髪の毛のわずか6分の1。
究極の細い生糸で作られるのは世界一薄い絹織物。
滑らかで美しい光沢。
まるで空気の衣をまとったような軽やかさからフェアリー・フェザー妖精の羽と呼ばれています。
ブライダルファッションのトップデザイナーをも魅了。
(桂由美)うちの宝物みたいに見せてるんですけど。
妖精の羽は世界へ羽ばたき海外の名だたるブランドをも驚かせました。
その世界一の絹織物を生み出したのは福島県の川俣町にある小さな機織り工場。
生みの親はこの齋栄織物の齋藤栄太さん。
(齋藤さん)まあでもシルクにこだわってこだわってこだわって多分…いるのでそれがもしかしたら原動力につながってるのかもしれないです。
『日本のチカラ』今週は世界一のシルクを生み出した福島の町工場の物語です。
福島県川俣町。
人口およそ1万4000人。
山あいの静かな町です。
川俣町には機織りの神様をまつった機織神社があります。
春にはひときわ美しい桜が神社を包み込みます。
神社にまつられているのは小手姫。
およそ1400年前天皇の妃であった小手姫が敵に追われてたどり着いたこの地に養蚕と機織りを広めたと言われています。
明治時代は輸出の花形商品であった羽二重を生産。
欧米では「KAWAMATA」といえば川俣の羽二重を指すほどに。
川俣のシルクは東洋一と称され世界にその名をとどろかせていました。
しかし安い外国製品や化学繊維の登場に押され川俣町の絹織物は衰退の道をたどりました。
川俣を再び世界に羽ばたく絹織物の町へ。
齋栄織物の3代目齋藤栄太さんの思いでした。
薄手が特徴の川俣シルク。
その伝統を生かして新しいものを生み出す。
世界一薄い絹織物フェアリー・フェザー妖精の羽はこの場所で産声を上げました。
どうしても伝統産業っていう頭があるのでそれを少し崩していかないと。
まあいい意味でですけどね。
なかなか残っていけないので。
ただ新しい開発には前向きに常に取り組んでるんですけど。
生き残るため自分たちの「売り」を作りたい。
それが世界一へチャレンジしたきっかけでした。
齋藤さんを支えるのは地元川俣の女性たち。
40年以上のキャリアを持つ職人さんもいます。
扱う糸は目に見えないほど細く職人さんの繊細な指先の感覚が頼りです。
糸の扱いをするに対しては神様です。
(齋藤さん)目で見えないような糸をあっという間にさばいて結んで通してるんですけどあの作業をあのスピードでは出来ないですよ。
そんな職人さんたちの技を結集して作り上げたのが先染めの糸を使い絹織物の光沢を高めています。
機械織りで量産出来る世界一薄いシルクはまさに妖精の羽のようです。
その美しいシルクはウェディングドレスや世界の名だたるブランドのファッションアイテムにも。
たちまち妖精の羽は話題を呼び生地を生産する齋栄織物が独自ブランドを立ち上げオリジナル製品を販売するまでになりました。
妖精の羽はものづくり日本大賞の最高位内閣総理大臣賞を受賞。
グッドデザイン賞や日本ギフト大賞も受賞しました。
どこに行っても妖精の羽は注目の的です。
国内最大級の生地の商談会プレミアム・テキスタイル・ジャパン。
生地や糸のメーカーおよそ80社が出展しました。
2016年の新作用の生地を見つけるためファッションブランドなどのおよそ5000人のバイヤーが世界各地からやってきます。
齋栄織物にとっても大きなビジネスチャンス。
齋藤さんはフェアリー・フェザー妖精の羽をブースの中心に展示しました。
それに引き寄せられるようにバイヤーが集まってきます。
さすが妖精の羽。
妖精の持つ不思議な力が宿っているみたいですね。
ファッションメーカーばかりではありません。
ひな人形などを作るメーカーも衣装になる布を探していました。
すごい薄いのあるじゃないですか。
(齋藤さん)はいはいはい。
手にしたのはやっぱり妖精の羽。
つるつる感が違いますしやっぱりそれはまあ…ぜひ使わない手はないなと。
齋藤さん嬉しそう。
織物は緯糸と経糸が組み合わさる事で生地になります。
織物の品質を決める重要なポイント。
実は経糸なんだそうです。
原料の生糸。
「生きている糸」と書きますよね。
蚕が育んだ糸で作るシルクはまさに命を織り上げる織物なんです。
糸を筒に巻く作業でも職人さんの繊細な感覚が重要です。
(齋藤さん)機械で作られてるものじゃない。
