少女たちの人生を狂わせた? 「子宮頸がんワクチン」の実態
厚生労働省は9月、子宮頸がん予防ワクチンによる健康被害を訴えた患者の約1割で症状が回復していないとする調査結果を示した。積極的な接種の呼びかけを中止してから2年を経てもなお、頭痛や手足のしびれ、知的障害に苦しむ女性たちがいる。
《子宮頸がん》
子宮の入り口(頸部)にできるがんで、性交渉によってヒトパピローマウイルス(HPV)に感染することが原因で起こる。HPVはありふれたウイルスで、性交渉があれば誰でも感染の可能性がある。
1割が子宮頸がんワクチン副作用、回復せず
厚労省はこれまで接種を受けた約338万人を対象に調査
厚生労働省は9月17日、子宮頸がんワクチンによる健康被害報告があった患者のうち、追跡できた患者の約1割で症状が未回復とする調査結果を示した。調査対象者は、ワクチンの販売開始(2009年12月)から14年11月までに接種を受けた約338万人。
追跡できた患者1739人のうち、症状未回復は186人(約1割)
接種を受けた約338万人のうち、健康被害の報告があった全2584人。そのうち発症日や症状が出た後の経過が確認できたのは1739人。うち症状が回復した患者は1550人(約89・1%)、未回復は186人(約10・7%)。
回復していない186人の症状(複数回答)
症状 | 人数 | 症状 | 人数 | |
---|---|---|---|---|
頭痛 | 66人 | 認知機能の低下 | 29人 | |
倦怠感 | 58人 | めまい | 25人 | |
関節痛 | 49人 | 月経不整 | 24人 | |
うずく痛み(接種部位以外) | 42人 | 無意識に体が動く不随意運動 | 19人 | |
筋肉痛 | 35人 | 立ちくらみなど起立性調節障害 | 17人 | |
筋力低下 | 34人 | 失神・意識レベルの低下 | 16人 | |
運動障害 | 29人 | 感覚鈍麻 | 16人 | |
けいれん | 13人 |
2年前まで接種が「勧奨」されていた
子宮頸がんは、主に「ヒトパピローマウイルス(HPV)」への感染が原因で発症。年間3千人が死亡
子宮頸がんは、主に「ヒトパピローマウイルス(HPV=Human papillomavirus)」への感染が原因で発症する。HPVは一般に性行為を介して感染することが知られている。患者数は年間1万人(2008年)で、最近では特に若い年齢層(20~39歳)の間で増えている。年間約3千人(2011年)が死亡と報告されている。
予防法には定期「検診」と「ワクチン接種」の2つがある
予防法としては、子宮頸がん予防ワクチンの接種と、子宮頸がん検診を定期的に受けることの2つがある。検診では、がんになる過程の異常(異形成)やごく早期のがんを発見することが目的。
ワクチンは、原因ウイルスのうち5~7割を占める2つの型の感染予防が目的
ワクチンは、がんの原因となるウイルスのうち、50~70%を占める2つの型の感染予防を目的としている。2009年発売の「サーバリックス」と11年発売の「ガーダシル」があり、いずれも3回の筋肉注射が必要。
ただし「5割強のウイルスしか防ぐことができない」ため検診も必要(神田忠仁博士)
ワクチンの承認時、国立感染症研究所で安全性を調べた神田忠仁博士によると、「がんを起こすリスクの高いウイルスは15種類以上といわれており、現在のワクチンは、このうち5割強しか防ぐことができない」ため、予防には検診とワクチンの両方が必要とする。
2013年4月から小学6年~高校1年を対象に「定期接種」を開始
日本では2010年度に公費助成が開始され、13年4月からは予防接種法に基づき、小学6年~高校1年の女子を対象に国と自治体が費用を負担する、子宮頸がん予防ワクチンの「定期接種」が始まった。
ところが、体の痛みを訴える患者が相次いだため、2013年6月に接種の「勧奨」は中止された
ワクチン接種後に原因不明の体の痛みを訴える患者が相次いだため、厚生労働省は「定期接種」となった2か月後の2013年6月、「接種との因果関係が否定できない」として積極的な接種の呼びかけを中止した。
海外で健康被害を理由に接種が中止された国はなく、WHOも安全性を担保している
海外で子宮頸がんワクチンの健康被害を理由に接種が中止された国はなく、WHO(世界保健機関)も安全性を担保している。
《「ヒトパピローマウイルス(HPV)」とは》
皮膚や粘膜に感染するウイルスで、100以上の種類がある。粘膜に感染するHPVのうち少なくとも15種類が子宮頸がんの患者から検出され、「高リスク型HPV」と呼ばれている。高リスク型HPVは性行為によって感染する子宮頸がん以外に、中咽頭がん、肛門がん、腟がん、外陰がん、陰茎がんなどにも関わっていると考えられている。
