【写真解説】自衛隊は戦えるのか~イスラム国(IS)の戦術分析(1) 自爆車両突撃

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◆今後、自衛隊が直面すること
日本の防衛政策に大きな転換点をもたらすことになる安保法制。自衛隊はこれまでの枠組みを超えて、より積極的に海外に出ていくことになり、同盟国の要請で戦闘に参加することも可能となった。これを「平和貢献」とするか、「戦争参加」ととらえるか、さまざまな議論はあってしかるべきだ。だが、自衛隊が派遣される先で、将来、隊員がどのような状況に直面することになるのか、冷静な分析や想定がどれほどなされているだろうか。

武装組織イスラム国(IS)のいるシリアやイラクの戦闘地域に自衛隊がただちに派遣されることはないかもしれない。しかし、同盟国の作戦に組み込まれるかたちで、その周辺国や中東近辺の海域に部隊が送られる状況は、さほど遠くない時期にやってくる。ISは今年発刊された機関誌で、「日本を攻撃対象とする」と宣言した。IS本体でなくとも、自衛隊が活動する場所でISの支持組織に狙われるような事態も十分起こりうる。

ここでは軍事的な側面から、今後、自衛隊が直面することになる事態について考えてみたい。ISはどのような戦術を使い、またどんな武器を有しているのか。シリーズで解説する。第1回は自爆車両突撃。ISはとくに今年に入ってから自爆車両の装甲を強化し、突入も巧妙化させている。【坂本卓】

