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06:37
勝利は信じる者のもとにしか、訪れない!

涙が、比喩ではなくて、本物の涙が、今これを書きながら流れています。たかがスポーツで。たかがエンターテインメントで。まるで人生すら光輝いてしまいそうな感謝が、質量を伴ってあふれてくる。ラグビーワールドカップ、日本代表が南アフリカに勝利。この奇跡を見られたこと、感謝することしかできません。

24年間ワールドカップで勝利がなく、通算成績1勝21敗2分で今大会を迎えた日本代表。対戦相手は世界ランク3位、ワールドカップを二度制した南アフリカ代表です。ラグビーは偶発的な勝利が起こりにくく、実力差を覆すようなことは稀。サッカーの世界3位と同じだと思わないでください。「3位に4位が勝つだけでも番狂わせ」の世界であり、南アフリカと日本は相撲で言えば横綱と幕尻くらいの立場の差があるのです。戦前の識者による予想は一様に「必敗」でした。負けることは大前提として受け入れたうえで、いかに得点を取るか、いかに相手の得点を抑えるか、負け方を問うような試合でした。

しかし、その予想に流されず、日本の勝利を信じていた男たちがいた。ブレイブブロッサムズ。「勇敢な桜の戦士」と呼ばれる日本代表の男たち。彼らは心から自分たちを信じていた。神が下す絶望の雷にも負けず、悪魔の甘い囁きに流されることもなく、全身全霊で信じていた。「俺たちは勝てる」と。

最後の攻撃シリーズ。日本は相手陣内深くで反則を受けました。そのときの点差は29-32の3点ビハインド。反則でペナルティゴールを決めれば3点取って同点となります。世界王者を相手に同点なら手放しで褒め千切れる大勝利です。何せこの試合、下馬評は「必敗」なのです。引き分けでも十分、いやそれ以上を望むのは強欲ではないかとさえ思える結果です。

しかし、ブレイブブロッサムズはペナルティゴールを狙わない。トライの5点で逆転を狙おうという姿勢。「お前ら、馬鹿だ!」頭の中で罵倒が飛ぶ選択。ただ、心は震えていた。嬉しくて、誇らしくて、たまらない。最後の攻撃で彼らは「勝利」を目指した。確実な引き分けよりも、不確かな勝利を目指し、未来を捕まえにいった。勝たせてほしい。この勇敢な男たちを、試合結果だけを見て「馬鹿」「身の程知らず」「愚か者」と罵る連中のオモチャにしないでほしい。感謝と、願いが、あふれるものを止められない。

最後のトライ、日本は闇雲に攻めたわけではありません。相手のフォワードに退場者が出ていたことで、スクラムで押せるという判断があった。その上で、試合時間の関係で攻撃が切れれば即敗戦ということを理解し、ひとつの反則も犯さないよう丁寧なプレーをつづけた。サイドに大きく振って、相手を寄せてから逆サイドへのワイドな展開は、相手の消耗や動き直しの遅さを見切ったうえで、自分たちの長所である不屈の動き直しを活かすものだった。その中で、薄くなった逆サイドに相手の綻びを見つけ、そこに突破力では日本最高であろうアマナキ・レレイ・マフィをぶつけ、最後の防衛線を破壊した。

「理」があり、そこに「心」が乗った勝利。

勝てるだけの体力・技術・展開があったとしても、それでもなお恐れる心があれば、可能性は消えてしまう。心がなければ引き分けで終わっていた試合を、勝ちに書き換えたのはブレイブブロッサムズだった。世界で唯一、この試合の勝利を信じていた男たちだった。もう彼らから「ブレイブ」の称号を奪うことはできない。この勝利、この勇気は、永遠です。

散ることのない桜、咲く。

この記憶は、人生の宝物です。


◆見逃したみなさん残念でした!中継しなかったテレビ局、バーーーカ!!

「優勝候補・南アフリカの初戦」というのがこの試合の位置づけでしょうか。客観的に言えば。誰も日本が勝つなんて思っちゃいない。そんなことを思ったら、ラグビーを知らないヤツだと笑われる。サッカーや野球じゃないんだ。番狂わせなんてものは、ラグビーにはない。静かに始まって、静かに終わるだろう。みんなそう思っていたはずです。

会場には約3万人の観衆。さすがイングランド、ラグビーファンも多い。日本から駆け付けたと思しき桜のジャージの応援団と、南アフリカの緑と金のジャージをまとったファン。数の上ではやや南アフリカが優勢でしょうか。まぁそうでしょう。日本と南アフリカの立場は全然違うのですから。

↓まさかこの80分後、あんな奇跡が起きるとは!誰も知らない未来に向かってブレイブブロッサムズ入場!

