中国と琉球独立派のシンクロぶり
次に、中国の沖縄を巡る主張を追っていくと、見事に沖縄の独立派の動きとシンクロしているのが見えてくる。2013年5月12日。中国の人民網日本語版に「琉球問題を掘り起こし、政府の立場変更の伏線を敷く」と題した社説が掲載された。
《中国は3つのステップで「琉球再議」を始動できる。
第1ステップは琉球の歴史の問題を追及し、琉球国の復活を支持する民間組織の設立を許可することを含め、琉球問題に関する民間の研究議論を開放し、日本が琉球を不法占拠した歴史を世界に周知させる。政府はこの活動に参加せず、反対もしない。
第2ステップは日本の対中姿勢を見た上で中国政府として正式に立場を変更して琉球問題を国際的場で提起するか否かを決定する…
第3ステップは日本が中国の台頭を破壊する急先鋒となった場合、中国は実際の力を投じて沖縄地区に「琉球国復活」勢力を育成すべきだ。あと20―30年後に中国の実力が十分強大になりさえすれば、これは決して幻想ではない。日本が米国と結束して中国の将来を脅かすなら、中国は琉球を離脱させ、その現実的脅威となるべきだ。これは非常にフェアなことだ》
すでに第1ステップにある民間組織は許可されている。香港の新聞「デイリーアップル」に2011年1月17日、「中華民族琉球特別区援助籌委会(設立準備委員会)成立公告」なる公告が掲載された。
2013年5月15日には、沖縄に「琉球民族独立総合研究学会」が設立された。糸数氏に続き、翁長知事が国連で沖縄統治の不法性を発信することも現実になりつつある。こうした中国側が描いたシナリオと平仄があうように事態は進んでいるように思える。
設立された研究学会は昨年12月に琉球人への差別問題や自己決定権確立などを国連に直接訴える活動を今年度から始めることを決議。今年2月には1879年の琉球処分が「独立国だった琉球国に対する武力強制併合で国際法違反は明らかだ」と外務省に抗議し、日本政府に謝罪を求め「琉球の植民地支配の即時停止」を要求する事態も起きている。
中国では独立学会設立のニュースは大々的に報じられた。環球時報は設立の翌16日に「中国の民間は『琉球独立研究会』を支持するべきだ」と社説を掲載。CCTVも「中国は琉球の帰属を見直す」と題した特集を組み「沖縄は日本に属さない」「琉球人民の独立運動」に「日本はパニック」に陥っているなどとする特集番組を放映している。沖縄の一連の動きを独立に向けた動きととらえている。
中国の主張のよりどころ
2013年9月25日、中国政府は「釣魚島白書」を公表している。そこで「世界反ファシズム戦争の勝利の成果を守ると宣言し、日本政府は日清戦争前に釣魚島を盗み取り、沖縄返還協定で日米間で不正に施政権を授受したが、釣魚島は『カイロ宣言』『ポツダム宣言』『降伏文書』『日中共同声明』に基づき台湾とともに中国に返還されるべきである」と主張している。
ここで重要なのはカイロ宣言だ。カイロ宣言はこうなっている。
《同盟国の目的は1914年の第一次世界戦争の開始以後に日本が奪取しまたは占領した太平洋におけるすべての島を日本国から剥奪すること、並びに満州、台湾及び澎湖島のような日本国が清国人から盗取したすべての地域を中華民国に返還することにある。日本国は、また、暴力及び強慾により日本国が略取した他の全ての地域から駆逐される》
ポツダム宣言第8条には冒頭、「カイロ宣言の条項は履行されるべき。日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国ならびに吾等の決定する諸小島に限られなければならない」とある。
