28分、敵陣でのラインアウトでFWが確実に球を確保する。バックスのパスの正確性、ランナーの動きのキレも抜群。事前の攻撃で相手のセンターの意識を内側に向けておき、その外側を狙うという作戦の組み立ても的中した。心身の疲労が濃いチームには不可能な、完璧な連係によるトライだ。
後半32分に3点を勝ち越された後も、連続攻撃で相手をほぼ自陣にくぎ付けにしている。日本の選手も疲労の色は出ていたが、昔のようにミスや密集戦ですぐボールを奪われることはない。焦った南アはたまらず反則。一時退場者を出した。数的優位な状況をつくりだしたことが、劇的な幕切れにつながった
「必ず相手の方が疲れると分かっていた」とSH田中(パナソニック)。そう言い切れるのも「世界一きつい練習をやってきた」(FB五郎丸=ヤマハ発動機)から。「ラグビー人生で一番きつい」と選手が口々に言うほど強度の高い1日4度の練習は、持久力と自信を着実に培った。
ボールをせっけん水につけて滑りやすくしたり、手で持ちにくいサッカーボールで繰り返し練習した効果もあったのだろう。集中が切れやすい終盤に細かいパスを反復しても、ハンドリングエラーはほとんど生じなかった。「4年間、この日のためにやってきた」とリーチ主将(東芝)は胸を張る。
試合後、号泣して抱き合う選手。それを見守るファンの多くも目元をぬぐった。「4年前の大会で悔しい思いをしたし、ファンの人も24年間、同じ思いを持ってきた人がいる」とプロップ畠山(サントリー)。入念な準備が結実しての、涙、涙の大金星だ。(ブライトン〈英国〉=谷口誠)
ラグビー、ヘスケス、パス
満員の大観衆、ほぼ全員が席から立ち上がった。「ジャパン」「ジャパン」……。日本から駆けつけたファンの声援に、英国人も加勢する。隣の人の声も全く聞こえない異様な大音響の中、3点を追う日本の最後のプレー…続き (9/20)
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