悪いがみなさんの期待通りにはならん!

ワルモノ見参!!


先頭で入場したキャプテン・リーチマイケルも、日本最高のキッカー・五郎丸歩も、不屈の闘志で再び桜のジャージに袖を通した大野均も、166センチの小柄な体躯でここに立つ日本の頭脳・田中史朗も、誰もがいい顔をしている。君が代を高らかに唄い上げている。「今日はいい試合になる」という予感は、すぐに確信に変わります。

南アフリカが日本陣内深くで圧力を掛けようという場面、日本のタックルは低く鋭く突き刺さります。ひとりで止められるほど簡単ではない相手に、必ずふたりで一の矢・二の矢を刺していく。そして、刺した矢をすぐさま引き抜いて再び弓につがえる。エディ・ジョーンズヘッドコーチが言う「リロード」の概念。サッカーで言う「動き直し」「攻守の切り替え」を、ブレイブブロッサムズは100%でやっている。速い、低い、鋭い、何度でも甦るタックル。「日本らしさ」がそこにはありました。

ラグビーではバックスがパスで作り出す展開ゲームと、フォワードが密集で揉み合う肉弾戦とがあります。日本はその肉弾戦は、基本的に「負ける」と考えてやってきました。しかし、ここでも低く・鋭い日本の新たな姿がありました。最初のスクラム、日本は相手に一方的に崩されることなく、素早い展開に結び付けます。相手の防衛線を突破すると、相手陣内でペナルティ獲得。このペナルティキックを決めて、まさかまさかまさかのまさか、日本が南アフリカから3点先制です!

↓日本のキッカーは「100%」の精度が要求される男、五郎丸歩!

このポーズ、絶対に流行る!

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僕はこの立ち上がりの10分だけで、1試合ぶんの価値を得ました。合格、OK、ありがとう。ここからどれだけの惨敗が待っていても、心は感謝で満たされるだろうと思いました。「必敗」というのは冗談ではなく現実なのですから。たとえ、ここから3-100にされたとしても、ロッカールームで選手を殴る気にはならなかったでしょう。

しかし、なかなかブレイブブロッサムズはラクにさせてくれない。彼らは勝利のために、いくつもの武器を用意していた。たとえばラインアウト(スローイン)のセットプレーでも、大柄な相手のキャッチを避けるために大外まで飛ばしてみたり、準備が整う前に素早く始めてみたり、あえて少ない人数でラインアウトに臨んでその後の展開に賭けたり、単純な真っ向勝負にはしないデザインプレーを繰り出してきます。

それもそのはず、まともにぶつかれば「必敗」なのです。前半18分、南アフリカボールでの、インゴールまで5メートルというところからのラインアウト。相手が立ったまま密集を組んで、そのまま集団で日本を押し切ろうというプレー、ドライビングモールを選択します。日本のモールが崩れたこともありますが、簡単に押し切られて最初のトライを許します。「やはりな」という失点ですが、まともに組み合えばそうなるのです。それを知った上で、なお勝とうとしている。勇敢な日本は「たかがトライひとつごとき」で何ら臆することなく、勇敢な戦いを続行します。

↓そして迎えた前半29分!二度に渡るドライビングモールでの攻撃で、日本が逆転のトライ奪取!

最後に押し込んだのはリーチマイケル!

リーチをかけて、一発インゴール!


その後、南アフリカもトライを取り返し、前半は10-12の2点ビハインドで終了。ラグビーは最低でも3点が入るスポーツですので、ワンプレーで逆転できる範囲の戦いが、前半を終えてもまだつづいている。世界を驚かせるには十分な結果です。この先何があっても、新聞は日本の善戦を讃えたはずです。それぐらい、この前半はよくできていた。40分を終えてまだこの差だなんて、できすぎと言ってもいいくらい。解説者も「奇跡」と表現したほどの前半です。南アフリカもさぞ驚いたことでしょう。思ったより強いな、と。観衆は立ち上がって日本に拍手を贈っていました。「よくやったね」と。

