あの子たちはテレビニュースを見たのだろうか。1週間ほど前、同僚の記者から6通の「手紙」のコピーを見せられた。首都圏のある小学校の2年生6人が書いて、「安倍首相に届けてください」と校長室に持ち込んだという▼いわば小さき有志である。どうしたらいいでしょうと、同僚は相談されたそうだ。見ると、ひらがなの多い文ながら戦争や平和について考えを懸命に書いていた。17日の参院特別委の採決は、これが現実とはいえ、あの子らには見せたくない言論の府の醜態だった▼「議会の目的は殴り合いを議論に変えること」と、議会政治の本場英国のチャーチル元首相は言ったものだ。言葉の格闘こそ望まれるのに、集団格闘さながらの乱戦には大人も目を覆いたかった▼戦後最低の投票率だった前回衆院選をへて、政府与党の思い上がりはここに極まった感がある。反対者を尊重しつつ治めるという民主主義の要所を顧みない。米国の警句「悪い政治家をワシントンへ送り出すのは、投票しない善良な市民たちだ」が胸をよぎる▼政治家も官僚も、政策を立案して進めるのは、それを仕事として税金から報酬を受けている人たちだ。片や市民はデモが仕事ではなく、報酬もない。やむにやまれず行動する人たちである▼茨木のり子さんの「内部からくさる桃」という詩から、一節を引きたい。〈ひとびとは/怒りの火薬をしめらせてはならない/まことに自己の名において立つ日のために〉。ここが新たな始まりになる。