ISがもっとも得意とし、同時にもっとも敵を苦しめている戦術が、自爆車両による突撃だ。この2年でISが公式に公開した自爆が映る映像だけで80本以上。1回の攻撃で車両5台が連続自爆する例もあり、「追い込まれて自決する自爆」ではなく、明確に作戦上の主要な手段として組み込まれている。写真はイラク北部のクルド・ペシュメルガ部隊基地に突入する自爆トラック。車体は鉄板で覆っている。(イラク・2015年・IS映像)
イラク軍には米軍の軍事顧問が派遣され、基地防衛も強化された。自爆突入対策のマニュアルができつつある。一方、ISも自爆突入車両の装甲強化など「改良」を加えている。前面だけでなく車両全体が鋼板とフェンスですっぽり覆われるトラックが増えた。フェンスは対戦車砲の威力を減衰させるためのもの。戦闘員が旗を振って出撃を見送る。(イラク・2015年・IS映像)
シリア・ダマスカス近郊での村の制圧作戦で自爆攻撃した大型トラックの荷台に満載された爆弾。積み込む爆弾は標的の規模によって異なるが、5トン爆弾を積み込んでの突入だと、空爆なみの爆発で基地を吹き飛ばすほどの威力がある。波状攻撃の場合は、1回目の自爆で敵陣の防護壁を吹き飛ばし、続けて2波、3波で突入することもある。(シリア・2015年・IS映像)
日本の中古トラックが自爆に使われた例。車体には、西日本にある生コン会社の名前が残ったままだ。麦わらで荷台の爆弾を隠し、起爆ケーブルが運転席に延びている。自爆に向かう男は「アル・バクル・マグレビ」とあり、名前から判断するとモロッコからイラク入りした戦闘員と思われる。標的はイラク警察の建物。トラックは激しい銃撃を受けながらも、警察署に突入し、自爆。2014年初旬の自爆攻撃で、まだ突撃車両の装甲化がそれほどはかられていない頃。(イラク・2014年・IS映像)
日本の中古トラックの自爆車両が警察署に炸裂。警察署の建物ごと吹き飛ばした。(同・IS映像)
警察署への自爆攻撃敢行に続けて、写真手前にいるIS後続部隊が突撃する。(同・IS映像)
これはIS戦闘員がイラク警察官の制服を着て、偽装警察車両で突入した例。荷台には赤白黒のイラク国旗を模したペイントまで施している。車両は警察の検問に近づき爆発。周到に作戦を準備したことをうかがわせる。イラク軍に偽装することもあるが、警察のほうが内通者が多く、制服なども入手しやすい。消防車、食品納入業者のトラックを使うこともある。(イラク・2015年・IS映像)
自爆突入の際に対戦車砲などで阻止されないように、車体に鉄板とフェンスを溶接し、装甲化を図ったトラック。前部の車輪は撃ち抜かれないよう、とくに大きく覆う。フロントガラスも小さなのぞき窓だけを残して鉄板で取り囲む。イラク軍から奪った米国製軍用車両ハンビーから取り外した防弾ガラスを取り付けたものもある。(イラク・2015年・IS映像)
ISがイラク軍から奪った戦闘車両ハンビーも自爆攻撃に使われる。防弾フロントガラスにさらに鉄板をかぶせている。ハンビーはアメリカがイラク軍に納入したもの。防弾装甲強化型ハンビー(UAH)の価格は日本円で1台2000万円前後するといわれるが、ISは惜しげもなく自爆車両として活用。装甲化されたハンビーの突撃は成功率が高いという。(イラク・2015年・IS映像)
これがハンビーに積まれた爆弾。ポリ容器に火薬が入っていてケーブルで連結されている。(イラク・2015年・IS映像)
ハンビーのトランクにドラム缶の爆弾を積んだもの。ケーブルで連結し、運転席まで伸ばして起爆スイッチにつながっている。(イラク・2015年・IS映像)
【写真左】サイドブレーキに巻きつけられたボタン型の起爆スイッチ。【写真右】手榴弾の起爆ピンにケーブルをつなげたもの。こちらのほうが多く使われる。不発に備えて、2重に起爆スイッチをつなげている場合や、運転者が死亡しても遠隔操作で起爆できる車両もある。(イラク・2014 - 2015年・IS映像)
イラク軍から奪った装甲兵員輸送車で自爆突撃の準備をする。車内の青いポリタンクが爆弾。車両は米国製M113と思われる。前部にRPG対戦車ロケット砲を防ぐためのフェンスを取り付けてある。ロケット砲を防ぐといっても、砲弾を受けてもフェンス部分で炸裂させて車体への直撃を減衰させる程度。だが場合によってはRPG弾の貫通を防ぐこともできるという。イラク軍は基地周囲を土堀や塹壕で取り囲んで何重もの防護壁を立て要塞化しているが、キャタピラ車両は土堀も盛り土を乗り越えて、防護壁を倒して突入してくる。たとえ阻止できてもその場で爆発し、爆風で反撃力を奪われたところにIS部隊が突撃する。運よく爆発させずに仕留めても、自爆戦闘員がいる車体のハッチを空けて起爆装置を解体して爆発物を無力化するのは容易ではない。(イラク・2015年・IS映像)
標的と突入路の選定は、Google earth の衛星地図(左)と、ISが飛ばしたドローン映像(右)が使われる。Google earth は軍事施設にズームアップできないようになってる場所が多いうえ、最新の防護壁の配置や砲台、戦車の布陣が確認できない。そのためISは独自にドローンを飛ばして確認する。(シリア・2014年・IS映像)【ISはどのようにドローンを使っているか】
車両2台が連続して自爆突撃する映像。後ろの車はイラク警察のパトカーに鉄板を貼って自爆車両に改造している。(イラク・2015年・IS映像)
バグダッドでイラク軍取材中に、近くで自爆車両が爆発したことがある。1キロ先ぐらいの距離だったが、爆発音とともに地面や電線が揺れた。イラク軍基地から撮影する。米軍も同じ基地にいたが、「こういうときは第1波に続く連続自爆や砲撃をまず警戒する」と同じ現場で爆発を前にして米軍少佐は話していた。シーア派とスンニ派の混住地区で、この自爆攻撃はスンニ派武装組織「イラクの聖戦アルカイダ」によるものと見られる。(イラク・バグダッド・2007年)

第2回へつづく>>> (9月22日配信予定) 

(第1回「自爆車両」につづけて、自爆車両製造工場、自爆戦闘員、爆破技術、武器、戦闘員養成、戦闘形態などに分けて報告予定)

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執筆者
【坂本卓】

クルド、レバノン、コソボ、アフガニスタン、イラク、シリアなどの紛争地取材。戦場ルポなどが多い。
専門テーマは、おもにクルド問題。 詳細 >>>

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