普通はコレで満足してしまうのです。4年間の積み上げやトレーニングが選手に自信を与えていたとしても、それはもう少し弱い相手に発揮されるべきもので、この優勝候補相手に出すものじゃないのです。普通は。そして、この先露わになる実力差に「もう十分戦ったよ」と喜びの中で敗北を選ぶのです。しかし、ブレイブブロッサムズはそうではなかった。本気で勝ちにきていた。善戦で満足する気などサラサラない。俺たちがほしいモノは「よくやった」という賛辞じゃない、相手が吐き捨てる「やられた」という苦渋の声だ。「勝利」を目指しての後半開始です。

後半立ち上がり、日本の攻撃はペナルティゴールに結びつき、13-12逆転。そのわずか2分後、この試合初めて日本の防衛線を突破され、2つめのトライを南アフリカに許す。コンバージョンも決まって13-19の6点ビハインドに。その4分後、日本の攻撃が再びペナルティゴールとして実り、16-19と3点差に追撃。つづけざまの後半13分、またしても相手の反則を誘ってペナルティゴールで3点追加。五郎丸、今日6本蹴って5本成功。やられてもやられても殴り返す日本の姿に、すでに日本のファンは涙を流し始めています。

終わらないシーソーゲーム、終わらない我慢比べ。後半17分、40メートルのペナルティキックを決めて再び南アフリカが3点リード、19-22とします。かなり精神的にも苦しい、だが日本は取られても取られても止まらない。その連続攻撃・消耗戦の向こうに唯一の勝機があると信じているから。後半60分、日本はペナルティゴールを決め、またも同点に。折れない、折れない。

↓だが、容赦ない南アフリカの攻撃は再びトライを奪い、日本を突き放す!

ここまでか…?

さすがにここまでか…?


残り時間17分、7点差。この日許した3つめのトライは、試合途中から投入されたパワー型の選手に、真ん中をズドンと突破されたものでした。何となく、防衛線と一緒に心までポッキリいきそうな取られ方です。ここで思い出すのはエディ・ジョーンズ監督の言葉。「日本はメンタリティに問題がある」「勝利を信じていない」「60分までは戦えるが、ラグビーは80分でやるものだ」…この数年間体力面・精神面で強化してきた「残り20分」の戦い方。それを見せられるかどうか。見せねば、善戦で終わりです。

↓見せるぞ日本!戦うぞ最後まで!後半28分、敵陣深くでのラインアウトから展開して、最後は五郎丸がトライ!(2分30秒から)



また追いついた!また追いついた!

何度リードされても、そのたびに追いついた!

五郎丸の同点のコンバージョンに、客席は総立ちだ!

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観衆は完全に日本の味方になりました。日本のラグビーが心を捕らえました。スタンドからはジャパンコールが上がり、日本のピンチには悲鳴が上がる。そして、観衆だけでなく勝利の女神をも日本に惹きつけるプレーが生まれます。

後半33分、南アフリカは日本陣内深くでペナルティを得ます。ここで取るべき道はふたつ、ペナルティゴールで3点を取るか、攻撃を展開してトライの5点を狙うか。南アフリカはここで堅実な3点を取りにいきました。それは冷静な判断だったかもしれないけれど、日本に可能性を残す選択でもありました。ここで3点を失っても、日本の攻撃時間はまだ7分あるのです。そして、ラグビーでは攻めつづけている限り、試合が終わることはないのです。5分でも10分でも、その攻撃が終わるまで試合はつづく。

「あとひとつトライを決めれば、勝てる」

残り7分での3点ビハインドを、敗北へのカウントダウンではなく、勝利へのワンチャンスと捕らえたブレイブブロッサムズ。強者の堅実な選択と、弱者の勇敢な計算。観衆が南アフリカの堅実な選択にブーイングを送ったように、勝利の女神も日本にその向きを変えた。いや、変えさせた。相手は自ら勝利へのチャンスを日本に返してよこし、チャンスを与えたのだから。

後半34分、日本のボールでリスタート。

後半35分、日本の反則、観衆からは後押しの大ジャパンコール。

後半36分、相手ボールのスクラムを日本が押して崩す。

後半37分、相手がキックで返してきたボールを拾い、カウンター。

後半38分、少しずつ押し込みながら、連続攻撃。連続攻撃回数は16回を超える。

後半39分、何度も立ち上がり19回目の連続攻撃。インゴールに迫る日本と、反則によってひとり減った南アフリカ。円陣を組んだ日本は「同点のキックを狙うか?」「トライを狙うか?」という選択で、最後の攻撃へと意思統一を図る。