《100カ国以上で接種》
子宮頸がん予防ワクチンは2006年に米国で承認されて以降、世界100カ国以上で使用され、2013年5月現在、すでに1億人以上が接種している。日本より早くワクチンを導入した国では子宮頸部の前がん病変の減少が認められている。
接種で“人生が狂わされた”少女たち
「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」には設立以来、全国から1100件を超える問い合わせ
ワクチンの副作用をめぐっては、患者の家族らでつくる「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」が2013年3月に発足。2015年9月現在、同団体には1100件を超える問い合わせが。同団体のHPでは副作用や症例なども紹介している。
めまいや手足のしびれに苦しむ18歳。厚労省指定の病院でも「気のせい」と検診もしてもらえず
2011年9月~12年3月に接種を受けた高校3年(18=当時)の長女がめまいや手足のしびれに苦しんでいるという東大阪市の橋本夕夏子さんは、保健所からの手紙で「予防できるなら」と接種を決めた。副作用に悩む娘を連れて行った厚労省指定の病院では「気のせい。効く薬はない」と検診すらしてもらえなかった。
大学を受験も、症状がいつ治まるか分からず進学断念を考えた19歳
大阪市の女性の次女(当時19歳)は「一度、大学進学もあきらめた」という。接種を受けたのは中学3年。最初は頭痛を訴え、のちに手の震えなどの症状も現れた。精神科に通院し投薬も試したが、うつ病のように落ち込んだという。大学受験もしたが、症状がいつ治まるか分からず進学を断念。将来について不安を募らせる。
8歳の知能しかなくなってしまった16歳は寝たきりの状態
2011年に接種を受けた奈良県の高校2年(16)の少女には記憶障害に加え、知的障害の症状も。現在は8歳ほどの知能しかない。接種直後に腹痛や手足のしびれを訴えた際、母親は町や製薬会社に問い合わせたが「副作用とは関係ない」と言われた。2014年からは、激しいけいれんと失神を繰り返して寝たきりの状態に。
海外では「被害が出ていても孤立し、集団で動く態勢が組めていないと感じる」(被害者連絡会・事務局長)
被害者連絡会の事務局長・池田利恵氏は「ワクチン100カ国以上で導入されているというが、定期接種をしてている国は数十カ国程度。最近(2013年8月時点)、海外から個別に問い合わせがあるが、日本に先駆けて被害が出ていても孤立しており、集団で動く態勢が組めていないと感じる」と話す。
症状とワクチンの因果関係、いまだ不明
厚労省は研究班を設置。全国の大学病院と連携し、因果関係を調査している
子宮頸がんワクチンで厚生労働省は3月、新たな研究班(代表者・池田修一信州大教授)を設置し、接種後に生じるさまざまな症状と接種との因果関係を調査している。
免疫機構に関わる特定の遺伝子が発症に関連か? 研究班が分析中
厚労省研究班の分析では、免疫機構に関わる特定の遺伝子が発症に関連することを示唆するデータが出ている。体内で神経障害が起こる仕組みを検証中の医療チームもある。
厚労省は「さらに調査が必要」とし、接種を勧奨しない状態の継続を決めた(2015年9月)
専門家からなる厚生労働省の専門家検討会は9月17日、ワクチンの副作用に関して「さらなる調査が必要」とし、接種の積極的勧奨を行わない状態を継続し、新たに実施する疫学調査などを参考に議論を進めることを決めた。
定期接種と任意接種との間にある医療費支給の差も解消へ
健康被害の治療については定期接種と任意接種で医療費などの支給に差があるため、厚労省は差を解消する救済策をまとめる。
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ワクチン接種「勧奨」再開めぐり賛否
被害者連絡会は「被害者を増やすだけ」と再開に反対している
被害者連絡会の代表・松藤美香さんによると副作用などの相談は絶えず、2015年に入ってからも100人以上、会員が増えたという。「症状がワクチンに起因すると気づいていなかった方も多い。積極的勧奨の再開は被害者を増やすだけ」と訴える。
一方で、「予防できるがん」とされるため早期再開を求める声も多い
子宮頸がんは他のがんと異なり、ワクチンなどにより「予防できるがん」とされ、積極的勧奨の早期再開を求める声も多い。
日本産科婦人科学会も「接種しないことによる不利益も考慮すべき」と再開を要求
日本産科婦人科学会は8月、接種勧奨の再開を求める初の声明を発表。「若い女性や子育て世代の女性が罹患し、妊娠能力や命を失うことは深刻な問題」、「接種しないことによる不利益に関しても考慮することが必要」としている。