イッピン「漆と木が生み出す琥珀(こはく)色の輝き〜岐阜 飛騨春慶〜」 2015.09.13


亡くなった夫の子がおるんです。
あの世で会うたら文句言うてやります。
東京朝6時。
出勤前にお弁当づくりにいそしむのは…一日で最も幸せな瞬間がお弁当を詰める時なんだそう。
イメージを膨らませてくれるのがこちらのお弁当箱。
色みも柔らかいですし見た目もソフトな感じなので日常のおかずなんですけどやはりおいしそうに見えます。
愛用しているのは岐阜の「飛騨春慶」という漆器。
今飛騨春慶は手づくり弁当を楽しむ人たちから料理を引き立てるワンランク上のアイテムとして人気を集めています。
その特徴は琥珀色の輝きとその奥から浮かぶ美しい木目。
さらに…。
丁寧に扱えば何年でも。
6年でもすごくきれいなので多分このままずっと使い続けられるんだろうなぁと…。
きょうのイッピンは軽くて丈夫そして木目が美しく映える飛騨春慶のお弁当箱。
琥珀色に輝く神秘の世界にご案内します。
山々に囲まれた岐阜県高山市。
古くから漆器づくりが盛んです。
現在およそ40人が飛騨春慶づくりに携わっています。
イッピンリサーチャーはともさかりえさん。
食器集めが趣味で料理も大好き。
初めての高山です。
創業150年の漆器店を訪ねました。
(ともさか)こんにちは。
よろしくお願いします。
5代目店主。
ありました!今回のイッピン飛騨春慶のお弁当箱。
その多くは1万円台です。
わ軽い!すごい軽いんですね。
木目がすごいきれいですね。
なるほど。
柔らかい丸みが。
もともとこの辺は檜が豊富なもんですからその檜を使って木地師さんが曲げて作って。
それで塗師屋さんに渡して木目をきれいに浮き立たせるように塗ってもらう。
木地屋さんと塗師屋さんと…。
コラボレーションですね。
へぇ〜。
そうなんだ。
楽しみ。
どんな技が隠されているのか。
ねっ楽しみだなぁ。
早速木地師を訪ねます。
こんにちは。
こんにちはどうも。
ともさかです。
よろしくお願いします。
すごい!木のいい香りが充満してますね。
3代目この道35年の名人です。
まずは材料から。
あ!さらに木の香りがダイレクトに。
ハハッ。
そうですか。
今お弁当を作っているのは檜という材料なんですけど。
この辺でいう木曽檜。
目の細かい。
樹齢は200とか300とか結構たったものを使わんとやはりこんだけの目の細かいものは出てこないんで。
樹齢200年を超える木曽檜。
2年以上乾燥させ水分を抜かないとあとで木にゆがみが生じるんだそう。
さぁ作業開始!初めは「木取り」と呼ばれる作業。
実はあの小判型のお弁当箱は5枚の板からできています。
この板にどうやってあの美しい曲線をつけていくんでしょう。
おっ!やかんが登場。
わ〜!熱湯をかけはじめました。
これで温めるんですか木を?温めるというよりそれ以上に熱湯に入れるって感じですよね。
木を軟らかくしてやるっていう。
お湯につける前の板は…。
割れちゃいそう。
このまま曲げたらパキッって。
一方お湯につけたものは…。
ジワジワ力を入れていけば曲がるかもって感じがする。
そうやね。
しなるしなる。
そして美しい曲線づくりに欠かせないのがこの型。
型に沿って先ほどの板を曲げていきます。
これを…。
え〜!すご〜い!こうして。
こいつをこうして。
はい。
こういうもので。
これ抜いてやって。
一瞬で!そうそうそうそう。
もう一度見てみましょう。
板の中心を型の中心に合わせ固定します。
板は軟らかくなっているとはいえ力を入れすぎると割れてしまいます。
西田さんはおなかを巧みに使いながら力加減をコントロールして手早く曲げていました。
軟らかいなとか堅いなとかそんな事があるんで木を熟知した西田さんならではの技で美しくしなやかに曲がっていきました。
こうでしょ。
「ツカミ」と呼ばれる道具で固定し型を慎重に外します。
曲げが終わると重ね合わせた部分をニカワで接着し2〜3日天井にぶら下げて乾燥させます。
続いては合わせ目を補強する作業。
専用の万力で固定します。
使うのは「目刺し」。
2つの刃を取りつけた手製の道具です。
木目に沿って切り込みを入れていきます。
