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Chikirinの日記 RSSフィード

2015-09-18 才能が半減する時代

ここ何年か、ヨーロッパの国際音楽コンクールやバレエコンクールで日本人が上位入賞というニュースを聞くことも増えたし、

スポーツでも錦織圭選手がグランドスラムの決勝戦に残り、フィギュアスケートの羽生結弦選手は圧倒的なパフォーマンスで金メダル、水泳王国も復活してるっぽい。


そういうの見てると、

「最近の日本人、すごい!」とか、

「10代から続々と世界に通用する才能が!」と嬉しく感じたりするわけですが、

その一方で、こんなの長くは続かないよね、とも思えます。


ピアノやバレエ、バイオリンなどに関しては、国が豊かになってからの年数が重要なので、ようやく日本でも小さな頃から専門的なレッスンを受けられる環境で育った世代がでてきたってことだし、

水泳にしてもスケートにしても、日本のあちこちにプールやリンクができた時代より後に生まれた世代が活躍を始めてる。

日本経済のピークは 1990年なので、地方まで豊かになったその後に生まれた(今、25歳未満の)世代から、芸術やスポーツの分野で世界トップクラスの才能が増えているのはよくわかります。


でも、その後は日本の経済成長も止まっていて、子供達が一流のパフォーマンスに触れられる施設や機会が増え続けてるわけでもないし、なにより今後は子供の数の減り方が尋常ではないんですよね。

世界で活躍する人が増えるどころか、今までそれなりのレベルだった分野だって、今後は才能を確保するのが(従来の方法を続けているだけでは)すごく難しくなるんじゃないでしょうか。


★★★


今、日本で人口が多い世代と言えば、戦後直後生まれの団塊世代(今、70歳くらい)と、団塊ジュニア世代のふたつです。

団塊ジュニアとは 1970年の前半に生まれた人達で、1年に生まれた子供の数は下記の通り。

・1970年生まれ(今 45歳) 193万 4239人

・1971年生まれ(今 44歳) 200万 0973人

・1972年生まれ(今 43歳) 203万 8682人

・1973年生まれ(今 42歳) 209万 1983人

・1974年生まれ(今 41歳) 202万 9989人


1年に生まれる子供の数が 200万人を超えてるのは、戦後では団塊世代と団塊ジュニアだけですが、最近は特に少子化の進行が激しく、2014年の出生数は 100万1000人にまで下がっています。

今年、2015年の出生数は戦後初めて 100万人を割るかもと危惧されてましたが、今のところ前半の半年で 50万 8802人と善戦してるみたいです。

とはいえ、それでも団塊ジュニア世代に比べると子供の数は半減してる。


さらに、これからも出産年齢の女性数自体が激減するので、今後も子供の数はどんどん減り、2050年あたりには 60万人台になると言われてます。

これは今 40代前半の団塊ジュニアに比べると、3分の 1というサイズ・・・


★★★


子供の数が半減すると、

・受験地獄がなくなり、学生のレベルが低下、とか

・就職難がなくなり、人手不足へ

・社会保障がもたなくなり、重税、低福祉時代へ

・高度成長が終わり、低成長時代へ(てか、縮小経済へ)

みたいなことが起こるわけですが、それに加えて「各分野でトップクラスの才能を持つ子の絶対数」も半減します。


1年に生まれる子供の数が(今の40代前半の) 200万人から 100万人まで減ってるということは、今の子供には、天才も普通の人もダメダメな人も、40代の半分しか存在しないってことです。

普通の人とダメダメな人が半減するのはともかく、卓越した資質を持つ人が半分になると、いろんな業界に存亡の危機が訪れます。


例えば野球。イチロー選手は 1973年生まれ、松井秀喜氏は 1974年と団塊ジュニアど真ん中ですが、こういう人が今後、出現する可能性は、当時の半分になります。

そういえば将棋の羽生善治名人も 1970年生まれで、“羽生世代”と呼ばれる多くの強豪棋士も団塊ジュニア世代ですが、1年の出生数が半分になると、こういった才能を持つ人も当然に半分になるでしょう。


しかも、前々から書いているように「豊かになる」というのは=「多様になる」ってことなので、子供らが熱中できるスポーツや趣味の種類は大幅に増えています。それはつまり、特定の分野に熱中する子供の数は、半減以上に減っているってことです。

野球だって、イチロー氏や松井秀喜氏が始めた頃は「スポーツが得意な子はみんな野球をやってる」時代でしたが、

それ以降はサッカーや水泳の人気も高まったし、

これからは錦織圭選手に憧れてテニスを始めたり、羽生結弦選手に憧れてスケートを始める子もいるでしょう。

ゴルフ好きのお父さんの中には、息子を松山英樹氏や石川遼氏のようにしたいと考え、小さな頃から息子をグリーンに連れ出す人もいる。


世界でトップを競えるレベルのアスリート資質をもつ子供なんて一定比率でしか出現しないので、

母集団(出生数)のサイズが半分になった上、よりたくさんの競技で才能を取り合っていては、すべての分野で才能不足が顕著になります。


特に厳しいのは多人数が必要になるスポーツです。野球やサッカー、バレーなどは、ひとりだけスーパーな選手がいても勝てません。

トップアスリート資質の子供が減り、豊かな時代になって彼らが各種競技に分散すると、こういった「多人数スポーツ」の未来はかなり暗いです。


ちなみに中国では今、1年に 1600万人もの子供が生まれてます。一人っ子政策が完全に廃止されると、2000万人くらい生まれても不思議じゃないわけですが、

1年に 100万人しか子供が生まれない日本が、サッカーや野球で中国に勝ち続けられるなんて、とても思えないでしょ?