蚕さんが口から吐いている糸なので少しばらつきがあるんです太さに。
そこには職人さんが気づいて少し重りをかけて切れにくくしたり少し工夫しているんですよ。
さらに巻く速さも重要です。
ひと昔前は大体人間の鼓動と同じぐらい1分間に120回ぐらい。
今は140とか180ぐらいで若干速いんですけど。
お母さんのお腹にいた時の心臓の鼓動と振動が一緒なんです。
そういう速度なんですよ。
なるほど。
命のリズムなんですね。
まるで霧雨のようですね。
経糸をまとめていくと160センチ幅でおよそ2万本の糸が必要です。
機械は糸の不具合を教えてはくれないので職人さんの手の感覚が頼りなんですよ。
糸が切れそうな時はここで張りますから。
(佐久間さん)強く糸が引っ張られるような感じですか。
はい。
不具合があるので…はい。
止めで調べてきます。
機織り機にかけるため糸を針に通します。
その穴の大きさはわずか3ミリ。
職人さんがおよそ2万本の糸を全て手作業で通していくんです。
こうしてようやく機織りが始まります。
齋藤さんが案内してくれたのはフェアリー・フェザー妖精の羽が織られている工場。
これですね。
これです。
世界一の薄い絹織物が出来るまでには色々な困難がありました。
妖精の羽に使われる糸は髪の毛のわずか6分の1。
極細の糸をどう機械で織るか…。
そこで頼りになるのはベテランの職人さんたち。
糸切れをさせないように付きっきりで調整しました。
しかし経験豊富な職人さんたちでも頭を悩ませた事があったようです。
細いからやっぱり経が抜けちゃってね。
それで今度入れる時またひどいんですよ。
(冨樫さん)糸が細くて大変でした織るには。
細い糸には予想以上に負担がかかっていました。
そこで職人さんと齋藤さんは色々な工夫をしました。
機械のスピードを落とし糸切れを防ぐ棒を入れてみる。
糸にかかる重さを分散し均等にするためおよそ2万本の糸1本1本に重りをのせてみるなど試行錯誤。
妖精の羽の完成までおよそ4年かかりました。
妖精の羽は生糸の声に耳を傾けた職人さんと齋藤さんのまさに技と心の結晶。
シルク業界に新しい命が誕生したんです。
そうだよね。
あれは嬉しかったねやっぱりね。
うわぁ私働いててよかったと思ったもん。
うん。
(冨樫さん)ここにいたからかななんて思った。
この齋栄さ勤めてたおかげでかななんて思っちゃってね。
職人さんと力を合わせて作った妖精の羽。
齋藤さんはもう次へと目を向けていました。
あの…結婚式ウェディングドレスを着てダンスを踊れるぐらい軽いものの素材がいいと。
それが欲しいという話を聞いてたのがきっかけの1つになってるので。
なのでそういう話を聞いていたので真っ先に出来上がった時にプレゼンしに行ったのが桂由美さん。
本人に直接プレゼンしてるんですよ。
妖精の羽を世界で初めてコレクションとして発表したのがブライダルファッション界のトップデザイナー桂由美さん。
世界一の薄いシルクは桂さんの言葉がヒントになったそうですね。
結局だってそんな事齋栄さんだけに言ったわけじゃなくて事ごとにこう…そういうものありませんかね作ってませんかねとかって探してるわけじゃないですか。
それで言っててどこも出来なかったっていうかやらなかったわけで。
(桂)普通のところは途中でやめちゃいますよ。
頑張り執念みたいなもの。
だからそういうところにやっぱり私たちも頼みたいわけですよね。
私たちやっぱりもう素材が生命ですからね。
うん。
待望のシルクでイメージどおりのドレスが完成した時のお気持ちは?やったねっていう感じですよね。
それで光沢がとっても出てたしね。
つやがこうないといわゆるウェディングドレスの華やかさっていうのは出ないので。
しかも下着も入ってるんでそれも入れて全部で600グラムしかないのね。
うちの宝物みたいに見せてるんですけど。
妖精の羽は世界へと羽ばたきました。
今では世界の名だたるブランドとも直接取引する齋藤さん。
しかしその道は平坦なものではありませんでした。
齋藤さんは販路を開拓するために2009年ヨーロッパへ。
その時持って行った自信作の薄い絹織物は注目されませんでした。
そこで世界一薄いシルクの開発に着手。
ようやく完成を目の前にした時…。
東日本大震災が起こりました。
機織りの機械などが被害を受け齋藤さんの世界一の夢さえついえようとしていました。
