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【安保法案採決】民意と懸け離れている(9月18日)

 混乱の中、安全保障関連法案は参院特別委員会で与党などの賛成多数により可決された。与党は本会議での採決に向け突き進んだ。国民の多くが法案に反対し、安倍政権の説明不足を指摘している。審議が尽くされたと言える状況ではない。批判を振り切る形での採決は、数の力を背景にした政権のおごりだ。民意と懸け離れている。
 法案は憲法違反の疑いだけでなく、多くの問題を抱えている。形式上は「平和安全法制整備法案」と「国際平和支援法案」の2本から成るが、「平和安全法制整備法案」には自衛隊法や周辺事態法、武力攻撃事態法など10本もの改正案が詰め込まれている。極めて重要な改正案を1本に束ねたため、複雑で分かりにくくなった。集団的自衛権の行使要件は曖昧なままで、行使例も明確にならなかった。
 衆院、参院合わせての審議は210時間を超えた。与党側は採決の環境は整ったとする。安倍晋三首相は「決めるべき時に決める」と言う。「決めるべき時」は審議時間の長短ではなく、審議によって社会の理解が進んだかどうかで判断することだ。
 共同通信社は毎月の世論調査で、安倍政権が法案について国民に十分説明していると思うかを尋ねている。5月は「思う」が14・2%で「思わない」は81・4%、8月は「思う」が15・8%で「思わない」は81・1%だった。時が経過しても数字はほとんど変わっていない。政権の説明不足は明らかだ。理解は広がっていない。
 それでも首相は、米連邦議会演説での約束を果たそうとするかのように今国会成立にこだわった。15、16日の公聴会でも「法案は憲法九条の範囲内ではない。違憲だ」「国民に説明できる法案を出し直すべき」などの発言があったが政府、与党が真摯[しんし]に受け止めた様子はなかった。あらかじめ決めている結論しか見ていないのだろう。
 日本を取り巻く安全保障環境は様変わりしており、国際情勢に対応した安保政策の検討は必要だ。だが今回の法案の出発点は、安倍政権による集団的自衛権行使容認の閣議決定だ。国民が関わることなく憲法解釈が変更された。政策以前に、法案の憲法適合性が厳しく問われる事態となったのは当然だ。国民が納得する過程を経なければ、政策論は深められない。
 多くの疑問や不安にふたをするような採決は、今後の安保政策議論に禍根を残しかねない。民意に背を向け続ければ、政権への不信感は増すばかりだ。(佐藤 研一)

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