安全保障政策
広範な国民の合意が必要
2015年09月19日 05時00分
安保関連法案は与野党が真っ向から激突する審議過程をたどった。内容が多岐にわたるため論議は一般に分かりにくかったが、日米同盟が強固になって安全保障環境を安定させるなら、国民生活の安寧に役立つものだ。
歴代政権は国連平和維持活動協力法(PKO法)をはじめ、周辺事態法、武力攻撃を受けた場合の国民保護法など有事法制を整えてきた。自衛隊の原点である国土防衛の法的根拠もなかったころからすれば、まさに「普通の国」への歩みだった。
今国会のさなか、北朝鮮は「準戦時状態」を宣言し、一時、朝鮮半島情勢は緊迫した。核開発とミサイル実験を続け、これまでも挑発を繰り返している。日本に対する脅威で最たるものは、北朝鮮の暴発であることを痛感させた。
日本や韓国に展開する米軍は、常に朝鮮人民軍の動きを警戒している。半島有事に備えて米軍と自衛隊の連携を実態に即したものにするところに、今回の法案の重要なポイントがあった。
離島への外国勢力の上陸など「グレーゾーン」とされる事態も含めて、有事が発生しないことが望ましいものの、危機にスムーズに対応できるように法律をつくっておくことは、国として当然である。
国民の命と暮らしを守るためでありながら「戦争法案」と非難を受けた。極めて限定的に集団的自衛権の行使を可能にしたが、法律家から憲法違反と指摘されたことをきっかけに、各地でデモが起きた。「戦争に巻き込まれる」「徴兵制が始まる」など一般の不安を打ち消せなかったのは、政府として反省しなければならない。
日本で長くタブー視されてきた有事法制が、転機を迎えたのは2003年である。この時、与党は民主党の主張を一部受け入れ、武力攻撃事態対処法など有事関連法を成立させた。民主党が賛成に回ったのは、政権担当能力を示そうとの判断だった。
当時から集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更は視野にあったはずだが、民主党は今回反対に回り、対案を示すことはなかった。国の基本的政策である安全保障は広範な合意が必要だ。与野党が譲歩の余地もないほど対立するのは、国民のためにならないことである。
安保関連法が抑止力を高めるものであれば、集団的自衛権の行使に踏み切る事態はまれだろう。一方、改正PKO法や国際平和支援法で自衛隊の海外活動は確実に広がる。与党は一部野党と協議し、自衛隊派遣の厳格化を付帯決議に盛り込んだ。冷静に話し合えば、採決の在り方も変わった可能性もある。
審議の中で多くの憲法学者は、集団的自衛権行使のみならず、自衛隊についても「違憲」と考えていることが明らかになった。憲法の学問的解釈と世論、政策実行の食い違いが広がっている。ここまで離れた状況を放置せず、自衛隊の規定を中心に改憲論議を始めるべきではないか。
安倍晋三首相は念願の「戦後の安保体制立て直し」を果たす。来年夏には参議院選挙で民意を問うことになる。野党との対立、若者や主婦などに広がった政治への不満がどういう形で表れるのかも注目したい。(宇都宮忠)