さらに日中共同声明の「日本国政府は中華人民共和国政府を中国の唯一の合法政府と認める」「日本国政府は…ポツダム宣言第8条に基づく立場を堅持する」とある取り決めに基づき、清国から盗取した尖閣諸島を我々に返せ―という論理構成を取るのだ。この白書が発表された2013年時点では、尖閣諸島のみの領有を主張しているが、既にネットや新聞記事、TV番組などではこれと同じロジックで琉球の主権を主張している。この流れを見ると、2013年に釣魚島白書で仕掛けた国際法律戦の主権の主張範囲を沖縄全体に拡大できるように、以降の沖縄工作は進められているように見える。沖縄県民が国際的に先住民族だと認められれば、「明治以降の日本の沖縄統治はファシズム国家日本による侵略だ!」と説明しやすくなるからだ。9月3日に中国政府が開催する「反ファシズム戦争勝利70周年記念パレード」以降、中国政府が「日本は過去の侵略を反省したなら、カイロ宣言、ポツダム宣言を順守して琉球の主権を放棄せよ」と言い出す可能性も低くないと見ている。その時期は国連工作と沖縄の自己決定権回復工作の成功の可否により決まると私はみている。
問題は日本国の政府である。日本政府の公式見解は「琉球民族=先住民族、少数民族」という主張を一応否定しているが「沖縄についてはいつから日本国の一部であるかということにつき、確定的なことを述べるのは困難である」というのだ。
昨年7月11日に琉球新報が1853年に締結された琉米条約を根拠に1879年の琉球処分が国際法上不当だというキャンペーン記事を掲載した。その際、琉球新報は、外務省にそれに対する見解を問い合わせたが、外務省は「確定的なことを述べることは困難である」と述べるにとどまった。琉球処分の不当性を挙げて沖縄統治の正当性を否定する相手に「沖縄はいつから日本だったか分からない」と言っているのだ。これでは「もしかすると、侵略したかもしれない」と答えているに等しい。
一般に広く知られていないが実は、日清戦争前に日本政府と清国政府との間に琉球の主権をめぐって論争が起こり、清国は今の中国メディアと全く同様の主張をし、帰属を主張したことがあった。しかし、当時の外務大臣、井上馨は「西暦七〇〇年代より南島の朝貢を受け、日本がこれを管治した。琉球国王は日本の後胤である。明や清との朝貢冊封は虚礼だった」と明快かつ毅然と清国に主張しており、これが政府の公式な外交文書として残っているのだ。この文書を読むと明治12年に日本政府は戦争をも辞さない覚悟で沖縄の領有を毅然と主張したことがわかる。
それに比べて、今の日本政府の主張はあまりにも及び腰である。また、「沖縄がいつから日本なのか」という質問に対して、明治12年の見解と現在の見解が不一致して良いわけがない。政府は今すぐにでも、明治12年の見解に戻すべきであり、もし現在の学術にそぐわない点があれば、有識者の智慧を結集して国家主権を守ることができる見解に修正するべきである。とにかく、日本政府の中国の沖縄分断工作に関する警戒心が乏しいことは残念である。
沖縄は歴史戦の戦場である
これまで述べたように沖縄の歴史プロパガンダは、壮大な嘘の積み重ねと工作が展開されてきた。調べたところによると沖縄の歴史捏造は1960年代後半より行われており、その裏には毛沢東の姿が見える。南京虐殺・従軍慰安婦プロパガンダより歴史が長く成功しており騙され続けてきたプロパガンダだといえる。これから日本民族は、存亡のかかったこの歴史戦と対峙していかなければならない。しかし、冒頭で述べたように私は前向きに捉えたい。沖縄問題の解決こそ、日本民族復活の鍵だと私は確信している。沖縄の本当の歴史を取り戻すことこそ、団結した日本民族を復活させ、世界のリーダーたる日本の再建に繋がるのである。
なかむら・さとる 昭和39年、那覇市生まれ。埼玉県在住。昭和54年、陸上自衛隊少年工科学校(横須賀)入校、卒業後の航空部隊に配属。平成3年退官。複数の企業勤務を経て平成21年、日本は沖縄から中国の植民地になるという強い危機感から民間団体「沖縄対策本部」を設立し活動中。著書に『そうだったのか!沖縄』(示現社)。