工場を開けに来たんですね。
そしたらもうすでに5〜6人集まって頂いてて。
(齋藤さん)もうそれは感謝しかないですね。
実はもう3日後工場は再開してるんですけども。
それでも社員が一丸となって妖精の羽を完成させたのです。
くじけなかった齋藤さん。
その力はどこから湧いてくるのでしょうか?まあでもシルクにある程度こだわってこだわってこだわって多分…いるのでそれがもしかしたら原動力につながってるのかもしれないです。
齋藤さんの原動力でもある川俣シルク。
1970年頃には厳しい時代を迎えその後は生産量が最盛期の10分の1に激減。
元気を失いつつあった織物工場。
そんな中で奮闘する父から大学生だった齋藤さんに突然の宣告が下りました。
今お前がすぐ戻ってこないんであれば会社を閉める方向に行くというお話を聞かされて。
私はそういう現状は知らなかったので。
時間が止まったように静まりかえる工場。
齋藤さんの心にはあの音が響いていました。
私はこの機の音この糸くりの音この中に生まれて遊び育ってきてるのでこの音がどんどんどんどん町から消えていくっていうのはとてもつらいというか悲しいんですよね。
機織りの音っていうのを絶やしちゃいけないなっていう事を思ったので私は戻ってきました。
ともに働く我が子を父の泰行さんはどんな思いで見つめているのでしょうか?いや一生懸命やってると思いますよ。
我々はそんな苦労しないで育ってきた時代だけど今はそうしないとやっていけないですしね。
残っていけないし。
これだけやっても大変なんだから。
苦境と言われるシルク業界への挑戦。
齋藤さんを支えるのは幼い日心に刻まれた父の姿と機織り工場。
川俣シルクの新たな発展のため父とともに奮闘しています。
そんな齋藤さんに嬉しい知らせが。
東京の帝国劇場。
上演されているのはミュージカル『エリザベート』。
主役のエリザベートの衣装に川俣シルクが採用されたのです。
妖精の羽が注目された事で原点の川俣シルクが舞台衣装の世界で再評価されました。
衣装のデザインを担当したのは注目のコスチュームデザイナー生澤美子さん。
展示会で手にした事があってきれいだなとは思ってたんですけれども。
(生澤さん)とても品がある光り方をされているので本当にあのシルクを使わせて頂いて衣装に重厚感が出たっていうふうに思ってます。
齋藤さん。
ドレスになった川俣シルクはどんな印象でした?なんか違く感じますね。
ハハハハ…!
(齋藤さん)ひときわ目立ってたのがやっぱり白のドレスですね。
カーテンコールに出てきた時はうわっ!と思いましたね。
実際に織ったり色んな事をしてる弊社の社員の方々に見てほしかったというか連れて来たかったなという気持ちでいっぱいです。
これでまたモチベーション上げてまた新しい事に挑戦出来ますね。
新しい販路を求めて齋藤さんは日本貿易振興機構ジェトロが支援する海外ブランドとの商談会に参加しました。
目立つところに展示したのは妖精の羽に特殊な加工を施した絹織物。
(齋藤さん)凹凸感のあるもの。
簡単に言うと塩の力でシルクを溶かすんです。
シルクにしか出来ないんですけど。
フランスのビッグブランドBALENCIAGAのバイヤー。
早速手に取ったのは…。
(フランス語)
(通訳)技術の詳細は知らないんだけれども…。
(フランス語)
(通訳)本当にこう布がすごくよく映えるような…。
通常シルクは私はイタリアで調達していて特に日本で買おうというふうに思っていなかったんですけれどもただ普通のシルクではなくてプラスアルファが付け加われているようなものはぜひ参考にしたいと思って今回選びました。
ところで齋栄織物が世界一薄いシルクを作る会社って知ってましたか?ウィ。
(通訳)知ってたそうです。
メルシーボークー。
すごいですね。
私もちょっとびっくり。
嬉しいですよね。
名前を知ってるというだけで。
世界のビッグブランドですからね。
バレンシアガですから。
次々とビッグブランドが生地をピックアップしていきます。
DiorHomme。
dunhill。
いや〜本当にビッグブランドばかりですね。
アクリルコーティング。
ディスイズアクリルフィニッシュ。
VALENTINOのバイヤーも妖精の羽を手に取ります。
残念ながら妖精の羽は選ばれませんでした。
どうしてかな?
