IQが低い子どもは、大人になって人種差別やヘイトスピーチへ向かう!?
ついに「安全保障関連法案」が可決された。この騒動の影でひとつの重要な法案の採決が見送られた。特定の人種や民族への差別をあおるヘイトスピーチを禁止する「人種差別撤廃施策推進法案」がそれだ。
ヘイトスピーチが日本でクローズアップされてきたのは、東京や大阪などで、在日韓国・朝鮮人などに向けて「出て行け」「殺せ」、などと連呼する街頭活動が繰り返されたことが大きい。また、ネット上でもいわゆるネトウヨ(ネット右翼)と呼ばれる人々が、さらに過激で差別的、非人道的な言葉を乱発している。
法案は民主、社民両党などが提出し、「ヘイトスピーチは許されない」という考えは自民、公明、民主、維新などのも基本的な合意はあった。しかし、表現の自由などとの兼ね合いなどをめぐり、先送りとなった。
日本は先進国の中でも、差別的な行為に関する法整備が立ち遅れているとされる。昨年、国連人権委員会が日本政府に対して、加害者の処罰規定を盛り込んだ法律を策定するよう促し、国連人種差別撤廃委員会もヘイトスピーチを行った団体や個人を必要に応じて起訴するべきだと勧告している。
IQの低い子どもは、偏見を持つ大人になる可能性が高い
いうまでもなく人種差別だけではなく宗教、性的指向、性別、思想、障害、職業などにあらゆる差別的な発言や行動はどの国でもあることで、それぞれの国の事情は大きく違うため、"国際標準"を語ることは不可能に近い。
しかし、こうした行動に対する「不快感」はこれまたどの国にも存在する。そうした感情と深く関わる研究もある。
オンタリオのブロック大学の心理学者であるGordon Hodsonを研究リーダーとするチームの研究によると、知能(IQ)の低い子供は、偏見を持つ大人になる可能性が高いことがわかった。また、知能の低い大人は、社会的に保守的な価値観に引き寄せられる傾向があり、そのような価値観は、今度はヒエラルキーストレスや変化への抵抗心を生み、偏見を持つ一因となるという。
Hodsonは 2012年1月26日『Live Science』に寄稿し、「偏見とは極めて複雑で、多面的なものです。だから先入観をもたらすのが何なのかを明らかにし、理解することが非常に重要なのです」
偏見が他の政治的信念ではなく、右翼的な考えを持つ人に多く見られるということは、世論調査と社会学、政治学の研究で示されることがしばしばあるが、知能との関連性に及ぶ研究は珍しい、
研究者たちは、イギリスに生まれた2種類の人たちの研究に取り組んだ。1つは1958年3月に生まれた人々、もう1つは1970年4月に生まれた人々で、研究者たちは彼らの誕生以来、継続して調査を取らせてもらった。そして研究対象となった人々が10歳または11歳の時に知能指数の確認、30歳または33歳の大人になった時に社会的な保守主義および人種差別主義の度合いを調べた。
最初の研究では、単語や形、記号などの似ている点、違う点を見つけるテストなどを利用し、言語的および非言語的知能をはかった。2つ目の研究では、数字の記憶、図形の描写、単語の定義付け、同一パターンや似ている単語を見つけるなどを含め、4種類の方法で認知能力をはかった。平均IQは100と設定された。
その後、「学校は子供たちに権威への忠誠を教えるべきである」「他の人種の人たちと一緒に働いてもかまわない」など、あらゆる状況や差別的な内容に関する多数の質問への回答で分析された。
その結果、子供時代に知能の低かった人は、大人になった時に人種差別主義的になるという結果になった。
しかしHodsonはすぐにこうも言う。「知能の低さと社会的な保守主義者の関係性が判明したからと言って、自由主義者は賢くて、すべての保守主義者は頭が悪いと言っているわけではない。この研究は、大きく分けたグループの平均を見るものである」と。さらに「とはいえ、厳密な右翼的考えには、世界の複雑さを理解するのに苦労する人々を引き付けると信じるだけの理由がある」とも。
他集団との接触の少ない人が右翼権威主義を受け入れやすい
また、認知能力の低い人々は、他の人種の人々と接した機会の少ない人たちでもあった。
Hodsonは研究仲間と共に、『psychological Science』誌のオンライン版で、「(IQの低い人たちにとって)他者のグループとの接触が精神的な挑戦であり、一般的には他との接触が偏見を減らすという研究結果とも一致しています」と語る。
また別のアメリカにおける研究では、Hodsonらは同程度の教育を受けているが、抽象推理力に違いのある254人を比較している。その結果、人種差別主義者に当てはまることは、同性愛嫌悪者にも当てはまることがわかった。抽象推理力の乏しい人は、同性愛者への偏見をあからさまに態度に出す傾向にある。イギリスで行われ他の研究でも、同性愛者と接する機会がないことと、右翼権威主義を受け入れることの間には関係性があると説明している。
「自分以外の誰か、特に外国人の全体像を認知する能力には限界があるかもしれません。現在行われている多くの研究文献によると、われわれの持つ偏見は、もともと認識ではなく感情に支配されたものです。これら2つの情報が示しているのは、考え方ではなく、"他者"の集団に対する"気持ち"を変える方法を探っていくほうが研究者にとっては有意義かもしれないということです」
この研究は非常に抽象的であり、傾向を示したものに過ぎない。研究のモチベーションが、偏見に対する悪感情をベースにしているともいえる。Hodsonは言うように「偏見とはきわめて興味深い」。なぜなら人種差別と先入観のルーツを理解することは、それを取り除くきっかけになるからだ。人間の偏見に対するルーツを解き明かしたいとの思いは多くの人が感じていることだ。
偏見というものが認識ではなく感情に支配されるというが、その感情は個人の経験の蓄積と極めて関係性が深い。だとすれば、IQそのものとの関係性より、その後の経験の形成過程により多くの視点をおくべきではないのか。次の研究が待たれる。
(文=編集部)
<参考文献>
●Bright Minds and Dark Attitudes
Lower Cognitive Ability Predicts Greater Prejudice Through Right-Wing Ideology and Low Intergroup Contact
(http://pss.sagepub.com/content/23/2/187)
●Low IQ & Conservative Beliefs Linked to Prejudice
(http://www.livescience.com/18132-intelligence-social-conservatism-racism.html)