1つの木材でも場所によって木の堅さは異なります。
同じ大きさで等間隔に穴をあけていくのは難しいんです。
よし。
すごい。
わぁきれい。
大きさのそろった美しい穴があきました。
次に取り出したのは…。
何ですかこれ?紙みたいな…。
でも木ですか?すごい堅いですね。
実はこれ山桜の皮を薄くそいで短冊状にしたもの。
丈夫なため昔から補強材として使われてきました。
桜カンバを穴に通していきます。
へぇ〜こうなってたんだ。
そうなんですね。
こんな細かい作業が隠れていたんですね。
そうなんですね。
ひと手間なんですね。
編み込むようにひとつひとつ丁寧に。
まっこういう事で。
しっかり編んだ桜カンバは何十年も緩んだり切れたりする事はないと言います。
これが丈夫な飛騨春慶の秘密でした。
絶妙なアクセントにもなっています。
裏側もきれい。
おもしろいですね。
西田さん仕上げに筆で何かを塗り始めました。
はいはい。
締まるんだ。
へぇ〜。
接着剤みたいに。
おもしろ〜い。
俺らがすごいんじゃなくて…う〜んそうですね。
お弁当箱の木地が出来上がりました。
この木もね何百年もたったものが使われとるね。
はい。
すてき。
そうですね。
伝統の知恵と技が作る優美な曲線。
この木地がいよいよ塗師の手に渡ります。
ともさかさんが向かったのは木目の美しさを出す塗師の工房。
阿多野一夫さん。
飛騨春慶の漆塗りを行って48年のベテランです。
あの白い木地がどのようにして琥珀色になり美しい木目をたたえたものになるんでしょうか。
さまざまな塗りを繰り返す飛騨春慶。
下地塗りを施した木地に「色つけ」という塗りを行います。
木地には場所により色の差があるため一色を塗って統一するんです。
塗るのは黄色の食紅。
これが琥珀色のベースになります。
次に阿多野さん場所を移動しました。
そこはなんと…。
うん台所で?そうなんです。
一応この…。
え!何ですか大豆?大豆使わせてもらうんです。
え!大豆を使うんですかあの作業の中に?はい。
え?大豆をミキサーで細かく砕きます。
それを布巾でこすと…。
「マメしぶ」なんですけども。
マメしぶ?はい。
へぇ〜。
この「マメしぶ」が飛騨春慶の美しい木目を生むというんですが。
いったいどういう事なんでしょう。
「マメしぶ」を木地に塗っていきます。
漆が入りすぎると本当に黒くなりますのでね。
そこだけは抑えないと駄目ですので。
あと大体春慶の飴色に仕上がっていくという形になります。
ではマメしぶを塗ったものと塗らないもの漆の染み込み方がどのように違うのか。
実験をしてみました。
特殊なカッターで表面を同じ深さに削ります。
断面を顕微鏡で比較しました。
漆が木地に染み込んでいるのが分かります。
一方マメしぶを塗った板はほとんど漆が染み込んでいません。
漆の層の厚さは3分の1しかありません。
マメしぶを施す事で漆を固くし木地の奥まで染み込むのを防いでいたのです。
このあといよいよ漆を塗っていきます。
最初の漆塗り「初擦り」です。
木の中へ擦り込むというか。
本当に木に染み込ませるように力強くやるんですね。
次に和紙や布で拭き漆を薄くならします。
乾かしては塗りまた拭く。
この作業を5回繰り返す。
「擦り漆」と言います。
漆を薄く何層も重ねる事で丈夫なものにしていくんです。
擦り漆を繰り返すうちに光沢はますます艶やかになり美しい木目が浮かび上がってきます。
最後は仕上げの「上塗り」。
「透き漆」という透明度の高い漆を使います。
自ら精製して理想的な濃さや色合いにしたもの。
刷毛むらが出来ないよう神経を集中して慎重に塗っていきます。
塗りは完成。
あとは乾燥させて出来上がり。
輝く飛騨春慶の弁当箱。
美しい木目には職人の丹念な技が詰まっています。
飛騨春慶は今からおよそ400年前地元の職人が飛騨高山藩に献上したお盆に始まるといいます。
木目の美しさと琥珀色の輝きが認められ藩で奨励される事になったのです。
初めは武士や豊かな町人向けでしたが江戸時代半ばから庶民も手にするようになります。
職人が技を競い合い産業として発展していきました。
高山の町を散策するともさかさん。
中心街にある漆器店に入りました。
