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<安保法案>やまぬ「反対」の波 「強行」に怒りの渦

毎日新聞 9月18日(金)23時36分配信

 日本の民主主義は大丈夫か。平和主義はどこへ行くのか。国のかたちを変える安全保障関連法案が、成立に向けて最後のハードルを越えようとしている。憲法9条の解釈変更。参院特別委員会採決での大混乱。異例づくしの展開をたどってきた法案に18日、国会周辺で、全国各地で抗議の声が渦巻いた。

 「戦争法案、今すぐ廃案!」「強行採決、絶対反対!」。時折小雨が降る国会正門近く。午後7時半ごろ、歩道を埋め尽くした人たちから絶えることなくコールが上がった。主催者発表で国会周辺には約4万人が集まった。警察関係者によると午後8時現在で1万1000人が参加した。

 早い人は午前中に来ていたといい、夕方には既に混雑。具合が悪くなる人が出ることを心配し、ボランティアの医療スタッフがデモ隊を巡回した。

 仕事帰りに参加した人も少なくない。東京都三鷹市の会社員、押川淳さん(36)は同僚の男性(39)と一緒に加わった。「安全保障関連法案は憲法が保障してきた平和主義をないがしろにしている」と批判。参院特別委での与党の強行採決について「暴力的な過程で成立することも許せない。妻は妊娠中で、デモに参加することはできないが、国会中継を見て私以上に怒っている」と話した。

 千葉市稲毛区の創価学会員、大森武夫さん(73)は「公明党改心せよ」との自作のプラカードを掲げた。「武力による抑止力を掲げたこの法案は、生命尊厳を重んじる創価学会や公明党の理念と反する。何のための公明党なのか。今からでも遅くないから公明党は反対に回るべきだ」

 地方公聴会があった横浜市から駆けつけた鈴木徹さん(71)も怒りを隠さなかった。「日本が米国の戦争に参加するようになり、海外から米国と同一視されるようになれば怖い。廃案にすべきだ」

 札幌市では「戦争をさせない北海道委員会」の集会が5日連続で開かれ、1400人(主催者発表)が雨の中で傘を揺らして抗議した。同市中央区の小川るり子さん(65)は「安倍首相は国民を守ると言うけれど、安保法案で戦争をできる国にするなんて国民を愛していない証拠だ」。

 大阪市北区のJR大阪駅前では夜、学生団体「SEALDs KANSAI(シールズ関西)」の約10人が代わる代わるマイクを握り「法案が成立しても民主主義を求めて声を上げ続けよう」と呼びかけた。7月から毎週金曜日に行ってきた街頭アピールは今回で12回目。これまでで最大の約6000人(主催者発表)が集まった。

 福岡市中央区の繁華街では、学生や社会人らのグループが抗議に集まった。福岡県飯塚市の元会社員、小幡あゆみさん(26)は「法案は違憲で無効。この国がこれからも平和主義を掲げて世界をリードできるようにしよう」と訴えた。福岡市早良区の大学4年、熊川果穂さん(21)は「武力で威嚇して守るのは平和ではない。あきらめず声を上げ法案に反対しよう」と呼びかけた。【一條優太、遠藤孝康、下原知広】

 ◇「政府対応、常軌を逸している」

 日が暮れるにつれ、国会周辺では緊張したムードが高まった。午後6時半過ぎ。抗議活動の太鼓が鳴り響く。「しゃべり続けろオカダ、カツヤ!」。議員会館前の一団からコールが響く。

 この時、衆院本会議場では岡田克也・民主党代表が、内閣不信任案に賛成する演説をしていた。「安倍内閣は即時退陣すべきです」。力を込めて繰り返したが、壇上の安倍晋三首相は、時折岡田氏のほうに目をやる以外、無表情のまま。

 直前の自民党議員の演説中には、傍聴席から「だったら戦争やっていいのかよ」とやじが飛んだ。発言の主の男性は、衛視に4人がかりで議場外へ連れ出された。

 衆院での審議中、安保法案の採決に臨む参院議員の多くは自室や控室で待機していた。法案への見方や国民の批判をどう思うか聞いてみた。

 国際政治学者の猪口邦子参院議員(自民)は、議員会館の事務所で嘆いた。「日米同盟や外交について広く分かっていただく機会が少ないのかな」。もちろん賛成するという。

 事務所内でも外の抗議の声が聞こえる。3週間ほど前、上智大教授時代の教え子から法案に反対するよう求める手紙が届いた。猪口氏は「市民運動的なノリでは(社会に)貢献できない。電話して会いに来てくれれば、新たな観点に気づいたかもしれないけれど、十数年ぶりの相手に手紙だけ送るのは、私が教えた対話の作法じゃない」と苦笑した。

 前日の特別委員会で採決が強行された際に鴻池祥肇委員長をガードした一人、古賀友一郎議員(自民)は、議員会館の事務所で「残念だ」と繰り返した。「安全保障は党派を超えた話なのに、与野党の溝がこんなにも大きくなってしまった」

 別の自民党参院議員は「党の改憲草案にある『国防軍』など、改憲論者の私でさえぎょっとする。その意味では、今回の解釈変更で(よりひどい改憲に)歯止めがかかる」と複雑な表情を浮かべた。

 若手の大沼瑞穂議員は「法案は必要だが、国民の理解は進んでいない」と率直だ。「党内の意見は多様でいい。総理には中韓ともっと仲良くしてほしい」

 一方の野党議員。参院特別委で何度も質問に立った民主党の大塚耕平議員は、前日の大混乱の採決について、「政府・与党の対応は常軌を逸している。そこまでやらないと、可決できないと思ったからやったのだろう」と、疲れをにじませながらも語気を強めた。

 脱デフレを提言する民主党の金子洋一議員は少し違った角度から見る。「金融緩和には雇用回復の効果があった」とアベノミクスの成果を認める。「集団的自衛権の行使容認は憲法改正が筋。安倍政権は経済回復にこそ力を入れるべきだ」【樋岡徹也、川崎桂吾、石戸諭】

最終更新:9月19日(土)1時12分

毎日新聞

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