(イタリア語)
(通訳)非常に興味深いとは思うんですけれどもイタリアにも似たような商品を生産しているメーカーっていうのはあるので結局はまあ品質と価格のバランスとあとまあその他にも様々な要素を検討しないと…。
これだけ遠い産地ですのでまあ世界一軽いというだけでは即決は出来ないという事。
グラッツェミッレ。
ナイスミーティングユー。
ハハハハ…だいぶシビアな回答でしたね。
第一段階の薄さでは全然興味を持たれなかった。
そこで世界一薄いものにしたらばやはり興味を引かれたっていうのがあるので…。
さらにこれからなんかしなくちゃいけないっていう事でしょうね。
はい。
世界一薄いシルクを作っても立ち止まってはいられない。
齋藤さんのシルクロードはまだまだ続きそうですね。
齋藤さんは地元で開かれたプロジェクト会議に参加していました。
福島県のハイテクプラザと川俣の糸を加工する工場と共同で今までにない新しいシルクを開発しています。
齋藤さんは仲間の力があってこそ大きな挑戦が出来ると確信しています。
こちらの工場は糸によりをかける重要な部分を担います。
金井さんは妖精の羽の糸も手がけた齋藤さんのよきパートナーです。
これによって出来上がった素材にストレッチを出したりあるいは風合いをやわらかくしたりと…。
今撚糸をかけてこれを齋栄に納品してどういうふうな織物が出来上がるかっていうのが楽しみにしています。
えっどんなシルクが出来るんだろう?齋栄織物で新しいシルクの試作が始まっていました。
今度は妖精の羽とは違い太い糸で分厚いシルクのようですね。
どんなシルクを目指しているのでしょうか?
(齋藤さん)シルクのマイナスの部分私は大きく3つあると思うんですよ。
しわになりやすい。
収縮性ストレッチ性がない。
洗濯機…いわゆる家庭で洗えない。
その3つを克服した高機能シルクを開発してるんですけども。
フェアリー・フェザーはシルクに薄さという価値を付け加えて発表したんですね。
今度はシルクに機能性というものを加えたイノベーションを起こして商品を出していこうというのが今の目標なんですね。
社風というのがシルクイノベーションなんですね。
シルクでイノベーションを起こす。
このシルクで人々の生活を変えるとかもしくはこの繊維業界全体の構図を変えるとかそういうような事が出来たら最高かなと思いますね。
新しい川俣シルクが世界へと羽ばたく日ももうすぐ。
そうだよね齋藤さん!『日本のチカラ』次回は鳥取県。
味の新領域へと導く世界初の技術に迫ります。
美味しさが断然違うというのが…。
2015/09/13(日) 06:00〜06:30
ABCテレビ1
日本のチカラ[字]
世界一薄い絹織物「妖精の羽」…世界の有名ファッションデザイナーも認める高級シルク…実は福島県の小さな工場で作られています。美しすぎるシルクの秘密とは!?
詳細情報
◇番組内容
福島県川俣町で約60年、シルク生地を生産してきた小さな機織工場に密着。社員数は、わずか20人ほど。需要が低迷する中、生き残りをかけ、世界一薄い機械織り絹織物「妖精の羽」を生み出しました。そのシルクは海外の一流ファッションブランドにも認められ、2012年には「ものづくり日本大賞」内閣総理大臣賞を受賞するなど高い評価を得ています。社長は、シルク製品で人々の生活を変える日を夢見ています。
◇番組内容2
髪の毛のわずか6分の1という細さの糸で、絹織物を作るのは至難の技。機械で織るため、極細の生糸が切れてしまうのです。そこで頼りになったのは職人たちの技。糸にかかる力の加減を調整するため、2万本の糸1本1本に手作業でおもりをつけるなどの試行錯誤を重ねました。約4年の歳月を経て完成したのが機械織りで世界一薄い絹織物「妖精の羽」でした。苦難と希望の日々を追いました。
◇番組内容3
全国各地の「魅力あふれる産業」を通して、地域の歴史や文化・人々の英知や営みを学び、日本の技術力・地方創生への道・温かいコミュニティー、生きるヒントを描き出す、教育ドキュメンタリー番組。
◇ナレーション
渡辺徹(俳優)
◇音楽
高嶋ちさ子「ブライト・フューチャー」
◇制作
企画:民間放送教育協会
制作著作:福島テレビ
協力:文部科学省/中小企業基盤整備機構
◇おしらせ
☆番組HP
http://www.minkyo.or.jp/
この番組は、朝日放送の『青少年に見てもらいたい番組』に指定されています。
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
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