今日は一頭の猟犬のお話です。
彼の名前は「ゴンⅡ(ゴンツー)」。
猟隊の勢子長の飼っている猟犬です。
本名は「レン」という立派な名前があるのですが、父親犬「ゴン」にそっくりなので、皆から愛情を持って「ゴンツー」と呼ばれています。
ゴンもゴンⅡも2代に渡って勢子長のエース犬。
私がハンターになった時にはゴンは引退していてゴンⅡだけしか知らないのですが、その凄さたるや筆舌に尽くしがたいものがありました。
物凄いスピードでイノシシを追い出し、吠え止めや噛み止めは当たり前。
隣山にいると分かると隣山から待ち場に追い込んで来ることもしばしば。
100kg級のイノシシにも怯むことなく、兄弟犬の「コマテ」とのコンビで数えきれないくらいの獲物を獲らせてくれました。
「猟犬っていうものは凄いものだな・・・」
実家では鳥猟犬を飼っていたのですが、大物猟の猟犬のそんな猟芸を見てつくづくそう思ったのでした。
しかし私が猟師2年目の年、アクシデントは起こりました。
ゴンⅡがイノシシにやられたのです。
深追いして帰ってこないゴンⅡをメンバーの皆で必死になって探していた時に、私が探していた場所の山奥から僅かに聞こえる鈴の音。
勢子長に知らせ呼び戻すと、何か所も血を流し足を引き摺り山から降りてきました。
血まみれのゴンⅡの姿と悔しさを滲ませた勢子長の表情を見ると、心臓が押し潰されそうな気持ちになったのを今でも覚えています。
直ちに病院に搬送。
命は取り止めましたが、左足の腱は繋がりませんでした。
飼い主である勢子長を含め、誰もがゴンⅡの猟犬としての命は終わったと思いました。
しかしゴンⅡの輝きが消えることはありませんでした。
傷が癒えた1年後の猟期の途中、「他の猟犬を山に連れて行っているとあまりに鳴き叫ぶから散歩程度に連れてきた」と山に来たゴンⅡ。
「そっか、お前も立派な猟犬だもんな。足が動かなくなっても山に来たいよな」
擦り剥けない様に勢子長にギプスと厚くテーピングを施してもらいます。
山に猟犬を放つと、ゴンⅡも足を引き摺りながらも嬉しそうに山を駆け回ります。
もちろん他の猟犬には敵いませんが、これが結構なスピード。
すぐに鹿が早立ちし、猟犬が追い鳴きを上げながら追って行きます。
同じ猟場に鹿とイノシシがいた場合、必ずと言っていいほど鹿が先に動きます。
そして鹿の匂いに反応して猟犬が追って行きます。
その隙にイノシシは包囲網の手薄な場所から悠々と逃走されるというパターンが続いていました。
しかし今回は違いました。
他の犬が狩り残したイノシシを執念深く探索していたゴンⅡが突き止めます。
激しい立て吠えでの鳴き止め。
スピードに劣ることも幸いして、その時には勢子長も近くに来ていました。
決着。
再起不能と思われた重傷を負いながら、ゴンⅡは再び輝きを取り戻しました。
足の悪いゴンⅡがイノシシの攻撃を躱せない恐れがあるので、急峻過ぎる山や寝屋の藪が茂り過ぎている場所では休ませましたが、それからも彼の活躍は続きます。
足を引き摺りながら頑張っているゴンⅡの姿を見ると「今日はゴンⅡが来ているからな、絶対に獲るぞ!」と猟隊の士気も上がりました。
「ケガをした猟犬を使役するなんて可哀想」と思われる方もいるかもしれませんが、彼の姿を見ると「猟犬は猟をする事が生きがいなんだな」と思ってしまいます。
他の犬とはスピードが違うため、ゴンⅡはいつも一頭で黙々とイノシシを追っていましたが、その目は活き活きとし、誇りと自信に満ちたものでしたから。
その後、ゴンⅡは大きなケガを負う事もなく、年齢的な衰えから昨年引退。
今では勢子長の家で穏やかな老後の生活を送っています。
ゴンⅡ、ありがとう。
そしてお疲れ様。
狩猟の魅力まるわかりフォーラムHP↓ゴンⅡお疲れ様!と思っていただいた方はクリックプリーズ♪にほんブログ村にほんブログ村