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安保をただす 日本の転換点 民主主義の土台が崩れた 09月19日(土)

 安全保障関連法案の成立は、日本が海外で武力を行使できる国になることを意味する。

 安倍晋三首相は広がる反対の民意を顧みず、自身の宿願を優先した。戦後70年、平和国家を掲げてきた日本の転換点として記憶しなくてはなるまい。

 今後は米国との軍事一体化がさらに進んでいく。自衛隊の海外活動の拡大で、予期せぬ紛争に関わる危険性も高まる。

<軍事重視に傾く懸念>

 外交面ばかりでなく、経済活動や地方自治、暮らしの場などで、陰に陽に軍事的な論理が頭をもたげてくる可能性がある。その影響は計り知れない。

 しかも、政府のトップらが決める自衛隊の海外派遣や武力行使の是非は、特定秘密保護法で目隠しされ、国会や国民の目が届きにくい仕組みになっている。行政が肥大化し、憲法が定めた「国権の最高機関」である国会の上に君臨する状況を生みだしかねない。

 戦後の政治は先の戦争の反省に立ち、軍事に傾かぬよう抑制に努めてきた。政治と憲法9条の緊張感ある関係が歯止めの役割を果たしてきたのだ。

 安倍首相はこの緊張関係を一気に崩した。国民の権利を守り、国家権力の暴走を防ぐために憲法があるという立憲主義を踏みにじり、民主主義も軽んじた。

 これまでの経過を振り返ると、国会審議も熟議とは呼べないものだった。安保法制は憲法学者らから憲法違反と指摘された。根幹が揺らいでいるのに、自民、公明の与党議員は国民の代表として問題点を掘り下げることはせず、首相の応援団に徹した。

 数で劣る野党は問責決議案や内閣不信任決議案を繰り出して、成立を遅らせるのが精いっぱい。衆参両院での採決強行など、政府、与党の荒っぽい手法の数々は民主主義の土台が崩れかけていることを印象付けた。

 なぜ、このような結果を招いたのか。国民の側にも重い問いが突き付けられている。

 安保法制には反対が多くても、内閣支持率は一定の高さを維持してきた。それを背景に、首相は経済最優先の政権運営を行うと国民に訴え続ける一方で、自身のこだわる政策を進めた。軍事重視路線は最たるものだ。

 国民の側は安保転換を予測できたはずなのに、選挙で明確な「ノー」を突き付けなかった。

<背景には不安な社会>

 オウム事件をはじめ、社会の変化を追い続けている映画監督で作家の森達也さんは日本に広がる不安に注目し、こう語る。

 「分岐点は1995年だと考える。この年、阪神大震災や地下鉄サリン事件が起きて国民は恐怖を覚えた。その後も米中枢同時テロのほか、東日本大震災、福島の原発事故などを経験し、不安による人々の集団化が進んだ」

 森さんは個人の権利や尊厳が踏みにじられた原発事故で政治意識が変わると期待したが、思ったほどではなかったという。

 「民意や政治、メディアが不安を増幅させる構図が出来上がってしまった。その結果、国民は強い指導者を求め、統制や厳罰化を是とする風潮を生む。不安な社会が安倍政権を支えることにもつながっている」と分析する。

 安倍首相は中国などの脅威を強調し、軍事的な抑止力で対抗する姿勢を示す。安保法制の必要性を語るときもそうだった。国民の不安を求心力の維持に利用しているふしがある。

 安保政策の転換でどうなるのか、首相が次に目指す改憲の先に何が待っているか、深く考えている人がどれだけいるだろう。森さんが懸念するのはここだ。

 政治も国民も内向きになり、民主主義のほころびが目立ち始めた日本の社会。どう築き直すか、重い宿題になった。

 希望はある。戦争は二度としたくないと、老若男女を問わず全国で盛り上がった反対運動だ。特に若い世代が声を上げたことが目を引いた。個人で自発的にデモや集会に参加する人が増え、社会現象と呼べるほどになった。

 大学生らのグループ「SEALDs(シールズ)」のメンバー、奥田愛基さんが昨年5月の集会で語った言葉が心に残る。

 「民主主義は終わってるって言った人がいました。それに対して言えるのは一つだけ。終わってるなら始めるぞってことです」

<国民の力で止めよう>

 若者の運動は新しい政治参加の形を示した。多くの人に声を上げる勇気を与えた。不安を乗り越える力になるかもしれない。一過性で終わらせることなく、発展、定着させることを考えよう。

 来年は参院選がある。安保政策の是非を含め、安倍政権を厳しく吟味し、民意を政治に反映させる必要がある。安保法制を実際に動かさぬよう、国民が政治の真の主役にならねばならない。

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