うん?すごいきれいな模様がついてる。
格子状の模様が気に入ったよう。
春慶塗は木の目を生かしてだんだん木の目が出てくるのでこの模様形から「籠目」と呼ばれます。
この籠目を編み出した名人を訪ねます。
ともさかです。
よろしくお願いします。
大前弘文さん。
77歳。
キャリア60年の大ベテランです。
ああいう模様が入った春慶って他では見た事がなかったので。
どんなふうにあれをつけてるのかなって。
ここにもこういうもの入れて。
わ〜本当だ!見せてくれたのはコップ。
ここにも浮き出るような籠目模様がついています。
ではどのようにして籠目は出来るんでしょうか。
用意したのは厚さ2ミリの檜の板。
作業台に板を置きました。
その上に…。
これをここに。
何ですかこれは?定規。
そうです。
手づくり定規を板の上に扇形に広げます。
定規に沿って小刀で模様をつけていくのです。
大前さんはこのやり方を半世紀もの間追求してきました。
作る器によって角度や長さを調整。
何百回も試行錯誤を重ねてこの定規を作り出しました。
彫る深さの加減みたいなのがあるんですか?彫りすぎても…。
あんまりやると切れてしまうかもしれないし。
絶妙な力の入れ具合で彫るのが熟練の技。
正確に同じ深さで彫られています。
次に板を「コロ」という道具で曲げならすんです。
よく見ると…そして板をコップの型にはめ曲げると…。
なんと外側に籠目が浮き出てきました。
そっかそっかそういう事か。
へぇ〜。
手づくり定規と小刀一本で作り出した美しい籠目。
完成するとさらに鮮やかに。
探究心を失わない職人が生み出したイッピンです。
ともさかさん今話題の飛騨春慶があると聞き工房を訪ねました。
こんにちは。
いらっしゃいませ。
木の温かみに満ちたショールームに並ぶのは飛騨春慶の名刺入れ。
そしてこちらは…。
アート作品のような…すごい。
春慶のスマホケース。
おもしろいですね。
なかなか無い発想というか。
春慶というと敷居が高い感じがイメージとしてあったのではい。
ふだん使いのものにおっ。
これは何ですか?携帯忘れな盆?実は身の回りの大事なものを置くお盆として江戸時代から作られていたもの。
それを塩谷さんは2年前現代にマッチするよう改良したのです。
お盆の本体は塩谷さんが作りました。
木目を生かした塗りは飛騨春慶の塗師の手になります。
携帯電話のスタンドは曲げの技に卓越した木地師が作りました。
忘れな盆には塩谷さんの飛騨春慶への思いがこもっています。
伝統の技を継承しながら今に生きる飛騨春慶です。
ともさかさん改めて飛騨春慶のお弁当箱で頂きます。
うん。
おいし〜い。
今回のイッピンいかがでしたか。
日常の暮らしの中でガンガン使ってもらうためにああいう作業が積み重なっていてなるほどもっと日常的に取り入れていいものなんだとすごく身近に感じられるようになりましたね今回の旅を通じて。
2015/09/13(日) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
イッピン「漆と木が生み出す琥珀(こはく)色の輝き〜岐阜 飛騨春慶〜」[字]

岐阜・高山市の「飛騨春慶」は、コハク色の上品な輝きと、美しい木目が魅力の漆器。今、大人気の弁当箱、ユニークなコップやお盆に秘められたワザに、ともさかりえが迫る。

詳細情報
番組内容
今、手作り弁当を楽しむ人たちから料理を引き立てる「ワンランク上のアイテム」として熱い注目を集めているのが、岐阜・高山市で作られる漆器「飛騨春慶」のお弁当箱。コハク色の上品な輝きと、光沢の奥に浮かぶ美しい木目が魅力だ。優美な曲線を作る木地師や繊細な塗りをほどこす塗師(ぬし)のワザに迫るのは、女優・ともさかりえ。さらにベテラン職人が作るユニークなコップや、伝統をアレンジした「忘れな盆」を徹底リサーチ!
出演者
【リポーター】ともさかりえ,【語り】平野義和

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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