★★★


では各業界が手を打つとして、どんな方策があるかと考えてみると、


1)相撲方式

海外から選手を輸入し、強くなった人に帰化を勧めて日本人にする方式


2)「巨人の星」方式

特定のスポーツを取り上げたマンガが大ヒットすると、子供がみんなその競技に集中します。「アタックナンバーワン」でバレーブームが、「エースを狙え」でテニスブームが起こったように、狙って“ブーム”を起こす作戦です。


3)共産主義国方式

ソビエトや中国など共産主義国では(特に昔は)、全国の幼い子供たちの中から基礎能力の高い子供を集め、国がひきとって集中訓練を行うことで、体操選手など多くのオリンピック選手を育ててきました。

日本でも、5歳から 10歳くらいの時に卓越したアスリート資質のある子を全国の小学校の体力測定を通じて見いだし、一箇所に集めて全く別コースで(親に経済的な負担を掛けずに)教育する、もしくは、海外の有名養成校に送り込む、みたいなことをすれば、効率的に「天才的な選手」を掘り起こせるでしょう。

特に、個々の資質に合わせて適した競技をマッチングさせることができれば、人数が減るなかでも効率よく「特別な才能」を開花させられます。


つまり、人数が減るなかで才能を確保するための方法は、

1)相撲方式 = 輸入方式

2)「巨人の星」方式 = 国内競争方式

3)共産主義国方式 = 生産性向上方式

の3つってコトですね。


★★★


とはいえこれらの方法には、それぞれ難しい点もあって、


1)相撲は日本だけの業界なので勝手にルールを変えられますが、サッカーや野球では国際ルールで「外国人選手は何人まで」と決められてしまうので、帰化までさせないと強いチームは作れません。

それに、フランスのサッカーチームで話題になってましたが、「全員、まったく日本人に見えない日本チーム」が強くても意味があるのかどーか。。。

実際、相撲だって既に、どこの国の国技だかわからないような状況になってきてます。


2)は基本的に国内の競技間での才能の取り合いなので、すべての競技が才能を集めることはできません。

大ヒット漫画が生まれてその競技に才能が集中すれば、他の競技では(そもそも半減してる才能が)更に減ってしまいます。

反対に、異なる競技をテーマにした複数の漫画が同時に流行すると、才能のある子が分散してしまい、特にチームスポーツでは、「めっちゃ強い子がいるのに他のメンバーが弱々で、チームとしては全く勝てない」みたいになります。

また、ブームを人為的に起こすのは、そんなに簡単なことでもありません。


最後の3)は「限られた才能を、できるだけ高い成果に結びつける」という方式ですが、

「宇宙に興味があるんで物理学者になりたい」みたいな子供でも「キミは世界を狙えるから陸上に強い高校に行きなさい」みたいな話になりかねないし、

「世界が狙えると言われたから青春をかけたのに、結果がでなかった。この責任は誰がとってくれるんだ?」みたいなことも起こりえます。


「頭も良いしアスリート資質も卓越してる」って子がいた場合、親に判断させれば多くの場合、「スポーツを楽しむのはいいと思うわ。でも、とりあえず東大を目指してね」みたいな話になりそう。

たとえスポーツでも世界が目指せますよと言われても、親としてはそんなハイリスクハイリターンの人生より、確実にそこそこ成功できそうな「いい大学への進学」を望む場合も少なくないでしょう。


★★★


まっ、とにかくですね、ここまで生まれる子供の人数が減ってくると、アスリートや芸術家だけではなく、

「10歳くらいで、トップを狙えるかどうか判定できる分野」

 すなわち、

「本格的な訓練を受け始める前の資質レベルが極めて重要な分野」

に関しては、「才能や資質に優れた子供の絶対数の半減」が、大きな問題になってくるだろうってことなんです。


そこまで才能が重要かどうかはわかりませんが、卓越した哲学者やら研究者、起業家や企業家、職人などに関しても同様に「もともと適性のある人」の絶対数は半減します。

今は人気の業界も含め、「トップ選手が今の半分しかいない未来」「適性の高いスタッフが今の半分しかいない未来」を、どの業界も具体的に想像してみたらどうかと。


子供の数が減り続けることが確定している中、それでも各業界に才能を確保するためには、個々人の自由度を確保しつつも、いかに効率よく様々な才能を発見、開花させるかという生産性向上策を、それぞれの業界で、もしくは国全体で考え始めたほうがいいのかもしれない。

そういった対策の効果は、多くの人が思っているより遙かに高いんじゃないかと私は思ってて、

別の言い方をすれば、今でも完全に見過ごされ、投資されず訓練されずに終わってしまってる才能は、まだまだたくさんあるんじゃないかと。


偶然の出会いと各家庭の方針に任せるという従来のやり方を続けるなら、今後すべての業界において、確実に“才能”は半減してしまいます。

でも、なんかもうちょっと異なる方式を早い段階の教育機関に導入できたら、大きく結果が変えられるかも。

そんなことを思った夜。


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 そんじゃーね


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