後半40分、ラインアウトから13人(!)でモールを組み、全員パワーで相手を押しこみインゴールへ。日本はトライを確信。しかし、主審は認めず。ビデオ判定でもボールが映っておらず、トライは認められない。

後半41分、アディショナルタイムに突入。プレーが切れればそこで試合終了。日本ボールのスクラムで相手が反則を犯す。再び「同点のキックを狙うか?」「トライを狙うか?」という選択の機会。ペナルティキックを蹴ればおそらく決まる位置。引き分け狙いなら、ほぼ実現できる。しかし。日本はその道を選ばず、スクラムから試合再開。トライを獲れば勝ち、トライできなければ負け。勝利への選択。頭では「馬鹿!」という声が響くが、クチからは「行けぇ!!」「勝てぇ!!」しか出てこない。

後半42分、スクラム崩れてやり直し。インゴールまで5メートル。桜のジャージには血の跡。

後半43分、三度目のスクラム組み直しからの日本の展開。リーチトンプソン、ブロードハースト、外国で生まれ、日本代表を選んだ男たちがボールを持って相手の防衛線に突っ込む。崩れるまで突っ込む。涙を流すファンの姿。涙声の実況。鳴り止まないジャパンコール。

後半44分、日本は右サイドのスペースに展開。瞬間的に3対2の数的有利。しかし、あと2メートル届かない。ここから日本は逆サイドへとワイドに展開。人を飛ばすパスを2本つなぐと、南アフリカにも押し勝っていたマフィへ。マフィは相手のタックルを跳ね返して2人を引きつけると、右サイド端を駆け上がるヘスケスへ!

↓奇跡だ!これは日本スポーツ界・史上最大の番狂わせだ!ブレイブブロッサムズ、南アフリカに勝つ!!(3分頃から)


勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!

国際映像も、NHKの中継も、最後は「いけー!!」と絶叫!!


↓男たちが泣いた!何を言われても勝利を信じていたラグビー馬鹿が、勝って泣いた!



この試合、もう3回見たけど、何度見ても泣ける!

すべてが勇敢で、何もかもが愛おしい!

五郎丸が最後シレッと外したクソキックも、喜びすぎてコンタクトレンズを落とした山田章仁も!

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夢が現実になることなんて、あるのか。ラグビーに限ってそんなことは絶対にないと思っていた。しかし、あるんだ。日本の男たちが、奇跡を生み出すことはあるんだ。これから先、どんな試合に臨む前でも、この試合を思い出すことになりそうです。何だって起きる、何だって起こせる、その証拠として。どんなに自分たちを信じられない日でも、信じることの先にしか勝利はない。信じて一歩目を踏み出し、信じて最後まで歩み続けること。ラグビーでさえ、それをやり切ったのだから、できないことなんてない。

選手たちは「日本のラグビー人気も上がったと思う」と手応えを語ります。その腹の底には、軽んじられ、ないがしろにされる自分たちラグビー界へのやるせなさもあったでしょう。新国立競技場問題では、ラグビーワールドカップには間に合わなくてもいいという、ケチくさい判断が下され、夢舞台を新聖地で迎えるチャンスを奪われました。

勝って、鼻をあかした。

ざまぁみろ!!

この1試合だけで、もう褒めちぎりたい。ただ、男たちが信じるものを考えれば、抱き締めたくなるその腕を後ろにまわし、「ベスト8に行け!」という声援だけを贈るべき。今はまだ。勝って世界と世間に見せつける。そのためには、まだ足りない。この試合を見たのはまだ一部で、きっと多くの人が見守るのは次の試合からだから。

だって、この試合の放映権を持っていたのに、生中継しないで、通販とかやってたテレビ局があるんですよ?そんなバカな話があるかと。この奇跡を映さないなんて、そんなバカなことがあるかと。ラグビー馬鹿たちの戦いはまだこれから。この奇跡を見逃した人にも、あと最低3試合、いやきっと4試合以上、彼らを見守るチャンスがあります。ルールなどわからなくてもいい。ルールがわからなくても、きっとわかる。知恵、勇気、信じる心。彼らが示したものは、誰にでもわかる人間のチカラなのだから。

ブレイブブロッサムズ、その名に恥じない男たち。

次戦の展望は「必敗」改め「必見」です。


なお、バカなテレビ局が13時15分から奇跡を録画で放送するそうです!