新国立競技場、ゼネコン「受注合戦」の内実
9月18日午後5時。新国立競技場の新たな整備計画が動き出した。公募型プロポーザル(入札)への参加表明の期限を迎え、2チームが事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)に参加表明書を提出したようだ。
建設費の高騰で批判を浴びた整備計画は、7月17日、安倍晋三首相の「白紙化」のひと声で、ゼロベースからのスタートなった。新計画での総工費は1550億円。もとの計画から970億円も削減された。今回は、デザイン・設計・施工が一体のデザインビルド方式で実施される。
一組目は、すでに参加表明をしていた大成建設と建築家・隈研吾氏、大手設計事務所・梓設計のチーム。二組目は、竹中工務店・清水建設・大林組の3社連合と建築家・伊東豊雄氏、大手設計事務所・日本設計のグループだ。
白紙になった旧デザインを手がけたザハ・ハディド氏と組んだ日建設計は、9月7日に参加表名をし、締切日ぎりぎりまでゼネコンとの交渉を続けたが、まとまらず参加を断念。また前期単独決算で赤字となり、建築部門の立て直しを行なっている鹿島も、参加を検討したものの最終的に不参加になったもようだ。
■最終結果まではデザインも不明
現段階では「参加表明、その後の資格審査、技術提案いずれの段階でも参加事業者名は公表しない。最終結果のみ公表する」(JSC)としている。選考過程は不透明で、最終決定まではデザインも公表されない。
日建設計や大成建設は、締め切り前に参加を表明していたが、「公正な競争を阻害する行為であり、ほかの事業者には参加表明は控えるようにお願いしている」(JSC)。これを受けて大成建設も、締め切り当日には「当案件についてノーコメント」と態度を硬化させた。ほかの事業者は「締め切り後についてもJSCが公表しない限り、事業者から公表することはない」(大手ゼネコン)と決め込んでいる。
評価のポイントはどこに?
だが新国立競技場の建設は、多額の税金がつぎ込まれる事業だ。さらに今回の騒動で国民の大きな関心事にもなっている。また、デザインビルド方式なったことにより、建築家や設計事務所は単独で参加できなくなったことに対する批判もある。説明責任という観点からも、より透明性を高めるべきという考え方はあるだろう。
新国立競技場の前整備計画は、2012年に行われたデザインコンクールから3年にもわたって進められてきたものだった。その間、建設費が当初の試算1300億円から一時は3000億円超にまで膨れあがった。規模を縮小するなどして一度は2520億円で決着しそうになったが、「国民のみなさんやアスリートからも大きな批判」(安倍首相)があり、白紙撤回となった経緯がある。
文部科学省やJSCがやり玉に挙げられ、デザイン選考や建設事業者の選定、見積額などの不透明さから、ザハ氏のデザインや工事を請け負うゼネコンまでも批判の対象になった。そこで政府は費用の積算根拠や責任の所在などを明らかにするため、第三者検証委員会を設置し、協議を進めている。
■ポイントは価格と工期
今後最大の焦点は、参加を表明した2チームが実際のデザインや設計、建設スケジュールなどを提出する「技術提案」だ。11月16日に締め切られる。技術提案の評価は140点満点で行われる。項目は大きく分けて3つで、1.実施方針(20点)、2.コスト・工期(70点)、3.実施計画(50点)。もっとも高い評価を得た事業者が受注をすることになる。
中でも「事業費の縮減」(上記2のうち30点)と、「工期短縮」(同30点)の配点が高い。新計画では総工費の上限が1550億円と決められており、どこまで事業費を抑制できるかが大きな評価対象となる。同時に、完成期限は2020年4月30日までだが同年1月への前倒しが求められており、工期短縮向けた施工・管理体制なども重要だ。
問題は人手不足
「デザインだけでなく、特に工期を守るために労務関係の手当などを含め、ある程度固まっていなければ(18日に締め切った参加表明に)手は挙げられない」(ある大手ゼネコン幹部)。手を挙げたのはそれなりの勝算があるからだろう。今回、参加表明をしたチームの顔触れをみると、それぞれに優位性がある。
旧国立競技場の工事や、白紙となった前計画に参画していた大成建設チームは、技術者など労務関係の手当てだけでなく、一部資材の発注まで先行していただけに、有利とみられる。
■人繰りの調整が問題
これに対して竹中工務店・清水建設・大林組のスーパーゼネコン3社連合は、技術力、過去の実績などからみて、大成建設と互角以上に闘える布陣といえる。
清水建設は前計画の技術評価で、スタンド部分は大成建設に次いで、屋根についても竹中工務店に次いで2位と悔しい思いをした。大林組はシドニー五輪スタジアムの建設など実績がある。竹中工務店は前計画ではスタンドの屋根部分を担当することになっていたが、「屋根部分は技術的には難しくても、あまり人手がかからない」(建設業界関係者)ことから、労務者の手当はあまりしていなかった。
このスーパー3社が連合を組んだ理由は、人繰りの調整にある。3社ともにすでに抱えている工事が豊富にあり、1社だけで国家プロジェクトに参画するには、現場の技術者をはじめ、熟練工などの確保に問題がある。工期が間に合わないという失態は許されない。リスクを減らすためにも、3社で分担していこうという判断だ。
最終的にどこに決まるのか、予断は許さないが、「上限1550億円で新国立競技場建設とその周辺整備を行うわけだから、おいしい仕事とはいえない」(あるゼネコン幹部)。「利益よりも名誉」をかけた戦いといえそうだ。